後始末屋の特異点   作:緋寺

733 / 1163
両親の行方

 午前と午後にかけての訓練は終了。休憩を挟みながらも、繰り返し繰り返し身体に技を刻みつけていったことで、一定の成長が期待出来る程には身体に馴染んだ深雪達は、夕食の前にまず風呂で汗を流そうと、揃って鎮守府の大浴場へと向かっていた。

 午前も疲れていたが、午後はそれに輪をかけて疲労が溜まっており、風呂に向かうまでもフラフラ。しかし、成長も実感出来るため、辛いとか苦しいとか、そういうネガティブな言葉は誰からも出なかった。

 

「くはぁ……湯が染みるぜぇ」

「このまま寝落ちしちゃいそうなのです……」

「流石に風呂で寝るなよ。溺れちまうからな」

「艦娘がお風呂で溺れるのは流石に恥ずかしいのです」

 

 だが、電が言うのもわかるくらいに疲れており、そこに風呂の温かさが染み渡ることで、眠気にも襲われる。深雪達だけでなく、他の仲間達も一斉に入っているが、何人かは船を漕いでいるような状態。

 

 それだけみんなが次の戦いに向けて気合が入っているということにも繋がる。何せ、次の敵──阿手は、出洲以上に恨みが深い相手であることがわかったからだ。

 

「出洲よかクソだってことだもんな、次の阿手とかいうのは」

「ホントにね。あたしの身体を変えたのもソレだし」

「白雲の身体を改造したのも、彼奴であるとも考えられます」

「第二世代の皆さんは、多かれ少なかれ被害を受けているようなものなのです」

「すげぇよここまで恨みが買えるなんて。逆に感心しちまった」

 

 グレカーレは海賊船での一件が、白雲は呪いのままに襲撃した島で今の身体に変えられていることが、阿手に対しての明確な怒り。

 それだけでなく、特に強い恨みを持つ丹陽を筆頭に、第二次深海戦争に参加していた第二世代の艦娘達は、その腐った思想によって友や姉妹、仲間を失っている。

 

 次の戦いは、如何に冷静でいられるかも鍵だ。戦闘訓練も必要だが、心を静かに保つ訓練も必要。数人は瞑想というか坐禅というか、心を静かにする訓練を与えられた程。

 

「……勝てると思いますか?」

 

 電が少し不安そうに問う。やはり不安は隠しきれず、どうしても仲間の言葉を聞きたかった。

 

「ああ、勝てるさ。つーか、絶対に勝つ。ここまで好き勝手やってきやがったんだ。いい加減、終わってもいいだろう、あたし達が、引導を渡してやろうぜ」

「だよね。そりゃあアイツらはインチキばっかりのズルい奴らだけど、あたし達はそれを正面からぶん殴ってやるのさ。ズルしても勝てない奴らに、ねぇどんな気持ち? って聞いてやりたいからね」

「グレ様は意地がお悪いことで。ですが、白雲もそれには同意致します」

 

 負けるつもりなんて何処にもなく、どんな手を使ってこようと、正々堂々と打ち崩してやると全員がやる気充分。深雪達のこんな言葉に、他の仲間達もそうだそうだと声を上げる。

 これまで何度も追い込まれてきたが、力を合わせて乗り越えてきたのだ。次も同じように勝つ。そうやって気持ちを上げた。

 

 

 

 

 少しだけ風呂が騒がしくなってしまったが、それを終えて今度は夕食。相変わらずセレスはこちらで手伝いをしているが、今や立場が逆転しており、間宮と伊良湖が常に教わるような感じに。

 セレスも毎日とは言わないが軍港都市に出向いては、まだ食べていなかった店を回って研究を怠っていない。ましてや、ここに居られるのもあと僅かとなれば、出来ることは全てやっておきたいと考えるのも普通なことである。

 

「そっか、そんな簡単には治せそうにないか」

「だねぇ。頭の中に艤装みたいなのが入ってるのはわかったんだけどね」

 

 すごく軽い口調で深雪と話しているのは、黒井兄妹の妹、蛍。原の生首から手に入れた情報から、忌雷を使わずに深海棲艦化をしているカテゴリーYのうち、非戦闘員である者達には同じ処置がされているかを確かめるため、調査に参加してもらっていた。勿論蛍だけでなく、兄の透や、最初にうみどりに保護された者である平瀬や手小野も同様に。

 頭の中に何かがあると言われて驚いた一同だったが、別に頭を切って中を確認するなんてことをするわけではなく、CTスキャンなどで脳内を確認し、同じモノがあるかどうかを見ただけである。

 

 結果、それは全員に存在していたらしい。小さな艤装みたいなモノではあるが、見えにくい場所に埋め込まれていたようである。冬月は()()()()()()()()()()()()()()()()、その場所が明確にわかり、調査もすんなり行った様子。

 

「抜いたところで元に戻るわけじゃないみたいだし、あっても何か悪い影響出るわけじゃないしで、今はそのままにしてるんだよね。変なモノが入ってるってのは嫌なことではあるけど」

「頭ン中って言われちゃ、やらねぇ方がいいよ。どう考えても危ねぇし」

「だよねぇ。じゃあどうやって埋め込んだんだって話だけど」

 

 それは確かにと深雪も頷く。抜き取るのが非常に困難な場所にそれがあるのはわかるが、ならばまずそこにどうやって入れたのだという話である。忌雷のように自分から動いてそこに行ってくれるわけでもないのだから、やはり頭を開いて手ずから埋め込んだとしか思えない。殺すことなく、だ。

 深海棲艦化することでその辺りの痕跡は全て消えてなくなるのだろうが、だとしても危険この上ない施術。それほどのことをやってのける出洲の腕前が異常とも言える。

 

「元に戻る方法は探してもらえてるから、気長に待つよ。今の身体が不自由というわけではないからね」

「透も女の子の身体に慣れてきてるからねぇ。それに、やっぱり元気な身体ってのは念願だったわけだし」

 

 前者は透としても素直に喜べることではないのだが、後者はこんな身体にされたとはいえ、ありがたい話だと開き直ることが出来ている。

 港湾水鬼の身体になる前は、不治の病に冒されていた透。その病は完全に取り除かれて、見た目以外は健康体と言ってもいい状態。体力が無いのも、ここ最近の軽い運動で払拭され始めており、蛍と共に軍港都市散策も行けているところから、一般的な生活が可能なレベルにはなっている。

 本来なら存在する長いツノも、今は特異点の力によって見えないようにされているおかげで、外出も悠々と可能。もうこれで姿が戻れば言うことはない。

 

「でもさ、ちょっと気になることがあるんだよね」

「……だね」

「気になること?」

 

 兄妹揃ってどうにも気になることがあるという。それについては調査隊、昼目提督に相談はしているとのこと。勿論伊豆提督に話し、そこから昼目提督を頼ろうということになったからである。

 

「私達ってさ、透の病気が治せるかもしれないって騙されてこの身体になってるわけじゃん?」

「ああ、そう聞いてるけど」

「それ、うちの親が聞きつけてきたんだよね。故郷の島で、そういう研究がされてるって」

 

 透の不治の病が治せるかもと、何処からか聞きつけてきたのは2人の両親だ。しかも、阿手が占拠する島に実家があるということも話している。

 

「僕達は結局、この姿にされてから両親には会ってないんだ。だから、()()()()()()()()()()()を知りたくて」

 

 深雪もそれには気付いていなかった。平瀬や手小野は最初から大人。桜は姉と共に拉致されて、共にいた母はおそらく事故死。だが、黒井兄妹は親の伝手でそれを知り、家族で一度島に渡り、そして今の状態にされている。事故でもない、保護者同伴。

 なら、その両親は今何をしているのか。子供達がこうなっているのに、音沙汰が無いのはどういうことなのか。

 

「僕は、3つの可能性を疑ってる。どれも嫌な可能性だけど」

「私も聞いて嫌な気持ちにしかならなかった」

 

 その3つというのが、深雪も聞いているだけで嫌な気分になるモノだった。

 

「1つ、既にこの世にいない。2つ、あちら側に洗脳されている。3つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「3つ目って、出来損ないのことか?」

「うん。どれもこれも、無事では無いということになるんだけど、正直なところ、何事もなくあの島から帰ってるとは思えないし、僕達の状況を考えると、両親も実験台にされていてもおかしくないなと思って」

 

 それこそ、あの海賊船の時には、洗脳と深海棲艦化を促す忌雷が出来始めている頃。その実験台にされていてもおかしくない。

 出洲派ならまだしも、阿手派ならば嫌がろうが何を言おうが関係なく処置を施す。それで失敗してもゴミのように捨てて次に回す。

 

「正直、もう親には会えないと思ってるんだ。悲しいことだけどね」

「うちの親だって、こうなるってわかっててやったとは思えないからさ。ハメられたと思った時にはもう遅くて、そこからさらに巻き込まれたんじゃないかって思ってるんだよ。腹立つけど」

 

 そこはもう割り切ってしまっている黒井兄妹。自分達がこうなっているのだから、両親も同じようにされているのではと思うのが普通。それこそ、揃って実験台にされ、兄妹は成功したが、両親は失敗したとか、むしろ違う方向で成功してしまっており、今は島であちら側の活動をしているとか、いろいろ考えられてしまう。

 

「もし、もしだけど、島で戦ってる時に、うちの両親に会うようなことがあったらさ、その、どうにかしてもらえると助かる、かな」

「姿形がわからないと思うから、知らずに命を奪ってしまう、なんてことはあるかもしれないけど、僕達はそれを責めないよ。仕方ないことだし、恨み辛みは全部これをしたあちら側の連中にぶつけるべきだしね」

 

 出来損ないになってまだ彷徨っているなら、一思いに消し飛ばしてほしいとも願う。もしカテゴリーYになっているのならば、治せそうなら治してほしい。そうでないのなら、これもまた一思いにと。

 どう転んでも、人間のまま島にいるとは思えない。よしんばそうだとしても、頭の中はもうあちらの良いように弄られてしまっていると考えられる。子供達の深海棲艦化を喜び、生贄に捧げるようなことも厭わないような、あちら側の思想に染められている可能性も高い。

 それは何もかも阿手が悪い。それを止めるために命を奪うしか無いとしても、発端は全て奴ら。手を下した者を恨むことなんてお門違いだ。

 

「わかった。黒井って名前に反応するような奴がいたら、問い質してみる」

「ごめんね、なんかやること増やしちゃって」

「構わねぇよ。島に乗り込んだとしても、救えそうな奴は救いてぇからな。それが仲間の親っていうなら尚更だ」

 

 

 

 

 島に因縁があるのは艦娘だけではない。うみどりにいる者全員が、何かしらの思いを持っている。

 




それなら、まず聞いてみる者がここにはいますね。島出身かはわからないけど、島から来たカテゴリーYが3人ほどいますから。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。