後始末屋の特異点   作:緋寺

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島での出来事

 黒井兄妹から両親のことを話された深雪。兄妹が改造を受け、うみどりで保護された後も、全く音沙汰がないところから、既に阿手の手にかかっているのではないかと。

 救えるものならば救いたい。それがうみどりのやり方だ。ならば、今から打てる手を打ちたいところ。今は夕食時であり、軍港鎮守府滞在中の仲間達はある程度揃っているため、何かと話はしやすい。

 

「つーわけで、ちょっと話聞かせてくれよ」

 

 と、深雪が声をかけたのは居相姉妹である。戦闘員としてうみどりに残留を決め、今日の訓練にも参加。陸戦で何かするとは思えないが、基礎能力向上のために、身体を動かすことを止めることはない。

 特に妹の恵理の方は、その性格的にもより強くなることを望んでいる。何故なら、()()()()()()()

 

「黒井……ですか。すみませんが、その名前は聞いたことがありません」

「私もだ。姉上が知らないモノを私が知るはずがない」

「胸を張って答えることじゃないでしょうに」

 

 姉の舞亞が申し訳なさそうに黒井兄妹に頭を下げた。あちら側で活動している時、基本的には仲間の名前なんて意識したことがなく、特に自分達が今の身体、カテゴリーYになってからは顕著になっていた。

 この2人も、真実を知り、説得され、忌雷から身を守ってもらったことで改心し、今はこちら側についてくれているものの、当時は特異点が本当に世界を滅ぼす魔王であると信じて疑わなかったくらいだ。高次の存在となったことで多少は傲慢さが芽生えていたことだろう。

 そんな中で人間の名前など、覚えているとは思えない。おそらく、興味も持っていなかった。

 

「ぶっちゃければだが、ここでこうして共に戦って初めてトラさんの名前を知ったくらいだぞ」

「我々と同じく、高次の存在となった仲間ではありましたが、そもそも話すらしたことがありませんでしたから」

「なんつーか……仲間なのか仲間じゃないのかわからねぇな」

「あちらのトップからしたら、我々は最初から手駒、道具扱いなのでしょう。だから名前なんてどうでもいいし、切り捨てやすくも出来ている」

 

 非情ではあるが、効率で考えるならそれもまた無くはないやり方なのかと、深雪は納得はしないものの、そういうやり方もあると頭に入れておいた。自分が指揮を執る時があったら、そんなことは絶対にしないという反面教師として。

 

「ともかく、すみませんが私は黒井という名前は聞いたことがありませんね」

「そっかぁ……うん、ありがと。もし知ってたらで良かったからさ」

「お力になれずすみません。せめて顔写真とかがあれば話が変わるのですが」

 

 顔を見れば見たことがある人もいるかもしれないと話す舞亞。それでも記憶に残っているかはわからない。見てわかればそれでよし、見てもわからないならそれでも妥協出来る。

 

「調査隊の人とかはそういうの手に入れやすいかな」

「いろんな証明書に顔写真は使ってるはずだから、何処かのデータベースに登録してあるかもしれないね。一度聞いてみる?」

「だね。なんか気になったら解決しないと落ち着けそうにないし」

 

 黒井兄妹も覚悟の上とはいえ、両親がまともに生きているとは思えないため、そこまで調べて大丈夫かと不安になる深雪。話を聞いている居相姉妹も、この2人には気の毒な結果が出そうであるとなんとなく予想している。

 それでも、変に希望を持つよりは、キッチリ知っておいた方がいいと考えていた。最も絶望的な未来──うみどりの敵として現れる可能性も、先に知っておけばまだダメージは緩和出来る。

 

「それじゃあ、ちょっと聞いてくるよ。あの強面お兄さんに聞いてみればいいんだよね?」

「ああ、それでいいと思う。けど、今日はいないかもしれねぇぜ。提督達で飲みに行くとかあるかもだし」

「げ、でもそっか。休暇がそろそろ終わるなら、そういうこともあり得るよね。探しては見るけど、そうだったとしたら明日にお預けかな」

 

 昼目提督も今は鎮守府の外に出ているかもしれない。それだと聞きようが無いだろう。そうなったら流石に今日中にどうにか出来る問題では無い。一晩悶々とすることになるかもしれないが、そこは諦めるしかない。

 

「ならば私も手伝おう。そう聞かされては、気になっても来るというものだ」

「そうですね。最終的には私達がその写真を見ることになりますし、お手伝いしますよ」

「ホント? 助かるよぉ」

 

 ここは年頃も同じくらいなので、すぐに仲良くなれたようである。立ち位置は違えど、同じカテゴリーY。気持ちもわかるところはあるだろう。

 

 

 

 

 一番いそうな場所といえば工廠。何か調べている可能性を考えるとそこがいの一番。

 もう夜であるため薄暗く、奥の方から光が漏れているわけでもない。冬涼コンビも今は席を外しているようで、本当に誰もいない。強いて言うなら、処置中の艤装人間達が佇んでいるくらい。それはそれで恐怖映像であり、それが目の端に入った時、蛍がぎゃあと叫びかけた。

 

「あ、アレはやっぱりダメだって。ただただ怖いよ」

「うん、心臓に悪い」

 

 ビクビクしている蛍に、警戒している透。対する居相姉妹はこういった光景に慣れているのか、2人の様子に仕方ないと苦笑する。

 深雪は一応工廠を見回し、それ以外に何も無いことを確認すると、まずは離れようと4人を下がらせた。怖いもの見たさで処置中の艤装人間を見ていたところで何も進まない。

 

「ここにはいないようだし、やっぱり飲みに行ってるのかもしれねぇね」

「かもねぇ。あといそうなところって執務室くらいでしょ」

「なら一度行ってみるか?」

「うん、そうする」

 

 結果として、執務室にもいなかったため、やはり提督陣で外に出ているようだった。これについては邪魔をすることは出来ないし、自分達だけで外に出るというのもよろしくない。

 秘書艦の能代だけは執務室にいたため、そういうことがあるということを伝えると、保前提督経由で昼目提督に伝わるように手配してくれたため、礼を言ってまた部屋から離れた。

 

「今日は諦めるしかないかぁ」

「仕方ないよ。気にはなるけど、聞けないわけじゃないんだから」

「だねぇ」

 

 少し気を落とす蛍と、それを慰める透。こればっかりは仕方ないことなので何とも言えない。明日の朝になったら、朝食時にでも昼目提督に話を聞いてみればいいと、今日のところは諦めることとした。

 

「……悪いことを言うようだが」

 

 そこに恵理が口を開く。

 

「ん?」

「おそらくになるが、2人の両親は、今はもうこの世にはいないと思う」

「ちょっと」

 

 ハッキリと伝えた恵理を、舞亞はすかさず引っ叩こうとした。だが、それを見越していたか、その手をキャッチする。まぁ待てと。

 

「ここまで知ろうとする覚悟があるなら、先に我々の知っていることをちゃんと話しておくべきだろう。それが汚点であっても、現実を受け入れているのなら尚更だ」

「時と場合によるでしょう。何も今ここで言わなくても」

「いいよいいよ、多分そうじゃないかと思ってたから」

 

 居相姉妹の言い合いを笑顔で止める蛍。恵理の言っていた通り、蛍も透も覚悟の上。最初から既に死んでいると予想もしているくらいである。

 

「でも、何か確証を持てそうなことがあったのかな」

「……ああ、我々がこの身体になった時、他に何人もの志願者が改造を受けている。老若男女問わず、()()()()()()()()()()()()、自ら命を捨てた。かくいう我々もそれに近いのだが」

「あの時の私達は、やはり少しおかしかったのです。それこそが世界を平和に導くために必要なことだと心の底から思っていたんですから。今考えれば、あのやり方の何処に平和があるのかさっぱりわかりませんが」

 

 洗脳教育の賜物である。意味不明でも独自解釈で良い方に考え、勝手に破滅に向かってしまう。そしてそれを施した張本人は、それで破滅しても自分で選択したことだからと素知らぬ顔。成功した場合は自分の手柄である。

 

「その中には、ぼんやりとした表情の者も沢山いた。それこそ、自分の意思というより、成り行きに身を任せているような者もな」

「当時は何の疑いも持っていませんでしたが、あれはおそらく……薬か何かを使われていたのではと思います」

「薬でその時だけは意思を封じ、その間に改造を施し、成功すれば洗脳も出来る。失敗したところで()()()()だけ。腹が立つほど簡単な仕事だ」

 

 そんな話をし出したことで、何をされたかを大体察することが出来る。

 

「その中に、お二人の両親もいたかもしれません。年代的にもそれくらいの方々は多くいましたから」

 

 黒井兄妹の両親の歳は、2人の年齢からして四十歳を超えたくらい。見てわかる中年であろう。居相姉妹は、それくらいの年頃の者が特に多かったという印象を持っていた。

 

「よく覚えてるな。そんなに印象が強かったのか?」

「ああ、その中に()()()()()()()()()()()()

 

 突然の暴露に、息を呑む一同。舞亞も小さく息を吐き、思い返せば腹立たしいと顔を顰める。

 

「私達は一家揃って洗脳されていたんですよ。宗教で家族が崩壊しているようなものですね」

「えっと……何と言っていいのかわからないけど」

「愚かでしょう。でも、その原因を作った者に対して、今は怒りしかないので安心してください。肯定出来る部分は何処にもありませんから」

 

 つい最近までそれが絶対だと思っていたことが恥ずかしいと、恵理も頭を抱える。

 

「我々の両親は、我々と違って適合出来なかったのだ。そして、命を落としている。出来損ないにもなれずに、な」

「当時の私達は……それこそ今の力を持っていましたし、洗脳もしっかり行き届いていたので、両親の死を……小馬鹿にしていました。血の繋がった親だというのに、高次に辿り着けなかったことを侮辱するようなことまで」

「許せんよ、自分自身が。今は特異点のおかげでそれが悪いことだと理解出来ている。後悔しかないが、そうさせたあの輩には怒りしかない」

 

 語られる居相姉妹の家族のこと。一家揃って阿手の術中にハマっており、そうなることこそが平和のために必要だと心の底から信じ切っていた。そして命懸けの施術も躊躇いなく受け、それに失敗して命を落としたことは、低次元だったのだと馬鹿にする。高次に至れてしまったことによる傲慢さがその時にはあったせいで、本来ならば弔わねばならない両親すらも、ゴミのように扱ってしまったと話す。苦しそうに、辛そうに。

 

「話を戻すが、その中には2人の両親もいたかもしれない。年代としても、おそらく我々の両親と同じくらいだろう」

「自己意識を取り除かれていそうな者も、少なからずいたと記憶しています。もしかしたら、その中に」

「なるほどなぁ……まぁでも、それが一番可能性高いか」

 

 大きく溜息を吐いて、蛍は一旦落ち着いた。覚悟をしていたとはいえ、それが現実になっていそうだと思うと、やはり気分が良いモノではない。

 

「ひとまず、そっち方面の覚悟はしておくよ。ありがとね」

「……礼なんて言われる立場にいませんよ」

 

 

 

 

 居相姉妹も嫌な記憶を背負っている。今でこそ救われたが、それを自分で選択していたという記憶が、どうしても付き纏っていた。

 




島ではそんなことばかり起きてると思うと気が滅入るモノである。
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