後始末屋の特異点   作:緋寺

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覚悟していた真実

 その日の夜は結局、昼目提督は提督陣と飲みに出かけていたということで、黒井兄妹の両親について調べてもらうことは出来ず、調査は翌日に持ち越すことにした。

 実際は響や白雪と顔を合わせることは出来たのだが、提督の許可が無ければその辺りは出来ないと、やんわり断られている。許可さえあればいくらでも手段があるということまで付け加えて。

 曰く、白雪ならその辺りのデータベースにハッキングを仕掛けられるから、許可があろうが無かろうが関係ないとのこと。しかし、流石に今回は法に触れてまですることでは無いため、逆に黒井兄妹から退いた。

 

 そして翌朝、うみどりは休暇6日目。朝食の場で昨日に引き続きトレーニングをしようかと仲間達が話していたところ、昼目提督が早速動き出す。

 

「おう、話は聞いてるぜ」

 

 強面に急に話しかけられたことで少し驚くが、黒井兄妹はもしや昨晩のことかと問うと、その通りだと頷かれた。

 

 能代に話を通してもらっておいたことで、保前提督経由で昼目提督に伝わり、そして今こうして話をしてくれている。

 自分の両親のことを調べてほしいという依頼。内情までは無くてもいいので、顔写真を見つけてくれれば、それを元々島から来た者に見てもらえるので、それだけをお願いしたいというところまでは能代経由で話が通っていた。

 

「お前らの親御さんの顔写真についてなんだが、やることがやることなんでな、ちょいと手続きが必要だ。つっても今日中、いや、午前中には探し出せると思うぜ」

「え、早っ。そんな簡単なモノなんです?」

「ちゃんと登録してありゃな。そうでなくても、上手いこと見つけてやっから安心してくれや」

 

 何処かに何かしらの登録があるはずだから、まずは名前さえ教えてもらえば、そこから全部追いかけると、昼目提督は簡単に説明。何をするかについては企業秘密だが、それをやることでどうにか出来ると断言する。

 調査隊の信頼度は、鎮守府どころか大本営も一目置いているほど。出来るというのなら、必ず出来る。身元を確認するくらいならば朝飯前。そこから顔写真まで発見するのだって、文字通りの昼飯前というところのようである。

 

「よろしくお願いします。どうなっていても、僕達は覚悟の上ですので」

「おう、任せろ。……お前らみたいな若いヤツが、ンなことで覚悟決めなくてもいいんだけどな」

 

 朗報を待っててくれと笑顔を見せ、朝食を終えていた調査隊の面々を連れて食堂から出ていく。ここから軽く仕事をすることで、黒井兄妹の両親の写真を用意することになる。

 

「あの人、怖い顔だけど優しい人だね」

「面と向かって言わないでよそれ……」

 

 

 

 

 そして昼。本当にそれを用意してきた。訓練後の昼食の場で、少しでも島にいたことのある者達に見てもらおうという寸法。

 居相姉妹は勿論、トラや、米駆逐棲姫の記憶を持つフレッチャーまで、あらゆる角度からその姿を知っているかを確認する。フレッチャーは自分は場違いではと思いつつも、その記憶から何かが進められる可能性を示唆されれば、なら見るだけで見ますと一歩前に出た。

 

「この2人で良かったか?」

 

 言いながら昼目提督愛用のタブレットの画面を見せると、そこには夫婦と思われる中年の男女の顔写真が映し出されていた。どう見ても証明写真の何かであり、正面から撮影された真顔。

 

「はい、僕達の両親であっています。あっていますが……」

「これ、免許証とかの証明写真だよね……何処から手に入れたのコレ」

「企業秘密だ。調査隊はこういう組織だってことを肝に銘じといてくれや」

 

 探そうと思えばこれくらいは出来るということ。しかもお手軽に。

 

「で、だ。この顔を見たことがある奴ぁいるか?」

 

 ここからが本題。黒井兄妹の両親の顔写真を見つけるまででは終わらない。まずは最も手っ取り早い、以前島にいた者に知っている顔かどうかの判断をしてもらう。

 居相姉妹の両親のように、自ら処置を受けてあちら側にいる可能性もあるし、何かの実験に使われて命を落としているかもしれない。もしかしたら今も元気に生活しているかもしれないが、あの場でそれは難しそうではある。

 

「私は見たことがないな。姉上は?」

「私もです。両親と一緒にいた同年代の夫婦とは違ったようです」

 

 居相姉妹には見覚え無し。昨晩話していた、薬を使われて共に改造を受けたと言われている一団の中には含まれていなかったようである。

 そもそも黒井兄妹の改造と居相姉妹の改造の時系列がわかっていないというのもある。どちらが先に今の姿になっているかは、お互いに話しても大体同じくらいにも思えるし、出撃のタイミングからして黒井兄妹の方が早いかと思える程度。そこで既に()()されているのなら、その姿を見ることなくその命は奪われているというのはあり得る話。

 

「すみませんが、私の記憶の中にもこの方々はありませんね……」

 

 フレッチャーも同様。米駆逐棲姫があの姿になったのがいつのことかわからないというのもあるが、島にいたことは確かであり、もしかしたらと思っていたが、残念ながら心当たりは無い。

 

「私の中の彼女も、同じように自らその身体になることを望み、そして叶っています。ただ、状況が少し違ったようでして……」

「もしや、()()()()か」

「はい、私の場合は、意図的に作られた落ちこぼれ……洗脳教育の密度がかなり強かったので……」

 

 この辺りは恵理だけでなく舞亞も反応していた。フレッチャーの中にいる米駆逐棲姫は、本来の才能を刈り取られ、あちらの良いように作り直された傀儡。そうだと思っていたことが全て紛い物だったわけだが、それを恵理は『個別指導』と称した。

 居相姉妹は家族やら何やらを纏めて巻き込まれ、それこそ宗教に傾倒するように仕向けられて、ゆっくりと確実に堕とされている。だが、米駆逐棲姫はそのやり方がさらに酷い。努力しても実らないように仕向けられ、本来の才能を何もかも破壊されて、心を壊された挙句、そこに付け込まれてより強固な洗脳とし、そして見事な尖兵と化した。

 その過程において、黒井兄妹の両親と顔を合わせるような機会は無かった。努力の時間は独り、そうでなければ学友──友とは到底言えないナニカだが──との時間のみ。恐ろしいことに、米駆逐棲姫は両親にすら捨てられている。

 

「お役に立てず、申し訳ございません……」

「ううん、大丈夫大丈夫。誰かが知ってればいいなって思ってただけだからさ」

 

 申し訳なさそうなフレッチャーに、蛍が慰めるように笑みを向けた。ダメ元で聞いているだけなのだから、何も答えられなくても別に構わないし、むしろ知ってたらラッキーくらいで考えているので申し訳なく思う必要は無いよと。

 

 こうなると残るはトラになるわけだが、その顔写真を見て神妙な顔をしていた。特に仲のいい長門がそんなトラの様子を見てまさかと口に出す。

 

「トラ、君はもしやあの御夫婦のことを?」

「……ああ、見たことがある、気がする。それがどうしても引っかかってて、今どうにか思い出しているところだ」

 

 ここでついに、心当たりのある者が見つかった。蛍どころか透も身を乗り出しそうな勢いでトラの方へと視線を向ける。

 

「アレは……私はもうこの姿になった後だったはず。人の身であった時よりも記憶がハッキリしているはずなんだ。はずなんだが……」

 

 腕を組んでうんうん唸りながら、どうにかその記憶を紐解いていくトラ。あの時に何があったのか、あの後にどうなったのか、それを思い出そうと必死になっていた。

 その顔に覚えがあるということは、その時までは島にいたということに他ならない。だが、どうしてもピンと来ないところもある。

 

 故に、一つの答えに辿り着いた。そうなれば、記憶もスルスルと引っ張り出されていく。

 

「思い出した! そうだ、アレは特異点討伐の選抜の場だ!」

 

 割ととんでもないことを口走ったが、つまりは特異点Wでの戦いにあちら側も誰を仕向けるか考えていた時のこと。多くの姫が投入され、量産型空母棲姫や4人の船渠棲姫など、厄介な敵ばかりだったことも記憶に新しい。

 その中には居相姉妹も含まれていたのだが、トラの記憶にはあり、姉妹の記憶に無いのは、管轄が違うからというところに集約する。トラは真っ先に攻撃を仕掛ける先遣隊。居相姉妹は防空というカタチでどちらかといえば後ろを陣取る側。結局は前に出てきたところを煙幕で正気に戻されたわけだが。

 

「我々とは同じ戦場で違うやり方をしていた時か。戦場に向かう時に初めて顔を合わせたくらいだから、行動が違ってもおかしくはないな」

「はい、私達とは別の方面に使われていたということですね」

 

 居相姉妹もそこは納得。

 

「だが……あの戦場には連れていっていない。むしろ、あの場で……()()()()()()()()

 

 あまり聞きたくなかった言葉ではあるが、やはりという気持ちもあった。その改造にトラは立ち会ったようなモノのようである。

 

「……トラさん、僕達の両親は、どうなったんでしょうか」

「覚悟の上だからさ、教えてほしいな」

 

 黒井兄妹もそれを知りたくてここまで人を巻き込んでいるのだ。生半可な覚悟では無い。一晩経ってより強固なモノになっていると言える。

 どうしても知りたいという気持ちが強いため、トラもわかったと話し始める。

 

「君達の両親……まずお父上の方だが……亡くなられている」

 

 仕方ないとはいえ、ショックを受けないわけではない。しかも、トラが語るにはさらに酷い方法で。

 

「私達のように自らの意思で改造を受けたわけではなかった。最後まで抵抗し、見せしめのように……やられた。私達はその時は彼方の思想にどっぷりだったから……従わないのだからああなって当然と思ってしまっていた……すまない」

 

 苦しそうなトラだが、黒井兄妹は本当に覚悟していたため、まだ倒れない。歯を食いしばったのは誰の目にも明らかだったが。

 

「……父はわかりました。母は、どうなったんでしょう」

「お母上の方は……成功、したんだ。その時に、思想も植え付けられ……今は島にいると思う。私と同じような、高次の存在……カテゴリーY、といえばいいのか。それになっている」

 

 透が挙げた2つ目の選択肢、洗脳されているが実現してしまっていた。しかも、よりによってカテゴリーYとなって。深海棲艦化していることは確実であり、うみどりに対して攻撃を仕掛けてくるのも確定。

 そして最悪なのは、この改造には()()()使()()()()()()()。つまり、不可逆。『羅針盤』を使って正気に戻すことが出来るかどうかというくらいである。

 

「……そう……ですか」

「そうだよね、そうなってるよね……透も予想してたもんね」

「うん……嫌だけど、その選択肢が一番あり得るかなと思ってた」

 

 ここまで聞いて、透は疲労を感じたように椅子に深く座った。項垂れているような、落ち込んでいるような、そんな姿勢。蛍も現実を知ったことで大きく溜息を吐いていた。一縷の望みに賭けていたのだが、そうはいかないモノである。

 

「何になっているか、は申し訳ないが私が深海棲艦の知識に乏しいから言えない。少なくとも、ここでは見ていない個体、とくらいしか」

「わかりました……ありがとうございます。真実を教えてくれて」

 

 礼を言う透の顔は、明らかに苦しそうだった。両親の片方は既に死に、もう片方は洗脳されて敵になっているだなんて聞いたら、誰だってそうもなろう。

 

 

 

 

 覚悟をしていたとしても、突きつけられればダメージは大きい。

 




島での戦いに、また一つ因縁が出来てしまいました。
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