後始末屋の特異点   作:緋寺

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新たな道も

 黒井兄妹の両親の現在が判明。父は見せしめに命を失い、母は施術に適合してしまったことによって洗脳され、これから襲撃を仕掛ける島にカテゴリーYとして滞在している。つまり、うみどりの敵として立ち塞がることが確定したようなモノである。

 

 透も蛍も、コレに関しては覚悟していたこと。透が想定した3つの選択肢の中にも含まれている、洗脳を施され敵対しているという真実を聞き、2人は先に想像していたからこそ大きなダメージを受けることはなかった。

 だが、ノーダメージではない。その事実を突きつけられたのだから、充分キツイ一撃を貰っている。

 

「お二人とも、後から私の癒しを受けてください。心が辛い時は、アロマで一度落ち着きましょう」

 

 そんな神威のお誘いに、黒井兄妹は是非ともと頭を下げた。神威の持つ癒しの排煙ならば、心の痛みを多少は取り除いてくれる。

 午後はゆっくりと過そうと、2人して苦笑していた。覚悟の上でも辛いモノは辛い。しかも、2人は非戦闘員なのだ。心構えが違う。

 

「昼目提督とやら、いや、おそらく提督なら誰でも見せてもらえるのだと思うが、深海棲艦の姫に目を通しておきたい。どれが彼らの母親が、先んじて知ることも出来ると思う」

「だな。ならオレが後から見せてやる。似たり寄ったりの奴もいるから、大体で良いからな」

「助かる。今は私しか知らないようだし、少しでもやりやすくしておきたいだろう」

 

 トラからの情報提供は、今後の戦いでも役に立つ。まずは黒井母の今を確実にしておき、これから立てるであろう作戦にも活かしていこうと考えた。

 

「んじゃあ、調査隊からはここまでだ。時間取らせちまって悪かったな」

 

 話は一度これでおしまい。空気が良いとはお世辞にも言えないものの、島でやらねばならないことがまた見えてきたことで、士気は上がっていた。

 

 

 

 

 午後からもまだ訓練を続ける深雪達。最初は鈍った身体を慣らすためだったが、今は島に向けての猛特訓という様相へと変化。出洲以上に酷いことをしている阿手を終わらせなくてはという気持ちが、それを促していた。

 阿手は声だけしか知らない敵。それも、アナウンスというカタチであり、聞いていたのも極少数。深雪もその1人なのだが、あの時は頭に血が上っていたこと、そして苛立ちによってまた腹が立ってきそうなため、思い出さないようにしていた。

 

「ああいう話を聞くと、正直申し訳ない気持ちになるわ……」

 

 そんなことを話すのは、かつては敵組織の一員であり、しかし島のことは何も知らない、裏切り者鎮守府出身の叢雲。現在は疲労困憊につき休息中。

 彼女の場合は、その『標準型』の曲解を敵に確実にぶつけるため、身体能力を出来る限り上げたいと要望した。その結果が、うみどりではなかなか出来ない実践訓練。しかも、神通トレーナーのオールラウンダーコースである。

 

 あちら側にいた当時ならば、黒井父が命を奪われたことも仕方ないことだと流していただろうし、黒井母が洗脳を受けたことも良かったじゃないかと煽るような反応をしていた。

 だが、今はそれが間違っているとキチンと理解し、それを悔い、反省し、汚点であると認め、しかしそれを正しく背負って、前を向いている。それもあって、申し訳ない気持ちになると言いつつも、島を終わらせるための訓練も受けていた。

 

「気にすんなって方が難しいよな。お前の場合は特に」

「ええ、まぁ、ね。私だって似たようなことをしていたんだもの。鎮守府の中だけだから、一般家庭に手を伸ばすようなことはしてないとはいえ、何人もの人生を狂わせてるから」

 

 一般人の被害者を見たことで、元々持っていた罪悪感が大きく膨らんでしまっている。その傾向は訓練の方にも出てしまっており、神通との訓練でそれを見透かされた結果、疲労困憊になるまで滅多打ちにされてしまった。叢雲は武器を使っているにもかかわらず、である。武器を使われても当たり前のようにいなせる神通も大概ではあるのだが。

 そんな叢雲の傍に、姉としてというわけでは無いが深雪が付き合っていた。視線は同じく神通に扱かれている電に行っているが、意識は叢雲へ。

 

「でも、そう思ってるからこそ、今努力してんだろ。理解もしてる。反省もしてる。あたしは、それだけでも全然違うと思うぜ。阿手のクソ野郎とは雲泥の差だ」

 

 開き直るどころか、それを当然だと思い、他者を好き勝手に操り続ける阿手と、これまでそうしていたが環境がそうさせていただけであり、ハッキリと理解したことで苦しみ、反省し、償うために前を向いた叢雲。そこには大きな差がある。

 深雪は叢雲のその意思を尊重し、共に戦うと決めている。反省する者を蹴るようなことは絶対にしない。叢雲のそれは、見せかけだけのモノでは無いことを重々承知しているのだから。

 

「……そう言ってもらえると嬉しいわ。私はまだまだ心が弱いもの」

「弱かねぇよ。トーチカの時のお前、カッコよかったぜ」

「あれは……アレが私の出来る最良の手段だと思ってただけだもの。必死だっただけ」

「謙虚だねぇ。でも、あたし達はそれで助かった。ありがとな」

 

 頭をポンと撫でる。姉ヅラするなと相変わらずの反応だが、敵対していた最初と比べると、同じ言葉にも乗っている感情が全く違った。むしろ、深雪の姉としての行動に感謝しているが、恥ずかしくて素直になれていないような雰囲気が見える。

 その証拠に、深雪にそうされたことで、叢雲は小さくだが微笑んでいた。言葉とは裏腹に、そうされたことを喜んでいるかのように。

 

「……電が大変なことになってるわよ。行かなくていいの?」

「おっとすまねぇ。神通さんの扱き、マジ容赦なさすぎんだよなぁ!」

 

 そうこうしている間に、電が吹っ飛ばされたのが見えたため、深雪がすかさず立ち上がって駆け寄った。

 警棒の使い方を神風に習った後、違うタイプの相手と戦うことを想定して神通に相手を求めたが、まだまだその猛攻を捌き切ることが出来ず、たった今撃破されたところ。

 目を回しているというわけではないのだが、電はゼエゼエ言いながらも立ち上がれないくらいに消耗。そんな電と、駆け寄る深雪を見て、神通はニッコリ笑って成果を話す。

 

「聞いていた通り、電さんは攻めより守りに向いていますね。私もいくつかのクセを織り交ぜながら戦いましたが、全てある程度は反応されています。ただ、まだ速さが足りません。反応が出来ても、身体がついていっていない。そこを伸ばしたらより良いモノになると思いますよ」

「そうかもしれねぇけど、もう少し段階踏んでくれねぇかな。電はまだやり始めたばっかりなんだからさ」

「敵は貴女達の成長を待ってくれませんよ。むしろ、弱いと思われたら集中攻撃を受けます。電さんが特異点のキモであることがバレているなら尚更です。深雪さんより電さんの方が狙われる可能性があります」

 

 その辺りはまだ何とも言えないが、これまでの戦い方からしても、電がキモになっていることがバレていないとは限らない。海賊船の時は違ったが、それ以外に深雪が参加している戦闘には、必ず参加しているだけでなく、常に共にいるのだから、いつかは確実にその関係性がバレるだろう。

 電はその分、深雪以上に自分の身を守らなくてはいけない。深雪も大切だが、電も大切。そのためには、今よりも強くならねば。

 

「だ、大丈夫、なのです。電はもっと強くなるのです。でも、今は休ませてほしいのですぅ……」

「仕方ありませんね。本来ならば疲労困憊からが本番なのですが」

「鬼かアンタは」

「鬼にならなければ、成長を促すことが出来ないこともあります。ただでさえ私はうみどりではなくおおわしの一員。ここでしか出来ないのですから」

 

 神通の笑顔の後ろに、修羅が見えた。

 

 

 

 

 そのまま神通が次の扱きに入り、深雪が電を担ぎ上げてそこから退いていくのを眺めながら、叢雲はクスリと微笑む。仲が良いことは良いことだなと思いつつ、改めて休むためにふぅと息を吐いた。

 黒井兄妹の話を聞いて少しネガティブになっていたが、深雪に励まされたことで、少しは緩和されている。これまでのことを償うため、新たな人生をやり直すため、まずはこの戦いを終わらせようと前を向く。

 

「叢雲秘書艦」

 

 そんな叢雲の後ろから声をかけたのは、意を決したような表情の羽黒。その後ろには名取と潮も控えている。

 

「もう、秘書艦って呼ぶのはやめてと言ってるでしょ。私はただの叢雲、アンタ達も一緒に、あの鎮守府とは縁を切ったんだもの」

「あっ、す、すみません……」

「で、何かあった? 何か神妙な顔してるけれど。特に潮」

 

 名指しされて慌てる潮。だが、今回は一つの決意を持ってここに立っている。

 

「……私達、この軍港鎮守府に所属することに決めました」

 

 伝えられたことに少しだけ驚いた。うみどりで後始末屋としてやっていくのではなく、軍港で街の警備に当たることを決めたという。伊豆提督や保前提督には報告済みであり、その決断を受け入れてくれている。

 

「高波さんはうみどりに残るそうですが、私達はここでうみどりを離れます。なので、その報告を」

「そう……ちなみに、理由は聞いても?」

「はい、と言っても、とても簡単なことなんです」

 

 後始末屋が嫌だというわけでは無い。確かに過酷な仕事だし、海を綺麗にするという仕事に誇りを持っている者達は、非常に勇ましく見えた。

 だが、休暇中に軍港都市をまた回ったことで、掃除も良いけれど、この街を、住人を護る仕事に就きたいという考えに至ったらしい。

 元々艦娘になった理由が、人類の平和を護る仕事をしたいというところから。軍港都市はまさに、その理由を実際に行うことが出来る最適な場所。

 

「そう、そうね。復讐とか、そういうモノが無いなら、この鎮守府はとても良いところだと思う。うん、すごく良い」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。なんでも、軍港都市の警備はいつでも人手不足らしいので、願ったり叶ったりだったそうです」

 

 苦笑する羽黒に、叢雲も笑みを浮かべた。

 

「叢雲秘書艦は己が道を突き進んでください。私達はここで、平穏無事を願っています」

「あら、特異点のいる場所で願ってくれるなら、それは叶うって言ってるようなモノね。ありがとう、私はうみどりで頑張らせてもらうわ」

「はい、武運長久を」

 

 最後にしっかり握手。もう少し共に過ごす時間はあるが、別れの時は近い。

 

 

 

 

 各々が思いを抱え、時間は過ぎていく。

 




今回は叢雲周りの話を。背負ってるモノは多いけれど、周りが幸せになり、自分も幸せになれれば、それはとても良いことです。
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