後始末屋の特異点   作:緋寺

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最後の軍港の夜

 訓練を終え、今日という日の終わりに向かう。疲れた身体は夕食と風呂で癒し、あとは寝るだけ。

 翌朝の伊豆提督の調子次第では、翌日中に軍港都市を出ることになる。想定では、その準備を午前中に行い、午後には出発となるだろう。

 とはいえ、それは伊豆提督の具合次第。せめて杖が不要になることが大前提であり、明日の朝にまだ脚が痛み、杖が必要だとなった場合は、出港はさらに翌日になる。その場合はまた訓練の一日になるだろう。

 

「長かった休暇も、そろそろ終わるな」

 

 私室でコレまでのことを思い返す深雪達。翌日込みでちょうど1週間となる休暇も、考えてみれば半分以上は遊ぶことで心身共に癒し、残りの時間でしっかりと訓練を積んだということで、バランスの良い休暇となったと自負出来た。

 正直、訓練はまだまだやりたいところなのだが、そうも言っていられないのが現状。こうしている間も、阿手は無差別テロのように、海に忌雷をばら撒いたりしているのだ。各鎮守府で対策済みとなっているとはいえ、まだ恐ろしい状態は続いている。

 

「もうここからは、斃すまではココには戻ってこれません」

「だな。だから、充分に休んだ。万全も万全だな」

「なのです。電も行けると胸を張って言えるのです」

 

 メンタルもフィジカルも可能な限り癒すことが出来ている。今なら十全の力を発揮することが出来るし、心も楽になり、そして覚悟も決めた。

 この戦いでやるべきことは非常に多い。救える者は救う。救えない者であっても、状況次第では命を奪うことなく捕縛する。阿手のような取り返しのつかない者に関しては、()()()()()()()()()

 

「キツイ戦いになりそうだけど、まぁみんなの力を合わせれば大丈夫っしょ。あたしだってバリバリに行くからね」

「この白雲、全力を以て悪を絶ちましょう。我が身の呪いも、少しは和らぐはずですから」

「元凶みたいなヤツが次の敵だもんねぇ。シラクモもやる気満々だ」

 

 グレカーレと白雲も、次の戦いには気合が入っている。グレカーレにとっては姉の仇、白雲にとっては自分の身体を弄んだ元凶。戦わない理由が無いくらいの敵だ。

 気負いすぎるなよと深雪は言うものの、そこまで抑え込まなくてもいいとも思っていた。こういう時に全力を出すためには、冷静に物事を考えることが出来ればそれでいい。怒り狂って周りが見えなくなる、なんてことさえなければ、どのように戦っても問題は無いだろうと。

 

 グレカーレの言う通り、仲間達の力を合わせればきっと大丈夫だ。そのために鍛え続けてきた。そのために学び続けてきた。

 

「その時が来るまで、ギリギリまで準備しよう。あたし達にもやれることは多いんだからな」

「なのです。絶対に勝つのです」

「おう!」

 

 阿手にはこれまでの清算をさせなければならない。その命で。

 

 

 

 

 飲み会は昨日に行なっているので、今晩は最後になるであろう提督間の打ち合わせ。とはいえガチガチの会議というわけではなく、お茶会的なノリである。

 

「ハルカ、脚はどうだよ」

「ええ、妖精さん治療のおかげで、杖無しで歩けるくらいには回復したわ。戦闘に参加するのは流石にまずいとは思うけど、速やかな移動は出来るから、もう戦場には出られるわ」

 

 この休暇に使った約1週間で、伊豆提督の体調はすこぶる良くなっている。とはいえ、やられたのが脚だったのがよろしくなく、歩くのにはどうしても不自由だった。杖が不要になったとはいえ、全力でダッシュすることはまだ難しいかと思いつつ、毎日ストレッチは欠かしていない。艦娘の仲間達が安心出来るように、十全に動けるように準備を怠ることはない。

 

「忠犬、お前も次の戦いは参加するんだよな。だったら、ハルカのこと頼むぞ」

「任せてくだせぇトシパイセン。調査隊は全力で後始末屋を応援しますぜ」

 

 昼目提督も気合充分。また自ら乗り込むつもりでいるかもしれないため、そこは伊豆提督がちゃんとやめるように言い聞かせている。

 今回の島は、生身の人間が向かってどうにかなるようなところでは無い。海賊船とはワケが違う、完全な敵の本拠地。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、全方位囲まれているアウェーな戦場。伊豆提督でも、直接乗り込むことはしないように考えているくらいである。

 

「情報は全部取り入れやした。トラ達の記憶の中だけでも、どれだけの姫がいるかは確認済みっスよ」

「ええ、そのおかげで多少は作戦が立てやすくなったわね。……まともな作戦にはならないけれど」

 

 元々島にいた者達による情報は、伊豆提督達を悩ませるモノでもある。

 

 黒井兄妹の母親が何に変えられているかを確認するために見てもらった、深海棲艦の姫の一覧。その名を知らずとも、姿を見れば誰がどれかと指差すことくらいは出来る。

 そして、トラがその際に指差したのが、見た目からして異形に近いモノ。

 

「戦艦未完棲姫……また面倒なのに変わってしまったわね……」

 

 深海棲艦の姫の中でも、人型と異形がわかりやすく融合している個体、戦艦未完棲姫。タコの脚とメンダコを従えた、クリオネのような色合いの不気味な深海棲艦。

 主砲は備えているが、恐ろしいのはそれ以上にタコの脚になるだろう。1本1本が自らと同じ程のサイズを持ち、それが数本備わっているのだから、近付くことも一苦労。無論、耐久力も相当なモノであり、簡単に突破出来るようなモノでもない。

 それと陸戦をしなければならない可能性が高いとなると、苦戦は必至。本体に手が届くとは思えず、むしろそうなる前に砲撃も飛んでくるのだから、やりようがない。

 

「それに、他の姫のことも聞けましたからね。空母もいるし、厄介な連中もいますぜ」

「ええ、陸上施設型も当たり前のようにいるみたいだし、ヒト型のイロハ級もわんさかだものね……」

 

 島で建造された空っぽのイロハ級や姫もそこにはいるだろう。何せ本拠地、すぐそこに建造施設もある。斃せど斃せど、敵は増えていく一方とも考えられる。

 

 そして、やはり警戒しなくてはならないのは忌雷だ。あちらの住人は何も警戒せずに共にあるだろうが、仲間達にしてみたらもう脅威以外の何モノでもない。今でこそ治療の手段があるとはいえ、それをまともにやらせてもらえるかもわからないのだ。

 

「軍港からも戦力を提供する。と言っても、通常業務もあるから、少数精鋭になるが」

「充分すぎるわ。ありがとねトシちゃん」

「こちらも最悪な目に遭わされてるからな。当然やらせてもらう」

 

 それがいつものメンバー。狂犬綾波とレディ暁、そして夜戦忍者川内。軍港都市の警備をしていることもあり、市街地戦にも心得があるようなもの。島内での戦いでも近しいことが起きると予想出来るため、少しでも慣れている者がいるのは心強い。

 その間は軍港都市の警備から抜けてしまうことになるが、そこで役立つのが、うみどりに保護され、軍港鎮守府への移籍を決意した羽黒達だ。その穴を早速埋めるために、移籍初日からフルタイム出勤である。

 また、調整の終わった艤装人間達も、早速軍港都市警備に駆り出される。艤装人間達は元が深海棲艦だからか物覚えが非常に良く、話せないというところを除けば、もう普通に業務に当たれる程になっていた。

 

「他のところにも声はかけるけれど……場所が場所だから難しいかもしれない。有道ちゃんのところは参戦してくれそうだし、アリスちゃんのところも協力してくれるでしょうね」

「戦力は多いに越したこたぁ無いですぜ。合流は現地になりますかね」

「有道ちゃんの鎮守府を経由することも考えてるわ」

 

 途中で知り合っている有道提督の鎮守府は、阿手の島に最も近い場所にある鎮守府ということで、真っ先に狙われたという実績がある。今は裏切り者掃討戦の際に得られた技術などを使って自衛も出来ているようだが、だとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、一度立ち寄ることは考えていた。

 イリスの目で確認し、後ろから刺されないことを確認しておかねば、落ち着いて戦いに臨むことも出来ないだろう。

 

「まず仲間を疑わないといけないというのは、気分が良いモノじゃあないわねぇ……」

「本当にな。それもイリスがいるからどうとでもなるってだけだろ。うみどり以外突破不可能じゃないか」

「困ったモノよ。そういうことばかりしてくるんだもの」

 

 溜息が尽きない。敵のやり方があまりにも陰険。

 

「あと、丹陽ちゃん、何度も繰り返し言っておくけれど、アナタはうみどりから出ちゃダメよ?」

 

 これまで黙って話を聞いていた丹陽だが、改めて伊豆提督から突きつけられる。

 

「わかってますって。まず明石さんが用意してくれないですし」

「それでも生身で行こうとするでしょアナタは」

「……なんでこう、否定出来ないことを言ってくるんですかね」

 

 苦笑する丹陽だが、伊豆提督としても気が気でない。

 次に攻略する敵、阿手は、丹陽のメンタルを刺激し続ける存在だ。本人を目の当たりにしたら、理性さえ振り切れてしまうのでは無いかと心配になるほど。

 

「最悪、執務室に縛り付けさせてもらうから覚悟しておくように」

「そこまでですか」

「そこまでなのよ。丹陽ちゃんは第一世代のレジェンドかもしれないけれど、今は老朽化著しい非戦闘員なのよ。自覚してるでしょうけど、それでもあと1回くらいなら出撃出来るだろうとか思ってると思うわ。その1回が致命傷になるかもしれない。アタシは、そんなことでアナタを失いたくないもの」

 

 心の底から心配そうに語る伊豆提督。丹陽もそれくらいはわかっているつもりだ。だが、命を賭してでもやりたいことというのはある。その危うさが、今一番の不安。

 

「だから、アナタには頭脳を貸してほしいの。アタシ達だけではわからない、実戦経験も考慮した策を出してちょうだい。それじゃあ不満かもしれないけれど、みんなのためにも」

「わかってます、わかってますとも。今のままでは私が足手纏いになるでしょうから、戦闘に参加するようなことはしません」

 

 半ば諦めたような口振り。だが、安心出来ないのが丹陽の心境である。しかし、今はそれを信用した。せざるを得ない。

 

 

 

 

 うみどりの出港は無難に明日になりそうである。そしてここからは、ようやく阿手の島攻略戦となる。

 




丹陽が暴走しないように、明石だけでなく非戦闘員の面々が押さえつけておくことになりそう。
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