後始末屋の特異点   作:緋寺

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休暇の終わり

 翌朝、軍港滞在7日目にして休暇最後の日。半日は出港準備に費やし、昼食後に発つこととなった。

 朝食の時にも証明したが、伊豆提督は昨日よりもさらに回復しており、おおよそ九割と言ったところ。今は全力を出さないかもしれないが、あの数日で完全回復と言えるようになるだろう。阿手の島に到着する頃には復帰出来そうである。

 

「アタシの治療もあったから、長々と滞在することになっちゃったけど、お休みもコレでおしまい。うみどりに戻って、次に向けて進みましょう。後始末屋としての仕事にはまだまだ復帰出来ないかもしれないけれど、コレはコレで第二次深海戦争の後始末とも言えること。れっきとした、アタシ達の仕事になるわ。だから、頑張っていきましょう」

 

 休みの終わりを告げる伊豆提督の言葉に、一同は逆に気合が入った。ついにこの時が来たのだと。

 阿手に対して恨み辛みを持つ者は多数いる。むしろ、持たない者がいないくらいに、全方位に敵を作っているのが奴だ。それを斃しに行くと言われて、()()()()()者はここにはいない。

 

 これもまた、第二次深海戦争の時に生まれ、今もまだ残っている悪しき存在の後始末。当時出来なかった片付けを、今、第三世代で成す。

 

「昨日はまだ話せてなかったかもしれないけれど、ここから直接島に向かうことはしないわ。覚えているかしら。前に忌雷に寄生された浜風ちゃんを救ったことがあるでしょう。そこの鎮守府、島から一番近いところだから、一旦そこに寄らせてもらってから、援軍の集合を待って、そこから再出撃と行くわ」

 

 有道提督の方には、昨晩のうちに連絡済み。通信妨害が無いとも限らない状況ではあるのだが、明石謹製の通算設備を使用することである程度は緩和出来ているため、事前に話だけは通してあるという状態。出来るならばアポ無しでの突撃はよろしくない。

 有道提督もその話を聞いて是非とも手伝わせてほしいと快く了承。自分の部下をやられた()()()をしてやらねばならないと、鼻息荒く戦いの参加を表明。

 

「有道ちゃんの鎮守府に向かうのに、ここからおおよそ1日半……まぁ2日と見ましょう。そこで少しだけ滞在させてもらって、メンバーが揃ったところで出撃となるわ。それまでの間に出来ることは全てやりましょう。アタシも本調子に持っていけるから安心してね」

 

 決戦まではまだ時間はある。それまでの間にやれそうなことはなるべくこなしておきたい。

 軍港鎮守府では出来なかったが、うみどりでは出来ることというのもある。それをギリギリまで実施して、決戦に臨みたい。

 

「それじゃあ、帰り支度をしましょう。と言っても、そこまでここに持ち込んでいるモノはないだろうから、忘れ物が無いことを確認して、艤装とかのチェックね」

 

 休暇の終わりは、バタバタせずにのんびりと確実に済ませていく方向で。無駄な疲労はもう要らない。

 

 

 

 

 自室の片付けはそこそこに。休暇中に購入したモノなども簡単な荷造りで問題なく持ち運べる。

 

「よし、忘れモンないな」

「大丈夫なのです」

「隅々まで確認いたしました」

「来た時と同じくらいになってんじゃない?」

 

 深雪達は準備万端。帰る時は制服だが、せっかくだからと揃いのイヤーカフも身につけ、一同は工廠へと向かう。

 次は艤装のチェック。と言っても、今回は戦闘もなかったため、完璧な整備が施されたそれがあることを確認するだけ。当然だが、何か細工されているなんてこともなく、いつ戦いが起きたとしても十二分に性能を発揮出来るようにチューンされていた。

 

「よし、こっちも大丈夫だな。当然だけど」

「今回は何も無かったですからね」

「ここであられても困るんだけどな」

 

 立て続けに軍港都市での戦闘があったため、どうしても警戒してしまっていたが、今回の休暇は全日通して何事もない、()()()()()()休暇だった。

 

「こっちも準備、出来てまぁす♪」

 

 深雪達の艤装チェックが終わったところで、軍港鎮守府から決戦に参戦する綾波がニコニコで合流。激しく、厳しい戦いが繰り広げられることを期待して、全力で戦えることにワクワクしているようだった。

 

「頼りにしてるぜ、綾波」

「はい、頑張らせてもらいますね。相手はこの軍港都市を戦場に変えた不届き者。ちゃんと痛い目を見てもらわないといけませんからぁ」

 

 ニコニコしていながらも、阿手に対しての怒りは充分すぎるほどで、殺意もまるで隠していない。本来なら怖いところだが、今はそれがとても頼もしいモノだった。

 少数精鋭ながらも、屈指の実力者が参戦してくれる。綾波と共に艤装のチェックを終えた暁もここで合流した。

 

「島での戦いよね……な、なんか今から緊張してきちゃった……」

「いざ戦場に入ったら落ち着けるんですから、今のうちに怖がっちゃっててくださぁい」

「ブルっちゃうのはレディじゃないわ! それに、怖いわけじゃないし」

 

 戦場でも何でも無いときは見た目相応の反応を見せる暁だが、深雪達は戦場での暁を知っているため、これでも本番はとんでもない精度を見せるんだろうなと安心して見ていられる。

 

「都市警備には、綾波達の()()もいるので安心していけますねぇ。減った穴はちゃんと埋めてもらえていますし、今ではあの子が、『エドちゃん』がいますからぁ」

 

 綾波が『エドちゃん』と呼んだのは、何を隠そうあの艤装人間、ヘイウッド顔の個体である。

 名前が無いのは寂しいよなと鎮守府内での呼称を決めることとなり、ヘイウッド顔の艤装人間はフルネームでもあまり呼ばれないエドワーズの方から取って、エドと呼ばれることになった。

 

 ちなみに榛名顔の艤装人間はそのままズバリだと引っかかるところがあるので、あえて後ろをとって『ルナ』、蒼龍顔の艤装人間はヒーロー気質を考慮されたか『アズール()』と呼ばれるようになる。

 一様に覚えが良いため、既に警備にも参加し、都市の住人達にも顔を見せている状態。綾波達と共に行動し、都度紹介しているおかげで受け入れられている。エドに関しては、その上品な物腰も相まって、既に人気が出始めている程。

 

「あ、噂をすれば」

 

 話している内に、整備を終えたエドが師匠にあたる綾波の下へと馳せ参じた。深雪達の姿を見ると、見事なカーテシーで挨拶。これはこれはご丁寧にと深雪達も手を挙げたらお辞儀をしたりと挨拶を忘れない。

 

「エドちゃん、綾波達は少しの間ここを空けます。その間、この街をよろしくお願いしますね」

 

 綾波に言われ、勿論ですと言わんばかりに微笑みながら恭しく頭を下げた。

 

「話せるようになれば完璧なんですけどねぇ」

「冬月がそういうシステムを研究してくれてるわ。今でも充分意思疎通は出来てるけどね」

 

 身振り手振りでも話は出来るモノで、エドとも普通に意思疎通が出来ている。まるで妖精さんと話をしているような感覚であった。

 

 

 

 

 綾波達が抜けた穴もしっかり埋められることが確認出来たため、少し早いが昼食に。これを食べ終えたらもう休暇が終わる。物悲しさもあるが、決戦に向けての最後の仕上げもあるので、気合も充分。

 セレスも長いことありがとうと間宮と伊良湖に礼を言っており、逆に2人もセレスの腕をまた学ばせてほしいと再会の約束を取り付けている。食の探究者は、鎮守府にも大きな影響を与えていた。

 

 それも終わったことで一同は帰路につく。1週間前に歩いた道を逆側から。

 

「見えてきたな」

 

 港に近付けば、その姿が見えてくる。こちらも完璧な整備が施され、悪い部分など何処にもないと言えるくらいのピカピカになったうみどりが。深雪達の居場所はココだ。最後は必ずここに戻ってくる。

 

「少し離れてただけなのに、なんかすげぇ懐かしく思えるぜ」

「なのです。でもやっぱり、こっちの方が落ち着けるというか」

「だよな。やっぱりこっちがあたし達の居場所なんだって実感出来るぜ」

 

 続々とうみどりに入っていく仲間達。深雪達も軽い足取りで中に入り、久々の自分の部屋に。

 

「当たり前だけど、何も変わっちゃいねぇなぁ」

「少し綺麗にされているくらいなのです。この空気がやっぱり落ち着けるのです」

 

 ベッドメイキングがされているくらいで、部屋は1週間前からそのまま。別に散らかしていたわけでは無いため、掃除が施されていたが配置などは何も変わってはいない。

 持ってきた私服などを片付けて、一旦ベッドにダイブ。布団の柔らかさもそのままだとわかり、実家に帰ってきた安心感に包まれる。

 

「よっしゃ、じゃあ最後はやっぱり」

「デッキに行くのです」

 

 軍港から離れる時はデッキで。相変わらず見送りの住人などは沢山おり、その門出を祝福してくれる。

 ここから先は、激しい戦場。今ここで、明るく見送ってもらえるのは、それだけでも気持ちが入るというモノ。

 

「励みになるだろうからね。これも撮っておくよ」

 

 デッキには既に時雨がおり、カメラでその風景を撮影していた。人間からのエールを感じさせるその写真は、今後も後押しになってくれるだろう。

 

「絶対勝つぜ。で、またここに戻ってくるんだ」

「ああ、勿論」

 

 時雨にもこの街で何かを見つけたようで、戦いが終わったら再びここで休暇を取りたいと思っているようだった。

 呪いによって人間嫌いである時雨に、どんな心境の変化がなどと思ったものの、これは冷やかすような話ではないなと、深雪は何も言わなかった。

 

 そして、その時が来る。伊豆提督も艦内に入り、残された者はいなくなった。準備は万端。ここからは戦場への旅路。

 

「次は勝利の凱旋だ。また気分良く遊びに来ようぜ」

 

 見送りの住人達に向けて手を振る深雪。そんな深雪が見えたか、住人達も手を振り返して、頑張れよとエールをくれた。

 ただそれだけで充分。声援は力の源になる。平和への、優しい願いと同じだ。

 

 

 

 

 ここからの戦いは、本格的に厳しいモノとなるだろう。だが、これだけ背中を押してくれる者達がいるとわかっているのだから、何があっても折れることはない。

 怒りや憎しみだけでは無い、温かな気持ちを胸に、深雪達は決戦に臨む。

 




次回より、ついに阿手島襲撃戦に突入します。まずは準備の段階からですが、過酷な戦いが待ち受けているでしょう。
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