後始末屋の特異点   作:緋寺

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説得のためには

 榛名達への質問も終わったところで、昼目提督達はおおわしへ帰投。それと同時に、榛名達も帰投となる。うみどりでやることは全て終わっており、これ以上長居する理由も無い。

 

「今回はありがとうございました。うみどりに来ていただけなかったら、榛名も含めて命が危なかったでしょう」

 

 旗艦である榛名が深く深く感謝を述べながら頭を下げる。それに合わせて、随伴艦達も頭を下げた。

 流石にこの時間となれば、修復された四肢も完全になれており、重傷を負う前と同じ状態となっている。負担もなければ不安もない。鎮守府に戻ることも容易であろう。

 

「本当に全員無事で良かったわぁ。今回は災難だったわねぇ」

「はい……まさか知っている深海棲艦が人から改造を受けているなんて。この件は、こちらの提督にも報告しておけばよかったでしょうか」

「ええ、後から全体に通知が来ると思うけれど、先んじて話しておいても問題ないわ。マークちゃん、良かったわよね?」

「うす。協力してもらえてますし、何も問題はありません。むしろ、早く知っておけば何かしらの対策を思いついてくれるかもしれませんから」

 

 今回発生した問題──()()()()()()()()()()()()──については、榛名の鎮守府では命題として取り扱ってもらってもいいだろう。むしろ、その鎮守府は優先的に対策を練る必要があるかもしれない。

 初めてその存在を確認した例が、ここに現れてしまったのだから。これは二度も三度もありそうな事件であり、その都度、その鎮守府は脅威に晒される。ならば、それに対策をしてもらわなくてはならない。

 

 勿論、調査隊はそれに対して調査を続けるため、そんな危険が何度も起きるようなことはないようにしていくつもりである。

 それに、後始末屋もそれに首を突っ込むことになりそうだ。カテゴリーWが現れたことによって動き出したというのならば、うみどりに所属する深雪と電が危ない。

 

「それでは、榛名達は帰投させていただきます。重ね重ねになりますが、ありがとうございました」

「ええ、それじゃあ達者でね。今度は違うカタチで会いたいわね」

「ですね。それでは失礼します」

 

 うみどりとまた出会うことがあるかはわからない。重傷を負って運ばれる以外での再会は、活動的にはなかなか無いものである。だが、この事件に巻き込まれてしまったことで、何かしらの関係を持った気がしていた。

 次はせめて共闘という方向で戦場に並び立ちたいところである。救護ではなく、友軍として。

 

「んじゃあ、オレ達も行きます。調査が進み次第、オジキとまた報告会をしたいですね」

「ええ。こちらでも何かあったらすぐに連絡するわ」

「うす。よろしくお願いします」

 

 榛名達が工廠から出て行った後、昼目提督達も帰投準備を始める。今回手に入れた情報はすぐに打ち上げ、大本営と協議しつつ他の鎮守府にも警戒を促す。

 その辺りを最終的に判断するのは瀬石元帥となるのだが、この件でまた胃がキリキリすることだろう。これまでの戦いから一線を画した勢力が現れようとしているのだから。

 

「では」

 

 鳥海もこうしながらタブレットに議事録を纏め、頭を小さく下げてから昼目提督について行った。報告会のそれだけではなく、食堂での対話も全てをメモっていたようである。

 こういうところから調査隊の仕事は始まっている。少しだけの情報でも、それが憶測であっても、知り得た情報は全て取り込み、調べ上げるのが調査隊。その秘書艦を務める鳥海は、こういうところでも細かい。

 

「……アタシ達も少し、方針を変えなくちゃいけないわね」

 

 工廠に残った伊豆提督は、同じように一緒にいたイリスに伝えるように呟く。対するイリスも、そうねと頷いた。

 

「少なくとも、タシュケントがうちを監視しているというのなら、それの対抗策は必要だと思うわ」

「その一番のところは、深雪ちゃんと電ちゃんよねぇ」

「出現時期からすれば、そこになるわね。敵かどうかもわからないから、万が一のことを考えると、今以上に()()()()()()を覚えてもらわなくちゃいけないと思うわ」

 

 タシュケントはあくまでも監視で留まっている。こちらに発見されたらすぐさま撤退をしているくらいであり、しかもイリスの視界には絶対に入らない。おそらく範囲を知っているわけではないだろうが、だとしても二回連続でそれなのは勘が良すぎるくらいに感じる。

 

 そんなタシュケントが敵性艦娘、つまりはカテゴリーMだったとしたら、監視だけには留まらずに攻撃をしてくる可能性がある。監視対象である深雪と電に対しても、人間への感情と同じものをぶつけてくるかもしれない。

 そうなった場合、未だにまともな訓練が出来ていない電や、まだ一度しか主砲を撃ったことが無いような深雪では、間違いなくやられる。いくら純粋な艦娘が生まれた時点で主戦力だとしても、相手はそれ以上の()()()である可能性が高すぎるくらいだ。

 

 ならば、やらねばならないことはただ一つ。深雪と電を一線級に仕立て上げること。

 勿論それはトレーニングを積むことで辿り着くことになるわけだが、移動している時間が多い故に、艦内で出来ることしか取り入れられない。各種基礎は次々と取り込んでいるが、実戦経験だけはどうにもなっていないのだ。

 

 

 

 

 客人が帰投したときにはちょうど全員が食堂に集まっていたので、そのままそこで待機してもらい、今後の方針を決めることにしていた。調査隊との邂逅により、うみどりが危険に晒されている可能性も出てきているからだ。

 朝イチにあった報告会の内容は、最終的には全体公開される。いち早くそれを知ることになったうみどりは当事者。詳細まで知る権利があるため、艦娘達にもその全ての情報が開示される。

 

「タシュケントがあたし達を監視している、か」

 

 謎の艦影がタシュケントであったことは、うみどり内でも知られていること。しかし、その目的が何なのかはわかっていなかった。

 カテゴリーWを監視しているというのは、憶測の域を出ていない。だが、出現タイミングからして、その説はかなり濃厚。単純なカテゴリーMであるならば、後始末の現場を眺めるだけで終わるということはまず無い。間違いなく襲撃している。それをしないのだから、何かしらの理由があるはずである。

 

「正直なところ、まだまだ憶測なの。だから、マークちゃんに調査は続けてもらっているんだけれど、だとしても何があるかはわからないわ。特に怖いのは、深雪ちゃんと電ちゃんが襲われること。ただでさえ今は生まれたばかりで訓練もそこまで出来ていない状態なんだもの」

 

 タシュケントはおそらく相当な使い手である。哨戒機もそうだが、調査隊の追跡すら振り払うくらいに速い。それを使いこなせているということは、単純な戦闘力もかなりのものと予測される。

 今でこそ監視だけで終わっているが、その戦闘力を()()()()()W()()()()ために使われたとしたら、為す術なくやられてしまうだろう。生まれた時から即戦力である純粋な艦娘であっても、実戦経験の差は嫌でも出てきてしまうもの。

 

 同じ生まれでも、先に生まれている方が生きることに慣れている。同じことが出来るとしても、長く続けている方がより強い。

 こういう時は、どうしても時間が正義となる。深雪もそうだが、電はもっと難しい。

 

「勿論、説得で終わらせられるならそれに越したことは無いわ。アタシだってそれを望んでる。でも、説得をするには、それ相応の力も必要なの。戦うための力じゃなく、話を聞いてもらえる力がね」

 

 電の考えを読み取ったような伊豆提督の言葉。力が無ければ話も出来ないというのは悲しいことではあるが、しかし、戦わずに済むためには()()()()()()()()()も大事である。

 

「わかった。あたしは余計な戦いはしたくない。カテゴリーMだったとしたも、それはあたしの仲間なんだ。タシュケントがあたし達のことをどう思ってるのかは知らないけど、面と向かって話すためには強くならなくちゃいけないってなら、あたしは何だってやるよ」

 

 深雪はいち早くそれを受け入れる。強くなれば、いい方向へと向かえると信じて。

 

「……それしか、無いのですよね」

 

 電はどうしても抵抗があった。深雪がやる気を見せても、戦いというモノに対して恐怖もあった。優しさがそれを引き出してしまっているのは誰が見てもわかる。しかし、電自身も理解している。戦わずに済む方法を選択するためには、自分が強く在ることが必要なことを。

 もうこれに関しては少し()()も見えていた。自分が弱いから説得の卓にもついてくれないとなるのなら、強くなければ舞台にすら上がることが出来ない。ならば、強くなるしか無い。

 

「電も……強くなるのです。やっぱり戦うのは怖いのです。でも、戦わないためには、戦わなくちゃいけなくなって……あ、あれ?」

 

 自分が言っていることがわからなくなってきてしまっていた電だったが、状況は理解出来ている。強くなければこの状況を打破出来ないのだから、とにかく強くなる。

 

「あたしも電も、やる気はあるぜ。丸く収めたいんだよ今の状況を」

 

 深雪も電も、戦いを終わらせるためには全力を尽くす覚悟を持っている。怯えながらでも前に進もうとする電と、勇気を持ってその道を選択した深雪。二人のカテゴリーWは、この戦いを綺麗に終わらせるためにも、全力で努力する決意を固めた。

 

「ふふ、いい顔してるわぁ。それじゃあ、明日からはアナタ達を確実に強くする方向で進めていく。いいわね?」

「うす! 今なら何でもやれるって感じるぜ!」

「が、頑張るのです。なんだかよくわからなくなりそうだったけど、電もやってやるのです!」

 

 ぐっと拳を突き出し、そのやる気を体現した深雪。恐れを表情から消し、深雪の隣で意気込む電。これならば強くなれると、伊豆提督は確信した。

 

 

 

 

「で、鍛えるって言ってもどうやってやるんだ? 今日は清浄化率を維持するために待機で、海の上に出るのは良くないんだよな。で、明日はもう移動するんじゃないのか?」

「ええ、次の現場があるから、明日になったらこの海域から離れるわ。だから、海上での訓練は申し訳ないけど出来ないわね」

 

 そうなると、砲撃訓練も雷撃訓練も出来ない。深雪は一度やっているが、電は全くのゼロ。

 その状態で今まで以上に強くなれと言われても、これまでとトレーニング自体は変わらないのでは無いか。

 

「艦内でやれることも限られてるわね。砲撃はまだマシだけど、魚雷なんて絶対に出来ない。勿論、対空や対潜だって難しいわ」

「だったらどうやって……っていうか、みんなはどうやって鍛えてきたんだ? そりゃあ時間があたし達より多くあったんだから、いくらでもやれたかもしれないけど」

 

 停泊している時にみっちりトレーニングしているにしても、大分時間がかかるだろう。ならばどのように強くなるのか。

 

「第一次や第二次の時には無かったトレーニング方法を、今は確立しているの。でも、それをするにはある程度身体を鍛えておかないと意味が無かったのよ。だから筋トレやスタミナトレーニングを優先していたの」

「へぇ……で、その方法ってのは?」

「立ち入り禁止区域に用意しているんだけれど、簡単に言ってしまえば……」

 

 伊豆提督が含んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

 

V()R()よ」

 




次回に細かく説明しますが、これから深雪と電は非常に未来的な方法で訓練をすることになります。
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