後始末屋の特異点   作:緋寺

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神風と伊203

 航行を始めて数時間、順調に航路を行くうみどりの中で、深雪達は各々最後の強化ということでトレーニングに勤しんでいた。基礎を徹底することで、地力を強くすることが目的。

 陸での戦いに備えて、より持久力を高めるために、ランニングマシンでひたすら走ったり、体幹も鍛えるために以前の伊豆提督から学んだバランス感覚のトレーニング、コサックダンスをしてみたりと、自由に鍛え続けている。

 それに倣うように、電を筆頭とした仲間達もいろいろと試してみたりしていた。特に伊豆提督からの教えを受けていない白雲とグレカーレは、深雪から又聞きするカタチでそのトレーニングをやっている。神風から学んだ基礎とはまた違った厳しい動きに、最初はてんやわんやだったが、器用なグレカーレはもうコサックダンスを華麗に決めていた。

 

「こ、これっ、腰に来るっ」

「だよなぁ。でも、そこを鍛えつつバランス感覚も手に入るんだぜ。やらない理由ないだろ」

「わかるっ、気が、するっ」

 

 出来てはいても、体力が続くかと言われたらそうでもない。何度か繰り出した後、グレカーレはそのまま崩れ落ちた。ゼエゼエと息を切らしながら、それでも笑みを浮かべていた。深雪達と同じトレーニングが出来ていることがとにかく嬉しいようである。

 

「大人の姿だと勝手が違うしな。あたしも簡単には出来ねぇ」

「だよねぇ。バランス全然違うし」

 

 深雪も同様にコサックダンスを始めたが、前回と違い、今回は深海棲艦化状態。つまり、手脚が伸びている大人の姿である。子供の姿とは随分と勝手が違うため、やるのにも一苦労。

 とはいえ、陸戦では姿を切り替えることもあり得る。どちらの姿でも万全に動けてこそだ。そのため、苦戦しながらでも先に進もうと頑張っていた。

 

「でも、ミユキは前にもやってただけあって、あたしより全然やれてるねぇ」

「まぁ、なっ。結構、しんどい、けどっ」

 

 こうしてバランス感覚を養って、本番で全力を出せるように少しでも成長を望んだ。

 

 一方白雲はというと、電からの又聞きでバレエに挑戦中。

 

「上手なのです!」

「ありがとう存じます。白雲は舞も嗜まねばなりませぬ故、助かります」

 

 鎖を持った状態で舞うことで、周囲の温度を下げていくことも戦術に取り入れている白雲としては、バレエによって柔軟性とバランス感覚を鍛えることは、より戦いやすくなることに繋がる。

 今は周囲を冷やすのには磯風の力を借りてもいいのだが、磯風が常に隣にいるとは限らない。ならば、独自で戦えるようにするのが筋というモノ。

 

「海と同じように陸でも舞えるようにしなくては。お姉様の仰るように、下半身の強化に努めます」

「それがいいと思うのです。グレカーレちゃんみたいに、あちらもやってみるのです?」

「はい、無論。グレ様が楽しく苦しんでおられるようなので、この白雲も味わっておこうと」

 

 冗談みたいなことを言いながら微笑む白雲。やはり丸くなったなと電も笑顔である。

 

 そして、先程まで強引なストレッチで身体を解され続けていた時雨はというと、トレーニングルームの端でグッタリと休憩中。もう殆ど拷問に近い柔軟に、身体の節々が伸ばされ、酷い目に遭ったと虚ろな目。

 とはいえ、陸戦をするにあたり、柔軟性の欠如は致命的であることは時雨自身も理解している。そちらから攻める組に入れられるかはまだわからないが、そちらに任命された場合、戦いをよりやりやすくするためにも、出来る限りの対策は必要だと実感した。

 

「身体が硬いのは仕方ないけど、もう少しどうにかしないとね」

「……何も言い返せない」

 

 暁に苦笑され、時雨も息を吐くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 全員が大分やれたなと思い、片付けに入ろうとしたところで、VRの部屋から神風達が戻ってくる。

 

「お、ちょうどいい時間くらいだぜ。お疲れさん」

「ええ、お疲れ様。長々とやれたから、いい経験になれたわ。やっぱり、フーミィと全力でぶつかるのは大きいわ」

「ん、神風相手はやりがいがあってありがたい。私も全力が出せた」

 

 何処かツヤツヤしている神風と伊203。仮想空間の中とはいえ、普段は出せない100%の力を発揮しての戦闘は、更なる成長に繋がったらしい。

 深雪達からすれば、この2人は既に練度もMAX。天の上とは言わないにしても、煙幕を使わない技術だけの戦いならば到底追いつくことが出来ないくらいの差があるというのに、このトレーニングでまだ成長出来る伸び代があるのかと驚くモノである。

 

「にしても、陸戦の訓練してたのか?」

「ええ、勿論。身体能力を艤装で補い切れないから、そっちを重点的に」

「……フーミィ、潜水艦なのに陸に上がるのか」

「その可能性もあるなら、先に鍛えておく。敵は島だから、上陸はあり得ない話じゃない」

 

 仮想空間で行われたのは、海上戦闘ではなく陸上戦闘。しかも、艤装はあるが砲雷撃戦をしないで、近接戦闘のみという縛りの中での戦い。島での戦いを想定した、周囲を破壊することなく敵のみを始末するための技術の鍛錬。

 潜水艦は魚雷しか攻撃手段が無いに等しいため、陸上施設型にはどうしても無力だが、上陸して陸上で戦うことが出来ればその辺りの問題は全て解消出来る。実際にそれをするかどうかは別として、やっておいて損はない。そして、伊203は()()()()()()()()()()者である。

 

「刀がある分、神風の方が少し有利。私の腕よりリーチが長い」

「そこは私も意識はしてるわ。フーミィには組み付かれたら終わりみたいなモノだもの。近付かせないように立ち回らないとね。身軽な分、フーミィの方が速いし」

「私もそれは考えてる。主砲とか無い分、速く動けるはず」

 

 ここまで来るともう誤差の範囲としか思えないものの、2人はその誤差によって性能が大きく変わるようで、微妙なズレなども無くすことで万全な状態を作り出そうとしていた。

 

「気になってたんだけどさ、2人ってどっちが強いんだ?」

 

 ここで何気なく深雪が聞く。うみどりのトップであり、これまでその人智を超えた力で幾度となく仲間達を助けてきた2人だが、実力の差はあるのかどうかは気になるところ。

 それに対して、答えたのは伊203。

 

「適材適所。海の中で戦えるのは私だし、海の上で戦えるのは神風。そも戦場が違う。敵は海上が多いし、陸戦だと海の中と勝手が大きく変わるから、神風の方が上かも」

「同じ条件で戦ったら、刀の分私が有利かもだけど、お互い徒手空拳ならフーミィに分があるかしらね。だから、互角よ互角。でも、万能さならフーミィの方が上よ」

 

 2人してお互いを上げるような言い分。あくまでも神風は武器の分強いだけと謙遜するし、伊203は戦場が違うからどちらが強いと言うのは難しいと控えめ。

 事実、仮想空間での2人の戦いは五分五分。10戦やったなら5勝5敗。伊203も神風の刀を手放させるような立ち回り方をするため、それが成功するか否かになる。また、神風も刀がない状態での戦いを視野に入れているため、そこで苦戦を強いられて結果負けに持っていかれるなんてことも。

 

「ちなみにさ、この訓練……殺しても死なないところが売りだろ。その、お互い殺し合いになったってことでいいか?」

「まぁそれは。私の刀でフーミィの首が飛んだ時もあったわね」

「私が神風の首を捩じ切った時もある」

 

 VRかもしれないが、そこまで本気の戦いをしたということに少し恐怖を感じた。絶対に外に被害が出ないことがわかっていたとしても、恐ろしい容赦の無さ。

 

「じゃあ、後ろで項垂れてる2人は」

 

 その質問をした理由はそこ。神風と伊203は全力での戦いを堪能し、技術の成長にまで繋げたが、その後ろにいる追加の参加者、綾波と夕立は、疲れ果ててぐったりと項垂れていた。

 

「それはもう、何度も()()()()()()()。いい機会だもの、ちゃんと知っておくべきだし」

「夕立は控えめだけど、綾波は出来る限りボコボコのボコにした。勝つまでやろうとするから」

 

 とはいえ心は折れていないのが綾波。項垂れているのは、時間の限界まで来ても、一度たりとも勝利を収めることが出来なかったからである。

 

 砲雷撃戦という()()()がない、出来る技術を全て見せる神風を相手に、主砲を使っても追いつくことが出来なかったのは本当に悔しかったようで、首を飛ばされては復活して再戦を望み、袈裟斬りにされても復活しては再戦を望む。それでも近接戦闘では勝つことが出来なかった。いいところまでは行くものの、結局最後は神風の勝利に。

 伊203との戦いも、これまた絶妙な戦いとなったらしい。陸上であっても恐ろしい速さを見せる伊203は、綾波の砲撃をことごとく避けては接近し、迎撃に打って出たとしても見てから避けられる。綾波の十八番(おはこ)である動体視力も、伊203が上回るモノを見せつけた。何せ、ゼロ距離の砲撃を避ける程である。

 

「上には上がいるんですねぇ……でも、次は負けませんからぁ」

「海の上での演習では負けるんだもの。おあいこよおあいこ」

「それは加減をしているからですよねぇ」

「それしか戦う手段がない環境なんだから、加減でもなんでもなく、その場での全力よ。刀なんて、常に使える武器じゃないんだから」

 

 実際はやろうと思えば海戦でも使えるし、現に他の戦場では海の上でもバリバリ敵を斬り刻んでいるのだが、そこはあえて伏せている。

 そもそも、神風は全力を出し過ぎると、翌日に響いてしまうからだ。演習でそこまですることは出来ず、戦場でも余裕がある時にしか出来ない。

 

「夕立はよく我慢出来たわね。ちゃんと見て覚えるが実践出来てる」

「強くなるためには、人から技術を盗むのも大切だって教えてもらったっぽい。でも、実際にやったら真っ二つにされたっぽい!」

 

 夕立が控えめだったのはそれが理由。見て学ぶを実践したから。うみどり頂上決戦は、見ているだけでも大きな学びになるとわかった途端、仮想空間に入り直に見るということも考えた。そしてそれを踏まえて戦い、やっぱり勝てないと次に活かす。

 夕立は、こと戦闘に関してはセンスの塊。そして、慢心さえ無くなればここまでする。

 

「ぶいあーるだから痛くも痒くもないとはいえ、腕や脚が捥ぎ取られるのはもう沢山っぽい……」

「ああ、フーミィにやられたのか。そりゃあ……しょうがねぇな、うん」

「でも、夕立もっと頑張るっぽい!」

 

 敗北を糧に、より気合が入った夕立。綾波も次は負けないと燃えていた。

 

「綾波が迷惑かけてなかったかしら……」

「大丈夫よ。あの程度じゃ迷惑にはならないから安心して」

 

 暁の不安は的中していたようだが、神風も伊203もアレくらいならトレーニングの一環だと軽く流してくれたようで安心していた。

 

 

 

 

 今日のトレーニングの時間はここまでとなるだろうが、限りある時間を有意義に使うため、明日も同じように鍛えることになるだろう。

 




本人達が言う通り、神風と伊203どちらが強いと言われたら、その時によるが正解。得手不得手はどちらにもある。
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