トレーニングを終えて、汗を風呂で流した後に夕食へ。昼食は軍港鎮守府で食べてきているため、本当に久しぶりのうみどりでの食事。
ずっとそうしてきた光景であるはずなのに、物凄く久しぶりであることもあって、見慣れた風景も新鮮な気持ちになれる。そして、味はこの1週間でさらに良くなっているというおまけつき。
「なんだかんだ、これが一番落ち着くんだよなぁ」
「なのです。電達には、セレスさんのご飯が一番合ってるのです」
「ソレハヨカッタワ。私モコノ一週間デ沢山学ンダカラ、ソレヲ披露シテイクワネ」
美味しいと言われれば、セレスも喜ぶ。感想を事細かく言えば、それを踏まえて更に学ぶ。相変わらずの探究者っぷりに、深雪達は苦笑した。そのうち本当に誰もが美味しいと言う料理が作れるのではないかとすら感じる程に。
この休暇で、全員が成長したと言っても過言ではない。セレスは若干方向性が違うものの、次の戦いに向けて身体面で強くなった者もいれば、精神面で強くなった者もいる。最後の訓練期間は、特に身になっていると言える。
次の戦いは全員出張るレベルの総力戦。戦いの規模が違う。島という広大な戦場に襲撃を仕掛けるのであれば、援軍込みであっても下手をしたら人数が足りない。そんな場所で戦うのならば、全員の成長は必要不可欠だ、
残された時間、少しでも成長をするために、今日の半日は誰一人として休むという選択をしていなかった。
トレーニングルームに全員が集まることは出来ないため、一部の者はレクリエーションルームでのトレーニング。その筆頭となったのが、艦隊のアイドル那珂。
アイドル活動による持久力強化は、そのダンスを変えることで、いくらでも成長に繋がる。
「……お前達はいつもアレをやってるのか?」
そのアイドル活動の
事情を聞くと、ああと納得出来た。深雪も初めてやった時は倒れたくらい。まだここに歩いて来れているだけでも、充分練度はあると言える。
「いつもじゃあねぇな。というか、そう何度もやらねぇ」
「泣き言は言わんが、ここまでハードな訓練もなかなか無いぞ。おかげで鍛えられていることを実感は出来るが」
磯風と同じようにフラフラしている者は他にもいた。清霜やZ1などがその代表。そして食事の量もそれに比例して多くなっている。
同じトレーニングをしてもピンピンしているのは舞風くらいだろう。あちらはバックダンサーとして常日頃から活動をしているようなモノのため、地獄のダンスレッスンを受けたところで笑顔を絶やさない。とはいえ疲労は勿論あるのだから、いつもよりは少しゆっくり歩いている。
むしろこれだけのことをやっていてもアイドルだからと疲労すら感じさせない那珂の方がおかしいと、消耗している者達は口を揃えて言う始末。
その那珂も大盛りご飯を携えて着席。深雪の顔を見るなり、パーッと明るい表情を向ける。
「あ、深雪ちゃん、深雪ちゃんも那珂ちゃんレッスン受ける? 大人の姿だと魅せられる振り付けが変わるし、一度やっておかない?」
「ああ、明日時間が空いてたらお願いしようかな。もしかしたらハルカちゃんが復帰してくるかもしれないし」
安請け合いなのではと磯風は目を見開くものの、深雪としては那珂のアイドル活動も最後の詰めとしてはかなり
アイドルステップは海上でも大きく効果を発揮したが、陸での戦いでも確実に通用するテクニック。回避行動に活かすため、新しいステップがあるのなら覚えておきたいとも思える。
だが、深雪としては優先順位として高いところにあるのが、伊豆提督との特訓。そんなこといつでもやれるわけではないので、伊豆提督がフリーになったのならば、是非ともそちらを受けたい。那珂のレッスンも魅力的ではあるが、それ以上のモノがそこにある。
「そっかそっか。明日もレクリエーションルームでやるつもりだから、余裕があったら来てね♪」
「そうさせてもらうよ。つーか、それやらないといけないの時雨じゃねぇか?」
突然振られてギョッとした顔をする時雨。身体の硬さを補うために、アイドルステップを身に刻むことで、回避性能を高めることを深雪は提案。無理矢理のストレッチで柔軟性をどうにか上げようとするのも大切かもしれないが、硬いなら硬いでそれでも大丈夫な手段を選択することも大切。
那珂のダンス指導は、当人の身体のことを考えて与えられる。硬いなら相応の振り付けを提供してくれるだろう。ハードさは据え置き。
「……僕としてはどっちもどっちだけど」
「なら、時雨ちゃんは明日はレッスンを受けてもらいまーす。改三になってシュッとしてるし、大きな振り付けが映えると思うんだよね。うん、なんかインスピレーションも湧いてくる!」
那珂がヒートアップ。そして、時雨はいきなり退路を断たれたことを察した。
とはいえ、那珂のそれは本当に鍛えられることがわかっている。深雪はそれでステップを学んでいるわけだし、体力をつけることにも影響する。気力があるならば、やらない理由はないくらいのモノ。
「……わかったよ。無理矢理関節を伸ばされるよりは、まだそちらの方が有意義に成長出来そうだ」
「一流のダンサーになれるように、頑張ろうね♪」
「僕はダンサーになりたいわけじゃないけど!?」
この話のオチがついたところで、ようやく提督としての作業を終わらせた伊豆提督もイリスと共に食堂に入ってきた。少し疲れているようだが、何とかなったと表情は明るい。
「いやぁ、時間がかかっちゃったわぁ。他の後始末屋にも連絡を入れたし、アリスちゃんや有道ちゃんにももう一度連絡も入れたし、これで準備は出来てるわね」
「ええ、物資にも大分余裕があるから、長期戦も視野に入れられるわ。終わったらまた軍港に蜻蛉返りかもしれないけれど」
「それでもいいじゃない。アタシは正直そのつもりだったし」
島襲撃の事前準備は今日の段階で一旦終わらせることは出来たらしい。明日一日で戦況が大きく変わるようなことがあったら大惨事だが、都度連絡は取るようにしているため、大事が起きたとしてもすぐに対処は出来るように身構えている。
一番厄介なのは通信傍受であり、こうしていることが敵に筒抜けだった場合。ここまで来たらあちらも防衛に力を溜めていそうではあるものの、何をしでかすかわからないのが阿手である。ただでさえ近海に忌雷をばら撒くような連中だ。それだけで終わらなかった時はどうなるかわかったものではない。
有栖提督はいち早く有道提督にも連絡を取っていたらしく、既に援軍を派遣している上に、忌雷などの対策をより入念にするための策もつたえているとのこと。そのおかげで、有道提督の鎮守府は、島に最も近い鎮守府だとしても被害0。
特に躍起になっているのは、一度その餌食になった浜風だという。優先的に海上警備に出ては、忌雷を発見しようものなら、これでもかと蹂躙するらしい。
「さて、アタシも明日はフリーにすることが出来たわ。深雪ちゃん、約束通り、明日は特訓をしましょっか」
「え、いいのか? ハルカちゃん、まだ本調子じゃあないんじゃ」
「リハビリも兼ねてるの。それに、前の特訓だってアタシは車椅子だったじゃない。大丈夫、ちゃんとやれるわ」
ここで、以前に約束していた直々のトレーニングのことを出してくれた。深雪は驚きつつも大喜び。これでまた強くなれる、次の戦いでうまく戦えると。
実際、伊豆提督の脚はほぼ治っている。車椅子生活や、杖を使わないと歩けないような状態だったため、それを元に戻すためにも運動がしたいというのが本音。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
「ええ、こちらからもよろしくお願いね。本調子に戻すために、身体を動かさなくちゃ」
ニッコリ笑う伊豆提督に、深雪も笑顔で応えた。
「島での戦いの詳細は、経由地点の鎮守府に到着してから伝えるわ。今は戦いに向けて準備をしていてちょうだい。アナタ達なら勝てるわ、アタシが保証する。でも、それをより盤石なモノにするために、少しだけ頑張ってちょうだい。アタシも手伝えることは手伝うからね」
無理はさせない、しかし勝つための努力を少しだけお願いする。これまでの伊豆提督のやり方が、艦娘達の自主性に一役買っている。誰も怠けようとしない。やれることは自分からやる。それがうみどりの団結にも繋がっている。
伊豆提督がこれだからこそ、うみどりはここまでやってこれたし、屈指の部隊として戦場を駆け回ることが出来ていた。
「それじゃあ、アタシもご飯をいただこうかしらね。セレスちゃんには任せっぱなしになっちゃってごめんなさいね」
「構ワナイワ。ムシロ、任セテモラエテアリガタイモノ。常ニ研究ガ出来ル環境マデモラエテ、感謝シカナイワ」
「そう言ってもらえると助かるわぁ。もうアタシよりも腕が立つしね。本当に美味しいんだもの」
疲れた身体に最高の食事。伊豆提督もしっかり回復していく。これがあるから明日も戦えると笑顔を絶やさない。
「今のところ航行も順調。明日も有意義に使って、万全な状態で奴らに目にモノ見せてやりましょ」
苦しい戦いばかりだったが、全員の士気は非常に高い。これまでの恨み辛みをやる気に変えて、誰一人として後ろを向くことはなかった。
士気が高いのはうみどりだけではない。この戦いに参加表明している全員が、やる気満々である。
おおわしでも、こだかでも、それこそ有道鎮守府でも、この戦いは絶対に勝つぞと気合が入りまくっている。空回りしないようにも努め、前のめりになりすぎないように。冷静さも失ってはいけない。
やる時はとことんやる。そのためにも、全ての力をそこに注ぎ込むくらいの気持ちで進むことを誓った。
だが、忘れてはならない。この戦いは
出洲は既に阿手を見限っており、あちら側だとしても救うようなことはないだろう。だとしても、敵は敵なのだ。阿手を潰す戦いではあるが、漁夫の利を狙われたら堪ったモノではない。
充分に警戒をして、事に臨む。それが、次の戦いに必要なことである。
深雪など一部の者はハルカちゃん直々のレッスン、時雨などの多くの者は那珂ちゃんのアイカツ、そして少数は仮想空間による技量の底上げ。これが翌日のパターンになります。