後始末屋の特異点   作:緋寺

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有意義な時間

 充分休んだ後に、午後から特訓を再開。深雪達は相変わらず一本歯の下駄を履いた状態でのトレーニングを続ける。午前中と比べれば、バランス感覚も伸びてきているおかげか、あまりワタワタするようなことも無くなってきていた。慣れというのは、それだけでも随分と動きを良くする。

 

「歩くだけなら、もう結構余裕あるよな」

「なのです。安定のさせ方がわかってきたというか」

 

 ランニングマシンでのウォーキングでは、もう支障が無いと言ってもいいくらいにバランスが取れていた。当然のように真っ直ぐ歩けるし、フラつくこともない。

 ただし、ここから走れと言われるとどうしても難しい。少しずつマシンのスピードを上げていき、走ることも出来るようになろうとするが、やはり小走り程度の速さになると、途端に難しくなっていき、またスピードを落としていく。

 

「走るのはやっぱ怖ぇな……」

「太腿も張ってくるような感覚なのです」

「その辺りの筋肉使ってるってことだよな。じゃあ効いてるってことだ」

 

 いつもは使わないような筋肉が、疲労によって熱を持ち始めているのを感じる。痛いと思ったならば、一度トレーニングをやめてマッサージに。そうでないなら、出来るところまでやっていく。

 

「く、くぉお……っ、これでスクワットはヤッバイ!」

「グレ様、頑張ってくださいませ。参考にさせていただきます故」

「見てないでシラクモもやろうねーっ!」

「やっておりますとも。ゆるりゆるりと」

 

 普段なら軽々とやれる動作も、ここまで不安定だと一挙手一投足が全て筋トレに近いモノになってしまうようで、グレカーレもこれにはヒイヒイ言いながら続けていた。白雲は微笑みながら応援しているが、その白雲も足元をプルプルさせながらゆっくりとしゃがもうとしているようである。ゆっくりとした動きはより負荷がかかって大変なことになる。

 

「……テメェ、マジか」

「マジっぽい。もうこれくらいなら出来るっぽい」

 

 スキャンプが呆れているのは、今の夕立。なんと下駄を履きながら縄跳びまでやってのけていた。バランス感覚が普通ではなく、片足立ちから、その場でのダッシュするような足踏み、果てにはバク宙までやれるほど。

 スキャンプも慣れてきた方ではあるのだが、夕立ほど滅茶苦茶なことは出来ない。軽く跳ぶくらいは出来るが、縄跳びのような一定のリズムを維持することはまだ難しい。

 

「夕立ちゃんは本当にこの手のセンスがあるわねぇ。元々足も速いみたいだし」

「ぽい! 神風やフーミィには追いつけなかったけど、結構速いって自分でも思うっぽい」

 

 事実、夕立の俊敏性は現在のうみどりの中でも5本の指に入るくらい。俊足を誇る伊203や、そもそもの力が異常の神風にはどうしても劣るが、身軽な子日と同等かそれ以上。

 

「うん、本当にいい感じに進んでるわ。みんな確実に強くなってる。必要最低限は出来ているみたいだし、この調子で行きましょ」

 

 伊豆提督もトレーニングが順調に進んでいることを喜ぶ。相変わらず短い時間での詰め込みになってしまっているが、それでもここまで成長が早いと、やった甲斐があったと安心もしていた。

 

「あ、そういやさ、今那珂ちゃんもいろいろやってくれてんだよな。そっち見に行ってみたいんだけどいいかな」

「そうね、那珂ちゃんのアイドルレッスンも、今はかなりハードなモノになってるみたいだし、一度見に行ってみましょうか」

 

 興味本位なところもあるが、昼食の際に時雨と話してから、レッスンの方も見たいと思っていた。深雪は事前に誘われているというのもあり、大人の姿でのレッスンがどれだけの負荷になるかも気になっている。

 

「トレーニングはそのまま続けたいから、それ、履いたまま移動しましょっか」

「歩くくらいならもう普通に出来るから大丈夫だと思うぜ。まぁ苦しかったら脱ぎゃいいし」

「ええ、この部屋で出来るのはランニングマシンくらいだし、出来ることも限界があるものね。少し歩いてみましょう」

 

 歩くくらいなら問題ないと、ここでトレーニングを受けていた一同は一度レクリエーションルームまで向かうことになった。勿論、下駄は履いたままである。

 閉じられた空間から外へ。それだけでもトレーニングの幅が広がるというものだった。

 

 

 

 

 脚への負荷を感じながらも、深雪達はレクリエーションルームの前へ。もうその時点から室内に流されている音楽が聞こえてくる程。だが、その曲の速さに、深雪はマジかと呟く。

 

「あたしがやってた時より全然速ぇ」

「これで踊るのです……?」

「那珂ちゃんはここに歌まで入れるぜ? スタミナとかどうなってんだよマジで」

 

 恐る恐る扉を開くと、その光景を目の当たりにすることになる。

 

「はーい! 横の動きがちょっと遅いよーっ! ステップは短めに、もう少し速く足を動かしてねーっ!」

 

 一流のアイドルによるレッスンは、凄まじいと言わざるを得なかった。やたらと速い曲の中、先頭に舞風を置いて10人近くが同時に踊ることになっていたのだが、その振り付けは激しいの一言。足捌きだけでなく、全身を大きく伸び伸びと使ったダイナミックな振り付けにより、とんでもない全身運動になっていた。

 先程までやっていたのであろう者達は、息を切らして汗だく。神威と丹陽のサポート隊も、タオルやドリンクでケアをしているくらい。

 

「マイカゼ、完璧に踊れてるね。流石っていうかなんていうか」

「那珂ちゃん様の専属の踊り子と聞いております。だとしても、なんとしなやかな動き。いえ、しなやかでなく、華やかと称した方が良いでしょうか」

「ホント、ナカちゃんについてけるダンサーは伊達じゃあないよ」

 

 汗はかいているが、まだまだやれると言わんばかりに他の者を先導するように踊る舞風に、グレカーレも白雲も感嘆の息。少し小柄な身体でも、それを大きく見せるような振り付けで、ダイナミックに踊り続けていた。

 あれだけ激しく動いていたら消耗も激しいだろうと思うモノの、当人は疲れをまだ見せていない。ダンサーを自称しているくらいなのだから、こと踊りに関しては別次元と言えよう。

 それすら超える那珂はさらにおかしいとも思えたが、それはこれまでの血の滲むような努力の成果である。

 

 この辺りで音楽が止まる。瞬間、踊らされていた者達が足から力が抜けたかのように膝をつき、ゼエゼエと息を切らした。汗もすごく、神威と丹陽がすぐさまタオルを渡す。

 

「あ、深雪ちゃん! 来てくれたんだねー♪」

「どんな感じか見てみたくてさ、ハルカちゃんも許可してくれたから見に来たよ」

 

 隣の伊豆提督が笑顔で小さく手を振ると、那珂は大喜びでサムズアップ。

 

「深雪ちゃん、早速だけどやってみない? 大人の姿で、さっきの曲だよ♪」

「うぇっ!? や、やってみるか……ハルカちゃん、いいかな」

「ええ、やってみればいいわ。ただ、下駄は脱ぎましょっか。流石に危ないから」

 

 レッスンのお誘いを受けた深雪は、伊豆提督からの後押しもあって、まずはやってみることに。言われた通り大人の姿に変わり、軽くストレッチをしながら那珂の前へ。

 振り付けは舞風が懇切丁寧に教える。見様見真似にはなってしまうが、ひとまず覚えていく。教え方もいいのか、聞いた通りに動くことは出来ているようだった。

 

 ここで下駄でのトレーニングが効いている。足の運びが以前よりもかなりいい。バランス感覚が育まれたことで、そもそもの動きも迅速かつ繊細に。

 

「あのさ、もしかしてあたしだけでやるのかコレ」

「スペシャルゲストだからね♪ 大丈夫、舞風ちゃんも一緒だから♪」

 

 晒し者にされないかと不安になっている深雪だが、周りからの視線は頑張れという好意的なモノが多い。少し違うベクトルの頑張れを投げかけている時雨がいたが、その視線は無視した。

 

「っし! とりあえず、やれそうな感じにはなった。初っ端だから間違えても文句無しな」

「だいじょーぶ! このレッスンのミソは、間違えずに踊ることじゃないから」

 

 舞風がニッコリ笑いながら伝えた。アイドル活動によるレッスンは、確かにトレーニングの一環。だが、今ここでやるのは間違えないように踊ることでは無い。勿論間違えないように意識することは大切だが、それ以上に重要なことがある。

 

「身体を動かすことを楽しんでね♪ 音楽に合わせて、振り付け通りに、でもその根っこには楽しく踊ることがあるんだ。そうすれば自然と身体はいい感じに動いてくれるからね」

「アドリブだって重要なアイドル要素! 臨機応変に動けるようにね♪」

 

 先程の那珂の檄も、振り付けが間違っているといった指摘はなかった。遅いというだけ。

 ある程度近しいことをするのなら、多少違っていてもアドリブということにして進める。勿論、ポップな音楽で阿波踊りをするようなアドリブ塗れなことをされたら、それは注意をするだろうが、ある程度なら全然許容。

 

 要は、()()()()()を出せばいい。

 

「それなら安心だ。やってやるぜ!」

「準備オッケーだね♪ それじゃあ、ミュージックスタート!」

 

 ここから始まるダンスミュージック。速さは以前に深雪がレッスンを受けた時と比べるとかなり速め。1.5倍速とまでは行かずとも、元々が速かったのに輪をかけてテンポが速い。

 

「笑顔も忘れないようにね♪ 必死な顔はちょっと違うからね♪」

 

 むしろ一番苦しいのはコレだったりする。疲れがあっても、それを顔に出すなという指示。

 実際コレも戦闘に役立つ手法。どれだけ消耗が激しくても、それを悟られないようにするのは、状況によっては非常に大切。

 

「よっ、ほっ、はっ」

「いいよいいよ、動けてるよ! ちょっと振り付けが間違ってるけど、カバー出来てるよーっ」

 

 踊ってわかるのは、やはり手脚の長さの違いは大きいということ。バランスの取り方が子供の身体とはまるで違う。大きく振れば、大きな反動があり、それに振り回されないようにするためには、根っこの力が必要になる。

 幸いにも今の深雪にはそれ相応の力がついてきてはいる。しかし、踊りは踊りで普段使わないような筋肉を使うため、これまでとはまた違った疲労を感じる。

 

「回るの、キッツ……っ」

 

 ターンに至っては、身体の大きさに大きく影響を受けたことで、その場でふらつきそうになるほど。だが、ここまでの体幹トレーニングのおかげで、そこで足がもつれるようなこともなく、何とか踊りの体裁から外れるようなことはなかった。

 

 速く、そして長めの曲を踊り切った時には、深雪は疲労困憊といった様相。しかし、倒れることなく、かつ振り付けのコンセプトを崩すことなく踊り切ったことに、那珂が拍手を送った。

 

「すごいすごい! 一発でここまでやれるなんて、深雪ちゃんダンサーの素質あるよ!」

「そ、そうか、そりゃあよかった……キッツ……」

 

 これはかなりの運動になると自覚した。伊豆提督のトレーニングが無い時は、これに参加するのも悪くないと。

 

 

 

 

 こうして仲間達は少しでも強くなれるようにと時間を使っていくことになる。自主的に選択した、有意義な時間。これもまた、チームワークに繋がる。




DDRで例えると、MAX300だと思っていたらMAX360だったくらいのスピードの上昇。1.2倍速。
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