後始末屋の特異点   作:緋寺

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深夜の漁

 その日のトレーニングを終え、夕食時。厳しい鍛錬だったことで、食事量は格段に増加。いつもはそこまで多く食べない電や白雲も、今回ばかりは大盛りご飯である。消耗した分はしっかり食べることで、よりよい成長に繋げる。

 

「いよいよ明日だもんな、予定では」

「なのです。明日には有道さんという方の鎮守府に到着して援軍と合流、そこから作戦を立てて、出発なのです」

 

 翌日には有道鎮守府へと到着。うみどり、おおわし、こだかの3艦はそこで一度停泊し、有道鎮守府との交流。そこから援軍として今回の戦いに参加してくれる者達をどれかの艦に乗せ、そして阿手の島へと向かう。

 鎮守府から誰を出すかはまだ考えているところかもしれない。うみどりのように移動出来る鎮守府なら、選抜など殆ど必要なく()()()()()向かうことが出来るため、考えることは割と少なかったりする。

 

「長くても、あと明日1日ってところだよな。明日はあっちの仲間と顔合わせして、そこから軽く話して、上手いこと連携取れそうならそれも作戦に入れて、で本番だ」

「……急に緊張してきたのです」

「わかる。あたしもなんか違う感じだ」

 

 裏切り者鎮守府の掃討戦もそうだったが、後始末に向かうのではなく、調査をしに行くというわけでも無い。戦いに行くというのは、やはり緊張を伴うモノ。後始末屋はそもそもがそういう組織では無いこともあり、より強い緊張感がそこにある。

 

「一筋縄ではいかぬ強敵……狡猾であることもこれまでで知りたくないほど知ってしまっております」

「だねぇ。島なんてアイツのホームなわけだし、罠だらけにされてるのも今からわかるよ」

 

 白雲もグレカーレも、緊張というよりは嫌悪感を見せていた。そもそも敵が出なければこんな思いをしなくていいのにと、嫌悪感と共に怒りも湧いてくる。

 

「ま、でも落ち着いていかないとねぇ。苛立ってたら、あっちの思うツボかもだし」

「なのです。揺さぶりをかけるのもあちらの作戦かもなのです」

「言えてるな。あたしらは冷静に行こうぜ」

 

 存在そのものが腹立たしいモノではあるのだが、だからといって熱くなっていてはいけないだろう。グレカーレの言う通り、冷静さを欠いていてはあちらの思うツボ。十全の力を発揮するためには、どのようなことがあっても熱くならず心を落ち着かせ、普段通りの力が出せるように心掛けたい。

 

「……なんかやっぱり、その点は出洲の方がまだマシだな」

「なのです……真正面から襲ってくる方がよっぽど……」

 

 深雪達の中でも、評価は出洲より阿手の方がダメとなっていた。やはり、仲間達どころか一般市民すら巻き込む戦い方をしてくる阿手は、人格を疑う程の存在である。出洲も狂っているが、正面からぶつかってくるだけマシだと。

 

「とりあえず、阿手はぶちのめす。出洲はその後だ。どうせ最後は戦うことになるんだからな、まずはあのクソだ」

「左様でございます。お姉様ならば、あのような高次を名乗る低次の者など、容赦なく屑籠に捨ててしまえるでしょう。この白雲も、お側で戦わせていただきます故」

 

 思いは1つ、阿手を島で終わらせる。うみどりの中で、それはもう満場一致の気持ちだった。

 

 

 

 

 そろそろ今日という日が終わり、明日が今日になろうとするくらいの深夜、順調に進むうみどり一行は、有道鎮守府の領海へと入った。予定よりも少し早い進行は、別に焦りとかそういうモノではない。最短距離を、出せる最大のスピードで進んでいるだけ。遮るモノも無かったため、文字通り真っ直ぐここまでやってくることが出来た。

 

「電磁波装備は持たせてもらってる。夜の監視は任せて」

 

 そのうみどりのデッキには、夜戦忍者川内が立っていた。軍港鎮守府からの援軍ではあるのだが、本人たっての希望により、夜の間は外の監視をやっている。

 今は海に忌雷をばら撒かれているような緊急事態。順調に航行出来ていたとしても、知らない間に乗り込まれているなんてことがあったら堪ったものではない。ましてや、忌雷でなく普通に敵が現れても困る。

 

 だが、そこは軍港鎮守府出身。冬月が開発したシステムを全て持ってきており、電磁波照射装置は勿論のこと、『迷彩』すら看破する妖精さんの目のシステムもしっかり積んできた。今ならば、わかっている限りの敵のやり方ならば全てが視える。

 イリスの目とは違うため、彩までは確認出来ずとも、不意の侵入者は即座に排除出来るように心掛けていた。

 

「ンー、今ノトコロ、匂イハ無イカナ」

 

 そして追加で夜の監視を行なっているのはムーサ。昨晩はそういうことはしていないが、有道鎮守府の領海に入るということで、より入念なチェックをするために参加。

 ムーサがここにいるということは、高波と副官ル級も参加している。高波は専ら、ムーサに夜食を与えるための役目ではあるのだが、実際夜戦の戦闘力は駆逐艦であるため、それなりに高い。そのため、川内と同様に、電磁波照射装置を装備して緊急事態に備えている。

 

「ここが一番、島に近い領海って話だからね。忌雷が流れ込んできてもおかしくない。あっちの鎮守府は独自に対策は出来てるみたいだけど、それでも漏れがないとは限らないから」

「はい、高波も、注意しておくかも、ですっ」

「お願いね。私の目も万能じゃないから。後ろは見られないから、背中は任せたよ」

 

 ふんすと意気込む高波に、ニカッと笑う川内。その高波の隣には、この子の護衛は任せてくれと言わんばかりのル級。

 

「忌雷ニハ海ノ塩味ガ合ウンダヨネ。高波、電磁波デ動キヲ止メテクレレバ、私ガ食ベルカラネ」

「はい、大丈夫かもです。ムーサさんが食べてくれちゃった方が、ゴミも残らなくていいかも」

「ソウソウ、マダマダ食ベラレルカラ、処理ハ任セテー」

 

 ムーサだけは少々お気楽な感じではあるが、実際忌雷の感知能力はムーサが最も長けている。

 おそらく、『迷彩』によって目に映らず音も聞こえないとなっても、その匂いだけは確実な感知するだろう。視覚と聴覚だけ対策したところで、嗅覚で見つけられるだなんて普通は思わない。

 そんなムーサが食べてしまえば、後始末すら不要。残骸が全く残らない処理方法になるため、忌雷相手であることだけを考えるならば、ムーサによる対処はベストと言える。

 

「まぁ、何も無いに越したことは無いけどね。その時は、高波がおやつを上げておいて」

「もう食べてるかもです……」

 

 川内がどうこう言う前から、高波の艤装を漁って忌雷を増産してもらい、それを頬張っているムーサ。定期的に食べないといけないというわけではなく、単に欲望に忠実に生きているだけ。

 そんなムーサの姿に川内は苦笑。副官ル級はこれ見よがしに溜息を吐いた。

 

「お、向こうの艦でも同じことをしてるね。ちょっと合図送っておこうか」

 

 夜の闇の中、川内は他の艦でも同じように忌雷対策をしようと監視に出ている艦娘のいることを知る。おおわしもこだかも、同じ装備を持っているのだから、それくらいは可能。

 さらに、うみどりでも同じことをするとわかっているからか、探照灯を使って合図も送ってきた。直接通信をしてもいいとは思うのだが、別の艦同士の通信は伊豆提督を経由しないと難しいため、簡単な光信号で済ませるつもりのようである。

 通信妨害を受けたことで、この手段も充分有用だと判断されている。川内もそれくらいならやれるため、探照灯による信号を送った。

 

「ん、あちらも順調みたいだね。何か見つけたわけでもなく、慎重に見てるだけだ」

「なら安心かも、です。ムーサさんが匂いを感じないって言うなら、この辺には忌雷が無いってことでよさそうかもです」

「だね。今から向かう鎮守府の子達が、徹底的に殲滅してるんでしょ」

 

 実際は川内の言う通り、有道鎮守府が徹底的に排除しているおかげ。やはりここ数日の間は忌雷が流れてくることもあったようで、それを見つけては電磁波で動きを止め、カケラも残らないように破壊している。

 忌雷殲滅隊なるモノを組み、痛い目を見せられた浜風が自主的に隊長を買って出て、徹底的に潰し回っている。

 そのおかげで、この辺りの忌雷は今のところ全滅していた。勿論、有道鎮守府に寄生された者など現れていない。二度とあんな目に遭うモノかと、浜風が躍起になって始末して回っていることが、功を奏している。

 

「でも、定期的に潰さないといけないってことは、また流れてくる可能性はあるってことだね。今だってわからないんだから」

「はい、そのためのムーサさんです」

「任セテー。美味シクイタダイチャイマース」

「うーん、軽い」

 

 これだけ万全にしていれば、見逃すことはない。だが、緊張感は無くすことなく、全力で事に当たる。

 もう戦いは始まっているのだ。

 

 

 

 

 そして、実際にそれは起きる。

 

「匂イ、感ジタヨ」

 

 時間は丑三つ時を回って少ししたくらい。より有道鎮守府に近付いたところで、ムーサが忌雷の匂いを感じ取る。

 本当にばら撒かれているのだと嫌な実感を味わいつつも、川内は即座に光信号で他の艦にも警戒を促した。

 

「イツモト同ジ匂イダ。芸ガ無イネ〜。デモ、味ハ安定シテルカライイヤ」

 

 特殊な忌雷でも無さそうで、本当に適当に流しているだけという感覚。牽制なのか、あわよくばなのかはわからない。だが、それでもそこにあるという現実。

 

「小さいから判断しにくいけど、ありがたいことにこっちが一番近いみたい。さっさと処理しちゃおう」

「ハーイ。匂イ、近クナッテキテルヨ」

「オッケー、探知機でも捉えられるくらいになってきた。ただ浮いてるだけみたいだけど、うん、何もしないうちにやっちゃおう」

 

 光信号で合図を出しつつ、うみどりで処理すると連絡し、そして発見したところで一気に行く。

 川内が電磁波を照射した瞬間、その反応は確実に動きを止めた。その瞬間、ムーサがうみどりのデッキから飛び降りる。

 

「ちょっ」

「ムーサさんなら大丈夫かもです。あのヒトもなんだかんだ姫級なので、凄い身体能力なんですよ」

 

 うみどりはスピードを落としていない。それなのに、デッキから飛び降りたかと思うと、海面に華麗に着水。そして、動きを止めた忌雷をキャッチして、そのままの勢いでもう一度ジャンプ。それだけでは少し足りないので、こういうことをするだろうと踏んでいた副官ル級が、ムーサに向けて盾の裏に備えていた鎖を投げた。それを掴んだムーサを、ル級は軽々と持ち上げてデッキまで戻す。

 ムーサは姫かもしれないが軽巡洋艦。対するル級は戦艦。膂力はル級の方があったりするので、これで全てが上手く行く。叛逆を企てないのは、なんだかんだで序列以上に長い付き合いになっているから。

 

「ハイ、ゲット〜。獲レタテノ忌雷、イタダキマース」

 

 デッキに戻ってきたムーサは、ニッコニコでその忌雷を頬張った。その光景は、川内としてもあまり気分のいいものではなかった。

 

 

 

 

 こうして夜も過ぎていく。うみどり一行に被害無し。有道鎮守府には無事到着することになる。

 




対忌雷に関してムーサの右に出る者はいない
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