後始末屋の特異点   作:緋寺

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集う仲間達

 翌朝、既にうみどりから鎮守府が一望出来るような場所に停泊しており、おおわしとこだかもそこに続いている。思った以上に早い到着に、艦娘達はついにこの時が来たぞと軽く緊張感に包まれていた。

 ここからは移動鎮守府3艦と、有道鎮守府に集結しつつある援軍の艦娘と共に、阿手の本拠地である島へと向かうことになる。

 

 だがその前にやっておかなければならないことがいくつか。まずはイリスが鎮守府まで出向き、有道鎮守府に忌雷の魔の手が伸びていないことを確認しておかねばならない。

 ここに向かうまでに忌雷を見つけていることもあり、以前に話をした後からも、島から忌雷が流れ着いていたことは間違いない。殲滅部隊が作られ、徹底的に排除しているとはいえ、念には念を入れねばならないところである。何せ、寄生されているかどうかは、イリスにしかわからないこと。

 

「連れてくのはあたし達でいいのか?」

「ええ、顔を合わせるから、あの時に知られていることも重要でしょ」

 

 伊豆提督とイリスを有道鎮守府まで運ばねばならないため、工廠から大発動艇を持ち出すことになる。それを操縦するのは、特異点として全鎮守府に知られることになった深雪。1人だけで行くのもよろしくないので、電を筆頭としたいつものメンバーが付き添い。深雪も込みで4人もいれば、ひとまずは安全であろう。もし忌雷がまだいたとしても、この4人ならすぐさま対処が出来る。

 

 また、念のため、フレッチャーにイリスの力をコピーしておいてもらっている。伊豆提督達がうみどりを離れた後に、艦を直接狙われたら堪ったモノではない。()()()()が増えることは重要。

 

「アタシ達もだけど、おおわしとこだかからも顔合わせに来るみたいね」

 

 うみどりから外に出ると、同じように外に出てくる者が見えた。おおわしからは相変わらず水上バイクを乗り回す昼目提督と、その横を付き従う鳥海。こだかからはボス代理であるタシュケントが自ら艤装を背負って。

 タシュケントはいち早く合流。こだかの代表として挨拶くらいはと意気込んでいた。

 

「ボスは来ていないのかい?」

「丹陽ちゃんはお留守番よ。本当は来た方がいいのかもしれないけれど、ちょっと今は落ち着いてもらわなくちゃいけないから、()()()の元でゆっくりしてもらってるの」

「そ、そうなんだ。ボスも大変だねぇ」

 

 タシュケントは少し首を傾げたものの、丹陽が阿手との戦いが迫るほどに不安定になっているのは察することが出来た。そのため、今はうみどりで大人しくしているというなら、その采配に文句はない。

 

 そのまま昼目提督も合流し、人間も含めた輸送部隊のようなカタチで、有道鎮守府へと向かうことに。

 その間も常にイリスが周囲を見続け、何も来ていないことを確認していく。

 

「大丈夫ね、生きてる忌雷は何処にもないし、寄生されてる誰かも見当たらないわ」

「それはよかったわ。本当に対策が行き届いているみたいね」

 

 イリスの目には、鎮守府に似つかわしくない彩は何処にも見えていないようである。とはいえ油断は出来ない。イリスの視界に入っていないというだけで、誰かが寄生されている可能性はまだ消えていない。

 双眼鏡まで持ち出して隅々まで確認し、あとは鎮守府に入ってから全艦娘に対して確認を入れるだけ。出来れば『増産』で増やした特機を使って鎮守府内を隈なく探し、ほんの少しの後腐れも無い状態を作ってから決戦に向かいたいところ。それをするならまず一度話を通してからになるが。

 

 ただ、うみどり一行が近海に停泊しているのが鎮守府から見えるということもあり、興味を持った艦娘達が既にこちらを眺めていたりするため、そこから彩の確認はしやすかった。

 それを以て、イリスは今のところは大丈夫と判断している。それで全員ではないため、油断は禁物だが。

 

 

 

 

「いらっしゃいませーっ」

 

 全員が工廠から鎮守府に入ると、深々とお辞儀をしている若い女性、有道提督と鳳翔に出迎えられた。今回の作戦のために拠点としての場所を提供し、忌雷にやられた経験を持つ部下のためにもやる気満々のこの提督も、イリスがしっかりカテゴリーGであることを確認。勿論、鳳翔にも何もないことを視ている。

 伊豆提督は内心ホッとしていた。ここで鳳翔が寄生されているだなんてことがあったら、どんな感情を持つかわかったものではない。

 

「押し掛けるようでごめんなさいね有道ちゃん」

「いえいえいえ、むしろありがとうございますですよ。うちは一番近いっていう話ですし、いつ何が起きてもおかしくないんで戦々恐々です」

 

 飛び抜けて明るい雰囲気を出しているものの、やはり一度被害に遭い、うみどりが来ていなければ最悪命すら危うかったというのを聞いていると、また同じことが起きてしまったらどうしようと不安でいっぱい。空元気というわけではないが、声を出していないと沈んでしまいそうで怖いとも有道提督は語る。

 

「事前にいろいろ聞いていたので、忌雷対策は万全ではありますけど、それで慢心は出来ませんし。とはいえ、見ていただければわかる通り、忌雷に対してやる気満々な子もココにはいますので」

 

 言われる前からずっと気になっていた者。深雪達もどうしてもそちらに目が行ってしまうくらいの殺意。忌雷を()る気満々なのが、特別な目が無くてもわかるほど。

 

「こちらに来られる際に、忌雷を見つけていますでしょうか。毎日我々が海域を徹底的に見て回っていますが、討ち漏らしがあるかもしれません。そんなことでうみどり並びに移動鎮守府の方々を危険に晒すわけにはいきませんから」

 

 その艦娘、浜風は、艤装も身につけ、全身忌雷対策をフル装備。忌雷探知機と電磁波照射装置を常に携え、いつでも海に出られるぞと言わんばかりに準備万端。もし忌雷がその目に入ったら、躊躇いなく破壊する。それでは足りず、砲撃まで放って木っ端微塵にするだろう。鎮守府内でもそうしてしまいそうな雰囲気。

 

「夜に何匹か見かけたみたいだぜぇ。全部処理はしたけどな」

 

 伊豆提督に代わり、朝のうちに連絡を受けていた昼目提督が浜風にそう伝えた。深夜にムーサが食べた1匹以外にも、追加で2〜3匹の忌雷を発見し、都度破壊している。

 それを聞いた浜風は、聞こえるレベルの舌打ちをし、悔しそうに表情を濁らせる。

 

「昨日のうちに全滅させたというのに、まだ現れていましたか。すみません、お手を煩わせてしまったようで」

「つーことは、毎日毎日流れ込んできてるってことか?」

「ええ、困ったことに、1日十数匹は現れます。島から垂れ流しているんでしょうか」

 

 浜風の言葉に、有道提督も頷く。ここ最近は毎日、忌雷が近海に現れるようで、これを島に近付くなという牽制に使っているのか、それとも有道鎮守府を配下に入れるために使っているのかは謎。伊豆提督的には、後者だった場合はもっと多くの忌雷を流し込んでくると思うため、前者の方があり得そうだと考えたようだが。

 

「その全てを、この手で駆逐しています。カケラも残しません。生産者も粉微塵にしてやる気概です」

「島を攻略したとしても、忌雷はまだ現れるかもしれないから、少しの間はその対策を続けてくれるとありがたいわぁ」

「無論です。本当にいなくなったと言えるその時まで、私は忌雷の全てを否定し続けます。この世界に奴らの居場所などありません」

「はいはい落ち着こうね浜風。君の気持ちはよーく理解してるからね」

 

 少々興奮気味な浜風を有道提督が宥め、話を先に進める。

 

「ここで最後の作戦会議でしたよね。部屋は用意しているので、そちらでやりましょう。瀬石元帥や、有栖提督からも連絡を貰ってます。その話には参加されるということで、通信の準備も整っていますよ」

「ええ、ありがとう。これが襲撃前の最後の時間だから、しっかり話し合いましょうね。やらないといけないことは沢山ありそうだし、援軍のことについてもちゃんと知っておかないといけないものね」

 

 少しだけ視線を外し、奥に控えていた艦娘に目を向ける。

 

「久しぶりだ、伊豆提督。息災で何より」

「アナタ達も来てくれたのね。元帥はいい子を寄越してくれるわ」

「陸での戦いなのだろう。ならば、俺達が来ない理由は無いからな」

 

 まずそこにいたのは、何度か顔を合わせている熊野丸と山汐丸。無論、瀬石元帥から与えられた援軍であり、陸上戦での強さは軍港都市での地下施設襲撃の時によく理解している。頼もしい援軍だと伊豆提督は喜ぶ。

 

 今回の戦いは総力戦だが、自分の鎮守府から多く出すなんてことは出来ない。守りを疎かにしてまで攻めるのは、むしろ隙を作るようなモノ。

 そのため、援軍も少数精鋭にならざるを得ない。元帥からはこの2人となるのも仕方ないこと。

 

「アナタ達は、アリスちゃんのところから来てくれたのかしら」

「ふふ、彼の方がそんな呼ばれ方をされていると、少し面白いですね。はい、仰る通り、我々がこの戦いに派遣されました。Queen Elizabeth class Battleship Warspiteと」

「Queen Elizabeth級戦艦、Valiantだ。よろしく頼む」

 

 有栖提督の鎮守府からは、勇ましくも美しい2人の戦艦。ウォースパイトとヴァリアント、クイーンエリザベス級戦艦姉妹である。陸での戦いというよりは、陸までの道を開くための露払いを買って出てくれるタイプ。

 襲撃、延いては阿手の始末のために必要なのは陸戦だけではない。本番はそちらかもしれないが、そこに行くまでは必ず海があるし、そこで邪魔をしてこないわけがない。それこそ、航路に凶悪な姫を配置している可能性も充分にある。

 それを退かすための戦力を有栖提督は派遣してくれていた。戦いを確実に勝利に導くためには、そういう戦力も絶対的に必要。有栖提督はそういうところに手を回す。

 

「貴女達がサクラを救ってくれたのですね。改めて御礼を」

「あ、そっか。有栖司令んトコのヒトなら、桜のこと知ってて当たり前か」

「当然、僕達はサクラのことをずっと心配していたからね。救われたことを聞き、本当に喜んだモノさ。姉貴は涙すら流したほどだよ」

「Valiantもでしょう。むしろ、あの時は全員が泣いて喜んだ程ですとも」

 

 有栖提督の娘であり、うみどりを降りることを選択した桜も、今は鎮守府で元気に暮らしているとのこと。うみどりでの経験もあり、なんでも鎮守府の食堂を手伝ったりもしているのだとか。

 姿は潜水新棲姫になってしまっていても、未だ失語症は治っていなくても、健気に、元気に生活しているということで、伊豆提督達も一安心。

 

「あっと、ごめんなさいね。それじゃあ、行きましょうか」

 

 援軍達との話もそこそこに、ここからは阿手対策の作戦会議へと向かうことになる。援軍の艦娘達も、その鎮守府の代表として参加。出来ることをその場で話しながら、どのように進めていくかを決めていくことになる、

 

 

 

 

 阿手島襲撃に向けての、最後の作戦会議。ここで終わらせるため、一致団結して戦いに向かう。

 




有栖提督から派遣された戦艦姉妹、ウォースパイトとヴァリアント。理由は結構単純で、不思議な国の()()()の作者ルイス・キャロルがイギリス出身だから。
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