「という感じで、部隊の配分は決めたけれど、何か意見があったりするかしら」
島襲撃のための部隊の分配。それを工廠に集まった全員に伝えていく伊豆提督。もし艦娘側からも何か意見がある場合、それが有用なら取り入れていく。
この部隊は、うみどりの全員がそれなら納得だと言えるようなモノであった。何かと口を出しがちな時雨であっても、それなら全力を以てやってやろうと肯定している。文句無し、すぐにでも出撃出来るぞと言わんばかりの士気。
「奇襲部隊に入ることになって、まだ特機持ってない子は、これから配らせてもらうわ。寄生されることが嫌な子は先んじて言ってちょうだいね。持ち運んでくれるだけでも、護衛となってくれるから」
今回の部隊で、特に特機の力を借りることになるのは、砲雷撃戦をこなし続ける正面突破組ではない。奇襲部隊である。
近接戦闘が主体となりかねない陸戦では、敵と直接触れ合う可能性もあるし、海とは違って建物が乱立するような場所での戦いは、それこそ逆に奇襲を受ける可能性もある。その時に最も注意しなくてはならないのが忌雷だ。
それを確実にどうにか出来るのが特機。万が一寄生されてしまったとしても、それを即座に解除することが出来る。その時の感覚を忘れさせることは出来ないが、元に戻れるというだけでも話が変わるというもの。
「ふむ、では我々も借り受けよう。事が済んだら返せばいいのだな」
「戦いに勝って、うみどりに戻ってきてくれればいいわ」
「はっはは、なんてわかりやすい」
こうやって伊豆提督が話しながらも裏では準備が進んでいる。その中でチラリとここの妖精さんが何かを持ってきているのが見えたのだろう、熊野丸が先んじて特機の受け取りを始めた。
動いていた妖精さんは、熊野丸の予想通り、うみどり内で保管されている特機達。一時の『増産』の際に、うみどり防衛のために増えていたモノの一部が残っていたというのもある。
「寄生させる必要はないのでありますか?」
「ええ、ただ持っているだけで、アナタ達に危険が及んだ場合は何かとサポートしてくれるはず。あと装備の妖精さんとは仲良くなれるから、今のうちに関係性を持たせておいた方がいいわ」
「了解、であります」
山汐丸が質問。今回の特機は寄生させる必要はない。『増産』で増えた特機により与えられる能力は、基本は『増産』をさらに拡げることになるため、あくまでも忌雷からの寄生を防ぐための守護者。万が一寄生を受けそうになっても、特機ならそれをカウンターすることが出来る。
先に寄生させておけば忌雷からの寄生を免れることが可能かもしれないが、それはそれで抵抗がある者はいるだろう。共に戦うことにだけ抵抗が無ければいい。
「あたし達は言うに及ばずだけど、最初っから寄生させてく奴はいるか? 増えた奴じゃない特機もいくつかあるから、事前に貰っといてくれよな」
特機の管理は工廠だが、その持ち主は深雪。『増産』で増えた特機も、増えただけで持ち主は深雪扱い。そのため、こういう時に指示役になるのは深雪になる。
グレカーレと白雲は寄生済みだが、電はそういうことはしていない。そのため、自衛のためにも『増産』の特機を1体貰っている。サポート妖精さんとは既に意気投合しているかのように仲が良い様子。
「時雨、奇襲部隊でしょ。だったら貰っといた方がいいっぽい。その場でやるより、ここでやる方がいいよ」
「……まぁ確かにそうだね。せっかくだし、いただいておこうかな」
夕立の勧めで、時雨はこちら、『増産』ではなく新規の特機。トーチカから抜き取って燻した3体のうちの1つ。
近接戦闘を学んでいることもあり、時雨も奇襲部隊に加わることが命じられている。時雨自身も、正面突破の火力組よりは、小回りを利かせる奇襲部隊の方が自分の力を活かせると感じており、その指示には文句も何も無い。
ならば、特機は絶対的に必要になるわけだが、なら寄生させることで新たに強力な能力が得られる特機を貰っておいた方が、戦いのためになる。寄生させることに抵抗はあったが、ここまでの夕立達の活躍から考えると、あった方がいいかと時雨は考えた。
「深雪、僕にも1つ貰えるかい」
「おう、時雨が使うのか。まぁそれがいいだろうな。でも、寄生させたところで身体は柔らかくならないんじゃねぇか?」
「煩いよ。そもそもそれ狙いで貰うわけじゃないんだ。島での戦いは普通じゃ無いんだから、僕だってまともに戦えるようにはしておきたいからね」
敵がどう出てくるかはわからない。そのため、何でも出来るようにしておくのがベスト。特機の寄生は、それを実現してくれる最大級のアイテムでもある。
やっていることは阿手と同じようなことなのは正直否定出来ない。だが、合意の上か強制的かでは、天と地ほどの差がある。自分の思い通りにするために使っているわけではない。使いたくなければ使わなくても構わない。現に、寄生させない者は何人もいる。
それでも使うと決めた者は、自分の意思で選択し、その上で良しと見做された者が与えられている。その意思を塗りつぶすこともなく、ただ力になればいいという
「時雨っ、時雨っ、夕立達とお揃いにするっぽい!」
「ぽいぽいっ」
夕立と、何処から来たのか子日も加わり、時雨の特機寄生を待ち望んでいるかのような素振り。
この2人、同じタイミングで寄生を受け入れたこともあり、かつ同じ作戦で共に戦うことも多々あったため、今でも非常に仲がいい。そこに時雨も加えようと、ニッコニコで肩を組んできた。
「はぁ……わかった、わかったよ。少し裏でやってくるから」
「おう、まぁありゃ恥ずかしいって思っても無理はねぇわな。ハルカちゃんが工廠の裏とかを使わせてくれるぜ」
「助かるよ。僕も人並みには羞恥心を持ち合わせているからね」
そう言って、時雨は特機を持って工廠の裏へと向かっていった。勿論、夕立と子日は勝手についていって。
戻ってきた時雨は、せがまれたことによって夕立と子日と揃いの服装へと変わっていた。少々顔が赤かったのは、その影響をしっかり受けていることを物語っていた。
こうしてうみどりの準備が進んでいく中、どうしても波乱が起きてしまうもの。これは島に襲撃に向かう前にちゃんとしておかねばならないこと。
それは、準備中のうみどりの工廠に
「ちょっと、浜風さん!」
「鳳翔さん、これは直に聞かないとわからないことです。ついてこないでください」
忌雷アンチのフル装備状態で浜風が、鳳翔の制止も聞かずにうみどりまでやってきてしまった。その顔は憎しみに染まっており、工廠の中をキョロキョロと見回している。
「提督から聞きました。次の戦いはあの憎っくき忌雷を生産している元凶を始末しに向かうと。でも、こちらではその忌雷を転用した兵装を使っているそうですね」
騒めく工廠。よりによって、奇襲部隊の準備中で、参加者に特機を配っている最中の出来事である。
「うむ、こいつのことを言っているのか」
そんな浜風に、熊野丸が受け取った特機を見せつけた。既にサポート妖精さんと肩を組んで仲良くしているような関係。
忌雷の異常性は大本営でも大きな問題とされているが、それを転用した特機については敵ではなく味方であるという判定であり、当然ながら容認されているモノ。熊野丸と山汐丸が素直に受け取っているのもその証拠である。
だが、忌雷アンチの浜風には、そんなことは関係ない。見せられた瞬間、手に持っている電磁波照射装置を熊野丸に向けて構えた。どころか、容赦なくトリガーを引いた。
それを軽々回避する熊野丸。特機も無傷。
「おっと……物騒な奴だな」
「それは本を正せば忌雷なのでしょう。ならば、何が起きるかわからない兵器です。そのまま運用するなんて以ての外。ならばここで破壊しておかねば」
今回の作戦において、その事実は早めに伝えておかねばならないことであり、有道提督もその辺りを考慮して、全てを包み隠さず伝えたのだろう。浜風が特機NGであろうことまで配慮し、だが後のことを考えて結論を早々に出すために。
ここまで大きく大暴走をすることも、頭の端にはあった。止められないくらいに突き進んでしまうことも。当然ながら、有道提督だってそれを容認しているわけがない。浜風がうみどりに向かったと知った瞬間に、もう伊豆提督には連絡を入れている。
「浜風ちゃん、ちょっと落ち着きなさいな」
「伊豆提督、貴方がこの兵器をヨシとしている理由がわかりません。ここには忌雷によって苦しんだ者が何人もいるのでしょう。それなのに、何をどう思えば作戦の一部に組み込めるほどに出来るんですか」
そんな浜風の言葉に、周りではまぁそう思うのも無理はないよなと妙に納得している者もいた。ついさっき恥ずかしい思いをしかけた時雨も、これには苦笑である。
「アタシ達の使っている特機は、確かに元は忌雷よ。それに特異点の力で燻すことで、悪性を全て無くして、善性のみにしてる。その上で、身体にも悪影響がないことを把握して、かつ自分の意思で使うことを決定して、初めて使っているの。嫌だというのなら使わなくても大丈夫。ただし、特機は忌雷の寄生から身を守るための常套手段でもあるから、今回の戦いには必要不可欠なのよ」
「なんですか、なら敵を斃すためなら敵の力を使ってよいと? それでは敵と同じなのでは? 私はそれを容認出来ません。それを容認する者も、許すことが出来ません」
自分が寄生され、あわや鎮守府を滅ぼしかねない状況にされた浜風。未然に防がれたものの、その時の記憶は怒りと憎しみにのみ転化されてしまっている。
だが、浜風は1つ見えていない部分がある。
「アナタが寄生された時、それを引っこ抜いたのも特機よ。寄生された者を救うことが出来る優しい兵装、いや、仲間なのよ?」
そう、特機が無ければ、浜風は未だ寄生されたまま、敵の尖兵のままだったのだ。そこから考えれば、特機に対して感謝こそすれ憎悪の感情は出てこないことである。
しかし、アンチとは目を違う場所に向けられない生き物である。凝り固まった思考に、そんな言葉は通用しない。
「それは感謝しています。ですが、それはそれです」
「どれがどれなのよ……」
呆れてしまった伊豆提督。怒りに思考が焼かれ、暴走しているからこそ支離滅裂になりかけている。
「ハルカちゃん、ここからは私が話してみますよ」
そんな中、別の場所からやってきた救世主となるかもしれない者。人間ではなく艦娘としての浜風と関係を持つ、うみどりの中でも貴重な存在。
「丹陽ちゃん……大丈夫?」
「はい、大丈夫です。何やら騒がしかったですし、その元凶が私の妹みたいだったので、ちょっと足を運んでみました」
それは、陽炎型として姉妹関係にあたる丹陽。浜風にとっては、姉になる存在。
「浜風さん、ちょっとお話ししましょうか」
完全な丸腰、こんな浜風に対して恐怖心をカケラも持たない丹陽が、正面から向かっていった。
案の定やってきた忌雷アンチ。特機のことを認めさせるのは、丹陽の話術にかかっている。