後始末屋の特異点   作:緋寺

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理論と感情

「浜風さん、ちょっとお話ししましょうか」

 

 特機について聞いたことで、その運用を疑問視しただけでなく、そもそも使うべきではないと考えた結果、暴走するようにうみどりに乗り込んできた忌雷アンチの浜風。

 それに対して、完全な丸腰、かつ恐怖心をカケラも持たない丹陽が、正面から向かっていく。ボスらしく余裕の笑みを浮かべながら、今は落ち着きましょうと言わんばかりに。

 

 浜風はそちらに目を向けるが、それが丹陽──姉の雪風であることがわかると、小さく溜息を漏らす。

 

「どうかしましたか。貴女はここの雪風ですか」

「雪風というよりは、丹陽です。貴女のお姉ちゃんですよ」

 

 丹陽と顔を合わせても、浜風は何も変わらない。姉が出てこようが関係ない。この姉も特機肯定派だろうと、既に睨みつけるような表情に。

 しかし、丹陽は睨まれても怯むどころか足取り軽やかに浜風に近づく。その余裕ぶりには、何か得体の知れないものを感じた。

 

「貴女も、あの忌雷を使っているのですか?」

「いえ、使っていませんよ。禁じられているので。でも、今はその話はいいんですよ。私のことより、貴女のことですよ浜風さん。少し落ち着いて話をしましょう。特機のこと、ちゃんと理解した上でここまでのことをやってます?」

「当たり前です。特機とやらはあの忌雷の転用品。人の身体を好きに書き換え、思うがままに操る悪しき兵器です」

 

 わかっているようでわかっていない。忌雷はそうだが、特機は寄生される者の意思を酌むし、操るなんてことはしない。助け合いの精神で、共に戦う仲間だ。忌雷のような蝕むモノではなく、あくまでも共に在ろうとするのみ。

 寄生の際の反応に関しては忌雷と同じになってしまっているが、どちらも受けたグレカーレ曰く、無理矢理こじ開けてくるのと、ノックしてお邪魔しますと入ってくるくらいには違う。される者が拒めば、それ以上の寄生はやめるレベルで相手のことを考えている。

 

「浜風さん、貴女は忌雷のことはわかっていても、特機のことは何もわかっていないようですね。だから、こんな強硬策に出られるんですね」

 

 小さく溜息を吐く丹陽。

 

「とりあえず、まず艤装を下ろしてもらえますか。忌雷に効果的な電磁波照射装置は、人体にも影響が出ます。寄生されていない私達にも。暴発されても困るので、一度私と同じ丸腰になってください。話し合いも出来ません」

 

 強硬策に出ている者とはいえ、まずは話し合おうと丹陽は伝える。このままではただのテロリストだぞと状況からの感想を教え、自分の意思をこちらに伝えるつもりならまず武器を下ろせと。

 だが、特機を運用しているうみどりに対しての浜風の感情は、そんな言葉では何も変わらない。自分のことをテロリストだと言われても、それは忌雷のせいだと責任転嫁してしまうほどに憎悪に囚われてしまっている。

 

「……浜風さん、艤装を下ろしてください」

 

 二度目の通告。丹陽の表情が少し暗くなる。目に鋭い光が宿り始め、浜風に対しての感情に優しさが無くなっていく。

 

「何度言われても、私の考え方は変わりません。忌雷を使っている貴女方に非が」

 

 そんな丹陽にまだ食ってかかる浜風だが──

 

「浜風、艤装を下ろしなさい」

 

 三度目の通告は、これまで二度の通告とは違った。姉としての威厳と、言うことを聞かない妹に対しての叱責の感情が入ったことで、かなり強い語気で、いいから話を聞けと強く上から押し付けようとする見えない力が感じ取れた。

 そのせいで、浜風は喉を詰まらせる。その圧は、憎悪に呑み込まれていてもそれを揺らがせる程の恐怖に繋がる何かを孕んでいた。

 

「ただ私達が忌雷に似た兵装である特機を使っているのが気に入らないから、自分の意見を武力で押し通すために来ているんですか? 貴女の感情だけで、周りの意見も聞かず、たった1人の自分の考え方が正しいと信じ込み、それが聞いてもらえなかったら破壊してでも止めようとでも考えてるんですか?」

 

 さらに前に出る丹陽。身長差は歴然としており、丹陽は浜風と比べると本当に小さい。頭1つ分とは言わずとも、見た目だけなら姉妹関係が逆にしか見えない。

 だが、圧は圧倒的に丹陽の方が上。見上げられているのに、見下げられているかのような感覚。浜風は知らぬうちに冷や汗が垂れていた。

 

「何も多数決で決めようとは言っていません。貴女の意見に正当性があるなら、特機を使うこともやめることを考えるかもしれません。でも、今の貴女は自分が気に食わないから使うのをやめろと言ってきているだけにしか聞こえませんよ。しかも、やめないなら撃つと言うことですよね。艤装を下ろさないということは」

 

 淡々と叱責を続ける丹陽。これで浜風が逆ギレして丹陽に襲いかかる可能性も無くはないため、周りの者達としては戦々恐々である。

 

「私は貴女に話し合いの場に立ってもらいたいからこう言っているんですよ。そもそも、今の貴女が何もされていないことを感謝した方がいいです。こちらはこれから決戦に行くというのに、それを邪魔している()()()みたいなモノですからね? ハルカちゃんがやれと言われたら、貴女は周りから攻撃を受けてもおかしくないんです。なのに、そうされないということは、物凄く、ものすごーく温情を受けているということです。自覚してください」

 

 浜風の言動に対し、周りはまだ攻撃をしてでも止めなくてはとは思っていない。伊豆提督もそこまでするつもりはないし、納得してもらうための話し合いに持ち込みたいと常々思っている。

 周りに銃口を突きつけているのは、マイノリティな浜風のみだ。それでもうみどりの面々は、浜風に罪を問おうとするようなことはしない。その考え方だって意見として取り入れるくらいの気概はある。

 

「それで? まだ艤装は下ろしませんか。()()()()()()()()()()

 

 もう、艦娘としても扱わなくなってきている。その扱いに浜風はギリッと歯軋りをした。

 

「自分の意見が正しい。だから何をやってもいい。そんな考え方をしているなら、それは私達がコレから戦いに向かうバb阿手と同じですよ。私の妹はそんな輩とは違うと思うんですが。話し合いも出来ない(ケダモノ)ではないでしょう。それとも、やっぱりこんな言われ方が気に入らないからと、その手に持つ兵器を使いますか? こちらは無抵抗なのに、貴女は武器を振り回し、意思を押し通そうとしますか?」

 

 鋭い視線を浜風にぶつける丹陽。見た目からは考えられないくらいの年季の入った鋭さに、浜風は内心怯んでしまった。なんなんだこの雪風はと、冷や汗も止まらない。

 

 故に、浜風は選択する。

 

「……いいでしょう。正当性があるというのなら、聞かせてもらいましょうか」

 

 ようやく艤装を下ろした。それを見ていたうみどりの者達は、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 お互い丸腰になったことで、これでやっと話が出来ますねと、丹陽の鋭い視線は一瞬にして柔らかくなる。浜風の攻撃性はまだ失われていないが、目に見える危機が失われたことは喜ばしいこと。

 これで本当に撃っていたら、浜風は重罪人になっていた。いくらここまでのことをやらかしていたとしても、何もしていないなら浜風を罪人とするつもりはない。一度熊野丸に向けて撃っているが、当の本人はあの程度で罪に問うほど肝っ玉の小さい女じゃあないとケラケラ笑っていた。

 

「それでは、貴女の考えを話してもらえますか。ただし、『自分が気に入らない』という意見を省いてです。貴女の意思は今は要りません。特機運用に対して、ここまでしてもいいと考えた理由を教えてください」

 

 丹陽は単純に、自分の感情を入れずに話せと言っている。対する浜風は淡々と答える。

 

「元は忌雷、ヒトの感情をコントロールし、本来の考え方から逸脱させ、強制的に敵の配下に変える悍ましい兵器でしょう。現にその寄生を受けた者は、何かしら身体が変化しているわけですよね。それが本当に不安の無い兵器だと思いますか。今は鳴りを潜めているだけで、いざ戦闘中にこちらに砲を向けてこないと言い切れるんですか。結局は敵の兵器の転用です。突然何か起きる可能性はいくらでもあるでしょう。その危険性がゼロである証拠を見せてもらえますか」

 

 なるほどこれは感情的ではなく理論的に理由を言ってきたなと丹陽は頷く。特機は忌雷であり、今でこそ特異点の力で仲間として扱えているが、それが何かの間違いでいきなり敵側に寝返る可能性もあるのではと考えているようだ。

 特異点の煙幕でしっかり燻し、内から外まで白く染まりきっていることは既に解析済みではあるのだが、確かに特機は本を正せば忌雷である。あちらが何かをした途端に、特異点の力を無効化し、カテゴリーWは途端に敵に回るなんてこともあるかもしれない。

 

 だが、そこは丹陽もしっかり説明する。

 

「うちの工作艦である明石さんと、妖精さんの主任が安全性を保証しています。深雪さんからの提供で、特機をしっかり調査解析し、敵の成分が皆無であることは確認していますから。こちらでは忌雷も調査していますので、そこから安全性は保証出来ます。データもあるし、勿論それは大本営にも提出済み、その上で、私達だけでなく、大本営からのお墨付きも貰っています。少しの不安も無いからこそ、ここまで扱えるんですよ。大本営から来てもらっているお二方が、貴女のように特機に対して何も言わないのはそういうことです」

 

 さりげなく話を振られた熊野丸と山汐丸は、丹陽の言葉に頷いた。特機に危険性があるのなら、そもそも疑問も持たずに受け取るようなことはしない。浜風に見せるような行為もしないだろう。

 

「その上でまだ不安があるというのはわかります。ですが、私達はこれまでに幾度となく特機に助けられている。しかも、奴らの敵である特異点そのものですら、今も救っている。本当に特機が敵なら、今頃深雪さんはこの世にはいませんし、戦場に出ようだなんてしていません」

「だな。今のあたしの両腕は、特機に動かしてもらっているところだ。本当に敵なら、最初からあたしの腕を動かしてくれるなんてしねぇよ。むしろ、寄生させた時点で喰い殺されてるだろうな」

「そういうことです。そこまで信用させて、本当に重要な場面で引っくり返すだなんてあり得ない。何故ならあちらは、特異点を殺してしまえば、そのまま勝ちが確定、戦いはおしまいなんですから。こんな隙を見せている状態で、今ではないタイミングでやるとかすると思いますか」

 

 状況証拠としても、特機は忌雷とは違い、全て阿手の支配下から離れている。自由に動くことは出来るし、寄生を躊躇することすらする。そしてそれは、深雪の支配下でもない。自主的に手伝ってくれているに過ぎない。

 

「それでは次はこちらからも質問です。浜風さん、貴女の言う通り、特機の運用を止めて、全て廃棄したとしましょう。その後、忌雷をどうやって止めるのでしょうか。貴女の出来るやり方は、確かにこれまで領海を守ることは出来た。でも、コレから向かうのは、その作者の本拠地です。貴女では手に負えないくらいの数の忌雷が、360度一斉に押し寄せてきたとして、それをどう対処するんですか。特機なら可能です。私達の死角を補ってくれるし、何ならそもそも特機の方が忌雷より力があるまであります。でもそれを失ったらどうすればいいんでしょう。代案があるからこそ廃棄を推奨しているんですよね。むしろそれが無ければただの感情論ですけど」

 

 浜風は、何も言えなかった。結局のところ、理論より感情が上回っていることを、この場で証明されてしまった。

 

 

 

 

「答えが出るまで待ちますよ。でも、貴女のせいで決戦に向かう時間は刻一刻と遅れています。早々に出してください」

 

 丹陽はもう、容赦が無かった。妹だなんて関係ない。今は1人の艦娘として向かい合っている。

 

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