忌雷アンチの浜風が、特機の運用を止めるよう強要してきていたが、それを
何も言えないならば、ただの感情論で襲撃を邪魔してくるだけのテロリストだとまで言い切り、浜風をただただ責める。
少しは浜風の反論を待ったが、何も言い出せず、歯を食いしばっている浜風に対して、丹陽はさらに追撃。
「何も代案が無いのに、私達から特機を奪い、ただでさえ何をしてくるかわからない敵に対して対策無しで突っ込めと言っていたんですか? 流石にそれは無いでしょう。まさか、今の貴女が持ってきている装備だけで、敵の忌雷は全てどうにか出来るとお思いで?」
冷ややかに、そろそろ浜風が気の毒に思えてくるくらいに、丹陽の言葉は止まらない。
「貴女の持つその対策は、敵が少ないからこそどうにか出来るモノです。ですが、さっきも言いましたが、これから向かうのはそれを作っている張本人のホームなんですよ。忌雷がどれだけいるかもわからないし、何処から現れるかもわからない。それをどうにかしてくれる役割も持っているんですよ。それなのに、貴女はまだ特機は不要だと言いますか」
丹陽の冷たい視線が浜風に突き刺さる。思わず目を逸らしてしまった浜風に、丹陽は目を手のひらで覆いながら、大きく、本当に大きく溜息を吐いた。
だが、浜風はあえてここで言葉を紡ぐ。
「危険性もまた証明されているのでしょう」
「……どの辺りからそう感じたんです?」
「だって、貴女は使用を禁じられていると言ったでしょう。使える者と使えない者がいるような兵器を使うだなんておかしいと思いませんか。なら、今使っている方々もそのうち身体がおかしくなることが証明されているのでは?」
最後の綱と言わんばかりに、丹陽自身の発言を拾い上げ、そこが特機の危険性ではないのかと突きつける。安全が保証されているというのに、何故使えない者がいるのだと。
丹陽は、なるほどと理解を示し、それについてハッキリと答える。
「それは私の身体の問題です。本当に残念な話なんですが。私だって使えるモノなら使いたいですよ。でも、私の身体がそれを許してはくれません」
「相性があるような兵器が」
「相性ではありません。見てわからないと思いますが、私、これでも85年生きてるお婆ちゃんですから」
浜風の言葉が違う意味でピタリと止まった。むしろ、素っ頓狂な声が出たほどだった。
「私は第一世代、最初の深海戦争の時から生きています。貴女のような元人間ではなく、海から生まれた純粋な艦娘です。なので、貴女とは勝手が全然違うんですよ」
「は、85年……?」
「はい。今の元帥である瀬石さんよりも歳上ですからね私」
浜風の怒りや憎しみが、あまりにも想定外な丹陽の言葉でブレた。意味合いとしては全く違うところにあるのに、そちらへの驚きが今だけは憎しみに勝っていた。
「で、本題ですが、私は純粋な艦娘であるが故に老朽化という非常に、本当に非常に残念な体質を持っています。メンテナンスを繰り返すことでここまで生きてきていますが、その代わりに艤装を装備することを禁じられています。私はやれると思うんですけど、出撃したらその時点で命が危ないんですって。そんな私が特機を装備したらどうなると思います?」
身体の問題というのをわかりやすく説明され、浜風はまた言葉を失った。見た目は姉かもしれないが自分より小さい子供の身体。しかしその中身は年季の入った伝説の艦娘。
その年月が身体を嫌でも蝕むのは人間だって同じ。老人に武器を持って戦えというのは流石に酷というもの。今の浜風にも、それくらいの常識は残っていた。
丹陽自身はやりたいやりたいと言い続けているが、周りがそれを許さない。今回は浜風の説得のために、やりたくてもやれないという点を強調して利用する。
本当にやりたいのだが、こうして説得しているところでも、後ろから明石が眼光を鋭くしていたため、心底残念そうにしていた。
「ご理解いただけました?」
特機の危険性に対してその全てを調査済みであり、それを大本営に提出し、許可も全て貰っているため、使うことに対して何も問題ないこと。唯一使用禁止である丹陽も、それは特機が危険だからではなく、老朽化によりそもそも艤装を装備すること自体が危険であるため、特機云々の話ではないこと。
安全であるというよりは、危険ではない証明を全てされてしまったことにより、もう糾弾する材料は何一つとして無くなってしまった。これで、浜風は詰みである。
これでもまだ特機はダメだと叫んだところで、それはただヒステリックを起こしているだけのワガママだ。
「理解出来たのなら、どうぞお帰りください。貴女は襲撃する部隊には加えられないでしょう。特機を使っているうみどりの皆さんを後ろから撃ちそうな
うみどり相手だからこそ、コレだけのことをしても罰が無いのだから感謝しろと突きつけ、浜風の反応を待つ。
自分の足で帰ってほしい。それでも何か文句があるならまた相手をしようと、丹陽はじっと浜風を見つめた。
「……私が、間違っていた……? でも、でも特機は忌雷で……」
「見た目が悪いことは認める。あたしだってこんなことになるなんて思っていなかったからな」
少し気の毒になったか、ここからは深雪も口を挟んだ。
「見た目も変えられりゃあ良かったんだけどよ、コイツらは戦闘中にひょんなことから出来ちまった偶然の産物だ。お前にはわかんねぇかもしれねぇけど、コイツらはその後から、ずっとあたし達のことを助けてくれてる。それでも見た目がそれだから悪って決めつけるのか? それはやめてくれよ。そういうのは気に入らねぇ」
いるだけで罪と罵られた深雪としては、そういった理不尽な理由で排除されることが気に入らない。理解した、された上で悪とされるなら、それはもう相入れることが出来ない存在なのだと諦めるしかないが、それもしていないのに悪と断定するのは許せない。
「そんなに特機が嫌なら、見えない場所に行って静かにしておけばいいんですよ。嫌なモノをわざわざ見に来て、ギャーギャー騒いで周りに迷惑をかけて、言葉で打ち負かされてもまだ納得出来ないでそこに居座られるのは、流石に迷惑ですから」
丹陽の痛烈な言葉が浜風に突き刺さる。間違ってはいないが流石に言い過ぎだと深雪は丹陽を嗜めようとするが、その前に動いていたのは
「気が立ってきていますね。戦いが近いからでしょう。はい、今は丹陽さんも落ち着いてくださいね」
神威が『排煙』を漂わせて、丹陽を後ろから抱き締めた。癒しの『排煙』のおかげで、興奮していた頭が徐々に冷えていく。
「貴女も一度落ち着きましょう。そんな状態では、何も出来ないでしょう」
さらに神威は、『排煙』を浜風にも吹き掛けた。浜風も今は理性を燃やしながらここに立っているようなモノ。頭に血が上った状態では、何も話なんて出来やしない。そう考えて、まずはメンタルを癒しにかかった。
その匂いを嗅いで、浜風は少しだけ気持ちを落ち着かせる。『排煙』が特機由来の力であることは、当然知らない。
「そこに立っていても、今から戦いに行く皆さんの邪魔になってしまいます。まずは一度壁際へ。帰らないにしても、真ん中にいるのはよろしくありません。話はいくらでも聞きますから、今は端に寄りましょうか。持ってきた艤装は妖精さんが運んでくれますので」
神威に促され、浜風は渋々移動。丹陽はむしろ神威に抱き抱えられての移動。ここでそこまでしなくてもいいのにと訴えるが、丹陽から離れるとまた興奮しかねないからと、じっくり『排煙』を吸ってもらうために離れないと笑顔で返され、丹陽は諦めた。
「す、すみません……うちの浜風さんが……」
ここまで止められなかった鳳翔が全員に対して深々と頭を下げて謝罪。
「大丈夫よ。特機についてはそういうことを言われても仕方ないとは思っていたもの。でも、この子達がどれだけ仲間として貢献してくれているかわかってもらえると思うわ」
そんな鳳翔に、頭を上げてと微笑みながら返す伊豆提督。特機の特異性は言い訳が出来ないモノなのは重々承知の上。モノがモノなので、反発されることは予想していた。ここまでの強行策に出る者がいるとまでは考えていなかったが。
「熊野丸ちゃん、山汐丸ちゃん、今ここで起きたことは」
「見なかったことにしよう。本来ならば強めの罰則になっていただろうが、何より伊豆提督がそれを許しているのならば、罰することはせん。というか、そんな時間が惜しい」
「浜風殿には充分に反省していただくとして、今は島への襲撃が先決。それでも邪魔をするようでしたら、その時にまた罰を考える方がいいでありましょう」
大本営からの使者がこう言っているので、今は伊豆提督の判断に任せされる。そして、浜風のテロ紛いな強行策を罪として見ないとしたため、その件はこれで終わりである。
今はそれよりも島への襲撃。時間を与えれば与えるほど、あちらは力を増していく可能性があるのだ。策もあるなら、早いところ進めていきたい。本来ならば、浜風に構っている余裕なんてなかったのだ。
「アナタも気に病まないでね。アタシ達はこんなことで止まるようなことはないから。気にしてないから大丈夫だからね」
「本当に、本当に申し訳ございませんでした……止められなかった我々の責任ですので」
「だから気にしないでちょうだいな。浜風ちゃんは充分堪えてるでしょう」
見てわかるくらいに浜風は狼狽している。自分の考え方が、行動が間違っていたと納得出来ているかはわからないが、今はとりあえず出撃の邪魔だけはしないだろう。
決戦の前にケチがつきそうになったが、この騒動は一旦終わり。本格的に戦いへと身を投じて行く。
これだけ見せても、特機が無理矢理浜風に寄生しようとしていない時点で、考えればわかることだったりするんですけどね。