忌雷アンチである浜風が強硬手段に出たものの、丹陽が言い負かすことでひとまず黙ってもらうことには成功。しかし、浜風はそれだけ言われても納得したかと言われればそうではなさそうである。
神威の『排煙』も加えることで、精神的に癒やしながら冷静に、もう少し話が通じるようになってもらう。丹陽も話しているうちに熱くなってきているのがわかったため、2人同時に『排煙』による癒しを提供して、まずは熱を冷ます。
「特機を使うことに異を唱えることは、間違ってはいないと思いますよ」
冷静にさせつつも、神威は浜風の異論を完全に否定するわけではなかった。特機は忌雷であることは間違いではなく、特異点の力で仲間に出来ているだけであることは否定出来ない。ふとした弾みで急に寝返るなんてことが無いと言い切れないのも、確かになと思うところはあったのだろう。
「でも、やり方がよろしくないですね。直接乗り込んで、武器片手に自分の意見を押し通そうと脅迫しに来たようにしか見えませんから。それだけ冷静ではなかったということはわかります。なので、まずはここで煮えた頭を冷やしましょう」
そこから動かないように抱き締めながら、『排煙』によって心を癒していく。そんな簡単に冷めるような熱ではないことはわかっているが、やらないよりはやった方がマシ。
「おばあちゃんもですよ。アレだとムキになって言い返しているようにも聞こえてしまいます。正論も、言い方次第では暴論です。頭を冷やしましょうね」
丹陽はより一層動けないように抱き竦められていた。ジタバタするようなことはしないが、大きな溜息を吐いて神威に身を任せていた。
「私は今回はうみどり防衛班、出撃はしません。なので、ゆっくりと癒して差し上げることが出来ます。時間がそうあるわけではないですが、まずは落ち着きましょうね」
やんわりと頭を撫でながら、2人を癒し続ける神威。その姿は、専属医と称されるくらいに優しいモノだった。
その間に出撃の準備を進めるうみどりの仲間達。少し時間を取られてしまったが、これからやるのは島崩しだ。徹底的に万全な態勢で出撃するために、出来ることは怠らない。
「あたしは1号だけ持ってく。他はみんなに配っておいていいぜ」
「電も1つ貰っていくのです。1人1つは持っているのですよね?」
「もち。あたしも1つは寄生してもらってるけど、追加で1つ貰ってるからね。『増産』のヤツだけど」
「白雲もでございます。1つは我が体内に、もう1つを護衛につけさせていただいております」
深雪を中心とした4人組は全員が奇襲部隊入りが決定している。深雪と電は言わずもがな、白雲は『凍結』を、グレカーレは『羅針盤』を使う可能性があるための採用。特に後者は、説得が通じそうな敵が現れた場合に、深雪を通して散布することもあり得る。
「白雲、私も共に行くぞ」
「磯風様、よろしくお願い存じます。その風の力、必ずや必要になるでしょう」
「ああ。深雪の煙幕も拡げられるからな」
「頼んだぜ」
そこに磯風も追加。『空冷』は風という性質から深雪と、冷やすという性質から白雲と相性がいい。そのため、5人目として参入決定。今回は陸戦ということで、深雪達の見ていないところで、那珂にみっちりと
そして、部隊として成立する6人目。それはやはり彼女。
「……マジで頼れるな、神風」
「任せてちょうだい。明日のこと、考えずに行かせてもらうから」
刀を鞘から抜き、その完璧な仕上がりを見て頷いている神風である。今回のために改めて設えた、神風のための真剣。本人はカテゴリーWではないが、この刀には艦娘の艤装と深海の艤装、どちらの成分も練り込まれている、ある意味カテゴリーWな刀。強度は申し分なく、さらに重さも軽いという、並ではない武器として仕上がっていた。
それを作り出したのは、『工廠』である明石。『改造』を得意としているが、『開発』が出来ないわけではない。その力を存分に使い作り上げた、至高の逸品である。
「最初は纏まっていくことになるだろうが、途中から分かれて行動することにもなるだろ。その時、あたし達は基本、この6人で動く。そっちはそっちでそれで良かったか」
「ああ、僕が旗艦みたいになっているみたいだけれど、手綱を握れる気がしないね」
深雪班と呼べる1部隊に対し、準備が整ってきているのは時雨班。
夕立と子日は言わずもがな、先の裏切り者鎮守府でも大活躍を見せた2人。そこに諸刃の剣とはいえ強力な無効化能力を持つ叢雲、そしてうみどりでも大発動艇による対地戦闘が可能な睦月と梅が参戦。この時点で6人。
「き、緊張するぞよ……また最前線なのね……」
「でも、梅達の仕事も、大事大事、ですよ」
こちらの方が戦力が劣っているのではと思われたが、そんなことはない。むしろ、睦月の『軽量化』と梅の『解体』は、使い方次第ではとんでもない威力を発揮する強力なモノだ。
特に、夕立が目にしている睦月のそれは、夕立すらも
そして──
「フレッチャーも、準備はいいみたいだからね。相変わらず、酷いことになっていたけれど」
「はい、お恥ずかしいところを見せるのはいつものことなので。ですが、丹陽お姉様の力、しかと受け取っています。大丈夫です」
丹陽のコピーとなったフレッチャーが7人目として時雨班に加入していた。深雪班と違い、時雨班は遊撃部隊となる。
フレッチャーが前線に出るのは理由がある。うみどりの中では貴重な、
「道案内まで出来るかはわかりませんが、私が知っていることを常に出し惜しみなく展開します」
「頼んだよ。流石に島崩しは初めてなんだ。内情を知っているのなら、それにある程度は頼らせてもらうさ」
今回のフレッチャーは要とまでは行かずとも、かなり重要な位置に立っている。やはり情報アドバンテージがあることは頼もしい。
「綾波達は調査隊と合流だったよな」
「はぁい。あちらの突入班と一緒に、奇襲の第三班として向かいまぁす」
軍港鎮守府からやってきた3人の艦娘は、既に調査隊と話が通っており、あちらからもいつもの3人が出るため、合流して6人の部隊となって戦場に入ることになっていた。
深雪達とは基本は別行動になるが、行けるところは全員で向かうことになるので、総勢19人の大部隊である。ただ、奇襲ということでそこまで大勢で突撃なんてことはしない。どちらかといえば派手に行くのは正面突破の部隊なので、若干隠密じみた行動で進む。
「戦闘は綾波と川内さんに任せて、暁と調査隊で島のことを調べることになると思うわ。情報は逐一共有すると思うから、何人かはインカム持っておいてね」
「あ、それじゃあこちらは電が受け持つのです」
「こっちは子日が貰うねー」
奇襲部隊は途中から3部隊に分かれての行動になるだろう。その代表として、深雪班は電が、時雨班は子日が、情報共有のためのインカムを受け持つ。6人の中でも特に生存率が高いところということになる。
残りの艦娘で潜水艦以外は一部を除いてほぼ全員が正面突破の部隊になる。戦艦である長門やトラ、加賀が率いる空母隊、更には軍師である妙高と三隈や、特に視線を集めさせるアイドルの那珂などは、全員がこちらだ。
奇襲部隊が乗り込むことをサポートする意味も込めて、派手に立ち回る。それが策であることがバレるのも承知であり、その上で戦力を奇襲部隊になんて割いていられないくらいに大暴れするのが目的。勿論、乗り込めるなら正面からでも島に乗り込むことも考えている。
あちらからの攻撃は普通ではないことも考えられる。それを乗り越えるためには、それ相応の実力も必要だ。そしてそれは、申し分ないモノ。
「全員、特機は持ったか」
こちらの旗艦は長門。かつてない大規模な戦いに出向くための準備として、緊急事態を防ぐために特機の所持を確認。対する仲間達は、肩に乗せていた特機を掲げて持っているアピール。特機もいるぞと言わんばかりに触手を振っていた。相変わらずノリがイイ。
これまでも幾つも流されてきたという忌雷は、この戦場にも流されていることだろう。それに1人でも寄生されれば、そのまま事態が一変しかねない。誰一人として欠けないように準備するならば、寄生させないにしても特機の所持は必要不可欠。
「長門さん、1つ提案があります」
「ん、なんだ妙高」
ここで妙高がやっておいた方がいいのではと話すことがあった。もう殆どおまじないみたいなモノだが、やらないよりはマシだと。
「グレカーレさんの『羅針盤』を、全員が事前に受けておいた方がいいかと思いまして。万が一寄生されても、もしかしたら道を違えることが無くなるかもしれません」
「なるほど、可能ならばやっておきたいことだ。事前にそれをやったとして大丈夫だろうか」
準備を終えたことを確認し、グレカーレに尋ねる長門。
「ん、確かにあった方がいいかもだね。ミユキ、お願いしていい?」
「『羅針盤』だな、了解だ。確かにおまじないかもしれないけど、無いよりあった方がいいな」
力の展開には深雪の煙幕が必要不可欠。それをするためにも、まずは深雪に抱き着くグレカーレ。役得役得とニヤニヤするが、深雪は気にせずに長門達に対して左手を向ける。
「誰も欠けないように」
「誑かされないように」
「『羅針盤』が、正しい道を定め続けてくれ」
その
「コレで安心とは思わないでね」
「わかっているさ。保険として使わせてもらっている。ありがとう2人とも」
これで改めて準備は出来たと言えるだろう。身体も心も、戦いに勝つために。
うみどりは整った。もうすぐ、決戦の時。
過信は出来ないけど、『羅針盤』を事前に使うことで、ある程度は精神攻撃耐性は附与出来ます。擬似カテゴリーKなのにしっかり味方である高波が証明してる。