島への襲撃がついに始まり、参加する艦娘達が各々出撃していく。どの部隊も重要な任務を胸に、やる気満々に突き進む。
敵陣に真っ先に到着するのは、先行する正面突破組。真っ直ぐ向かっている内に、その島が水平線の向こう側に見えてくる。
「……遠目に見るだけでは何も変わらないようだが」
長門が呟くのも無理はない。島が見える位置に来たとしても、そこには敵影らしきものは存在せず、ただ普通に島があるだけ。外観からしても、村がある程度広がるだけの、何ら変わらない有人島である。
目につくのは漁船くらいだが、それも別に何か違和感を覚えるようなモノではない。実に普通。ただ漁業で村を維持しているだけというイメージがかなり強い。
「表には出さないようにしているさ。奴らもそこまで堂々じゃない」
島について知っているトラが、簡単にだが説明した。敵の研究施設は、海からは簡単には見えないようにされている。勿論それは鎮守府でも無い。どちらかといえば山に近い方に建造された施設だと。
しかし、ぱっと見では確認出来ないようにされており、いわば山肌から入ることが出来る地下施設のようなものだと語った。
「ならば、我々も上陸しなくてはいけないか」
「……いや、多分来るぞ。当たり前のように、街中を突っ切って」
言うが早いか、島の港にゾロゾロと現れる影。島民が歓迎してくれているなんてことはなく、その影はどう見ても色取り取りというわけでもなかった。白と黒。その肌ですら、病的に白い。
それだけならまだ良かったのだが、それ以上にチラホラ見えるのがヒト型ではあるが異形と化した
「我々には隠そうともしないということか」
「だな。そのまま突っ切られて乗り込まれるのも困るということだ。私やあの姉妹が離叛したことも当然知っているんだ。今の島がどうなっているかはわからないが、
ただの田舎島、かつ艦娘が常駐しているようなこともない、平和なはずの有人島からは、絶対に現れることが無い存在が、島の内部から当たり前のように現れるのがココである。
明らかに長門達の進軍を食い止めるために現れた島民──深海棲艦が、群れになって海に出てきていた。その中には出来損ないも含まれており、更には海中からまともな深海棲艦すら現れる。
「島民……だな。トラ、見覚えのある者はいるか」
「ああ、少しだがな。私があちら側だった時から見かけたモノもいる」
勿論、現れただけでは終わらない。島に向かおうとする長門達に視線を集中させると、一斉に攻撃の構えを取った。
「歓迎されているな」
「だな。隠す必要が無いとなると、こうまでしてくれるのか」
「老若男女から大人気だ。
苦笑が自然と漏れる。予想はしていたことだが、もう周囲への配慮すら捨てた島の攻勢に、この突破は大変そうだと改めて見据える。
「清霜、行けるな」
「もっちろん! 戦装大発もメンテは完璧!」
「ならば、我々が矢面に立ち、その一切を薙ぎ払おう。道を開くぞ!」
先に放ってきたのは、島側だった。接近を許さない、侵攻を許さない、それ以上進むことを許さない。そう言わんばかりに、港に集まった島民達が一斉に砲撃を放ってきた。
砲撃の精度は言ってしまえば雑の一言。狙いを定めて集中砲火というわけではなく、近付くなという警告を表現するように壁のような斉射がただ飛んでくるのみ。
だが、そこからもわかる。
「訓練もまともに受けていない一般人だ。それが深海棲艦に改造されて、前線に出されている」
艦娘でもなんでも無い、つい最近までただの人間だった者達。軍事的な訓練を受けることなく、ただ力を与えられ、思考誘導もされ、使える武器を使えるように振り回すだけ。
それでも人は殺せてしまうのだから、自分が強くなったと錯覚もしてしまうだろう。近くにその力すら手に入れることが出来なかった出来損ないがいるのだから、自尊心はこれ以上ないくらいに高まる。
自分はコレらとは違う選ばれた者だ、人間を超えたのだと錯覚させられ、洗脳教育は深く浸透する。それを与えてくれた者に感謝から忠誠も誓うことだろう。
「それを苦とも思わないんだ。それが自分のやるべきことだと認識して、喜んでその命を盾にするだろう。それを是としていた過去の私が恥ずかしくて仕方ない」
「今がいいなら構わんさ」
水平線ギリギリのところから撃ってきていることもあり、届くことも稀。だが、絶対的な敵対心が明確。さらには出来損ないがその砲撃などお構いなしに海に進み、理性も何も無いゾンビのように向かってきていた。
出来損ないにも種類があるが、一番恐れなくてはいけないのは自爆。ただ近付いて、命を散らす。そのトリガーは、ここにはいない誰かが持っている可能性は高い。
「ここに来るまでは作戦通りだ。心苦しいが、そうしなくては先に進めない。だから……わかってるな」
共にここまで来た仲間達に呼び掛けるように長門は語る。出来損ないの対処法は、もう1つしかない。
「自らの身体を壊しながらでも前に進んできます。脚を破壊しても自己修復するでしょう。狙いは頭がベストですわ」
「その上で脚を破壊するべきですね。思考というモノがあるかどうかは知りませんが、頭が破壊されてもしばらくは行動した前例があります」
「電磁波は忌雷と同様有効かと思われますわ。まずは動きを止め、その後に頭、そして四肢を捥いでくださいまし」
ここで軍師である三隈と妙高からも意見が添えられた。出来損ない対策は、とにかく前に進ませないこと。頭部が忌雷のように変質しているモノが多くいるため、まずは頭を破壊する。それでも動くことが出来る四肢が残っているので、さらにそれを破壊する。ここまでしてようやく機能停止するだろうが、それでもまだ足りないため、身体をも破壊する。
相手が出来損ないとはいえ一般市民であることはわかっている。だからこそ、攻撃に躊躇いが出てしまうだろう。あちらの狙いにはそれも含まれていると思われる。
だが、こちらは既に覚悟を決めていた。救える者は救うが、救えない者は──
「躊躇い無きように。元に戻せないことはもうわかっているのです。ならば、安らかに眠らせてあげることも
手を差し伸べることも出来ないのならば、その命を、いや、既に失われた命を休ませてやるためにも、この場で終わらせること。出来損ないには容赦せず攻撃をする。
無論抵抗はある。無いわけがない。だが、戸惑うことも、もうしない。
「来たぞ。出来損ないは、動きを止めて破壊だ!」
苦しい戦いだとしても、そんなことで手を止めていたら、この戦いは終わらない。むしろあちらの思うツボ。そんなことはもうさせない。
コレによって悪という汚名を着せられても気にすることはない。それ以上の悪、命を弄び続けるような者にそんなことを言われる筋合いもない。
「動きを止めます。その間に一斉射を」
「Okay. Enemy ship is in sight. Valiant, are you ready?」
「ああ、合わせる。任せな姉貴!」
ここで前進する有栖鎮守府からの援軍、ウォースパイトとヴァリアント。このために来たと言っても過言では無い。
「お膳立てはいくらでも出来ます。さぁ、どうぞ」
向かってくる出来損ないに向けて、まず電磁波を放ったのは妙高。広範囲に照射範囲を拡張させた電磁波照射装置を使い、向かってくる出来損ない達の足を一瞬止める。その一瞬さえあればいい。
「Shoot!」
そこから放たれる、クィーンエリザベス級姉妹の暴力的な一斉射。高貴な振る舞いからは考えられないくらいの大火力が、出来損ないに向けられる。
少し掠めるだけでも肉片が飛び散り、直撃を受ければカタチすら残らない。乱雑に見えても、そこはキチンと狙いを定めた丁寧な砲撃である。
これが有栖鎮守府所属の艦娘の強さであり恐ろしいところ。どのような状況に置かれても、冷静さを一切失わず、淡々と敵の命を刈り取る。合理的に、それが今最も正しいと思える行動に対し、全くの躊躇がない。
相手が元々がただの島民だったとしても、それを元に戻す手段が無いことがわかっている──出来損ないになった時点で生命活動は停止している──ため、今のような
「問題はここからです。身体を失っても自爆をするかどうか。核となるべき場所は破壊しているはずですが……っ」
一斉射により、完膚なきまでに破壊された出来損ない。だが、その肉片すらも自爆するかどうか。もしくは、少しでも肉片が残っていたら自己修復で元に戻るということも考えられるため、最後まで気が抜けない。
その考えは杞憂に終わり、肉片は肉片のまま、ただ浮かんでいるのみとなっていた。流石にそこまでの改造はされていなかったようで、それには少しだけ安心した。
それこそ、2つ目の裏切り者鎮守府で発生した、3人が融合したことで『増産』を繰り返しほぼ無敵となった巨大な出来損ないのように、その肉片自体が忌雷と同等となっている可能性も考えていたが、特機が反応していない辺りで、そうではないと確信を持てる。
「前線に出てくる出来損ないは、
今はまだあちらも真の力を発揮してこない。中央から離れているのならば、これまでの戦力をただ投下してくるだけ。それでこちら側の消耗を誘い、本命を叩き込む時に十全の力を発揮させないようにしていると考えられる。
「いや、むしろ……より悪辣なやり方をしますか」
それ以上に、こちらの心を攻撃してくることが多いことを考えると、こうなることは予想出来ていた。
「こちらは何も悪いことをしていないのに、艦娘が滅ぼそうとしてくるだなんて。やはり特異点と関係を持つ者は悪だ」
そんなことを言われるのは予想がついていた。自ら盾にしておきながら、破壊したら島民を犠牲にしたと罵る。そして、悪いのはそちらだと理に適っていない論法で口喧嘩を仕掛けてくる。
「生きているだけで世界に悪影響を与える魔王特異点を始末する我々が、この世界で最も正しいんだ」
そんな敵の鬨の声が聞こえてくる。あまりにもわかりやすい狂い方に、長門達は頭が痛くなってきていた。
考えることを放棄しているようなもの。それすらも奪われた島民達が哀れにしか思えない。
「……本当に、度し難いな。阿手という奴は」
哀れみから、長門の表情が消えた。