後始末屋の特異点   作:緋寺

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気付いた事実

 正面突破を仕掛ける長門達の部隊だが、案の定その妨害のために現れたのが、おそらく島民と思われる深海棲艦と出来損ない。深海棲艦はカテゴリーYと考えられる。

 その砲撃はお世辞にも脅威とは言えず、艦娘のような訓練を受けた者とは比較にならない程に稚拙。軽い回避行動をするだけで避けられる。だが、敵対心だけは嫌というほど理解出来た。

 

 やはり問題なのは出来損ない。それが元人間だったとしても、軍港都市で自爆していることもあり、細心の注意を払って対処せねばならない。

 出来損ないはそうなった時点で命の灯火は潰えている。それを知っているからこそ、心苦しいながらもその撃破に努めた。電磁波による行動の制限、頭部の破壊を優先することであるかもわからない思考能力を奪い、そして四肢を捥いだ後に身体も破壊して終わらせる。

 

 そこまで入念に始末をつけたところで、島民からは予想されていたこと、非難の言葉が聞こえてきた。そして、自分達を肯定する言葉も。

 これだけのことをやっておきながら、まだ自分達は正しいと言い切るその思考回路に、長門は哀れみすら感じた。

 

「……本当に、度し難いな。阿手という奴は」

 

 そして、表情が消えた。悲しいという感情も、苦しいという感情も、今は一度横に置いた。

 

「一度乗り込むために正面から突き進む。妙高、頼めるか」

「了解です。『ジャミング』、お使いください」

 

 理不尽な非難の声はまだ続いているが、その声はもう長門の耳には届いていない。正面から切り崩すため、妙高に手伝ってもらい、ただ突撃を仕掛ける。

 

 うみどりの戦いを初めて見るウォースパイトとヴァリアントは、一瞬正気かと思った。だが、既に情報は頭に入っており、有栖提督からもうみどりは敵の力をうまく使って自らのモノにしている者も多々いると理解しているため、これからやろうとすることもそれに準じたモノであるのだろうとすぐに納得する。

 

「ナガート、私達が何かお手伝いすることは?」

「なるべく邪魔の入らないように、近付くモノは蹴散らすが」

「そうしてもらえればいい。私達は、一度()()()()()()()()()()()ようだからな。少し、行ってくる」

 

 言うが早いか、長門は妙高と共に突出し始めた。『ジャミング』があるとはいえ過信はせず、トラと清霜もそれについていくカタチで前進。出来損ないは蹴散らし、海中から現れる深海棲艦も薙ぎ倒し、最も手近にいるカテゴリーYであろう者へと近付く。

 撃てども撃てども当たらないことに苛立ちを感じているようなそのカテゴリーYは、見た目だけで言えば、うみどりでも非常に馴染みのあるモノ、戦艦棲姫。背部に控えさせた生体艤装を使い、向かってくる長門達に向かって砲撃を浴びせかけようとしていた。

 だが、元より素人に毛が生えた程度で、砲撃の精度も並以下であるそれが、妙高の『ジャミング』まで加わってしまったら、命中する要素は一つもない。戦艦棲姫の砲撃は、撃ったところであらぬ方向へと飛んでいき、誰にも被害は出なかった。

 

「戦略も何もあったものでは無いな。阿手は一応提督だろうに」

「この行動自体、奴は簡単な指示しかしていないんじゃないかな。どうしても島に入られたくないのか、それともこんな連中を嗾けてきたこと自体が策なのかはわからない」

「……考えられるに、この連中も使い捨ての捨て駒なのだろう。何かをするための時間稼ぎか」

 

 自分の部下とも言える改造された島民に対して、まともに戦い方を教えているわけでもない。時間をかけて改造を施している割には、戦力としては確実に下の下。まともに訓練を受けている艦娘相手に、それよりも多少は強い力で押し込もうとしても無理がある。戦力があっても戦術を知らないのなら意味がない。

 そして、その戦術を補うのが提督であろう。素人を兵士にするのは、それを管理する提督の役目。しかし、ここではそれすら怠っているようにしか思えなかった。人間とは違う力を得ただけで慢心し、学びもせずに戦場に立つ。そして、恐ろしいことに自分の方が強いと思っているからか退くことすらしない。死ぬのが怖くないのではない。()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「恐怖心すら奪われているのか」

「おそらく、な。以前は私もそうだった」

「リアルな言葉が聞けるのは、ありがたいと思っていいのか」

 

 トラですら最初は慢心があったというのだから恐ろしい。それでも鍛えようと思ったのは、その性格的にさらに万全を期して戦場に向かいたかったというところだろう。

 

「だが、ああであってくれるおかげで、話もしやすいというのもあるだろう?」

 

 退かないというわかりやすい慢心のおかげで、どれだけ攻撃をしてきても当たらない状況にある長門達は、そのままその戦艦棲姫へと突撃。

 何故当たらないと混乱し始めているのを余所に、長門達は至って冷静に接近して、ついには一度も攻撃することなく手が届く範囲にまでやってきた。

 

 それでもまだ勝てると思っている辺り、おめでたい頭をしていると、長門は内心失望している。

 

「貴様は特異点を悪だと断じたが、その理由はなんだ」

 

 端的に、いつもの質問をする長門。冷ややかな目を向け、どうせいつもと同じ答えが返ってくるのだろうと諦めながらも、一応は問いただす。

 

「特異点は生きているだけでこの世界を闇に染める魔王。お前達はそんなことも知らずに」

 

 全て言い終わる前に、長門の拳が戦艦棲姫の顔面に飛んだ。真正面から、その増長した鼻っ柱を叩き折るように、顔面にめり込む。

 しかし、自己修復は健在のようで、明らかに折れた鼻はすぐに元通りに修復された。深海棲艦特有の真っ黒な鼻血は飛び散るが、本人は何もされていないかのように綺麗な顔。

 

「根拠の無い答えは望んじゃいない。特異点がこの世界を闇に染めた証拠もないだろう」

「お、お前達が気付いていないだけ」

「ならば貴様らは気付いているようだな。何処で何が変わっている。答えろ」

 

 またもや言い切る前に、今度はフックが頬骨を砕くほどの衝撃で放たれた。戦えるように鍛えられているならば、避けるなり防ぐなりすることが出来るだろうが、この戦艦棲姫はそれすら出来ずに見事にふっ飛ぶ。

 だが、それで離れられたら困ると、長門はもう片方の腕でその服を掴み、無理矢理倒れないように支えた。

 

「納得出来る答えならば、今後のことを考えてやらんことはない。だが、貴様らはそんな答えを持ち合わせていないだろう」

「理解出来ないお前達の問題」

「何故貴様らは全てを理解した気になれる。自分が正しいと断言出来る。そもそもそれが大いなる間違いだろうに」

 

 返す腕でもう一発。戯言ばかりの口に罰を与えるように殴る。

 

「特異点は貴様らに自分から手を出したか。後始末で海を綺麗にする仕事に従事している彼女が、何処をどうすれば世界を闇に染めることが出来る。見てもいないのに、何を知った気になっている。見ている我々より、見ていない貴様らの方が正しいと何故言い切れる」

 

 問い続けながらもその都度一発一発拳を叩き込んでいた。もう答えることも出来ないのではというくらいのラッシュになっており、戦艦棲姫は何故こんなことになっているのだと疑問しか持てなかった。これだけ問われても、自分達が正しいのに何故そんなことを聞いてくると、本気で思っている。

 だが、拳が止まったところで、明確な回答は存在しない。これまでの敵と同じ、何故と言われたら()()()()()としか答えられない、考えることすら放棄した愚か者。

 

「まともに答えられないだろう。答えも持たないことに疑問が持てないことが、最も愚かだ。確固たる意志があるのならば、曖昧では無い自分の言葉が紡げるだろうが、貴様らには意志がない。流されるだけの者共に、我々が負けるわけがなかろう!」

 

 そして、トドメに顎に打ち込まれた。戦艦棲姫の身体が浮かび、そのまま白目を剥いて倒れる。砲撃で屈服させるのでは無く、艦隊戦の中で拳1つで終わらせた。

 

 この事実は、改造により力を得たカテゴリーY達を戦慄させる。人間を逸脱した力を得られたのは、深海の艤装が使えるようになったこと、強靭な身体を得たこともある。艦娘よりも強い身体であることはわかっており、自己修復まで持っているのだから、()()()()()に負ける道理は無いと確信していた。

 長門は見た目からして普通の艦娘だ。隣にいるトラは深海棲艦の姿をしている離叛者、清霜も大発動艇に戦艦主砲を載せている意味がわからない存在、そして妙高は何故かいるだけで攻撃が当たらなくなるコレこそワケがわからない存在。そこから考えると、長門は何も無い一般的な艦娘と言っても過言では無いだろう。

 それが、高次の存在となったカテゴリーYを拳で屈服させるという異常事態。そんなモノを見せられたら、出てくる言葉は──

 

「ズルだ。ズルをしているに決まっている」

 

 コレである。もう、呆れてモノも言えなかった。インチキだと言い出したのだ。

 

 そもそもインチキで超えられるような力を高次と言っていること自体が嘲笑に値するようなことなのに、それが真だと思い込んで発言までしてしまっていることが、あまりにも愚かだった。自分が一番でなければ済まない子供かと、もう哀れみすら超えていた。

 

 そして、その事実に気付いた。

 

「……まさか、奴らは()()()()()

 

 長門が呟くと、トラはその可能性はあると少し曖昧だが答えた。

 

 見た目は大人の女性である姫だ。戦艦棲姫もそうだが、長門と同じくらいの背丈に、抜群のプロポーション。誰がどう見ても、それは子供であるとは思えない。

 しかし、中身があまりにも伴っていなかった。一方的にやろうとする。しかし実力がついてきていないため下手糞。いざ近付かれても逃げるのではなく、慢心からまだ勝てると信じ切っている。自分の回答を持たず、与えられた言葉が全て真実だと鵜呑みにしている。そしてそれでも負けたらズルだと自分達が被害者のように囃し立てる。その行動全てが、まだ知能の備わっていない子供のようなモノ。

 

 そこから考えたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()ということ。

 

 考えてみれば、男子高校生の透が、身長2m近い女性の姿に変えられているのだ。元の身体がどんなものかなんて関係ない。その深海棲艦の因子が非常に強く作用して、その身体に変えてしまっている。

 今長門が殴り飛ばした戦艦棲姫も、見た目とは裏腹に年齢はかなり下、下手をしたら丁型海防艦のような子供だった可能性すらある。

 

「……度し難いでは済まないぞ。人間をなんだと思っている。子供にも歪んだ教育を植え付け、取り返しのつかない改造まで施すだなんて、呆れを通り越して怒りしか湧かん」

 

 戦艦棲姫を殴り飛ばした拳をより強く握り締め、怒りに震える長門。自分の目的のために子供の未来を奪い続けている阿手に、ただただ怒りしか無かった。

 

 

 

 

 子供を盾にしているような戦術。許し難い戦い方を次から次へと繰り出してくる阿手は、その顔すら見ていなくても、誰からも怒りを買っているのは火を見るより明らかだった。

 

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