後始末屋の特異点   作:緋寺

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潜入航行

 島に対して正面突破を仕掛ける長門達だが、やはり妨害を受ける。そのカテゴリーY達は、長門達にとってしてみれば、下の下と言わざるを得ないくらいに技術のないモノだった。それを一方的に叩いたところで、改造も何も受けていない長門に対してインチキと言ってくる始末。

 今ここにいる敵は、子供のような言動をしていることから、本当に子供なのではという事実に気付いた。学もない子供が深海棲艦の身体と力を手に入れたことで増長し、自分より強い奴なんていないと思い込み、いざ負けそうになってもそれを認められずにインチキと敵のせいにする。納得が行ってしまった。

 

「ここにいる者全てが島の子供である可能性もあるのか」

 

 長門が島の方を見ると、まだまだカテゴリーYは何人もいる。戦艦棲姫だけでなく、空母棲姫や軽巡棲姫、駆逐棲姫や装甲空母姫などなど。多種多様な姫級のオンパレード。

 見た目はまちまちではあるのだが、その全てが子供だとしたら、一学校の生徒達なんて考えられる。言動だけで言えば小学生程度。この島がどうなっているかはまだわかっていないが、米駆逐棲姫の発言から学校はありそうなので、そこで歪んだ教育を施された挙句、男女問わずに今の姿に変えられていると考えられると、あまりにも悲惨で哀れ。

 だがそれ以上に怒りが湧いてくる。子供の未来を奪っていたことは既に知っていたが、ここまで酷いモノとは考えていなかった。いや、目を逸らしていたとも言える。

 

「……一度全員黙らせる。我々ならば余裕があるくらいだろう」

「今のは長門がさっさとぶっ飛ばしてしまったけれど、何かしら力を持ってるような奴もいるかもしれないよ」

「その時はその時だ。今回は近付いてしまったが、他の者達は慎重に行ってほしい」

 

 何も警戒せずに接近してしまったことで、自分が冷静でいられなくなっていたと反省し、長門はここから慎重に事を進めると誓う。

 

「悪の誹りを受けても構わん。その薄っぺらい言葉を気にしている余裕など我々にはない。奴らにとっての悪なだけであり、それは奴らだけの常識だ。思い通りにならないからと、他者を蔑み罵るような輩には、()()()()が必要だろう」

 

 こうなってしまえば、相手が実は子供であったとしても関係ない。今の見た目はそもそも人間でも無い。ならば人間の常識に当てはめることもない。

 後始末屋として、今この島に巣食うバケモノを始末するため、命は奪わずとも痛い目を見てもらう。元が子供だからとか関係ない。知ったことでも無い。こちらの命を脅かすということはどういうことなのかを、身を以て知ってもらうだけだ。

 

「歪んだ教育を受けた被害者かもしれんが、我々にとっては加害者だ。触法少年だろうと関係ない。今の貴様らは、人間では無いのだろう。高次の存在なのだろう。それをどうこうすることによる罰則は、人間の、この世界の法には無いのでな。ならば、まずは脅威を取り除くためにも、排除させてもらうぞ」

 

 殺すつもりは毛頭ない。あくまでも、ついさっきの戦艦棲姫と同じようになってもらうだけ。痛い目を見ないとわからない愚か者達に、鉄拳制裁をするだけ。

 

 これまでの言い分から考えると、大人が子供に手を上げるのかと言ってきそうである。だが、それに対しては今の自分の姿を見てみろと言い何も言い返させない。ならば子供の外見の深海棲艦ならばどうかとなれば、お前達は人間じゃあないだろうでおしまい。それに、こちらにも子供がいるぞでいい。何を言われても、そのお粗末な理論を正論で真正面からぶち壊す。

 

 正面突破部隊は、舌戦であっても正面突破である。

 

「泣こうが喚こうが、今だけは関係ない。心苦しいが、これもまた愛の鞭のようなモノだ。悪い子供にはそれなりの罰を与えねばなるまい。これだけのことをやらかしているんだ。勿論、言い訳は出来ないな?」

 

 もう長門には、良心など残っていない。いくら子供であろうとも、命を脅かしてくるのならば、容赦なく叩き潰す。命を奪わないだけマシだと思ってもらいたいと、カテゴリーY達を睨み付ける。

 

「さぁ、まずは全員、今の自分達がどれだけ愚かなのかを理解してもらうぞ」

 

 もう言っていることは本当に悪役みたいになってしまっているのだが、だからといって躊躇なんてしない。今のままでは、社会復帰も不可能なくらいに歪んでいるのだから。

 

 

 

 

「音が聞こえ始めたな」

 

 そんな長門達の戦闘音が響く中、奇襲部隊は遠回りをして島の逆側へと向かっている。

 熊野丸による輸送で体力を消費しないようにしているものの、緊張感はどうしても高まるモノ。心持ちだけで十全とは行かなくなってしまう。深呼吸をして落ち着こうとする者や、ギリギリまで温存しようと目を瞑ってその時を待つ者など、各々がベストを尽くすための行動をとっていた。

 

 深雪はその中でも、戦況をずっと見ているタイプ。何かあったらすぐに動き出したい、少々落ち着きのないタイプではあるものの、正義感が飛び抜けているとも考えられる。

 

「港への正面突破部隊が、交戦し始めたみたいなのです。あっち側は、結構な人数が出てきてるみたいなのです」

 

 通信を使ってあちら側の状況を聞いているのは電。別働隊との連携のためにも、全ての部隊と話が出来るように事前に調整していた。

 時雨班は子日がそれを貰っていたが、調査隊と軍港鎮守府の仲間達の班は、やはりと言っていいか暁が担当。そして、うみどりやこだか、おおわしとも話が出来るようにしてある。有道鎮守府も勿論そこに加わっている。

 

「でも、それで全部向こうに行ってくれてるなんてこたぁ無ぇよな」

「なのです……こんな簡単な陽動に引っかかってくれたらありがたいのですけど」

「一応阿手も提督の端くれだったんだよな。ならそれくらいは考えてんだろ。いくらアホでも」

 

 実際、港での攻防に参加しているのが、島民の子供達ばかりだとするならば、大人はどうしているのかという話である。それこそ、絶対に来てもらいたくないところに待機して潜入を防ごうとしているか、それよりも早い段階、今向かおうとしている港とは真反対の場所に来ているか。

 島という広い空間が戦場になるのだから、攻め込みにくいというのもあるが、守りにくいというのもある。島民がどれだけいるかは定かではないが、全部を守り切ることなんて出来るわけがない。ならば、潜入も出来るような場所はあるはずである。

 

「熊野丸殿、いい場所が見つかりました。大発も停めやすいと思うのであります」

 

 航行しながらも山汐丸は艦載機を飛ばして島の周囲を確認していた。なるべく高度を取らずにただ潜入する場所を探すのみにしているのは、一応は奇襲を悟られないようにするため。

 その行動はうまく行ったようで、奇襲に最適な場所を発見することが出来ている。大発動艇の停泊も一応は可能であり、大勢で乗り込むことも可能と判断。

 

「そこまで案内してくれ。警戒は怠るなよ」

「了解であります。こちらです」

 

 息の合った連携。陸軍所属の2人は、仲間達を絶対に不安にさせないよう、迅速に事を成していく。

 

「一度島の全容も確認しておこうかと思うのですが、よろしかったでありますか」

「頼む。まだ一度も島を確認出来ていないだろう。必要なことだ」

「では、飛ばします」

 

 少々危険ではあるものの、島のことをまだ何も知ることが出来ていないというのは非常に危険。外観と言っても、艦内から確認したに過ぎないので、上空からの情報はなるべく早めに知っておきたい。

 島の大きさはさておき、海から見えない部分、特に山の中などは、要注意ポイントだ。そこに阿手の研究施設があるのならば、海から遠く離れたところでの戦いになる。勝手があまりにも違う戦場では、何が待ち構えているかわからない。

 

「あたしだったら島の真ん中に施設造るもんなぁ。バレないようにするためでもあるし、来られても逃げにくくするためでもあるし」

「グレ様はそういったことをお考えに?」

「敵の気持ちになって考えるって、結構重要だよ? あたしは捻くれてるからねぇ。そうやって敵の内心を掴むんだよ。嫌ぁなところを突くためにね」

 

 グレカーレがゲスい笑みを浮かべるものの、白雲はなるほど参考になると真面目に頷くのみ。

 

 実際、知りたくはないが敵の考えていることを予測して戦うことは重要だ。やられたくないことを真っ先にやってペースを乱すことが勝利の道。そして、敵を騙すにはまず味方からというのも実践するのがグレカーレである。

 

「あちらの性格の悪さから言っても、搦手は嫌ってほど用意されているでしょうね。なら、予想出来るものは全部予想しておいた方がいいわ。私達は奇襲部隊、こそこそ攻め入るのが目的だもの。変な罠に引っかかりたくはないわ」

 

 神風もグレカーレの考え方には同意。そして、予想出来るモノというのもある程度は話す。

 

「考えられるのは、地雷とかの罠ね。トーチカの時に喰らってるんだっけ?」

「ああ、あれは夕立がわざと踏んでぶっ壊そうとしたけど、何回踏んでも爆発するとかいうクソみたいな仕様だったな」

「そういうのもあるかもしれないわ。コレまでの集大成だと思っておいた方がいい。それに、そういうのがあったことを逆手にとってくる可能性もね」

 

 考えすぎたらキリがないと苦笑はするが、警戒するに越したことはない。そのため、ここまでに受けてきた敵の罠という罠を全部思い返して、その対策に関しても先んじて話し合っておく。

 上から見てそれがあるとわかったならば御の字。地雷のように見てわからないモノに関しては、現場で警戒しながら進む他ない。

 

「あと確実にあるのは、煙幕対策だろう。私がこの力を与えられた時、最も重要だと持て囃された記憶がある」

 

 磯風の『空冷』のような、風を起こす力を持つ者も何処かにはいそうである。特異点封じとして最優先で使われることは、これまでの戦いで身に染みている。

 海に直接流し込むという裏技を決めた時もあったが、今回は陸だ。そんなことは出来ない。地面に流し込むなんてことはおそらく出来ないだろう。

 

 

 

 

「人気者は辛いぜまったく」

 

 皮肉を口にする深雪に、一同はクスリと笑みを浮かべた。緊張は程よく解れ、戦いに向けてさらに前に進めるようになっていく。

 

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