島への潜入を試みる奇襲部隊は、まず島の何処から入るかを探していたところ、山汐丸が艦載機をなるべく低く飛ばし、良さげな岸を発見。そこからの潜入を試みる。
今はまだそこまで辿り着けていないが、そこまでの航路に妨害するようなモノがないことも確認出来たため、迅速に岸まで移動し、潜入を開始することとなった。
「ここからが本当に始まりってわけだな。陸に上がっちまったら、何が起きるかマジでわからねぇ」
「ミユキはなるべく煙幕撒けるようにしておいた方がいいかもね」
「だな。過信はしねぇけど、使えるモンは使っていくぜ。インチキとか言われる筋合いもないしな」
深雪はすぐにでも出せるように、左手に力を込めておいた。今から溢れさせる理由がないため出してはいないが、到着した瞬間から全開で使えるように。
「多分、こうしているのも見られていると思うわ。山汐丸の艦載機よりもかなり上の方から見るってことも、多分してる。高高度からの監視は常にあると思っておいた方がいいから」
神風はチラリと上に目をやる。釣られて全員が上空に目を向けた。今日はすごく良い天気というわけではなく、雲もそれなりにあるものの、雨の心配はないかという程度。陽の光も今は雲に遮られている。
そんな状態でも高高度から監視しているかもと言われたら、奴らならそういうことをしてくるかもしれないと素直に納得してしまう。
「それに、海の中も注意は必要よ。電とかはソナーを全開で使ってくれてると思うけど」
「なのです。そのあたりは怠っていないのです」
「前に『ステルス』がいたからね、ソナーだって正直信用してないわ。本当に何してくるかわからないもの」
神風も急に何か出てきてもいいように、常に片手は刀の柄を握っている。例えば、突如潜水艦に襲われるなんてことがあったとしても、浮上してくるようならぶった斬る。そうでなくても爆雷で撃破。
海の上では足下も注意しなくてはならないが、陸はそれが無くなる分、少しは他の部分に注意を向けることが出来るからいいと、実際は艦娘には不利な環境であってもいいように捉えていた。
確かにも誰もが納得はしていたものの、脚部艤装で迅速な行動が出来なくなるデメリットを打ち消すことが出来ているかと言われれば、それは何とも言えない。だが、そう出来るように今日まで訓練を積み重ねてきている。
「問題になりそうなのは、やっぱ『迷彩』か」
「なのです。今日は電が見つける装備を持ってきていますけど、それでも不安は不安なのです」
これもまた厄介なのが、『迷彩』の存在。一切の痕跡を残すことなく接近してくる敵は、それがいるとわかっていても簡単に対処出来ない存在である。いてもいなくても警戒は必須であり、むしろそうさせることに意味を持たせているようにすら思えてしまう。警戒する事項が増えれば増えるほど、前進が遅くなってしまうのは自明の理。恐れながら進んでいては、嫌でも牛歩になる。
だが、戦力を落とさないように進むためには仕方ないこと。時間をかけてでも確実に一歩一歩前に進むことで、この島を攻略していきたい。最悪の場合は一度撤退だって考えている。
「これまでに出てきた奴らのことはちゃんとおさらいしておいた方がいいな」
「まだ岸に着くまでに時間があるわ。心構えのためにも、復習しておきましょ」
こうして、奇襲を仕掛けるまでの時間の間に、過去起きたことを思い返し、どのようにすれば対策出来るかを考えておく。割と力押しでどうにかなるとなっていくのだが、それはそれで緊張が解れてちょうどいいと笑いに繋がった。
そして、その時は来た。
「こちらになるのであります」
「うむ、都合よく上陸しやすくされているのは、誘導されているような気がして気に入らんがな」
熊野丸がそういうのもわかる。山汐丸が発見した上陸しやすそうな岸は、他のところと比べても大きめに場所を取られている。まるで海水浴場のような浜辺。
大発動艇もある程度は乗り上げることで固定もしやすく、急に波に流されるようなこともなさそう。使っているのが艦娘なので、もし大発動艇が失われたとしても、その足で帰ることは可能なのだが。
総勢20人強の奇襲部隊が全員浜に上がったところで、ここからの行動を再確認する。
「流石にここまで大人数で固まって行動するのは危険すぎると思います。調査隊軍港連合は、一旦別行動をし、この島について調査したいと思いますがよろしかったですか?」
調査隊の神通がまず自身の意見を展開。
この調査隊軍港連合は、軽巡2駆逐4の水雷戦隊。小回りが利くのは他の部隊と変わらないが、元々の所属が調査することに特化していることもあり、まずはこの島の調査を優先したいと話す。
調査隊だけでは不足する可能性がある戦闘力も、軍港鎮守府屈指の実力者がサポートすることで、緊急時にも対応が可能になるだろう。特に軍港都市戦でもその力を遺憾無く発揮し、陸戦でも問題なく戦えることを証明しているため、信頼度は高い。
「ええ、お願いするわ。こと調査という点に関しては、私達じゃ足元にも及ばないもの。先んじて調べてもらえるのはありがたいわ」
「なるべく迅速に動くつもりです。今回は調査に姉さんも使えますので」
「身軽さなら任せてよね。木の上から建物の上まで、何処だって見に行くからさ」
調査隊にはあまりいない軽業師も、軍港の夜戦忍者がサポート。誰よりも速く高台に上がることが出来る上に、目も非常に良い。遠方まで視界が拡がるのは、調査隊としてもありがたい。
特に今は艦載機を使える者が山汐丸しかいない環境。その山汐丸も、撃墜覚悟で島の外観を確認しているところ。電もマルチツールでドローンを飛ばせるものの、それはどちらかといえば高く飛ばすよりは長く飛ばす方で考えている。進む道の安全性を確保するためのアイテムだ。
そういう意味では、川内という目が増えることは良い事尽くめである。使わない理由がなく、使うならば調査隊であろう。
「地雷だけは気をつけて。目が良くても見えないモノだから」
「了解。確かに地雷だけはどうにも出来ないからね。なんか埋めた跡とかあれば目敏く見つけられるかもだけど、気をつけるしかやれることはないからね」
高台を次から次へと跳んでいく川内に地雷は通用しないかもしれないが、他の者はそうはいかない。
白雪のハッキングでその機能が止められればいいのだが、それも難しいのならば避けて通る以外の選択肢が無くなる。もしくはわざと砲撃か何かで破壊するか。
「トーチカで戦った時は、無限地雷っつーのもあったからな。爆発してんのに壊れねぇの」
「そ、それは厄介ですね……でも、それもあり得る話なのでしょう」
「ああ。今まで戦ってきた奴と同じ力を持ってる奴が全員いるって考えた方がいいからさ」
こちらも総合力で立ち向かうならば、あちらも総合力で出迎えてくるだろう。互いにコレまでの力を結集してぶつかり合うことは目に見えている。
「我々はそちらについていくべきか。護衛が必要とは思えんが、先行するなら我々の力も必要だろう」
「そうですね、お願いします。熊野丸さんの膂力と、山汐丸さんの艦載機は、調査にも必要となるかと思いますので」
「了解した。ならば、我々陸軍は調査隊の予備戦力として同行させてもらう」
熊野丸と山汐丸も調査隊軍港連合に加わる。意図せず、軍港都市地下施設突入組が集まることになったようである。
その実力は既に知られており、熊野丸が持つ緊急時の破壊力と、山汐丸の今も使っている艦載機による空の目は、調査隊には必要な力であろう。
「それでは、先んじて進ませていただきます。少し強引な対処をする可能性もありますので、そこは御留意を」
「わかったことがあったら、暁がすぐに連絡するわ。電と子日は、注意しておいてね」
「なのです!」
「はーい。よろしくお願いね」
ここからはまず分散。調査隊軍港連合が、浜辺から割と行きやすい正面の道を進むこととなった。
回り道をするよりは広い道が広がっており、敵からの監視からも丸見えであろうことは予想されるが、そこは調査隊、早速白雪が手元のコンソールを操作しているところから見て、
「相変わらず白雪が何かやってんな」
「今回は全部の許可を取ってきたらしいわよ」
「許可……って、そういや、あん時昼目司令が言ってたな。法が適用されなくなるって」
「そうそう。白雪がやってること、何も許可無かったら結構凄いことみたいだから。あんまり深く知ろうとしないことね」
そんな神風の言葉に、深雪はゾッとした。何か機械をイジって、何をしているかもわからないが、それが確実に法に触れることであり、さらにはそれを許可を貰ったことで軽々とこなしているという事実。
どちらかといえば、白雪がそういう技術を持っているということが恐ろしかった。艦娘になる前にいろいろあったのだろうが、そこに触れないのが暗黙の了解。戦闘力よりも、そちらで調査隊に貢献していることは間違いない。
「さぁ、私達も動き出しましょ。調査隊に先行してもらってるとはいえ、ここでジッとしていても始まらないわ」
「だな。時雨、もう別行動で行くか?」
残った2班のうち、時雨班の旗艦である時雨にどうするかを尋ねると、少し悩んだ後、いやと首を横に振る。
「こちらには一応この島のことを知るフレッチャーがいるからね。調査隊とは別方向で、島の内部に入ることが出来るだろう。気になるのは街の様子。もしかしたら、あえてそちらに隠れ潜んでいるなんてことだってあり得るだろう」
「じゃあ、そこを突いてみるってことか」
「ああ。奴は中心にいるとは思うけれど、回り道も必要だと思うしね。この島の街にも向かってみないといけない。だったら、僕らは一度纏まってそちらに向かってもいいと思う」
島の中には港があるわけだが、そことは離れたところにも当然街と言えるところはある。海は見えるが、海からは離れた場所。
港は正面突破の部隊が攻略中であるため、こちらはそことは別の街に向かうこととした。真っ直ぐ中央部に行くことも考えられるが、街はその中央部に繋がっている場所でもあるので、戦いやすい場所として考えるなら、木々に囲まれた場所よりはまだマシかと。
「街中での戦いもあり得るんだよな……なるべく壊さないようにしねぇと」
「向こうが壊してくるのは止めやしないよ。勝手に壊しておいてこちらのせいにしてくるようなら、その分口で捩じ伏せてあげようかな」
裏切り者鎮守府を相手にした時の論破が余程気分が良かったのか、今度の敵である島民にも口で言い負かす気満々である。そんな時雨に、一同苦笑。
「さ、ぼさっとしていられないわ。そろそろ私達も動きましょ。勿論、罠には細心の注意を払ってね」
「おうよ。じゃあ、行こうぜ」
ついに始まる島攻略。まずは港とは違う街に入り、中央部への踏破を目指す。