調査隊連合とは一度別れ、乗り込んだ島の街へと進軍を開始する深雪班と時雨班。この島の中央部に位置する施設に阿手がいると予想はしているものの、そこに着くまでにはいろいろと道があるため、まずは港とはまた違う街に入り、そこから中央部を目指すカタチとなる。
その前に睦月は岸につけた大発動艇の1つを『軽量化』を使って持ち上げ、咄嗟に使える武器として持ち運ぶことに。街中を歩くとしたら若干大きすぎるかもしれないが、その時はその時。流石に周りを破壊しながら進軍なんてことは考えていない。狭いようなら置いていくことも考えている。
それもあるので、最初の進軍は少し開けているところを優先して通っていく。監視されていることがもうわかっているので、堂々というわけではないが胸を張って。
「軍港みたいな街では流石に無いよな」
「そうね、港町でもないっていうことだし、こういうところなら、そこまで家がズラッと並んでる感じでも無いと思うわ。畑とか田んぼとかは……どうなのかしら」
より内陸部なら畑とかもあるかもしれないと神風は語る。阿手が自分の目的のために、街そのものを改造している可能性も無くはないのだが、あまり改造しすぎると外観からもそれが丸見えになってしまうだろうから、そういったことはしていないと予測している。
「神風さんの言う通り、そこまで家が建ち並んでいることはありませんが、密集していないというのもないです。ここには学校もありますので、その近くは家がそれなりに多く建っています」
その説明が出来るのは、元々ここにいた経験のある米駆逐棲姫の記憶を持つフレッチャー。島の中を歩いたこともあるらしく、
「地雷とかは無いみたいだねぇ。あ、道路に出たじゃん。ちゃんとその辺は整備されてるねぇ」
「田舎とはいえ有人島ですから、住むための整備は万全にされています。車だってあるわけですし」
「言われてみればそっか。島だ島だと言ってたけど、ここってそれなりに人住んでるみたいだし、思った以上に大きい島みたいだし、それなりに整備されててもおかしくないのか」
グレカーレが警戒しながらもアスファルトでちゃんと舗装された道路に一番乗り。狭い島というイメージはなく、車線も区切られた道路が走っている辺り、別にそこまでの田舎というわけではない。
純粋種である深雪達は、そういったことはハッキリと知らない部分もあり、田舎と聞いたら道路が舗装されてもいない土の道が走っているかなんて思っていたものの、流石にそこまでではないようである。
道路ということもあり、これまで以上に開けた場所。神風はすかさず上空に目をやったところ、その目にはやはり高高度の哨戒機が映った。
乗り込んだことはバレている。こうする前から見られていただろうが、上陸したことは伝わったと考えていい。
「流石に開けたところに出過ぎてるわね。でも、これ以上コソコソは出来ないか。あちらもその辺り考えてるのかしら」
「かもしれねぇな。敵は何処かに隠れてるかもしれねぇ、周辺警戒するぜ」
「お願い。何なら煙幕も出しておいた方がいいかもしれないわ」
深雪は薄くだが煙幕を流し始めた。視界を塞ぐような濃さではなく、しかし仲間達は全員包むことが出来るくらいに。
急な攻撃に対応出来るように、誰にもやられてほしくないという優しい願いに応え、煙幕の効果は感覚の鋭敏化となった。視線や殺気に瞬時に反応出来るようになれれば御の字。
「家、見えたのです」
まだ進み始めて少し。電が指差す方向には、それなりに何件も民家の建ち並ぶ光景。まだ街というものは軍港都市くらいしか知らないため、家がそんなに高くないことや、店などがぱっと見存在しない風景というのが非常に物珍しいモノになっている。
「敵が家の中に隠れてる、なんてことも普通にあり得るんだよな」
「あるでしょうね。逆に、この時間に人っ子1人見当たらないことも異常でしょ」
今は昼。誰かしら仕事をする者がいてもおかしくないし、今日が休みだとしても子供などが遊び回っていてもおかしくない。それなのに、とても静かな街並み。島内に入ったにもかかわらず、港での戦闘音が聞こえてくる程である。
戦闘が始まったから避難しているという可能性も普通にあり、奇襲部隊を街中で迎撃するという考えは無いのかもしれない。だが、建ち並ぶ家屋は平屋だけで無く二階建てのモノもあるため、上から狙ってくる可能性は充分にあり得る。
「まずはフレッチャーが言う学校とやらに行ってみないかい。そこもそれに見せかけて奴らの施設になっているかもしれないだろう」
「だな。フレッチャー、お前の中の記憶じゃあ、学校ってどんな感じなんだ」
「機関としては、まだ普通の学校です。教育内容はお察しください。強制的に落ちこぼれを作るような教育をしているようですし」
まさにフレッチャーの中にある米駆逐棲姫が受けたモノを、今ここでも実践しているということ。
ならば、子供達への洗脳教育を実際に施している場所ということで間違いないわけである。
「阿手の野郎が無茶苦茶にしてるってことだな。なら、本当に行かなくちゃいけねぇところにも繋がってるかもしれない。行ってみる価値はありそうだ」
「そうね。じゃあ、まずは慎重に学校に行ってみましょ」
「それじゃあ、子日が先行して見てこよっか? そういうための力だしね」
子日の『迷彩』と、その運動神経からして、こういう場では先行して先の様子を見に行くことはやっておきたいと思うのは常。ただ、まだ開けた場所のため、もう少し入り組んだ場所に入ってから別行動の方がいいだろう。
「ああ、頼むよ子日。慎重に進むためにも、君の力が必要だ」
「にゃっほい! 時雨ちゃんに言われると嬉しいねぇ♪」
「事実を言ったまでさ。頃合いが来たら頼むよ」
今は難しいため、もう少し進んだところでGOサインが出せるだろう。なので、今はまだ共に行動。街に入ってからが本番と言ったところか。
「舗装されていても地雷はあるかもしれないし、家そのものが罠の可能性もある。私達は慎重に行きましょう。梅、いざとなったら『解体』していいわ」
「りょ、了解ですぅ。家とか壊すのは気が引けますけどぉ」
「いざという時だけよ。もしかしたら邪魔するためにバリケードとかあるかもしれないし」
「なるほど、そういうことなら」
奇襲を受けることを想定しているのなら、そうなっていてもおかしくはない、今この街並みに人が全く見えないというのも、既に予想されていたからと考えることも出来る。隠れ潜んでこちらに狙いを定めている可能性もあるため、身を隠すためのバリケードだって考えられる。
梅はそういったモノを全て『解体』出来るため、進路妨害は大体どうにか出来るだろう。
話しながらも、一行は街の中に足を踏み入れた。まだ何もないが、障害物に囲まれるような場所となるため、開けていたこれまでよりも確実に注意を払わねばならない。
「……ストップ」
ここで神風が進むのを止める。その視線の先には──
「……ここの住人かしら。趣味は悪いけど」
街の奥。民家の向こう側から、わらわらと現れたのは、明らかに出来損ないである。見た目だけでいえば、老若男女勢揃いのバケモノ達。港へ進軍しているモノ達を邪魔するそれとは別の部隊であろう。
いわゆる、適性が無かった者達。改造を施されたが、カテゴリーYにはなれなかった人間が、この街を守るかのように彷徨いていたと思われる。
深雪達がここに来ることなど関係なしに、この街に解き放たれているのではないかとも考えられる。ここならば外観としては見えない場所。中央部の施設に収容しておくのも面倒だからと管理を放り投げているのではないか。やることをやっているのに失敗作にはこの仕打ち。そう思うと、阿手の醜悪さがより見えてくる。
「誰かが『操縦』しているかはわからないけれど、なるべくなら見つからないようにした方がいいかもしれないわね。一度道を避けましょ」
「ああ、アレに自爆されても困るしな」
満場一致で、余計な戦いを避けるために、出来損ないを回避する選択。出来損ないをいちいち相手にしていたら、時間がいくらあっても足りない。それに、余計な消耗もさせられる。体力は無限ではない。
幸いにもこの周辺の街並みは、狭い通路がいくつもあるような場所だ。本当に民家ばかりの場所であるため、そこに入り込めば、あちらの視界には簡単には入ることはないだろう。とはいえ、狭いということはいざという時に逃げにくいというのもあるのだが。
「民家も気をつけて、一度横道に逸れるわ。上も気をつけて。家の二階から跳んでくることも考えるわよ」
「むしろこういうところに誘い込まれてる可能性もあるもんな……っ」
前だけでなく、上も下も気をつけなければならない市街地戦。細い道のため、睦月は大発動艇を縦にして持ってきているくらいの通路ではあるが、何とか出来損ない達の目は誤魔化し、先へと進む。
本来ならば出来損ないもしっかり斃してから向かうべきなのだろう。本来の戦いの最中に後ろから襲われる可能性だってあるのだ。対処出来るモノは対処しておきたいと考える。
だが、
「上から見られてる感じする?」
「……するな」
煙幕によって鋭敏になった神経が、それを感じ取った。出来損ないを避け、横道に逸れたことで、家屋が多めに建ち並ぶ少し狭い路地へと入ったためか、急に複数の視線をその身に受けているような感覚。
二階建ての家屋の上、そこから見下ろされているとすると、今は狙い撃ちにされる可能性が高い。
「これが戦闘の始まりになるってことかよ。ちょっと、強めに出すぜ!」
そこで深雪が煙幕を一気に噴出する。一行はそれにすぐさま包まれ、その姿は外部から見られなくなった。
すると、二階がガタガタと鳴り出すのが聞こえた。やはり敵が隠れ潜んでいたと考えられる。しかし、そこからやられるのは、久しぶりのコレ。
「ブロワー!?」
トーチカ戦で受けた、『拡張』されることで煙幕を吹き飛ばすほどの送風が可能になったブロワーが、各所から起動する。拡げた煙幕はあっという間に吹き飛ばされ、隠していた姿はすぐさま露わになってしまった。
煙幕対策は万全だろうとは考えていたモノの、早速それが使われることになるとは思っていなかった。
「まぁ、最初から期待してねぇよ。炙り出すことには成功したんだしな!」
ブロワーを使うということは、それを使っている者が表に出てきたということに他ならない。
まさに家屋の二階。ベランダから身を乗り出してブロワーを構えている者が複数人。その見た目は、いわゆる小鬼群。PT小鬼群に加え、さらに硬いSボート小鬼群の姿も見える。
狭い路地では小回りが利く方が有利。しかも地の利があるのは確実にあちら側。それを知っての采配と言えよう。
「それじゃあ、襲撃初戦の開始ね。出し惜しみ、しないわよ」
刀に手を掛ける神風。深雪も拳を強く握り締め、迎撃態勢。他の仲間達も、各々やれることをやるために準備万端。
最初は小鬼群の妨害。ここからが始まり。