後始末屋の特異点   作:緋寺

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路地の攻防

 ついに島内に乗り込んだ深雪達だが、家屋建ち並ぶ集落に入り込もうとした際に、彷徨く出来損ないを発見する。余計な戦いを避けるために少し裏道に入ったのだが、そちらではPT小鬼群とSボート小鬼群が『拡張』されたブロワーを手に現れた。

 深雪の煙幕対策として猛烈な風を起こすことで吹き飛ばし、特異点の力を封じた状態で、他の小鬼群が主砲や機銃を構えていた。家屋の二階から狙い撃ってこようとする者も多く、同じ土俵には立たずに一方的に特異点を殺してやるというわかりやすい殺意が見えていた。

 

「本来小鬼はああいう武器は持てないわ。しっかり改造されてるわね」

「改造深海棲艦ってことだな。なんか久しぶりに聞いたぜソレ」

 

 本来扱えない兵装も扱えるようにされている、改造深海棲艦。この小鬼群達のカテゴリーは今はまだわかっていないが、RであれYであれ、あらゆる方向で改造が施されていると言えるだろう。前者であれば、コントロール出来るように艤装人間のようなことをされているだろうし、後者であれば、そもそもが元人間。ある程度戦えるようにはされているようである。

 

「電、通信機からイリスに見てもらえるんだっけか」

「要所要所で確認してもらうつもりだったのです。いま見てもらってるのです」

 

 電の持つ通信機は、子日や暁、うみどりと話すだけでは終わらない。イリスもこの戦いに遠方から参加し、カメラ越しにカテゴリーを判断するために常に準備をしている。特に電は、特異点の補助装置として、最も狙われるであろう深雪の傍に必ずいることから、音声だけでなくカメラも搭載している。

 そのカメラで見てもらった小鬼群のカテゴリーは、一部Y、そしてほぼRという結果になった。

 

「単純な動き、風を送ってきてるのが純粋な深海棲艦なのです。武器を持ってる方の一部が元人間なのです」

 

 そこまでの分析をしてもらったところで、ここからの方針は決まる。まずはブロワー持ちを始末するところから。

 

 こちらは元人間ではなく、おそらく()()()()()()()()純粋な深海棲艦。ならば、より容赦なくその存在を終わらせてもいいと考えられる。出来損ないと同様に、命を奪うことに躊躇いを持つ必要はない。

 ここで深海棲艦まで始末することを可哀想だと思っているようでは、先に進むことは出来ないだろう。造られた存在なら尚更だ。優しさに付け込んでこちらの手を止めさせようだなんて狡い手段を使ってくる可能性も無くはないので、それならばとこちらも容赦はしない。

 

「ならまずは、乗り込むっぽい!」

 

 ここで真っ先に動き出すのは夕立。自分達と同じ場所、同じ視線の高さにいるわけでは無く、全員が高台を取って上から狙ってやろうという魂胆なのは見えているのだから、まずそちらに乗り込んで二階から引き摺り出してやろうというのが夕立の考え。

 

 だがその前に、あちらが動き出す。ブロワーの風をそのままに、武器を持つ者全てが深雪に向けて砲撃を放ってきた。

 やはりカテゴリーYには誰が特異点であるかは丸わかり。後光が差しているような者を集中して狙えというのがあちらの指示か。

 

「そんなの当たらねぇよ」

 

 その砲撃は、どちらかといえば狙いを定めて放たれているとは思えない稚拙な攻撃。避ける方向を予測するようなこともせず、持たされた武器を好きなように使って、碌に訓練を受けることなく振り回しているに過ぎない。

 そんな攻撃に、ここまでトレーニングを積んできた深雪がやられるわけがなかった。少々狭い路地とはいえ、すぐさまステップを踏んで着弾地点から回避。もしそれが秋月のような『連射』を持っていたとしても、主砲に振り回されているような攻撃が当たるわけがない。

 

 それは深雪だけで無く、他の者達にも同様。適当に撃たれているようなモノであるため、しっかりと仲間達との間合いを考えることが出来ているのならば、当たるようなことはない。

 

「行けるかい、夕立」

「余裕っぽい! 子日も!」

「にゃっほい!」

 

 そして、その攻撃を軽々避けた後、夕立と子日が散開するように跳ぶ。そのジャンプ力は相変わらずで、軽く家屋の壁を蹴るだけで当たり前のように高く高く登って行き、あっという間に二階に到着。そんなことをしてくると思っていなかった小鬼群は目を丸くしたが、そんなことをしている余裕なんてあるわけがない。

 

「ぽいっ、ぽいっ、ぽいぽいぽーい!」

 

 夕立は目に付くブロワーを持っていない小鬼群を片っ端から掴んでは、家の外に放り投げていく。家から無理矢理追い出されるようなもので、抵抗しようにも小鬼という小柄な体型が災いして、少し掴まれて放られるだけでも、何も出来ずに路地に投げ捨てられる。

 返しで主砲を放とうにも、夕立は避けることすらせずに『ダメコン』で跳ね返してしまう。自分の攻撃が効かないと嫌というほどわからされ、これまではやる気に満ち溢れていたようだが、一転恐怖に包まれていた。

 

「何今更怖がってるのかな。こっちは殺されそうになってビクビクしてるのに」

 

 言葉とは裏腹に、夕立と同じように武器を持つ小鬼を次から次へと家の外に追い出していく子日。『迷彩』を使うまでもなく、半狂乱で放たれる砲撃も軽々と避け、掴んで投げたり、時には乱暴に蹴り出したりと、とにかく屋内を占拠する者達を斃しやすい屋外に締め出した。

 

 ブロワーだけを持っている小鬼は、むしろそれ以上武器も持っていないようなので、放置しても怖くないレベル。だが、武器持ちを追い出したらしっかり始末をつけるつもりである。武器を隠し持っていても困るし、逃げて余計なことをされても困る。

 

「深雪達はまだ温存してなさい。煙幕は意味がないからもう切ってるわよね」

「おう、風があるうちは使わねぇよ」

「なら、ちょっと見てるだけでいいわ。まだこの程度なら、数人で片付ける」

 

 ここにいるのは13人。だが、この程度なら全員で攻撃をする必要はない。むしろ、周辺警戒を厳として、挟み撃ちを喰らわないようにするのが、他の者達の役目。

 今の路地に入って来た時の道から押しかけられたら厄介である。先程見かけた彷徨く出来損ないも、ここでの戦闘音に引き寄せられてこちらに来るかもしれない。

 

「もし何者かが来ても、我々で食い止めましょう、磯風様」

「ああ、任せろ。まずは冷やして固めて動きを止めればいいだろう」

「はい、この白雲の『凍結』と、磯風様の『空冷』で、全て止めてしまえばよろしい」

 

 背後の警戒は空間を冷やす白雲磯風コンビ。その空間冷却は、誰であっても回避することは出来ない。ただ彷徨い歩くだけの出来損ないならば、より効果的であろう。問題は全て自爆するかどうかになっているが、凍らせてしまえばまずは不安が取り除かれる。

 

「この程度ならまだ戦えるわ。落ちてきたのから処理していく」

「りょーかいなのね! ぶっ飛ばすにゃしぃ!」

 

 夕立と子日が締め出した武器持ちの小鬼達は、地面に叩きつけられたことで、少しだけ動きが鈍くなっている。相変わらず自己修復だけはしっかり持っているようなので、コレで傷ついたとしても、すぐに治ってしまうだろう。

 そうさせないように、追撃を決めるのは叢雲と睦月である。叢雲が手に持つ槍で軽々とかち上げたかと思えば、前進した睦月が大発動艇を叩きつけて地面にめり込ませた。叢雲は槍を突き刺すわけではないのでまだ加減はしているし、睦月も手を離すようなこともしていないので加減をしている。

 

「このまま首を落としてもいいけど、今はそこで黙ってなさい。でも武器は取り上げさせてもらうわよ。梅、お願い」

「はぁい。子供が危ないモノを持っちゃいけません。二度と使えないようにしますね」

 

 ここまで一方的だと、敵も動揺が隠せないようだが、それに追い討ちをかけるのが梅の『解体』だった。叢雲にやられ、睦月にやられ、どうしようと悩む暇も与えずに既に梅が近付いていた。

 そして主砲に触れたかと思うと、そのまま主砲が破壊されて、そのままただの鉄屑に変化。手に持っていても意味のないモノにされてしまった。

 

「ついでにこっちも」

 

 さらには、小鬼群が被っている艤装のようなヘルメットなども軒並み『解体』していき、戦いに使えそうなモノは何もかもを破壊。艤装が無くなれば徒手空拳で抵抗することも出来なくなり、見た目通りのただの子供になってしまった。

 いや、見た目はそうかもしれないが、()()はわからない。大人の外見の子供が正面突破部隊に襲いかかっていることも考えると、逆に子供のような外見のコレらは全員大人である可能性もある。

 

「こっちはここまでしてもよかったよね」

 

 そう言いながら家屋の二階から降りてきた夕立。その手にはブロワーを使っていた小鬼の首だけが握られていた。確実に絶命しており、ヘルメットがあっても恐怖と苦悶に満ちた表情をしているのが手に取るようにわかる。

 こちらは純粋な深海棲艦であることを見抜いているので、何も容赦せずに縊り殺している。夕立だけでなく、子日も同じように木っ端微塵にしているため、たまに家屋二階から残骸が飛び散ってきていた。

 

 そんな光景をただただ見せられることになった敵カテゴリーYは、特異点とその仲間達の強さに震えることしか出来なかった。

 

「こっち側の家の中はもう誰もいないよー。全部壊しちゃった」

「お疲れっぽい。夕立も全部終わってるよ」

 

 子日も二階から跳び降り、ブロワー部隊が全滅したことを伝える。ここまで数分もかかっていない。あまりに鮮やかな終わりに、まだ温存している深雪達はおおと感嘆の息を漏らす。

 本気なんてまだ出しちゃいない。いくら小鬼群であっても、素人集団ならばこの程度でおしまい。敵にもならない。

 

 残骸を見せつけられ、自分達も手も足も出ず、次は自分達がやられると思ったのか、艤装も何もかも『解体』された小鬼の1体が、なんでこんな目に遭うんだと泣きそうになっていた。

 それを見た時雨が、わざわざその小鬼の前にしゃがみ込み、満面の笑みを浮かべて言い放つ。

 

「君達が攻撃をしてきたからやり返しただけなのに、自分達がやられたら泣き出すのかい? こちらが同じことをしたら指を差して嘲笑するだろうに。因果応報という言葉を知っているかな。言っておくけれど、先に手を出したのは間違いなく君達だ。話し合おうともせずにだ。ならば、こうなるのは仕方ないよね。だって、僕達がやっているのは殺し合いなんだから。君達だけが一方的に殺せるわけがないだろうに。まさかそんなこともわからずに戦場に立っていたのかい? 未熟とかそういう話じゃ無くなるんだけれど、よくもまぁそんな心構えで戦場に立てるモノだよ。君達を管轄する奴の頭の悪さが露呈しているね」

 

 気持ちよさそうに本心を吐き出す時雨に苦笑しつつ、お前は何もしてねぇだろとツッコミを入れておく深雪。

 

「戦いは終わりましたか。でしたら、すぐに進んだ方がいいでしょう。出来損ない共が、ここの音を聞きつけて動き出しております」

「背後は取られないように白雲と凍らせておいたが、やはり見られているな、明らかに狙ってきているぞ」

 

 そこは予想通り、徘徊していた出来損ないが、まるで命令を受けたかのように真っ直ぐこちらに向かってきていたらしい。今回は白雲と磯風の連携によって足止めが出来たようだが、ここからは人数が次々と増えてくる可能性がある。

 

「じゃあ、さっさと行くか。止まってる理由も無いしな。行くぞ時雨」

「ああ、わかってる。コレはどうするんだい」

「気絶させて家に押し込んどけばいいだろ」

 

 それもそうだねと、丸腰の小鬼の首を掴んで、家の中に放り投げた。玄関と思われる場所に叩きつけられ、そのまま気絶。他にも意識がありそうな小鬼は同じように処置された。

 ちなみに、純粋種であろう小鬼は、しっかり縊り殺されている。そこは一切容赦しない。

 

 

 

 

 初戦はこれで終わったが、居場所が見られていることもあり、ここからは追って追われての戦いになるだろう。学校まではなるべく温存を続けて、まずは到着を目指したい。

 

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