島の街並みに入り込んだところで襲われた深雪達だったが、敵の未熟さなども重なり、難なくそれを突破することに成功。おそらくこの島で造られたであろうカテゴリーRはその場で始末し、カテゴリーYは戦意喪失させた挙句に気絶させている。
しかし、この戦闘音に反応したか、島を徘徊している出来損ないが深雪達の方へと向かってきていることが判明。白雲と磯風が組むことで足止めは出来るが、余計な戦いは出来るだけ避けたい。
「さっさと先に進むぜ。どうせ学校とやらに行くんだ。今は退くよりも進んだ方がいいだろ」
「ええ、立ち塞がる敵は逐一対処して、前進を止めないように行きたいところね」
勿論、ダメと思ったらすぐに引き返す覚悟だって出来ている。今はまだ余裕があるため、前進を選択するのみ。
「この戦いが、あちらにも狼煙になったでしょうね。ここから多分、ガンガン来るわよ」
神風のこの予想は、すぐに的中することとなる。
あちらは自分達の島がどうなっても構わないと考えているのか、陸でも当たり前のように砲撃を放ってくる。建物が壊れようが、地面が抉れようがお構いなし。
強いて言うならば、爆撃で全てを破壊してしまおうと考えていない辺りはまだマシだった。今後もこの島を使っていこうと考えているのか、それともここにいる部下達をそうやって失うのを躊躇っているのか。一線を越えたらこちらも乗り込むのではなく島ごと消し飛ばす選択をしかねないため、それをギリギリのところで抑え込むためか。
「にしても、やっぱり技は無ぇな」
深雪が呟く。進行を妨害してくる敵は、地形に対しての容赦は全く無いものの、その腕は素人に毛が生えた程度だと推測された。
深海棲艦の身体を手に入れただけで常人よりは確実に強くなっているが、ただそれだけで訓練された艦娘には及ばないというのに、高次の存在になれたのだと慢心に慢心を重ねている。
そのおかげで、攻撃は雑も雑。まともに狙いを定めるわけでもなく、ただひたすらに撃つだけ。確かに当たれば即死級ではあるのだが、当たらなければどうということでもないし、そもそも当たるような軌道で飛んでこない。
「でも、油断はしねぇ。それを偽ってるかもしれねぇしな」
「ええ、そう考えながら戦ってもいいと思うわ。これが全部今後の布石にされてることも予想出来るものね」
深雪の心構えに神風も同意する。どう考えても
「獅子は兎を狩るにも全力を尽くすって言うもの。私達は獅子になりましょ」
「大それた言い方になっちまうけど、そうだな。どんな時にも手を抜かねぇよ。とはいえ、出しすぎて息切れしないようにはしねぇと」
現れる敵を対処しているのは、まだ有り余っているほど元気な夕立がメインである。
先程小鬼群の襲撃を受けた路地から離れても、まだ街中ということで、周囲には当然建物は並んでいるため、その壁やら屋根やらを使って縦横無尽に動き回り、敵を翻弄しながら確殺していった。無論、命を奪うのはカテゴリーRのみ。カテゴリーYだとわかっているなら、Rの残骸などまで使って攻撃し、殺さずに痛い目を見せた挙句、自分達の弱さを突きつけた後に気絶させている。
まだそれくらいの加減が出来る敵ばかりなのでそうしているが、そうでない敵、残虐非道なカテゴリーYが現れたら、その限りでは無い。相手が人間であっても、息の根を止めなくてはいけないと判断したならば、一切の容赦なく、その命を奪う。
「フレ子、学校ってまだ先?」
現れる敵を確実に斃しながら、案内役のフレッチャーに問う夕立。真っ直ぐ向かっているはずなのだが、やはり敵が現れることもあって少しずつ道が逸れていくのは仕方ないこと。
「回り道をさせられています。ですが、そろそろ見えるかと」
「なら子日がちょっと見てくるよ。あまり暇が無かったから一緒に戦っちゃってたけど、隠れて先行するのが子日のお仕事だしね」
言うが早いか、建物の陰に向かった子日が『迷彩』によって姿を消す。一応は高高度からの哨戒機に見えないように配慮して、その力を使っていた。
「子日、危ないと思ったらすぐに帰ってきてくれよ!」
「りょーかい! じゃあ、すぐに行ってくる!」
こうなると移動しても音すら聞こえない。最後の声は既に少し遠かったくらいである。
「バリケードもありますねぇ。予想していた通りですよぉ」
より細い路地に入ろうとすると、そこには進行を妨げるように作られたバリケードが鎮座していた。その見た目からして、うみどりの襲撃に合わせて咄嗟に作ったわけではなくて、最初からそこにあったかのよう。だが、フレッチャーはその存在を知らなかったということもあり、作られたのは最近だが、前以て作られたという見解に。
そんなバリケードは梅がしっかり『解体』していく。どれだけ大きく積み上げられていたとしても、梅が触れてしまえはサイズなど関係ない。砲撃などで木っ端微塵というわけでもないため、その通路が滅茶苦茶になることも抑えられている。
とはいえ、『解体』したところで残骸は無くならない。そこから前に進むのは少々骨が折れる。睦月がいるので大きな残骸は退かすことは出来るのだが、それでも面倒なことにはなっている。フレッチャーから、その通路が学校に近付くためには絶対に必要というわけでは無いのならば、遠回りも普通にしている。
「バリケードの作り方からして、何処かに誘い込もうとしているのかしら。余程学校には行かせたくない?」
「適当に障害を並べているだけかもしれないけれど」
神風の疑問に時雨が口を挟む。これまでの戦術は、言ってしまえばお粗末なモノだ。明らかに格下であり、障害にもならなそうな敵ばかりを突っ込ませては、返り討ちにされる。そればかりを繰り返しているようにしか見えない。
この指示をしている者は、戦略が立てられないのではないかと、時雨は呆れながら話す。無謀な突撃ばかりをさせる指揮官は、それだけでも無能だろうと。
だが、神風は別の可能性も考えている。
「いや、威力偵察を続けてるとも考えられるわよ。特異点を斃せれば御の字くらいで」
「……これでかい?」
「ええ。少なからず、これであちらに夕立や梅の情報は行ったじゃない。そこから分析しているかは知らないけれど、戦いの中で知られる情報って、馬鹿に出来ないわ」
ここまで簡単に斃せる敵は、あちら側であっても捨て駒くらいにしか思われていないだろう。自分を守らせたところで邪魔になるだけとすら考えているかもしれない。ならば、それを有効活用させようと考える。
神風が敵の立場であり、好き勝手作った割には
洗脳により思考能力が低下しているところに、力を得たのだと煽てて、自信過剰なそれを鉄砲玉として発射。それが見て聞いたことを逐一情報として手に入れて、今後の戦いの糧にする。
やられるために突っ込ませているのだし、あわよくば斃してくれればいい。そうでなくても、戦闘が続けば心身共に僅かでも消耗が見込めるだろう。それだけでいい。
「本番で少しでもコンディションが悪くなっていればいいや程度の捨て駒よあんなの。やられる前提だから、武器もそこまで強力じゃない。でも、ここに来る連中はそれを知らない、自分は強いと思い込んでるから、無謀に突撃してくる。全部手のひらの上ってことよ」
話していて神風もいい気分ではなかったが、そう考えるのが一番妥当かなと納得した。それが正解とは限らず、本当に上に立つ者も無能である可能性はあるのだが、ホームで用意周到にならないような輩では無いだろうと、敵であっても多少は認めている。悪い意味で。
「どんなに強い艦娘でも、弾切れを起こせば砲撃は飛んでこないし、疲れていれば動きにキレが無くなる。対するあちらは常に十全。攻める側の辛いところよね。襲撃を仕掛けてるって時点で、こちらは一つハンデを背負わされてるようなモノよ」
「でも、待ってたら奴らは絶対に動かない。この島で、好き勝手し続ける」
「そう。だから、ハンデなんてモノともせず、私達は奴らに圧をかけるわ。待ちで勝てるほど甘くないと、突きつけてやるの」
現れる敵は全て斃し、道を阻む者は何人足りとも容赦しない。避けて通ってきた出来損ないも、避けられないとわかればしっかり撃破。凍結させ、ふき飛ばし、カタチすら残さない。
「深雪、貴女は常に温存で行くわよ。あちらに確実にバレてる煙幕は使ってもらうけど、それだって消耗するでしょ。必要な時にだけやってちょうだい」
「おう、わかった。どうせ向こうは風使って妨害してくるんだ。余計なことはしねぇ」
「煙幕対策も、煙幕が無かったら宝の持ち腐れになるわ。その分、あちらの装備枠を1つ封じることになるんだもの。使わなくても行けそうなら使わないに越したことは無いわね」
特異点の力はいざという時に必要。そのためには、深雪はギリギリまで温存しておきたい。むしろ、あちらも深雪の力を戦うまでに引き出し、事前に情報として知っておくことを目的としていそうではある。そのための威力偵察。消耗狙いと同時に、未だに不明点が多い特異点をなるべく丸裸にしてから相手をしようとしている。
自分達でもやれるならそうするから、ズルいとは言ってやらない。それもまた策だと認めてはいる。
ただし、そのために本来戦闘に参加するはずもない島民を洗脳し改造し人生を破壊してまで自分の思うがままにしているところは絶対に認めない。
「敵は増えてきてるけど、まだまだ行けるわね」
「ああ、あたしは全然疲れてねぇしな。みんなのおかげで」
「敵の狙いに乗るのは癪だけど、確実に終わらせるわよ。ここで」
仲間達はまだ消耗と言える消耗はしていない。少しずつ削られているとしても、まだまだ戦える。
だが、本番がいつになるかわからないというのは、少しだけ不安にはなるもの。そういうメンタルの消耗も、出来ることなら抑えたいところである。