後始末屋の特異点   作:緋寺

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煽り合い

 のたうち回るタコ脚に阻まれながらも、それを足場に進軍を試みるのは、時雨を筆頭にした5人の艦娘。

 特異点である深雪は、電と共に白雲と磯風によるタコ脚凍結をサポートするために動き、もう一人の切り札である叢雲はこの戦場で消耗するわけには行かないため、睦月に護衛されて一歩引いた位置で自己防衛に徹する。

 戦艦未完棲姫は事前情報として、自分に対して厄介な相手は既に知っていた。それが、白雲と磯風、そして梅である。梅の『解体』も厄介極まりないと、タコ脚は優先的に狙っている。それをカバーするのはグレカーレ。重い攻撃を艤装の剛腕でどうにか逸らしながら梅を守ることに専念。

 

「なるべく温存で行くつもりだけどいいね。ここで全力なんて出している余裕は無いんだ」

「当然っぽい。こんなの、前哨戦にもならないっぽい」

「ここから先も戦闘はあるんだから、こんなやつに構っている暇なんて本来無いんだけどね」

 

 蠢く床の上で器用にステップを踏みながら、確実に前進を続ける時雨達。5人の目は、話しながらも戦艦未完棲姫を見据えていた。

 

「流石にこちらを見てくるか。というか、なかなか器用なモノだね。僕達のことを見ながら、ちゃんと白雲や梅を止めてるなんてさ」

「このタコ脚、多分考えてる通りに動くって感じだよね。見てればそこでわちゃわちゃしてくるっていう」

「おそらくね。なんて言えばいいのかな、脳波で動かしているみたいな」

 

 時雨と子日の予想では、このタコ脚は脳波でコントロールが行なわれている。つい最近まで子持ちの奥さんだった戦艦未完棲姫が、手操作でこれだけの数のタコ脚を動かすことなんて出来るはずがない。訓練を続けた艦娘であっても、これは困難を極める。

 本来の戦艦未完棲姫がどうかはわからないが、少なくとも今敵対している戦艦未完棲姫は、素人でも動かせるように調整された、もしくは最初からそのようになっている艤装を使っていると考えられる。居相姉妹のようなフルオートで行動を実行するような曲解を持っているようには見えなかった。

 

「何をごちゃごちゃ言っているのか知らないけれど、向かってくるのなら先に死んでもらうよ。特異点とつるんでいるような輩は、遅かれ早かれいなくなってもらわないと困るんだ。別に今でも構わないだろう?」

 

 戦艦未完棲姫はこの状況でも余裕たっぷりといった感じで、時雨達に見下すような視線を送る。この時の言葉もまともに伝わっていないが、向かっていく5人にはそのニュアンスはおおよそわかった。特異点がどうのと言っているのがなんとなく見えたからである。

 

「はぁ……そろそろ僕達の言葉も聞こえるかな」

 

 ステップを踏みながらの前進も佳境。のたうつ足場を華麗に捌き、触手の妨害も軽々と潜り抜ける。

 事前のトレーニングが本当によく効いており、時雨は心の中で那珂に感謝していた。アイドル活動がここまで役に立つだなんて思っていなかった。

 

「まだまともにぶつかりあっていないのに随分と勝ち誇っているようだけれど、僕達が君に対して手加減をしていることには気付けているかな。まさか自分から高次の存在と名乗るような連中が、それもわからずにただただ付け上がっているなんてことはないと思うけれど、一応聞いておきたくてね」

 

 いつもの皮肉が炸裂する。こんな戦闘中であっても、自分のスタンスを崩すことがない時雨に、一同は少しだけ感心した。

 実際、この戦いで全員が加減をしているというのは間違ってはいない。本当に加減をせずに戦っていたら、そもそも温存なんて考えていないし、もっと手っ取り早く命を奪いに行く。正面から突っ込むようなこともしないし、顔を合わせて戦うような危険な真似もしない。第一、本気で始末を目的としているなら、島ごと破壊する。ここまで慎重にならない。

 だが、ここにいる住人のことを、いくら敵対していても元々は普通の人間であることを考えて、何をするにしても手加減をしている。命は奪わない。極力殺傷力のある兵装は使わない。時雨もそうだが、装備はしているモノのまだ主砲も撃っていない。故意に建物を壊すことすらしていないのだ。()()()()()()()()()()()()、実力で既に上回っているだなんて、普通なら口が裂けても言えない。

 

「自分の立場を笠に着て、加減してもらっていることすら実力だと思っているのなら、君はとんだ勘違い野郎ということになるけどよかったかな。いや、ごめんごめん、野郎は流石に言い過ぎた。女性に向かって使う言葉じゃなかったね。君にはとても似合っている言葉があるじゃないか。ねぇ、()()()()?」

 

 黒井兄妹の母というのだから、見た目は見目麗しい深海棲艦の姫だとしても、その中身はおばさんと言っても差し支えない妙齢の女性。そこをついて、当てつけのように言い放った。

 時雨は神風の真実を知らないので普通にそれが言える。実際は、黒井母は神風よりも歳下だったりするのだ。神風は内心苦笑しながら時雨のいいようにやらせている。

 

「何を言うかと思えば、加減をしているだって?」

 

 これだけ近付けば、時雨の言葉もちゃんと耳に届いていたようで、これまでの言い分をしっかり聞いた上で鼻で笑った。

 

「なら本気を出せばいいじゃないか。それとも何かい、確実に勝てるけれど、アタシのことを思って仕方なく手加減をしてるってのかい?」

「流石は高次の存在だ。それくらいは理解出来るみたいだね。そもそも、本当に加減をしていないなら、今頃君は3回くらい死んでいるよ。うちの艦隊には()()()がいるんだ。首が飛んでないだけ喜んだ方がいいよ」

 

 おいと神風が流石に苦言を呈するが、VR訓練とはいえ首を飛ばしたことがあるため、何も否定は出来なかった。夕立もクスクス笑ってしまうほどだった。

 

「君は良くも悪くも、僕達の顔見知りの親だ。彼女らは君が死ぬことも覚悟の上だと話していたが、出来ることならちゃんと再会させてあげたいからね。君がどれほどの畜生で、子供達のことを何とも思っていなくても、子供ってのはそれでも親の顔は見たいらしい。なら、その願いを叶えてやるのが筋ってモノさ。特異点は願いを叶える存在だしね」

 

 お喋りはここまでかなと、逆に時雨が鼻で笑い、先程のお返しのように、かかってこいと手招き。本体の近くまで来てやったんだから、本体が何かしろと言わんばかりに。

 

「……まったく、所詮は特異点とつるんでいるようなバカなんだねぇアンタ達は。アタシは、ここから動かずとも戦えるんだ。見てわかるだろうに。アンタ達は、これをまともに乗り越えられると?」

「当たり前だろうに。それもわからないのかいおばさんは。目の前の脅威も見分けられないとは、笑わせるね。高次じゃなくて低次を名乗った方が似合っているよ。そもそもタコの脚で高次って何なんだい。タコ焼きなら食べたことはあるけど、それを崇め奉るようなことはないね。というか、その浮かんでるヤツの方が君より余程可愛らしいじゃないか。おばさんよりマスコットの方が見栄えがいいから、君はさっさと僕達に斃されてくれないかな」

 

 時雨の口は止まることを知らない。故に、先に動くのは戦艦未完棲姫。高次と言いながらも、やはり感性は人間の頃からそこまで変わっていないというのが実情。達観などしておらず、ここまで煽られれば苛立ちもするし、ムキにはならずとも攻撃的な反応もする。

 それがわかっているから時雨は煽りもした。お前は人間なんだろうと自覚させるため、そして自分達もこんな奴らが高次ではないと改めて理解するため。

 

「いいだろうさ。ならお望み通り、始末をつけてやろうかね」

 

 戦艦未完棲姫は、前言の通りその場から動かない。代わりに動き出したのは、周囲に漂うメンダコ。時雨がマスコットと称したそれらは、1つ1つが生体艤装と言っても過言ではないスペックを持つ、これもまた『拡張』によって強化された存在。艤装という一点を拡げた、小さくとも姫と同様の脅威。

 加えて、足下は常に蠢き続けているため、踏ん張りが利かない。地を踏み締めることで最大の力が発揮出来る神風には、戦場そのものが分が悪いと言える。

 

 それで屈するほど、神風は弱くないのだが。

 

「じゃあ、行くよみんな」

 

 メンダコは全部で5体。都合よく1人1体の計算になる。煽っておいて自分が何も出来ないなんて格好悪いところは見せられないと、時雨は早速背部の大口径主砲を構えた。

 

 誰もが予想出来ているのは、このメンダコのスペック。自己修復は勿論のこと、ただ浮遊しているだけのはずがない。火力もスピードも並ではないことは容易に想像が出来た。

 それに対抗するために必要なのは、やはりスピード。速さで以て捩じ伏せることが、最もスマートに終わらせられる手段だと確信した。

 

「これはぶっ壊しちゃっていいっぼい?」

「当然。カケラも容赦は要らないよ。好きに壊していいさ」

「ぽい! それなら、素敵な血祭り(パーティー)しましょ!」

 

 夕立はニッと歯を見せ、不安定な足場も余裕で乗り越えてメンダコに突撃。

 

「子日も行くね。1対1(タイマン)で潰せばいいんだよね」

「それが妥当だよ。君達なら出来るだろう?」

「もっちろん! これくらいなら、よゆー!」

 

 子日も夕立と同じように跳ぶ。いつもの手を包み込む主砲を構え、メンダコを完膚なきまでに破壊するために。

 

「フレッチャー、君も大丈夫だね」

「はい、お任せを。あの方の力には、もう振り回されないくらいに鍛えました。全て見えています。身体も動きます。あの方の無念を晴らすための前哨戦です」

「ああ、丹陽の思い、託された思いを、ぶつけてやってくれ」

 

 フレッチャーは夕立や子日のように飛び掛かるようなことはしないが、波打つ足下を苦とも思わずに乗りこなし、メンダコに主砲を向ける。

 その様は、つい最近生まれた(ひっくり返った)ばかりの艦娘とは思えないほどに安定しており、まさに丹陽の全盛期を模倣しているかのようだった。

 

「そんなことを言ってる貴女も心配よ。大丈夫よね?」

「僕が負けると思っているのかい? 大丈夫さ。正直、呪いを抑える方がしんどいくらいだね」

「ふふ、確かにね。貴女の大嫌いな人間がそこにいるんだもの」

「ああ、これだから人間は気に入らないんだ。自分の思い通りにならないと癇癪を起こすようなおばさんには、力の差を見せつけなくちゃいけない」

「そうね。毒親には必ず後悔させなくちゃいけないわ。さっき深雪が言ってたこと、私からも突きつけておきましょうか」

 

 メンダコを一瞥しながらも、神風は戦艦未完棲姫に鋭い目を向ける。気が弱い者ならそれだけで心臓が鷲掴みにされそうな圧。

 

 

 

 

「さっき言ったこと、確実に後悔させてあげる。覚悟なさい」

 

 その時には、メンダコの1体が真っ二つになっていた。

 

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