学校のグラウンドを埋め尽くすほどのタコ脚を展開する戦艦未完棲姫との戦いに挑む時雨達。特異点の深雪や、切り札の叢雲を温存するため、5人の精鋭で挑むこととなる。
戦艦未完棲姫はその場は動くことなく、周囲に侍らせていたメンダコを嗾ける。浮遊するそれは、戦艦未完棲姫の扱う『拡張』の曲解により、並ではないスペックに拡げられた強力な生体艤装。それそのものが攻撃可能であり、外観からして主砲などを備えているわけではないが、体当たりや触手による近接戦闘は余裕で可能。むしろ、『拡張』が施されているのだから、見た目からは想像出来ない何処かから砲撃をしてきてもおかしくはない。
だが、どのような攻撃をされようが、神風には何も関係なかった。
「さっき言ったこと、確実に後悔させてあげる。覚悟なさい」
嗾けてきたメンダコの1体が、もう一刀両断され、真っ二つになっていた。戦艦未完棲姫には、その太刀筋が見えなかった。一瞬の間に抜いて、更には納めている。
「どうせ簡単に斬ったところで、自己修復があるんでしょう。見せなさいよそれ。何処までやれば壊れるか、ちゃんと見届けてあげるから」
神風が言う通り、真っ二つになったメンダコはボトリと落ちた後、再生を始めていた。生物に見えても、それはやはり艤装の一部。
この修復からして、神風はメンダコに『修繕』の曲解が施されているとは感じなかった。あくまでもこれが戦艦未完棲姫の修復速度。別途の深海棲艦ならば終わっていることが、艤装だからこそ不死身のように見える。
「じゃあ次は三等分にしてみようかしら」
修復がおおよそ終わったかというところで、神風は再びメンダコを斬り刻む。先程は縦に真っ二つだったが、次は横に三等分。自己修復したからといって強度が変わるわけでもなく、何かをする間も与えずにまたボトボトと落ちる。
「核らしいモノは無いのかしらね。本体を始末しないと永遠に再生して動き続ける生体艤装って感じかしら。本来なら主砲とかは装備していないけれど、これはもしかして隠してあるのかもしれないわね。私には撃つ暇も無かったようだけれど」
また修復が進むが、その都度軽々と刻んでいく神風。まるで中身を見るように、斬るだけでなく抉るように刀を走らせ、艤装の分解を試みている。
一方、メンダコに突撃をしていくのは夕立。神風のような瞬殺は出来ないが、一度跳んだかと思いきや、ダメージなどを気にすることなく真正面からメンダコを蹴り飛ばしていた。
流石に艦娘の蹴り一つでメンダコが壊れることはない。しかし、砲撃を受けたところで動きを止める程度で済むような力を持つメンダコを、威力だけでふき飛ばす程の一撃。
「硬くないっぽい。どちらかといえば柔らかいっぽい」
「多分それでショックを吸収してるんだよ。だから撃っても弾いちゃうんだろうね」
夕立と殆ど一緒に飛び出した子日も徒手空拳ではなく砲撃を一撃入れたようだが、メンダコはそれを耐えている。壊れないどころか、傷一つ付いていない。自己修復があるからとかではなく、本当に傷が付かなかった。
硬いモノであれば、ヒビくらいは入る一撃だったのだが、柔らかいが故にその衝撃も吸収している。打撃に対しては滅法強いと言えよう。
「ならどうするっぽい?」
「そんなの決まってるよね。
「ぽい!」
殴っても蹴っても壊れない。それならば、撃って壊す。しかし、普通に撃っても子日が意味がないことを証明してしまっている。ならばどうするか。
ゴリ押しである。
「遠くから撃ったら弾かれるんでしょ? だったら、ゼロ距離で撃ってみればいいよ」
「それがいいっぽいね。弾かれないくらいに近くからやればいいよ」
だが、メンダコもそんなことを簡単にさせるわけがなかった。やはり隠し持っていた主砲が、口のようにニョッキリ生えてくると、まるで散弾のように砲撃を放ってくる。一回で数発の砲撃のように、近付いても遠退いても避けるのが難しそうな攻撃。
それはまるで、ゼロ距離の砲撃を受けたらまずいと言っているようなモノだった。やられたくないから、先に対処する。そうされないように、出来ることをすぐさま仕掛けてきた。
だが、相手が悪い。
「はいはいダメダメ! そんなの効かないっぽい!」
夕立が『ダメコン』で、その散弾を真正面から受けてしまう。どれだけの距離で撃たれようが関係ない。そもそも何をされても傷がつかないようなもの。衝撃だけは受けるが、メンダコの砲撃は、地に足をつけて撃っているわけではないためか、夕立からしてみれば
勿論普通ならこの砲撃だって肉を抉り骨を砕く程の、一発一発に殺傷力が乗っているモノなのだが、夕立はその殺傷力を全てキャンセルしてしまうのだから、あとは衝撃の有無しか無かった。
「子日!」
「はーい!」
2体のメンダコの散弾を、当然のように弾き飛ばした夕立の後ろ。子日が軽く跳び出すと、その時には『迷彩』により姿が消えていた。
メンダコはおそらく電探でこちらの位置を把握している、忌雷と似たような性質を持っていると考えられる。だが、『迷彩』はその全てを無効化するため、メンダコからは子日が消えたようにしか見えなかった。視覚的にも消えているのだから、電探頼りでなくてもわからなくなるのは当然だった。
「はい、ゼロ距離!」
そして、姿を消したまま1体のメンダコの真後ろから主砲を押し付けて放つ。弾くなど出来ない一撃に、まるで脳天が弾け飛ぶように砕けた。
「やっぱりゼロ距離なら効くよ!」
「ぽーい! だったら簡単っぽい!」
それがわかってしまえばこちらのモノだと、夕立は子日が撃っていない方のメンダコに飛びつく。腹にあちらの主砲が押し当てられているのもお構いなしに、抱き着くように抱えると、撃たれても全て『ダメコン』で弾きながら、メンダコの脳天に主砲を押し付けて、そして放った。
逆側でメンダコの対処をしているのはフレッチャー。こちらのメンダコはフレッチャーに対してすぐさま散弾をぶちまけていた。
足場が不安定の状態で、範囲攻撃をしてくるようなメンダコに、夕立や子日のような力を持っていないフレッチャーは苦戦するかのように思えた。
だが、『量産』により手に入れている力が、よりによってあの第一世代の英雄、伝説と言ってもいい存在である丹陽のモノであるため、このメンダコに対しても完璧に対応が出来ていた。
特別な力は無くても、蓄積され続けた経験と、異常とも言えるスペック上昇により、とんでもない動きを繰り出している。
「お姉様の力、本当に凄まじいです。これでも全てが引き出せていないのですから、私はまだまだなのでしょうね」
散弾が放たれる直前には既に行動を起こしており、放たれた時にはもう射線上にはいない。しかも、ただ避けるだけでなく、確実に前進している。
ゼロ距離で撃てば弾かれることもなく破壊が可能であることは既に見抜いており、それを実行するためにその力を惜しげもなく使っていた。
「繊細だけれど、大胆に。恐怖など感じることなく、しかし慎重に。予測と行動は同時に的確に」
自身の今の力を反芻しながら、その力を過信するでもなく、過小評価するでもなく、一切の慢心なく攻撃のチャンスをひたすら手繰り寄せる。
足場の不安定さは関係ない。こちらは那珂のレッスンで得た体幹でどうとでもなる。まるで苦とも思わない。軽やかに舞うように、今の状況を楽しむ程に、優雅に動き回ってメンダコとの距離を詰めた。
「慢心などしません」
殴るように主砲をメンダコの脳天に押し当てると、避ける余裕も与えずに二発三発と砲撃を放った。散弾が何処から放たれるかも分析済み。この距離でいきなり撃たれたとしても、今のフレッチャーならば避けることが出来る。
メンダコは撃とうともしていた。だが、撃てなかった。フレッチャーの身のこなしから、その身を瞬時に動かすことが出来なくなっていた。右に行ったかと思えば左にいるほど、俊敏かつ大胆に動き回ったことにより、メンダコすら翻弄していた。
これこそが丹陽、いや、『雪風』の動き。すばしっこく縦横無尽に動き回り、狙いを定めさせないだけでなく、敵のトリガーを一瞬躊躇わせる。意思がなくともコレなのだから、意思があればより強く効く。敵の反射神経を超えた動き。それこそが真骨頂。
「修復はさせません。可哀想ですが」
さらに容赦なく残骸にも砲撃。より細かく砕くかのように。
そして、最後の1人、時雨はというと。
「君達はわかりやすい。所詮は艤装だね」
メンダコからの散弾が放たれる前に、大口径主砲による砲撃を放ち、その散弾をそのまま押し返すようにしていた。自分への攻撃は全て掻き消し、それそのものを敵に跳ね返して攻撃にする。やられていることをそのままやり返しているような、ある意味ここの時雨のような一撃。
「撃っても無駄だと思ったかな。突撃も悪い行動じゃないだろうね。僕の砲撃は隙が多いと思われても仕方ないことだからさ」
メンダコは猛スピードで時雨に突撃を始める。砲撃がそうされるなら、そう出来ないようにするまでと。体当たりは相当な威力であり、直撃すれば砲撃を喰らうのと同じくらいにはダメージを受けるだろう。そこに散弾まで重ねてくるだろうから、ダメージは致死的。
流石の時雨も、その突撃に対して砲撃で迎え撃とうとは思っていない。正面から受けて立とうだなんて考えない。
「でも、相手が悪いんだよ。今の僕には、
メンダコの突撃は、すぐに無意味に終わった。突撃しようとしていた地点に、もう時雨の姿は無かったのだから。
「自己修復することはわかっているけれど、今は木っ端微塵になっておいてくれないかな」
そして、大口径主砲がメンダコの脳天に突きつけられると、その一撃で爆散することになる。ミンチに近いほどに粉々に砕けたのならば、自己修復するにしても相応に時間がかかることだろう。
「……うん、これなら使い勝手のいい力だ。特異点の力に感謝するよ、深雪」
深雪に聞こえないくらいに感謝の言葉を呟くと、その視線はすぐに戦艦未完棲姫の方へと向いた。
「君の使い魔か何かは、見た通り対処出来ているけれど、次は君自身が出てきてくれないかな。それとも、時間を稼いでいるのかい? 高次の存在ともあろう者が、弱者に手をこまねいて焦っているのかな。次は自分もこうなるかもしれないと思ってさ」
煽りは止まらない。言われた側は堪ったモノではないようだ。
戦艦未完棲姫との戦いは、第二ラウンドへ。メンダコとの戦いはあっという間だったが、ここからが本番だろうと、煽りながらも時雨は気を引き締めていた。