後始末屋の特異点   作:緋寺

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 戦艦未完棲姫を圧倒し、巨大タコも凍りつかせ、完全な勝利をもぎ取った時雨。だが、その戦艦未完棲姫の首筋、うなじ付近に埋め込まれた、普通ならそんなところには無いモノ。

 

「……これは、()かい?」

 

 そこにあったのは、舵。髪に隠れるような小さなモノではあるが、それは確実に埋め込まれていた。まるで、脳に直接影響を与えているかのように。

 その舵に直接触れるのは憚られたため、時雨が控えさせている『増産』の特機を使い、それが外せるかどうかを探らせる。特機ならば、身体に傷つけることなく体内に触手を伸ばし、その舵がどうなっているかを調べることが出来るだろう。

 

 その間に、攻撃が無くなったこともあって、深雪達や、梅とグレカーレも時雨の元へと駆けつけた。叢雲と睦月だけは、周辺警戒も兼ねてタコ脚に乗ることもなく周囲を移動して敵の襲来に備えている。何かあればすぐに叫ぶ方針。

 時雨の方に近付いたとしても、何処から何がやってくるかわからない。そのため、電や白雲は近くでの警戒も怠っていない。特に電は、『迷彩』持ちを感知出来る装備を使って周辺を探っておく。こんな状況だからこそ狙われでもしたら堪ったモノでは無い。ドローンも飛ばして、叢雲と睦月のサポートまでやってのけた。

 

「どうしたよ時雨」

「いや、ね。こんなモノが」

 

 深雪達にも戦艦未完棲姫の首筋を見せる。髪を掴んで強引に振り回すため、戦艦未完棲姫はギャアギャアと喚き立てようとするが、時雨が喧しいと脇腹にトーキックを決めたことで黙った。『弾性』があるためノーダメージではあるのだが、そこは焼け焦げているため、弾力が失われている。そのため、一応身体の内部にある内臓の辺りを揺さぶり、呼吸が止まりかけた様子。

 相手が黒井兄妹の母とわかっていても容赦しない。そういうところは呪いの影響であろう。仲間ならまだしも、仲間の親族だからといって、人間にかける情など持ち合わせていないのがカテゴリーMである。今はWだが。

 

「なんだこりゃ、舵か?」

「君にもそう見えるかい。今、特機に調べさせているんだけど……取れないみたいだね」

 

 触手をうなじから体内に滑り込ませて、その舵をどうにか出来ないか確認している特機だが、どうにもこうにも外れないようである。特機に対して何もしてこない辺り、見えている通りのモノであることはわかっているのだが、外れないというのはまたおかしな話である。

 無理に引っ剥がそうとすると、おそらく肉ごと捥ぎ取って死を迎えることになるだろう。いくら自己修復があるとしても、ここまでガッチリと食い込んでいるなら、流石に一撃で命に触れる。むしろ、それだけでは終わらなそうな雰囲気すら見える。

 

「艤装と近しい素材……に見えるね。舵ではあるけど、金属だと思う」

 

 チラッと見たグレカーレがそんなことを呟く。舵ではあるが、その素材のせいで歯車にも見えなくもない。

 

「埋め込まれてるのはいいけど、それは身体の何処かに悪影響を齎しているのかい?」

 

 時雨が特機に聞くと、少々複雑だと言わんばかりに身体を震わせた。なんとこの舵、食い込んで首の中に爪を立てているだけでなく、抜けないように中央部から首の骨にまで突き刺さっているらしい。首を動かしても痛みが無いのが不思議で仕方ないが、()()()()()()として認識するしか無い。

 

「ひとまず『羅針盤』してみる?」

「だな。それで正気に戻ってくれりゃ御の字だ」

 

 当初の目的の通り、動けない今に『羅針盤』を使ってみる価値はある。それで意思が変わらないならば、別の手段を考えるまで。

 今は艤装も凍らせているため、戦うことは出来ない。修復中ではあるが両腕も無いのだから抵抗すら出来ない。そもそも、何かしようとしたところでここまで戦力が集まっているのだから力で押さえ込むことも可能。

 

 ということで、深雪とグレカーレの合わせ技、『羅針盤』の煙幕を戦艦未完棲姫にぶつけた。元がまともならば、これによって本来の道を取り戻すはずである。しかし──

 

「人様に煙をかけるなんて、育ちが悪いんじゃないのかい特異点」

「何も変わらねぇ……つーことは、芯からこの考え方してるってことかよ」

 

 戦艦未完棲姫は何も変わっていなかった。特異点に対しての敵対心はそのまま、むしろ睨み方が先程よりも強くなっているのではと思えるほど。つまり、戦艦未完棲姫の本来の道が特異点との敵対、阿手の道と同じになってしまっていることを意味する。

 これではもう『羅針盤』でも無理。選択肢は狭められ、始末まで視野に入るのだが、ここでさらにグレカーレが提案。

 

「それじゃあさ、ウメにやってもらうってのはどう?」

「うえっ!? う、梅がですか!?」

 

 それが艤装のような素材で出来ているのなら、梅の『解体』で舵だけを破壊することが可能ではないかということ。無機物ならばどんなモノでも破壊出来ると言っても過言では無い能力なのだから、これも不可能ではないのではという案。

 爪が深く食い込んでいたとしても、骨に突き刺さっていたとしても、『解体』ならば無理矢理引っこ抜くようなことはしない。その場で壊れて、爪の部分はポロリと落ちてきそうだし、刺さっている部分はズルリと抜けてくるこではないか。体内に残ってしまった場合は、特機によって外に追いやることは出来るはず。

 

 このままでも始末するしかなくなるのだから、出来ることは全てやってみるのがいい。これでどうにかなってしまっても、梅の責任ではないと伝えると、梅も納得した。

 

「じゃ、じゃあ、やってみますか。梅が触っていいんですかね?」

「特機はいいって言ってる感じだな」

 

 梅が前に出ると、戦艦未完棲姫がキッと睨みつけた。だが、梅もここまで戦場を潜り抜けてきた歴戦の艦娘。つい最近力を持っただけの一般人とは違うため、睨まれても完全に無視してうなじの方へと手を伸ばす。

 

「……確かに、触れた感じはただの艤装みたいに思えますねぇ。何処か深海の素材な感じもしますぅ」

「流石は後始末屋。深海の艤装を素手で触った感触がわかるなんて」

「お前もだろうが時雨よぉ」

「僕はトングで拾い集めることばかりだったからね。素手ではあまりさ」

 

 などと話しながらも、梅は早速その舵に向けて『解体』の力を使う。すると、パキリとど真ん中からヒビが入り、そのまま粉々に崩れていった。梅の『解体』は生身には効かないため、その結果肌に触れたとしたも何の害も無い。そのおかげで、舵だけが完全に破壊される。

 その裏側には、首をガッチリと掴む爪と、中央部に突き刺さる針が見えた。だが、それも『解体』の前では無力。肌を傷つけることなく、爪と針だけを確実に破壊。破片が体内に残らないように、特機が大急ぎで運び出したことで、そこにはただ傷が残るだけとなる。その傷ですら、自己修復の力で見る見るうちに塞がっていった。

 

「さて、何かよくわからないモノは抜き取ったけれど、何か変わったかい、おばさん」

 

 もう普通におばさん呼ばわりの時雨だが、戦艦未完棲姫はというと、先程とは全く違って静かなモノだった。舵が無くなった影響なのかはわからない。しかし、梅にも嫌悪感を示すような視線を向けたのが嘘のようだった。

 この時には時雨が捥ぎ取った腕も修復が始まっており、しばらくしたらまた生え揃うだろうことがわかる。だが、そんなことより、暴れ出すことすらしなくなったのは少々気になるところ。

 

「もう口を利いても構わないよ。気分はどうだと聞いているんだけれど」

 

 時雨の言葉に小さく反応。だが、戦艦未完棲姫は元々そうかもしれないが、蒼白になっていた。

 

「あ、アタシゃ今まで何をさせられてたんだい……」

「お?」

 

 戦艦未完棲姫のそんな言葉に、時雨を筆頭に戦ってきた面々はもしやと感じた。ひとまず髪を掴んで立たせているのはよろしくないと、時雨はとりあえずその場に座らせた。腕が無いせいでバランスは悪そうだったが、戦艦未完棲姫は、これまでやらされていたことを思い出していき、ガタガタと震え出す。

 

「これまで何をしていたか覚えているのかな」

「思い出した、思い出しちまったよ。アタシゃ、ここで、アンタ達と戦わされてた……こんな身体にされて……」

 

 その声色からして、この戦艦未完棲姫は()()()()()()に戻ったと言えよう。見た目は何も変わらないが、力をただ与えられただけの人間。

 

「アレは()()()()だったってことでいいのかな」

「でしょうね。しかも、かなり強固な、ね」

 

 神風も流石に刀を鞘に納めた。もうこの戦艦未完棲姫は敵では無いとわかったからだ。

 

 

 

 

 舵が無くなった直後は意識の混濁があったことで錯乱していたようだが、次第に落ち着きを取り戻していった。先程までの噛みつき方が嘘のようで、さんざん舌戦を繰り広げた時雨に対しても申し訳なさが先に出てきている程。

 予想通り、首に埋め込まれた舵が失われたことで戦艦未完棲姫の洗脳は解かれ、戦艦未完棲姫は深海棲艦ではなく一般人に戻っている。黒井母としての人格も、ここでハッキリとしていた。

 

「うちの子供を救ってくれたんだってね……ありがとうね、さっきはあんなこと言っちまったけれど、そんなつもりはなかったんだよ……」

「だろうね。自分の思ってないこともベラベラ喋らされるのは、腹が立つことに経験があるから理解してあげられるよ」

「……そうかい……すまないねぇ」

 

 先程と同一人物かと思えるほどにしおらしい。それほどまでに、あの舵が人格を変えてしまうモノなのだと嫌でもわからされる。

 

「アンタ、何をされたんだ。つっても、さっきのを見りゃ大体わかるけど」

「……子供達が治療を受けたんだ。息子が不治の病で、それが治ると聞いてね。でも、医者にかかったっきり、なかなか帰ってこなかったから、流石におかしいと思って問い詰めに言ったのさ。息子と娘をどうしやがったんだいとね。そしたら……はは、このザマだよ。身体は勝手にワケわかんないモンに変えられちまうし、何かされたせいでアイツらが全部正しいと思っちまうし……アタシゃこんなに若くないんだがねぇ」

 

 これが本来の黒井母の性格なのだろう。少々強気で行動力がある、子供思いの優しいお母さん。蛍のコミュ力はこの母があるからだろうと予想出来る程である。

 

「そもそも、なんなんだいココの連中は。そりゃあさっきまでアタシもその連中の仲間だったんだけどもさ、人様の命を蔑ろにして好き勝手して。そのせいでうちの旦那は……旦那は……っ」

 

 自分と同じようにされそうになったが、適性が無かったせいで命を落とした黒井父。そのこともしっかり知っているが、ついさっきまでは舵によりコントロールされていたため、そんな旦那の死も鼻で笑ってこき下ろしていたことだろう。その後悔が今襲いかかってきて、歯を食いしばるような苦い顔を見せた。

 本当なら顔を手で覆いたかったところだろうが、残念ながらまだ腕は完治していない。それが出来るようになるにはもう少し時間がかかる。

 

「全く腹立たしいね! こうなりゃ、旦那の弔い合戦だよ! なんか勝手によくわからない力を植え付けられてんだ。アタシもあのクズ共をぶん殴るために、アンタ達について行かせてほしい!」

「いや、ぶん殴ると言っても、君には腕が無いじゃないか」

「そうしたのは何処の何奴だい」

「謝りはしないよ。それだけさっきの君は酷かった」

「アタシも謝りゃしないね。ありゃアイツらのせいだ。アタシのせいじゃない」

 

 これだけ開き直ることが出来るなら、精神面での心配はいらないなと、深雪達は少しだけ安心した。だが、見えているところはそうでも、内心はどうかわからない。強がっているだけで、本当に苦しい思いをしているとも考えられる。

 

 

 

 

 しかし、話を先に進めるのは後になる。周辺警戒をしていた電が、突如声をあげた。

 

「敵なのです! 皆さん、警戒してください! よりによって『迷彩』持ちが来たのです!」

 

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