後始末屋の特異点   作:緋寺

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仮想の初陣

 仮想空間内で行われる訓練は、砲撃訓練から始まり、雷撃訓練、対空訓練、対潜訓練と続いた。

 その都度、的の入れ替えが必要になるのだが、そこは外部のイリスの操作によって瞬時に行なわれ、次の訓練へと進められる。その時、装備すら替えられるため、そちらの方が驚くこととなった。

 

「すげぇ、滅茶苦茶便利だな」

「なのです。ビックリはしますけど、わざわざ載せ替えることをしなくてもいいのは凄いのです」

「だよな。あたしが前にやった時は、工廠と海を行ったり来たりしたんだぜ」

「そうなのですね。だったら、ここでの訓練は時間の短縮にもなっているのです」

 

 そんなことを話している二人だが、神風は電の実力に相当驚いていた。これまでに行なった全ての訓練で、深雪と同じように()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 深雪はまだわかる。前向きに訓練に取り組むことが出来るし、砲撃を放つことに抵抗がないような性格をしているため、それが命中率にも影響しているのではと考えられた。好戦的なタイプだから、戦闘に関することも全て器用にこなしていくのではと。

 しかし、電は優しすぎるが故に、砲撃にも抵抗があるものだとばかり思っていた。攻撃は戦いの行為。世界を守るために深海棲艦と戦うことにすら反応し、仕方ないことかもしれないけどと悲しむ。それくらい戦いに対して後ろ向きな電が、いざやってみたらこの結果だ。

 

 性格なんて関係なかった。純粋な艦娘という時点で、人間からしてみれば()()()()()。そもそも人間と比べることが烏滸がましいのかもしれない。

 中身、生物としての在り方は人間と全く同じだというのに、海戦における実力は生まれついてのモノということを、改めて実感した。

 

「ひとまず的当て……動かない相手に対しては百発百中ということはわかったわ。動いているモノに対する攻撃……対空や対潜も完璧。なら、多分動いている的にも当てられるわよね」

「動く的か。それはまだやってなかったな。やらせてくれよ」

 

 モノは試しと、その場で逃げるように動く的が用意される。これは深雪も海上訓練の時にはやっていない内容。その理由は明確で、的を動かすためには仲間の力が必要であり、()()()()()()()()()()()()だ。

 

 深雪の中には未だにトラウマは残り続けている。電との衝突によって、触れ合うことに対するトラウマはもうほぼ完璧に払拭されていると言い切れるが、()()()()()()()()()はまだ完全には取り除かれていない。

 これは電の方にもあったりする。演習で深雪を沈めてしまったということもあり、深雪以上に根深いトラウマ。下手をしたら、実戦よりも演習の方が怖いまであった。

 

「すげぇ、何もないのに的が勝手に動いてるぞ」

「現実だとこんなことにはならないのです」

「だな。じゃあ、早速やってみるぜ」

 

 仲間がそこにいないのなら、深雪は何の躊躇いもなく撃つことが出来る。主砲を構え、妖精さんのサポートを受けることで照準器を出現させ、そして狙いを定めて砲撃を放つ。その弾は見事に的の中央に当たった。

 

「よっしゃ! 命中!」

「そ、それじゃあ電もやってみるのです」

 

 同じように電も砲撃の準備。妖精さんのサポートによる照準器もあり、そこから前回の発言の通り、的の中央を目で追う。そこから、タイミングを合わせて心でトリガーを引いた瞬間、やはり深雪と同じように動く的の中央を撃ち抜く。

 

「当たったのです!」

「流石だぜ電。あたしよりも完璧なんじゃね?」

「そ、そんなことないのです」

 

 謙遜しながらも、深雪に褒められることは嬉しいらしく、少し恥ずかしそうにしながら笑顔は絶やさない。

 

 勿論、この一連の流れを見て、神風はまた驚くことになる。カテゴリーCは訓練校で同じことを学ぶが、やはり一発で当てることが出来る者はかなり少ない。それが的の中央となると一握りもいないほど。少なくとも、神風の同期にはいなかった。

 それを仮想空間だとしても一発。さも当然のように。何度も純粋な艦娘には驚かされてきたが、ここまで来ると苦笑しか浮かばない。

 

「私達のやり方なら、ここまで出来るならもう対人戦に移ってもいいって許可を貰えるわ。というか、それが海戦だから、やれなくちゃいけないことよ」

 

 対人戦。この言葉に今までの雰囲気が凍りつく。

 

「貴女達のトラウマは百も承知だけれど、次の段階はそれなの。とはいえ、この空間なら相手を艦娘ではなく深海棲艦に出来るわ」

 

 イリスに合図をすると、突如仮想空間の海域に()()()()()()()()。初心者用ということで、現れたのは駆逐艦の最も多く見られる種であるイ級。

 見た目は艤装とは違う未知の金属に包まれた大型魚類というイメージなのだが

 如何せんそのサイズが問題だった。()()()()()()()()()()()()()()()なのだから。

 

「うおっ!?」

 

 仮想空間とはいえ深海棲艦が目の前に現れたら驚いてしまう深雪。電に至っては言葉すら無かった。

 

 制御自体は外部で行なっているため、目の前にいても攻撃はしてこない。言ってしまえばただの()()()()である。だが、大きさから質感まで完全に再現されており、ひとたび動かすと海戦での動きを寸分違わずに繰り出してくる。勿論、攻撃まで。

 

「これは訓練の場所でもあるけど、海戦シミュレータでもあるのよ。今回はコレ。第一段階のレベル1ってところかしら」

 

 これに対して、一人で挑んでもいいし、二人で協力して挑んでもいい。とにかく勝利することが目的である。

 レベル1は深海棲艦を相手にすることに対して慣れるためのステージ。言ってしまえば()()()()()()()()()に、正しく立ち回れるかの訓練である。

 

「はぐれ深海棲艦は、こんな感じに駆逐艦が単艦で現れたりもするわ。とはいえ、これでも人間は逃げ惑うことしか出来ない。対処出来るのは艦娘だけ。発見した時点で対処しないと、為す術なく殺されるだけ」

 

 辛い言い方ではあるが、嘘偽りなく真実を伝えている。深雪にとってはまだマシかもしれないが、電にとってはそれでもどうしても抵抗が出てしまうもの。

 深雪ではそんな電に対してかける言葉が無かった。しかし、神風は違う。優しく、しかし容赦なく、この世界の現実を伝える。

 

「すごく嫌なことを言うかもしれないけど、私達は人類側に天秤が傾いているの。共存したいのは山々だけれど、本能のままに侵略をする深海棲艦に手心を加えたら、力を持たない人間が命を落とすだけ。たった1体の深海棲艦を救うことで、何十何百の人間の命が消える。私はこれを不公平だと思う」

 

 誰もが救われる道なんて、今この世界には存在していない。話がわかる相手ならまだしも、知性もあるかわからない獰猛な獣に人道を説いても、意味が無いどころの騒ぎではない。まさに馬の耳に念仏である。

 艦娘はあくまでも、()()()平和を守るための存在だ。深海棲艦の平和まで許容は出来ない。

 

 でも、と神風は続ける。

 

「話が出来る相手を容赦なく攻撃することは無いわ。対話が出来るなら対話を優先する。それが深海棲艦であっても、まずは話してみるわ。今までまともに話が出来た相手はいなかったけど」

 

 人型であっても話が出来るかと言われたらそうではない。ただ人のカタチをしているだけの獣であることの方が多いという。そして、対話が出来そうな姫級は、本能のままに動いているわけではなくても、自分の意志で侵略をしているため、話にならない。

 

 故に、対話が出来そうなのはカテゴリーM。怒りと憎しみに囚われた純粋な艦娘のみ。それでもダメな可能性は非常に高く、これまでうみどりで遭遇してきたカテゴリーMは、悉く敵対し、そして仕方なく沈めることとなっている。

 そうしなければ深海棲艦を野放しにするのと同様に人類が危険だから。一人の命と人類の命を天秤にかけた結果が、この悲しい戦いになる。

 

「……納得するしかないのですね」

 

 少し泣きそうな顔をしていたが、電は納得するしか無かった。神風の言う通り、どちらに天秤を傾けるかという話になれば、それはより多くの命が救われる方を選ぶ。それは仕方ないことだ。

 勿論、電は諦めることはしない。深海棲艦であってもカテゴリーMであっても、まずは対話を試みるだろう。容赦なく砲撃を放つようなことはしない。

 

「電のそういうところ、あたしはすげぇいいと思う」

 

 そんな電に深雪も好感を示した言葉をかけた。嘘偽りない本心として。

 

「でも、そんな電が割を食って怪我するところは見たくねぇ。だから、電は説得に出てくれ。あたしも勿論説得する。ただ、それで話にならずに戦いになったら、あたしが絶対に電を守ってやる」

 

 その思いを尊重することが、深雪の選択。深雪だってカテゴリーM相手なら戦うことを拒む。元人間の艦娘と違って、自分達と同じ純粋な艦娘なのだ。戦わないで済むのなら戦わないで済ませたい。

 その気持ちがより強い電は、攻撃に確実に抵抗を持っている。ならば、そんな電を守るために、深雪は力を付けようと考えた。

 

「神風、あたしはガッツリやる気満々だ。早速やらせてもらっていいか」

「ええ、電に見せるという意味でも先にやってあげればいいと思うわ。でも、深雪だって初めてでしょ。大丈夫?」

「大丈夫かどうかはやってみないとわかんねぇ。でもさ、ここはぶいあーるなんだから多少は無茶出来るんだろ。だったら、自分がどんなもんか見るためにもまずはやるぜ」

 

 深雪のやる気は充分すぎるくらい漲っている。ならば、まずはそのやる気を発散させるためにも、まずやってもらう方向に持っていった。

 深雪の言う通り、仮想空間では多少は無茶が利く。成功も失敗も命にかかわらない。ならば、まずはやりたいようにやってみればいい。

 

「それじゃあ早速やってみましょう。沈めたら勝ち、沈められたら負けよ」

「当たり前のことだよな。痛みは感じないにしても、当たらないように気をつけないと」

 

 合図を出すと、先程目の前に現れた駆逐イ級が少し離れた場所に現れ直した。ここからが実戦形式の訓練となる。

 

 深雪は相手が深海棲艦ならば問題なく戦える。故に、まだトラウマを刺激されていない。

 

「っし、行くぜ!」

 

 主砲を構えながら移動し、駆逐イ級へと迫撃。無鉄砲に突っ込んでいるわけでもなく、ちゃんと確認しながら。

 

 駆逐イ級は深海棲艦の中ではかなり弱い方とされているため、砲撃も控えめといえば控えめ。その口内にある主砲を構え、深雪に向かって放ってくる。勿論狙いは定めているため、避けなければ直撃する。当たりどころが悪ければそのまま死。

 精神的に弱気なものは、これだけでも恐怖を感じてしまう。身が竦んで動けなくなってしまうこともあるのだ。仮想空間だからそれでもまだいいのだが、本番でそれはよろしくない。故に、このようなVR訓練は恐怖感を払拭するためにも有用。

 

「んなもん、当たんねぇよ!」

 

 その砲撃は軽々と回避。そして、すぐさま目に照準器を出現させ、駆逐イ級に狙いを定める。先程は的が攻撃してくるわけでは無かったため、止まりながら撃っていたわけだが、今回は移動しながら。通常ならば照準もブレる。初めてならば尚更。

 しかし、ここはやはり純粋な艦娘。深雪の戦闘のセンスは、人間とは比べ物にならない。

 

「当ったれぇ!」

 

 反動すらも完全に制御し、そうするのが当たり前と言わんばかりに片手撃ち。ほとんどブレることなく放たれた砲撃は、駆逐イ級の眉間に直撃したことによって、一撃で粉砕。沈む深海棲艦はデータになって消えていった。

 

「っしゃあ! 撃破!」

 

 喜んでいる深雪ではあるものの、やはり神風は驚きが隠せない。命がかかっていない仮想空間での初陣だとはいえ、こうも簡単に攻略することはカテゴリーCではそうそう無いことだ。

 命がかかればまた話は変わってくるだろうが、今の深雪からは人間が持つ潜在的な戦いへの恐怖心が全く感じられない。それこそがカテゴリーW、純粋な艦娘の特性なのではと感じた。

 

 

 

 

 これにより、深雪はこの世界での戦闘を知ることとなる。今でこそ軽々と終わらせられるが、ここから難易度は少しずつ上げられるだろう。こうして練度を上げていき、電を守る力を手に入れていく。

 




あえて書きましたが、深雪がここでやったのは1-1の一歩目です。イ級一体だけというのはそういうこと。
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