後始末屋の特異点   作:緋寺

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それは戦いでなく

 黒井母を正気に戻したところで現れた、『迷彩』持ちの敵。深雪の煙幕でその位置を特定しようとしたところ、艦載機どころか爆撃すらも『迷彩』によって見えなくなり、それを唯一の兵装で確認出来ている電の咄嗟の指示で回避。学校のグラウンドからどうにか離れたものの、3人の『迷彩』持ちのうち2人が校舎から飛び降りて来たことで、ここからはその2人を対処しなくてはならなくなった。

 

 深雪が煙幕を使えない以上、ここで頑張るのは、敵の位置を把握出来ている電。幸いにもマルチツールのドローンは使えるため、それで見えている2人の『迷彩』持ちのうちの片方を常に示し続けることで、そちらは見るだけで居場所を突き止めることが出来るようにする。

 だがもう一人のためのドローンはないため、全て口で説明するしかない。それは嫌というほど集中力を要する。自分の身を守りながら、ドローンをコントロールし、そして何処にいるかを見た後、それを言葉に直さなくてはならないのだ。

 

「1人は常にわかるようにしておくのです! アレを見ながら攻撃してくださぁい!」

 

 コレばっかりは声を荒げて伝えなくてはならない。魂胆が敵にバレてしまうが、今だけはそれも仕方ないと思わざるを得ない。やれるものなら声を出さずに通信だけで全員に伝えたいと思うが、この戦場でどうすればそんなことが出来るんだとの考えに至る。

 そのため、電は普段よりも大きい声量で、動きながらも言葉にし続けた。こちらはお前達のことが見えているんだぞと伝えるかの如く。

 

 ドローンの動きも非常に機敏。見えない敵の頭上をギリギリ低空飛行で維持し続け、ここにいるぞと示し続けていた。敵はそのドローンが鬱陶しいと撃墜しようとしているようだが、そう簡単には上手く行かない。電の操縦テクニックによって、攻撃はせずともずっと纏わりついている状態。

 

「どんな武器を持っているかはわからないですけど、片方は時雨ちゃんの方に向かいました!」

「僕かい。というか、おばさんの方かな」

 

 見えない敵、そのドローンがついていない方は、見えないという特性を最大限に活かし、素早く事を成し遂げるために、時雨──ではなく、黒井母へと接近していた。やはり余計なことを言われるのが困るのか、洗脳が解かれた元仲間を最優先で狙っているようにも見える。

 

「アタシがこうなることがそんなに嫌なのかい。だったらそもそもアタシ一人にやらせようとするなって話さね。口封じか何か知らないけど、アタシゃ抵抗させてもらうよ、ゲス共が!」

「はは、威勢のいいおばさんだ。なら、僕も手伝おうか。あいつらの思い通りになるのは気に入らないからね」

 

 ついさっきまで敵対していた2人だが、今は非常に相性のいいコンビとなりつつあった。

 時雨が黒井母の前に陣取ると、一切躊躇なく大口径主砲を撃ち放つ。威嚇砲撃ではなく、殺意まである攻撃。見えない的に当てるのは難易度が高いというか不可能だが、それでも一直線に向かってくることは防ぐことが出来る。

 

「夕立! 頼めるかい!」

「任せるっぽい! 睦月も合流してるから!」

「ああ、そうか。今の睦月は本当に頼もしいね。引くほどさ」

 

 それでも見えない敵をどうするか。()()()()()()()()()()()()()()()ことで行動制限を仕掛ける。

 時雨の砲撃もそうだし、その隙間を埋めるように動いた夕立も悪くはない。だが、こういう時こそ真価を発揮しているのが、睦月だった。

 

「さっき神風ちゃんが斬り落としてくれたタコの脚、丁度いいサイズなのね! コレも使って、グルングルンするにゃしぃ!」

 

 片手には大発動艇、逆の手は神風が最初に斬り落としたタコ脚を掴んで、ただただ乱雑に振り回す睦月。『軽量化』の曲解により、どちらもただの紙くらいにしか感じられない重さになっているが、サイズはそのままであるため、やっていることとは裏腹に、砲撃とは比べ物にならない程の範囲を纏めて攻撃していることになる。

 あんな状態の睦月には、誰も近付くことが出来ない。そして、トーチカでの戦いで睦月の力の本当の危険性を知っている夕立は、時雨や黒井母に絶対に近付くなと警告をするレベルだった。

 

「睦月が手を滑らせたら、アレの重さが戻ってくるっぽい。でも勢いはそのまま」

「……直撃したら死ぬんじゃないかい?」

「前の敵は瀕死になったっぽい。見た目グチャグチャだったよ」

「なんちゅう力を持ってるんだいあのちっちゃい子は。はは、いいぞ。もっとやんな!」

 

 黒井母の順応性は時雨も目を見張る程であり、この戦場で笑っていられるのは、ある意味才能ではないかとすら感じている。それが時雨にとっても好感触だったりもする。

 ウジウジしている人間はあまり見ていたくない。だったら、これくらい開き直ってくれていた方がスッキリする。自分が洗脳経験があるからこそ、そういう考えに至った。

 

「ドローンを早いところもう片方につけたいわね。よし、子日、行けるかしら」

「にゃっほい! すぐに行けるよ!」

「私達で1人はすぐに終わらせるわよ。貴女も同じアドバンテージを持っているから、出来るわよね」

「だいじょーぶ! まっかせて!」

 

 こちらはドローンで示されている見えない敵を対処しようと動き出す神風と子日。見えないと言っても、今何処にいるかだけはわかる状態にあるので、それさえわかれば充分と、早速動き出した。

 深雪達は今は温存を徹底。煙幕を使おうとした瞬間にステルス爆撃を放たれることを考えると、動かない方がいいまである。それに、今でこそ爆撃が来ていないが、突如考え方を変えて、仲間ごと巻き込んでグラウンド全てを破壊しようとすることも考えられる。最もこの戦いに重要な特異点とその仲間は、今は回避に専念してもらった方がいい。

 

 その深雪も、電の力を最大限に引き出すため、その隣から煙幕によって緩やかにサポートしていた。

 電も深雪が隣にいるだけで普段以上に力が発揮出来る。気持ちの問題もあるし、特異点の補助装置であることが大きい。

 今だけは立場を逆転し、電を主とし、深雪が補助装置として動く。互いの完全に信頼しているからこそ為せる業。

 また、白雲、グレカーレ、磯風の3人は、2人の特異点を守るために周囲を警戒し続ける。見えない敵だろうが関係ない。

 磯風の『空冷』は常に流されており、白雲の『凍結』をすぐに出来るように。グレカーレも『羅針盤』がいつでも使えるように深雪の側から離れない。敵が見えなかろうが、『羅針盤』か決まれば正気に戻る可能性はある。『舵』が埋め込まれているのならその限りではないが。

 

「ある程度場所がわかるなら、それだけで充分よ」

 

 ドローンの真下にいるとわかっているのなら、ただそこに対して攻撃を繰り出すだけでいい。しかし、神風の攻撃では一撃で命すら斬り飛ばしてしまうだろう。そのため、あくまでも神風は牽制を徹底し、トドメを刺すのは子日にやってもらう。

 

 足場は未だにそこまでいいモノではないが、だからといって攻撃出来ないわけではない。神風は軽やかに跳ぶと、瞬時にドローンの真下の見えない敵に肉迫。刀を返して峰を前に。

 

「見た目がわからないから大人か子供かはわからないけれど、私達の前に出て来たなら敵よ。痛いことされたって文句は言わないでちょうだい」

 

 そして、思い切り薙ぎ払う。直撃しても斬られることはない。だが、とんでもなく痛いというだけ。

 

 学校の中から襲撃を仕掛けて来たということで、この見えない敵は子供である可能性はある。神風達は知らないが、港からの正面突破では、子供ばかりが駆り出されている程なのだから、こちらでもそうされているかもしれない。

 子供だからこそ、自分達のインチキは正当化し、敵のインチキはズルイと酷評する。曲解を使うことの方が余程ズルであり、それに対して神風は何の力も得ることなく実力だけでそれを超えているのだが、子供にはその差などわからない。

 

「……空を斬ったわね。動きが速いか」

 

 しかし、神風の斬撃はすんでのところで躱されてしまった。当たった感触はなく、神風のリーチも理解しているかのように、振るう前に飛び退いていた。

 ドローンはその動きを的確に捉えていたが、ほんの少しだけズレが生じる。だが、電はすぐに叫んだ。

 

「神風ちゃん避けてください!」

 

 その言葉を全て聞く前に、神風は大きくバックステップをしてその場から離れる。動きだけで言えば神風の方が断然速く、その瞬時の行動で敵の目的──神風に近付くことは失敗に終わる。

 相手は『迷彩』を使って何かをしようとしているが、見えていないのに砲撃などはしてきていない。ただ接近することを目的としているようにしか見えなかった。神風相手でも、刀を振らせた後にまた近付こうとしている。

 

 そこから考えられることはいくつかあるが、真っ先に気付いたのは、やはり電だった。敵の反応が見えていることから、憶測を立てた結果、あちらのやろうとしていることは、あまり考えたくないこと。

 

「まさか……今の敵、多分子供なのかもしれません。本当に、小さい子供……」

「どうしてそう思ったよ」

「だって、敵のやろうとしてること……ただ触ろうとしているだけなのです。まだ学校にいる最後の1人は空爆までしてきてますけど、出てきた2人は武器も持ってない」

 

 そう、グラウンドに降りてきた2人の『迷彩』持ちは、姿が見えないという圧倒的有利な状況に於いて、武器を持っていない。まともに艤装すら装備していないようにすら見えた。

 ただひたすらに無駄を削ぎ落として、素早く動けるように邪魔なモノを置いてきた。だとするならば、ここでやっていることは、戦闘ではなく()()になる。

 

「そうか、そうなのです。あれ、触ろうとしてるってことは……()()()()をしてるだけ……」

「鬼ごっこだぁ!?」

 

 電が辿り着いた結論。それは、敵がやっているのは本当にただの遊び。鬼ごっこ。

 2人の『迷彩』持ちが鬼となり、逃げ役の艦娘達にタッチする。ただそれだけ。それを狙っているだけ。子供だからからか戦闘と遊びの区別がついていない。むしろ、()()()()()()()()()()()()()()可能性すらあった。

 

 ならば、その鬼ごっこにどんな利点があるか。これまでの経緯から、それはすぐに答えが出た。

 鬼ごっこは、鬼に触れられたら、()()()()。つまり──

 

 

 

 

「あの子供達に触られたら、洗脳される……!?」

 

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