姿が見えない敵3人のうち、2人がグラウンドに降り立ったが、その行動に違和感があった。見えないと言うアドバンテージを持っていても、砲撃すら行なってこず、やろうとしているのは攻撃を避けて触れること。コレだけの敵がいても戦闘をしようとしていないと、電は勘付いた。
そこから気付いた。今この戦場にいるのは、子供であると。そして、現状を戦いと思っておらず、
そして、
「あの子供達に触られたら、洗脳される……!?」
鬼ごっこのルール的に、鬼に触れられたら鬼になる。つまり、触れられたらあちら側に持っていかれる。
普通の鬼ごっこならば、時間制限を設けて鬼にタッチされなかった者が勝ち。鬼にされたら負けであるが、ここは戦場なのでタイムアップなんて存在しない。鬼にされるのをひたすら耐えるしかない、あちらに勝利が確定しているクソゲーである。
それを回避するためには、このゲームの中、見えない鬼を触れられることなく始末するしかない。
「……絶対に触れられないでください! 敵は鬼ごっこをやっているのです!」
電の言葉はあまりにも戦場に似つかわしくないモノだったが、こういったカタチの敵を知っているからこそ、首を傾げることはなかった。
カテゴリーKの1人、小柄。彼女が完全なゲーム脳であり、この世界は自分が主人公のゲームと思い込んでいるような者。そんな敵が、この阿手の島にもいるとは思っていなかった。
深雪達を纏めて爆撃をしていないのもその辺りが関わってきているのかもしれない。黒井母で始末出来ればこちらのもの。そうでなければ子供の遊び相手として使い、深雪の仲間達を全員鬼にして、
「子日! 近接戦闘はダメよ!」
「わかってるーっ! 殴りかかろうとしたけどやめとく!」
自分も姿を消して、見えない敵に殴り掛かろうとした子日だが、そのリーチは刀を扱う神風と比べると格段に短い。殴りかかれたとしても、クロスカウンターをされたら、そのまま鬼にされる。
ここで子日を持っていかれたら、一気に勝率が下がる。ただでさえ見えない敵に手を焼いているのに、子日も見えない敵になってしまったら、今よりも確実に回避が出来なくなるだろう。
「睦月ちゃんは、ひたすら振り回していた方がいいと思うのです! その方が触られないはずなのです!」
「りょーかいにゃしぃ!」
ドローンがついていない方の見えない敵は、睦月の大暴れで行動が少し怯んでしまっているようだった。それが見えているのは電だけだが、明らかに足が止まったのが見えた。
「あとまずいのは……っ、梅ちゃん、叢雲ちゃん! 睦月ちゃんと合流してほしいのです!」
「っと、確かにね。私達が無防備になりかねないわ。梅、私が槍を振り回しておくから、すぐに向こうと合流するわよ!」
「は、はぃいっ! どうせなら……!」
叢雲と梅もそこから移動することを優先する。その時に、梅は足下にまだある空襲でぐしゃぐしゃになったタコ脚に触れ、全体は無理でも一部を『解体』して、足場を崩しておいた。それがあちらの足を取るかはわからないが、無いよりはマシとして。
しかし、子供の行動力は侮れない。それが深海棲艦の力を得ているのなら尚更である。
睦月によって前に進めなくなったのも束の間、別の場所に目を向けたか、ターゲットを別に変えた。その向かった方向は、今まさに電が声をかけた叢雲と梅。
「叢雲ちゃん! 10時の方向から!」
「了解! 近寄らせるわけにはいかないわ!」
どう来ているかが見えていないのが苦しいが、叢雲は睦月に倣うかのように、槍を横薙ぎに振り回して突っ込んでくるのを制限する。睦月ほどサイズがないため、牽制になるかどうかというくらいだが、それでも明確に刃がついた武器だ。少しでも足止めするには充分。
その間に梅が睦月と合流すると、今度は睦月が動き出す。大発動艇を振り回しながら、叢雲の方へと突撃を始めたのだ。
「叢雲ちゃん! 援護するにゃあ!」
「助かる!」
こうなると、見えない敵は足止めでは済まなくなる。見えない分、乱雑に攻撃するからこそ、巻き込まれる可能性が高くなるのだから、いくら子供でも危機回避としてそこから離れようとするだろう。事実、見えない敵は睦月に巻き込まれないようにその場から離れる。
今の敵には、睦月が完全に天敵となっている。砲撃ではない範囲攻撃が出来るのは、今の戦場では睦月だけと言っても過言ではない。黒井母も可能だが、先程の戦いで凍結しているため、まだ本調子ではない。深雪の真上にメンダコを飛ばすのが限界。
「睦月ちゃん! 1時の方向に逃げたのです!」
「りょーかい! 行くのね!」
その天敵たる睦月が、電の指示で逃げる見えない敵を追うことになる。しかし、それを黙って見ているわけがない。この戦場には、見えない敵がもう1人いる。
「っ、睦月ちゃん、爆撃なのです!」
「爆撃ぃ!?」
再び放たれる、校舎屋上を陣取る3人目の『迷彩』持ちから繰り出されるステルス空爆。今回は明らかに邪魔となっている睦月を狙ったピンポイント爆撃。絨毯爆撃ではなく、睦月のみを狙うことで、行動を抑制に来た。
電に事前に伝えられたため、睦月は見えない敵を追うのをやめて、すぐさまバックステップでその場から離れた。すると、向かおうとしていた場所が途端に爆発。真っ直ぐ行っていたら直撃だった。
爆発が起きるということは、その瞬間だけは爆煙が舞い上がる。流石にそこには『迷彩』はなく、しっかり目に見えるように舞い上がるが、それはつまり電の視界から見えない敵をさらに見えなくするのと同義。
「いかん! すぐに飛ばす!」
煙幕対策にも使える『空冷』の風を、突風にして爆煙を払い除ける磯風。すぐに電の視界を確保したが、先程いた場所にはもういない。
「神風ちゃん真後ろ!」
「っ!」
その見えない敵は、爆煙に紛れて神風の背後を取っていた。いくら神風とて、『迷彩』によって何も見えない相手にはどうしても隙を見せてしまう。そして困ったことに、今回の敵は鬼ごっこをしているだけの子供。
「触らせないわよ」
電の声のおかげで、神風はそこからでも回避が出来た。掠りもさせないどころか、もし何かを投げて来たらというのも考慮して、瞬時に大きく間合いを取れるのは、神風の技量があってこそである。
さらには、避けながらも刀を振るって風を起こした。磯風のような突風にはならないものの、見えない敵の足を取るには充分。ほんの一瞬でも止めることが出来たならば、それで間合いは大きく取れる。
「爆撃! 神風ちゃん睦月ちゃん磯風ちゃん!」
見えない敵が少しだけ纏まったところに集まったことがきっかけとなり、次は『迷彩』によるステルス爆撃。睦月が狙われたように、次に狙われるのは避けたばかりの神風と、相変わらずの睦月。そして爆煙を払い除ける磯風。あちらからしたら邪魔だと思えるのはこの3人。
見えているのは電だけ。故に、避ける者の名を同時に叫ぶ。
「あたしの上は今はいい! 磯風を守ってくれ!」
深雪は自分の上を守っているメンダコに向けて叫ぶ。すると、多少は意思を持っているかのように、メンダコは磯風の頭上へと舞い上がった。
「よし、また少し溶けたね。なら、もう少し出せる! 守りゃいいのは何奴だい!?」
「刀振ってる奴と、船振ってる奴さ」
「了解さね! 行きなぁ!」
さらに黒井母の艤装がまた少しだけ動くようになってきたため、メンダコ艦載機が追加で発艦。時雨に誰を守るべきかを問い、神風と睦月の頭上へと移動させた。
直後、かなりギリギリのタイミングで着弾。メンダコは自身の弾力で爆弾を少しだけ弾いたが、破壊することは出来ずに頭上で爆発。メンダコは半分ほどを抉られるように破壊されてしまう。
「ウチの子は待ちゃ治る!」
「それだけじゃあ足りねぇ! もうそいつらも、あたし達の仲間だからよぉ!」
ここで深雪、何を思ったが、半壊して墜ちてくるメンダコに対して左手を向けた。そして、弾丸のように煙幕を発射した。
優しい願いを叶える特異点の力。それに包まれたメンダコ達は、見る見るうちに自己修復が完了していく。本来かかる時間の半分どころか、数倍の修復速度で本来のカタチを取り戻した。
込められた願いは、『自己犠牲をしてくれた仲間の力の活性化』。その力を最大限以上に発揮して、完全な破壊から免れてほしいという、兵装に対しても死んでほしくないと思う優しさから来る特異点の力。
「結局また盾にするのは忍びねぇけどさ、でも、壊れちまうのは気分が悪ぃ!」
これには煙幕対策の空爆も間に合わない。ただ全体を覆い尽くそうとすると、無差別な空爆により煙幕を晴らされてしまうが、今の深雪にはこのようなピンポイント煙幕がある。全体ではなく、対象にのみ影響を与えるそれは、効果が強くない代わりに確実性で勝る。
「っっ、爆撃が続くのです! おばさま!」
続いて狙われるのは黒井母。このメンダコによる防御は、鬼ごっこを鬼有利にするための爆炎も発生させなくしてしまうため、邪魔だと感じたのだろう。ついさっきまで仲間だったのに、このタイミングで狙ってきた。真っ先に狙わなかったのは情でもあったのかもしれないが、行動を妨害されたならば見限る。あちらが情で動くことなんてまず考えられないため、生かしておくことに利点を感じていたのかもしれないが。
「用無しは死ねってことかい。流石だねぇゲスが」
「電、爆撃は真上かい!?」
「真上なのです!」
「なら、僕が撃ち抜く!」
それさえわかれば、時雨が大口径主砲によって破壊出来る。手に持つように変形させていた艤装を背負うカタチに戻すと、砲塔は完全に空を向くのだから、対空砲火にも使用可能。
「守ってくれるのかい、時雨」
「おばさんに死なれたら気分が悪いだけだよ。せっかく助けてやったのに、それが無駄になるのが気に入らないのさ」
「素直じゃないねぇ。でも、助かるよクソガキ」
「任せなよ、一般人のおばさん。戦いってのは、僕達がやるべきモノなんだ」
上空に向けて斉射。すると、着弾を待たずして空中で爆散。爆煙は地面にまで降りてくることなく、そのまま霧散していった。
「僕も基本防空に入る! 電、爆撃が来そうなら教えて!」
「了解なのです!」
これで3人目のステルス爆撃に対しても少しだけ耐性が出来る。それでも全く油断が出来ない相手であるのは変わらないのだが。
爆撃すらも加わって、逃げ側が絶対的不利な鬼ごっこはまだ続く。これに勝つためには、鬼となっている見えない敵2人を完全に行動不能にしなくてはならない。出来ることなら殺さずに。