戦場を駆け回る『迷彩』持ち2人による殺意のない鬼ごっこと、それを見守るようにしつつも戦場に爆撃を仕掛けてくる3人目の『迷彩』持ち。その対処に手を焼いている深雪達。
空襲に対しては、黒井母が繰り出すメンダコ艦載機による妨害と、時雨の背部大口径主砲による対空砲火によって、ある程度は抑えることが出来ている。最初にやられた、グラウンドを覆うほどの絨毯爆撃はしてこないようで、鬼ごっこを邪魔するようなことはないようである。
あくまでも特異点の仲間を奪うことが目的のようにも見えるのが厄介なところ。深雪達のメンタルに対して大きなダメージにしつつ、戦力差をさらに付ける一手。しかも深雪達は敵を殺すことなく勝とうとしていることもあり、一方的に策を講じることも出来てしまう。
「睦月ちゃん爆撃来てます!」
「りょーかい! すぐに避けるよ!」
「神風ちゃんまた背後!」
「しつこいわね、後ろなんて取らせたくないわよ」
この戦場をギリギリのところで拮抗に持っていけているのは、ひとえに電の全力のサポートのおかげ。ただ一人、
その集中力が続くように、深雪が煙幕でサポートし続けているが、限界が無いわけではない。それも、この戦いはまだまだ序盤戦だ。ここで消耗させられ続けるのも問題。
しかし、焦ってはいけない。冷静でいられなくなれば、その分消耗も激しくなる。ここでの戦いもままならなくなってしまっては、勝てるモノも勝てなくなる。
「奴らの動きを止められればいいんだが……っ」
爆撃により狙われている磯風は、メンダコに守ってもらいながらも、常に『空冷』の風を流している。空襲で爆煙が立ち昇ってしまった場合、電の視界が封じられてしまうことを恐れ、いつでも突風で煙を吹き飛ばせるようにしていた。
電もそれについては考えていた。いや、
「動きを止める……シラクモのが当たれば止められるよね。死にはしないし」
深雪や電を守るため、そして『羅針盤』を使う可能性を考えて、離れることなく戦場を見ていたグレカーレが考え始める。
これまでもあったが、敵の動きを止めるという点に関しては、白雲の『凍結』が一番優秀である。凍りつかせることでその場に固定してしまえば、それ以上追いかけ回されるようなことはなくなる。
しかし、それは見えている敵に対してしか出来ない。鎖を巻き付けることで凍らせることが出来るわけで、その照準が定まらない上に、神風の斬撃すらも回避しているため、見えていてもまともにぶつけられるかわからないほど。
そんなグレカーレの言葉が聞こえたのか、この戦場を見続けていた者が閃いた。
「……っ、もしかしたら、うまく行くかも……!」
そう呟いたのは、フレッチャーである。丹陽の力をコピーし、全てのスペックが爆上がりしているが、それは戦闘力だけではない。頭の回転も、丹陽から少し劣るくらいにまで引き上げられていた。
故に、これまでこの戦場を見ることを徹底していた。見えない2人からは常に距離を取り続け、大きな力を隠してこの広い戦場を見続けた。
鬼ごっこの対象にならないように立ち回り、前に出ないおかげで空襲の餌食にもならなかったおかげで、他の者よりも考える時間が作れた。そこから、見えない敵の対処法を思いついた。
「深雪さん、策があります」
「フレッチャー?」
「このままここで止まっているよりも、動き回った方がいいです。電さんには余計に負担があるかもですが……」
今までは観察をしながら場所の把握に努めていた。ただでさえ場所の把握と指示に頭を回しているのだから、自分の立ち位置を考えながら足下も考えて動き回るなんて、頭がパンクしてしまう行為である。
だからこそ深雪達がサポートして守り、他の仲間達が動き回って追い払おうとすることで、見えない敵の注意をそちらに向けさせることが出来ている。校舎屋上の『迷彩』持ちが電を狙ってきていないのは運がいい方。狙ってきたとしても、メンダコがすかさず守るため、先に黒井母を狙った方がいいと思わせるには充分。
「電、移動は……出来そうにないな」
「夕立ちゃん3時の方向! 時雨ちゃんまた空襲来てます!」
電は深雪の言葉が聞こえないくらいに必死に指示し続けている。これは自分の意思で動けるとは思えない。
「ならば、策のために動くヒトを貸してもらえますか。出来れば深雪さんにも来ていただきたかったのですが、これでは難しいですよね」
「ああ……あたしが電の集中力のために煙幕使ってるからな、ちょい厳しい」
「磯風さんと、白雲さんを貸してください。やることは簡単ですので」
そこからフレッチャーの策を聞いた深雪達は、なるほどと納得。この状況を打破するにはやらない理由がないと、疑問も否定もなくその策に乗ることにした。現状を打破しなくては、遅かれ早かれ全滅は免れない。1人でも持っていかれたら、一気に不利になるのは目に見えている。
「では、動いて冷やしていけばいいんだな」
「はい、足下には気をつけて。私は梅さんにもサポートをお願いしてきます」
「頼んだ。白雲、行くぞ!」
「かしこまりました。お姉様、しばし離れます」
フレッチャーの策のため、動き出す2人。磯風はこれまでと同じように『空冷』の風を溢れさせながら、そして白雲はフレッチャーに指示された通り、手に持つ鎖を足場となっているタコ脚に引き摺るようにしながら移動開始。
「……あたし、理科って言えばいいのか、そういうのってまだ全然知らねぇんだよな」
「ミユキはお勉強する暇が無かったもんねぇ。生まれてすぐに後始末屋だし」
「学校とかは知ってても、中でやってることが全然わからねぇ。生きてく上で知っとかなくちゃいけない算数とかはわかるんだけどさ」
生まれたばかりで生きるための知識などは持っていた純粋種の深雪達でも、少しだけ深くにある
故に、深雪や電では絶対に思いつかなかった。とはいえ、状況を見ていたらもしかしたらと思うタイミングはあったかもしれない。今はそんな暇が無いというのが実情なのだが。
「頼んだぜ。あたし達には出来ねぇこと、やってくれよな」
深雪はその思いを託し、より一層電が頑張れるように背中を押した。煙幕による強化を受け、電はさらに集中力を増す。元気の前借りをしているようで不安ではあるが。
これまで目立たないようにしていたフレッチャーが突如動き出し、仲間達に何やら吹き込んでいるところは、屋上の『迷彩』持ちにも見えていた。これまで何もしていなかったため後回しでもいいと思っていたようだが、動き出したなら対処しなくてはならない。
そのため、空爆の対象を更に拡げた。全体に仕掛けると
「フレッチャーちゃん空襲来てます!」
「やはり狙って来ましたね。でも、私も対空砲火は得意な方なのです」
電からの言葉を耳に入れ、フレッチャーは即座に対空砲火の構え。
フレッチャー級は最初から対空性能が高い。そこに丹陽の実力が上乗せされ、さらには丹陽自体も対空性能が非常に高いと来たモノだから、今だけはフレッチャーは防空専門である秋月に匹敵する程の力を備えている。
故に、見えない空爆に対しても、即座に対応。真上から来ているとわかっているなら、そこに対して面の攻撃で確実に爆散させることに成功する。1つたりとも逃すことはない。
「梅さん、お願いします」
「は、はぃいっ、いろんな場所を『解体』すればいいんですよね!」
「はい。最初に1つやってましたよね。それと同じです」
フレッチャーの指示は、梅も動き回りながら足場になっているタコ脚を『解体』すること。それに何の意味があるのかは梅にはわからなかったが、少なくともその場所を通る時にはジャンプしないと行けないくらいの穴が空く。そこを避けて動けばいいだけなのだが。
「大丈夫です。あの見えない敵は、この戦場を遊び場と勘違いしています。なら、
それは、子供の特性を利用した罠。グラウンド中を埋め尽くすタコ脚の上での鬼ごっこと言われて楽しんでいる見えない敵である子供は、他にも遊べるところがあるのなら、鬼ごっこをしながらそれに興じようとする。例えば、走り回っている場所に穴が空いているのなら、避けて通るのではなく跳び越えようとするように。
落ちたところで危険でも何でもないなら、ゲーム感覚な子供ならこんな状況でも穴を遊び場として楽しもうとするだろう。フレッチャーの見立てはまさにそこ。
「ついでに、行動範囲も狭めます。こちらも少し不利になりますが、これを鬼ごっこだと思っているのなら、これで気が引けるでしょう」
梅に穴を空けてもらいながらも、フレッチャーは大きく息を吸う。そして──
「おーにさーんこーちら! 手ーの鳴ーるほーうへ!」
見えない敵を煽るように叫んだ。子供ならばこれで惹かれない理由はない。電にはそれが見えていた。ドローンをつけ続けている1人に、注視し続けているもう1人、そのどちらもがフレッチャーに目を向けるのが、反応からでもわかった。
手の鳴ると言いながらも対空砲火を数発撃つことで音を鳴らし、こっちにいるぞ、かかってこいと言わんばかりに示す。
「2人とも向かいました!」
「ですよね。挑発すれば、2人とも私に惹かれる。これは子供の遊び、鬼ごっこなんですから。あちらには誰かを狙うなんてことはない。でも、今のように来いと言えば来る。
洗脳教育を受けているとしても、中身は子供。学びよりも遊びが楽しいお年頃。その中で、こんな大規模な遊びに興じることが出来るのだから、今のこの戦場も楽しんでいるのではないかとフレッチャーは考えた。
だからこそ、決死の覚悟はあるものの、その遊びに付き合ってやる。そして、今の戦場の遊び方をハッキリと見せてやる。
「こちらですよ、子供達!」
梅によって空けられた足場の穴を華麗に跳び越えると、アイドル活動で学んだステップも披露しながら走って逃げる。
子供達にとって見れば、追いつけるものなら追いついてみなさいと楽しく煽られているようなもの。どちらの方向から来るかを電に教えてもらえれば、その動きをある程度はコントロール出来る。
もっと素早い子日などに頼みたいところだったが、今は子日のようなパルクールのスペシャリストよりも、フレッチャーくらいの
「おっとと、ここは少し穴が大きかったですね。ギリギリでした。貴方達は、跳び越えられますか?」
誘うように穴をギリギリで跳ぶ。すると、電には子供達がフレッチャーの後を追ってその穴に向かっているのが見えた。
「向かっているのです!」
「ですよね。釣れましたよ」
フレッチャーは小さく微笑み、策の第一段階が成功したことを喜ぶ。だが油断は出来ない。本格的にやらねばならないのは、子供の動きを止めること。遊び回っていては、フレッチャーの体力が先に底を突く。
「さぁ子供達、お姉さんが遊んであげます。鬼ごっこなら、私が相手をしてあげましょう」
決死の鬼ごっこは、フレッチャーが子供の注意を引いたことで、ここから最終ラウンドへ。