後始末屋の特異点   作:緋寺

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子供であるが故

 見えない子供との鬼ごっこをどうにか終わらせるため、策を練ったのはフレッチャー。一部の仲間に手伝ってもらい、自らその鬼ごっこに加わり、遊ぶように相手をしながら策にハメていく。

 まず仕掛けたのは、この戦場を本格的に遊び場として、鬼ごっこと同時にこの戦場そのものを楽しませること。戦いだと思っていないならば、それ相応の状況を作り出す。

 

「さぁ、私は跳べましたよ。貴方達はそれを乗り越えて、私に追いつくことが出来ますか?」

 

 見えない子供に笑顔を振り撒き、機敏に逃げるフレッチャー。足下が不安定であっても、体幹が鍛えられているために全くブレずに動き回る。また、体力もついているため、疲労も見せない。

 

「乗り越えたのです!」

「ふふ、お上手ですね。でも、私にはまだまだ追いつけませんよ」

 

 フレッチャーは自らの曲解『量産』を有効活用出来るように、人一倍努力してきた。コピーしたところで、その力に身体が追いつかなければ意味がない。丹陽のコピーをした際に、最初は力に振り回されたこともあったため、余計にその気持ちは強くなっていた。

 だからこそ、ハードなレッスンで有名な那珂のアイドル活動にも率先して参加している。体力をつけるため、ステップを覚えるため、体幹を鍛えるため、そして、辛い中でも笑顔でいられるようにするため。音を上げることもなく、それこそ初期の深雪のように倒れることすらしながら、懸命に前に進み続けた。

 

 その結果が、これである。丹陽の力をコピーし、雪風改二としての力が身につくようになるまで成長し、戦場でも一人前として戦えるようになった。その力を存分に使い、子供達に惹かれるように行動する。

 

「那珂ちゃんのアイドル活動が、こんなカタチで役に立つなんて思いませんでしたね」

 

 呟きながら、クスリと笑う。子供相手には、大袈裟な振り付けで逃げ回る方がより目を向けられることになった。完全にフレッチャーに興味津々で、かつ、足場をアスレチックと見做して追いかけっこが出来ていることが楽しくて仕方なさそうだった。表情は見えず、気配すら感じ取れないが、電の言葉から、それを察することが出来た。

 ヒラリヒラリと舞うように逃げながら、笑顔で鬼さんこちらと手を叩くフレッチャーと遊んでいることが楽しい。注意を惹きつけている内に、ただただ注目するようになっていく。

 

 そしてそれは、()()()()()()()()()()()()

 

「正面、近付いてるのです!」

「おっと、危ない。タッチはまだダメですからね」

 

 スピードを上げたか、子供の一人がフレッチャーとの間合いを詰める。それでも、やはり舞うようなステップで華麗に回避すると、これが大人の力だと言わんばかりに大きく跳躍。瞬時に間合いを引き離す。

 梅の『解体』によって空けられた穴を利用し、子供にしては速い足を、跳んだり跳ねたりを繰り返させることで一定のスピード以上を出させなくしていた。

 

 ある程度制御することで、()()()()()と思わせ続ける。子供はあまりにも出来ないと癇癪を起こして全部放り投げる性質があるが、それをうまく起こさせないようにコントロールしていた。

 ギリギリでタッチ出来ないというのを見せれば、もう少しやれば出来ると思い込む。故に、フレッチャーから目が離せない。舞うような動きで目立つのもそこに繋がる。

 

「それじゃあ、次はこちらですよ。こんなことは出来ますか?」

 

 飛び退いたフレッチャーは次のアスレチックとなったタコ脚の足場を華麗に突き進む。穴を跳び越え、時にはわざと僅かな足場を使ってテンポよく渡り歩く。失敗すれば穴に落ちるような際どい場所をわざと渡り、子供達に出来るよねと促す。

 するとどうだ、見えない子供達はフレッチャーに追いつくために、わざわざ他にもターゲットがいるにもかかわらず、そのアスレチックを渡ろうと駆け出した。それが見えているのは電だけだが、本当に思惑通りに動いていた。

 

「わざわざ回り込まずにフレッチャーちゃんと同じ道を行こうとしているのです……」

「少し難しいところを見せて、お前達もやれるかって煽ったからだろうね。良くも悪くもお子様だよ」

 

 ケラケラとグレカーレが笑った。鬼ごっこもそうだが、楽しそうな遊びを見せれば、自分もそれがやりたいと思うのが幼心。この鬼ごっこの相手は、本当に幼いのだろう。武器も持たずにただ走り回るだけ、ズル賢い策なども使わず、見えないという一点で押し込んでくる、大雑把ではあるが子供としては楽しい遊び。

 そこから、見えずともあの2人の敵は相当幼いとわかる。つい最近までうみどりにいた桜や、おおわしの丁型海防艦と同じかそれよりも下ではないかと。

 

「そんなガキすら改造して戦力に使ってやがる。阿手の野郎、マジで気に入らねぇ」

「なのです。失敗したら死ぬような実験を、子供にもやったということですよね。それは許せないのです」

 

 老若男女関係無し。自分のやりたいことを、相手のことも考えずにやりたい放題。そんな阿手が、ただひたすらに気に入らない。そして、そんなことをされた子供を救いたい。そう思うには充分過ぎた。

 

 フレッチャーの策は次の段階へ。自分についてくる見えない子供は、完全に視野が狭まってフレッチャーに追いつくことだけを目標にした。()()()()()()であると、この場を再認識させることに成功した。

 そうなれば、今度は鬼に敗北を齎すことがフレッチャーがしなくてはならないこと。殺さず、傷つけず、その動きを完全に止める。意識も失わせたいところだが、それは少々難しい。なので、まずは動けなくするの一点。

 

「頃合い、ですね。白雲さんと磯風さんも動き回ってくれました。梅さんの作った穴は……うん、ちょうどいいのがありましたね」

 

 子供に追いかけられながらも、周囲を見回すフレッチャー。その視線の先には、梅が『解体』によって作ってくれた穴の中でも、一際大きめの穴があった。先程まで跳び越えていたモノよりも二回り程大きいそれは、その策に転じるには都合がいいモノ。

 

「今度はこちらですよ」

 

 その穴に向かって走るフレッチャー。だがここで、少しだけアクシデントが起きる。

 

「おっと」

 

 跳び越えようとしたフレッチャーが、タイミングをミスしたように浅いジャンプをしたかと思うと、跳び越えることが出来ずにその穴の中へと落ちてしまう。

 

「あはは、お姉さんは飛び越えられませんでしたね。失敗失敗です」

 

 見えないながらも、おおよそ見当が付いている子供の方に笑顔を向けたフレッチャー。少しだけ深い穴の中であるため、その顔が子供に見えているかはわからないが、今がチャンスと思わせるには充分すぎるタイミング。

 

「これは捕まってしまうかも。()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 穴から少しだけ遅めに脱出しながら、ここであえてのこの煽り。片方にやらせるのではなく、両方に競わせるような言い方をすることで、どちらも同時に穴を跳び越えさせる。片方に行けと言わせるのではなく。

 挟み撃ちにされていたら厄介だった。だが、同じ方から同じように向かって来ているため、今は完全に鬼ごっこから駆けっこに様変わりしていた。

 

 そして、

 

「跳び越えたのです!」

「白雲さん!」

 

 跳び越えた瞬間を狙い、白雲に合図を送ったフレッチャー。

 

「なるほど、今ならば!」

 

 そして、一気に『凍結』の力を流し込んだ。瞬間、フレッチャーの足下どころか、周囲ほぼ全体のタコ脚が一気に凍結。カチンコチンになるだけでなく、固まって収縮し、穴のサイズが僅かに拡がった。

 

 するとどうだろうか、本来なら跳び越えられた穴が、途端に跳び越えられなくなってしまう。足が穴の淵に触れたとしても、凍結しているためにツルリと滑って穴に落ちてしまうことになる。

 2人を競わせたことで、同時に引っかかり、そして同時に足を滑らせて、同時に落下。そこまで深くないとはいえ、穴に落ちてしまったという事実は変わらない。

 

「水以外の固体は凍ると体積を小さくする。足場が土ではなくタコの脚だからこそ、これが出来ましたね。艤装かもしれませんが、性質はまさにタコの脚ですから可能でした」

 

 見えないが、フレッチャーは子供達が落ちた穴に向けて、穏やかな笑顔を向けていた。

 

「トドメです。白雲さん、お願いします!」

「纏まっているのならば話は早い。その足、その場に留める」

 

 さらに『凍結』の力を流すと、穴の中の地面が一気に凍り付き、子供達の足を固めた。『迷彩』のせいでその様子は見えなくなっているが、感覚でそれが成功したことを察することが出来た。

 

「冷たい空気は下に滞留する。タコ脚だからこそ隙間もありますし、爆撃を受けていた一部の場所から流し込むことも出来るでしょう。この戦いが始まってから、ずっと磯風さんは『空冷』し続けていましたから、今の地面は驚くほど寒い。わざと穴に落ちた時に自分でもわかりましたよ」

 

 磯風に移動しながら風を送り続けさせたこと、白雲に鎖を引きずらせながら動いてもらったことは、全てココに繋がった。タコ脚を瞬時に凍結出来るくらいに冷やしておくことが、この作戦の全容である。

 穴を空け、そこを飛び越えるように誘導し、常に出来ると思わせておいて、跳んだ直後に凍結による収縮でサイズを拡げて落下させ、そのまま地面を凍らせて足を張り付ける。そうすることで、子供達は見事、穴の中で捕らえられて動くことが出来なくなった。

 

「さて、今回は私達の勝ちになります。残念でしたね。でも、楽しかったですか? 楽しかったならまたやりましょう。姿を見せて、言葉で伝えてください」

 

 優しい微笑みを向けられたこと、そして動けなくされたことによって、子供達も()()()()()()()敗北を認めたのか、『迷彩』を解いて姿を見せた。やはりこの戦場を命の奪い合いと認識していなかったようで、ゲーム終了と感じたら素直に言うことを聞く。

 

 そこに現れたのは、何処からどう見ても深海棲艦の子供。いわゆる、北方棲姫と北方棲妹。走り回ることを意識しているからか、本来の深海棲艦としての格好ではなく、体操服のようなTシャツとスパッツという軽装。見た目からして深海棲艦には見えなかったが、ツノはあるので鬼ごっこの鬼としては充分な見た目。

 

「たのしかった!」

「つぎはまけない!」

 

 あくまでも無邪気に、この鬼ごっこを楽しんだ様子の二人に、フレッチャーは笑顔を見せながらも内心複雑な心境だった。罪悪感すらなく、他人を陥れることが出来るように教育されていたこの2人。むしろ、陥れているという感覚すらおそらく無い。

 改造を受けても、特異点は敵であるとか、その仲間は万死に値するとか、そういう思想までが行き届かなかったのだろう。幼すぎて理解が出来なかったのではないかとすら感じた。

 

 

 

 

 そんな子供すら利用して、ここまで追い詰めようとしてくる阿手に、元々怒りを持っていたフレッチャーは、よりそれを強くした。

 

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