後始末屋の特異点   作:緋寺

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屋上の『迷彩』

 見えない子供との鬼ごっこは、フレッチャーの策により完勝。足場にしていたタコ脚を梅の『解体』で崩し、その穴で遊ばせるように誘導した後、白雲と磯風の合わせ技で瞬時に『凍結』させられるようにしたことで、跳び越えようとした瞬間に凍結による収縮で穴を僅かに拡げつつ、寒い穴に落としたところで足も凍結。これにより動きを止めることに成功した。

 

「それではお二人とも、少しだけお話させてほしいんですけど、その前に。まずはその手に持つモノは離してもらえますか?」

 

 フレッチャーが姿を現した子供達──北方棲姫と北方棲妹にそう言うのは、2人が持っていたものがあまりにも危険だから。

 

 そこにあるのは、黒井母の首筋に埋め込まれていた『舵』と同じモノ。それも、1つや2つではない。まるでビー玉やおはじきを集めているかのように、一つは手に、他は袋に入れて持ち運んでいた。

 子供達の鬼ごっこのルールは、おそらくコレだ。鬼として特異点とその仲間達を追いかけながら、それを貼り付ければ勝ち。子供達には、勝ちの証くらいにしか教えられていないのではないかと、フレッチャーは考える。

 

「これ?」

 

 北方棲姫が、フレッチャーに袋を掲げて見せる。足が凍って動けないのに、それすらも楽しんでいるようで、北方棲妹の方はなかなか抜けない足を凄い凄いと動かし続けているほど。

 

「そうです。それはとっても危ないモノなんですよ?」

「そーなの? これ、シールだよね」

 

 危機感を持っていないような言葉に、やはりと周りで溜息が出る。

 

「いいえ、それはシールじゃないんです。そうだ、1つ貸してもらえますか?」

 

 運用方法を気をつけなければならないため、フレッチャーは自分管轄の特機を使って、手に持つ『舵』を一つ受け取る。北方棲姫も遊んでくれたフレッチャーには既に懐いているようで、特機を見て反応するものの、まずは『舵』を渡してくれる。

 特機はそれを器用に撫で回すと、何かわかったようにグッと押した。すると、肌に食い込むための爪と、骨まで伸びる針が、その場で現れた。

 

「ひっ!?」

 

 そんな仕様になっているなんて知らず、北方棲姫は悲鳴のような声を上げた。そんな北方棲姫の様子を知ったため、北方棲妹も目を丸くする。

 

「これを貼られたら、私達がこれにすごく痛いことをされていたんです。危ないでしょう?」

「そ、そんなのだって、しらなかった」

「ええ、大丈夫。貴女達がそれを知らされずに遊ばされていること、私達は知っていました。だから、こんなモノはポイしちゃいましょう。貴女達が怪我をしたら困りますしね」

 

 自分達は勿論、子供達も傷付いてはダメだと、『舵』は一度預からせてほしいと伝えると、子供達は途端に怖くなって袋ごとフレッチャーに渡した。こんなのいらない、捨てると、少しでも持っていたくない様子だった。

 

 こういうところからも、やはり子供達は幼すぎて洗脳出来ない状態だったとわかる。善悪の理解がハッキリしておらず、特異点が悪と言われても悪とは何ぞやの状態。まだ洗脳教育も始まっていないくらいの幼子。感情を植え付けることすら出来ない。言葉を覚え始めたくらいかもしれない。他のまともに敵対する者達とは違った、()()()()()()()()()()()

 だから、遊び感覚で特異点を始末させられるように仕込んだようである。それこそ、善悪の区別がついていないのだから。お姉さん達が遊んでくれると吹き込んで、無邪気に追いかけ回すだけ。

 そして何があってもあちらは特異点を咎めるのだろう。子供のやったことに……と加害者側が絶対に言ってはならないことを交えながら。自分達で指示をしておいて、責任を子供と、それを受けた特異点側に全て押し付ける。

 

「では、これはこちらでどうにかしておきますね。こちらにはこういうのを無くしてしまうスペシャリストがいますから」

「誰か聞かなくても梅ですよねぇ……爪が出るとこ見せられてから『解体』するの、なかなか勇気が入りますよぉ?」

「特機に押さえてもらって、表面から触れれば大丈夫そうですよ。ではお願いします」

「はぁい。こういう地道な作業も大事大事ですからね」

 

 これで恐ろしい鬼ごっこは完全に終了する。そうなると、残るは──

 

 

 

 

 フレッチャーが子供を対処し始めた段階から、最後の1人に照準は絞っていた。電はドローンをすぐに屋上側に飛ばし、見える限りに場所を示そうとする。

 とはいえ、やはり場所としては少々遠い。そこに向かうまでには、あちらに相応に対応する時間を与えてしまうことになる。

 

 最後の『迷彩』持ちが取ろうとした手段は、予想通りだった。撤退である。

 

「逃げようとしているのです!」

「子供諸共やろうとしてこないところだけは評価出来るけど、そりゃあ都合が良すぎるだろうがよ!」

 

 見えないことをいいことに逃げに走る。だが、それを良しとするわけが無い。

 

「見えやしないが、屋上にはいるんだろう。なら、アタシが邪魔してやろうかね!」

 

 ここで動き出したのは黒井母である。電のドローンもそうだが、この戦場で数少ない艦載機を扱える者。ついさっきまでは敵であっても、今は完全に味方。感覚的に艤装が扱えることもあってか、そういう意識を持った途端、出せるだけ出したメンダコが猛スピードで屋上に向かっていく。その数、さらに増えて5体。空襲が無いならば、守りも必要ない。

 

「まだ屋上からいなくなっていないのです!」

「なら、まずは出入り口の封鎖だよ。屋上の出入り口なんて高が知れてる。飛び降りる以外の選択肢を奪ってやるさね!」

 

 真っ先にメンダコが押さえたのは、校舎の屋上に出入り出来る唯一の扉。突っ込んだメンダコは、そこにベッタリと張り付くように陣取って、逃がさないという意思を強く見せた。

 このメンダコ、深雪の煙幕の効果を受けているため、自己修復のスピードが他よりも高い個体。この『迷彩』持ちが、その場を打開出来るような兵装を持っていたとしても、簡単には壊れない。

 

「ここ! ここにいるのです!」

 

 少し遅れて電のドローンが『迷彩』持ちの頭上に鎮座した。未だに屋上から離れることが出来ない最後の1人は、これで場所までマークされる。

 ここで飛び降りないということは、出来ることと出来ないことがあるということ。子供達は当たり前のように校舎から飛び降りて戦場に入ってきたが、それが出来ないと考えてもいい。子供達より身体能力が劣っているのか、それとも高いところから飛ぶことが怖いのか。それは定かでは無いにしろ、ここならば反撃を受けないだろうと高を括っている可能性は高い。

 

 故に、うみどりの仲間達の身体能力を過小評価しすぎだった。

 

「にゃっほーい! 子日アターック!」

 

 そう、既に屋上にこっそり向かっていた者がいたのだ。同じように姿を消すことが出来、前後左右だけでなく、上下にも縦横無尽に動ける、パルクールの達人じみた機敏な仲間が。

 

 子日は子供達の鬼ごっこが終わりそうになった時点で、『迷彩』で姿を消して動き出していた。校舎に入って向かうことも考えたが、それこそ建物の中はどんな罠が仕掛けられているかわからない。

 故に子日は、()()()()()()()()。壁を伝い、窓を足場にし、時には主砲を繋ぐワイヤーを活かし、蜘蛛のように登っていった。

 その結果が現在。屋上に辿り着き、見えない敵の場所を提示されることを待っていたのだ。

 

 ドローンの真下に対して強烈な蹴り。それは確実に手応えがあった。見えない何かを蹴り飛ばす感触。

 あちらも子日が見えていないのだから、何処からどうやって攻撃してきているかなんてわからない。そのため、子日の攻撃を防御することは出来ない。咄嗟の判断すら出来ない。

 

「手応えあり! どうせ死なないだろうし、一回屋上から落ちとく?」

 

 話ながらも子日は屋上内を縦横無尽に動き回る。見えずとも居場所を特定されたら困るからだ。

 お互いに攻撃も何も見えていないところから、知らない者には何が起きているかわからない。子日ですら、敵の状況がわからない。

 

「何処にいるかわかってんなら、もうこっちの勝ちさ。メンダコちゃん、捕まえちまいな」

 

 だが、その戦いもすぐに終わりを迎える。他にも向かった数体のメンダコが屋上へと辿り着くと、ドローンの真下に向かって組み付こうと突撃。見えていなくても感触はあるので、ひとたび絡み付くことが出来れば、あとはもうお構いなし。2体3体と張り付いていく。

 最後の1人の『迷彩』の効果で、組み付いたメンダコの姿も消えていくが、絞めることをやめさせられるわけでもない。身動きが取れないのはどうなっても変わらず、もし艦載機が発艦出来たとしても、メンダコを爆破することは自分を爆破することに他ならないため、その行動すら抵抗がある。

 

「こうなったらもう落としちゃっていいでしょ。メンダコがクッションになってくれるだろうし。ここに陣取られても厄介だしね。それじゃあ……子日キィーック!」

 

 そんな見えない最後の1人を、全力で蹴り飛ばした子日。その威力は相当なモノで、屋上にある柵すら越えて、そのまま屋上の外へと放り出される。

 そうなってしまえば、あとは自由落下するだけ。屋上から地面まではそれなりの高さがあるのだから、地面に叩きつけられれば、それ相応のダメージは避けられない。いくらメンダコが纏わりついているとしても、吸収出来るダメージには限界がある。瀕死の重傷までは持っていかれるだろう。

 

「ごめんね、これ、命のやり取りなんだ。子供に全部罪を着せようとするのは良くないからね。ちゃんと痛い目見ようね!」

 

 最後は姿を現し、笑顔で手を振り落ちるのを見送った子日。自分達がやっていた姿を消しての戦いを逆にされたことで、最後に最悪の一言が出た。

 

 卑怯者、と。

 

 だが、そんな負け惜しみは誰の耳にも届かなかった。どうせそんなこと言ってるんだろうなと予想していた子日は、それをわかっていたからこそ、当てつけのように姿を現して見送った。

 

 

 

 

 落下して地面に叩きつけられるのも、『迷彩』の効果でいつそうなったかがわからなかった。だが、気付いた時にはそこには、気を失った最後の1人の姿が現れていた。

 

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