後始末屋の特異点   作:緋寺

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森から現れる者

 深雪達奇襲部隊が島の学校での戦いを繰り広げている頃、調査隊を主にした部隊は、学校ではなく大きく回り道をしながら島を調査していた。

 

「ハッキングは終わっていますが、ここ結構アナログ制御が多いですね。アクセス出来ないスタンドアローンな機器が盛り沢山です」

 

 タブレットを操作しながら苦笑する白雪。島に入り込んだ時点で、この島の中枢にハッキングを仕掛けていたが、あちらはその辺りはかなり用心しているようで、深く入り込むことは殆ど出来なかった。

 一部の通信機器はシャットアウト出来ているので、援軍を呼ぶようなことは出来ないが、島内全ての電力を落とすような、裏切り者鎮守府攻略戦の時にやった大規模な攻撃は残念ながら出来ていない。むしろ通信機器から先に進めないまであった。

 

 この島自体が高度に進歩しているようには見えないところはあったものの、それでもやっていることは並の鎮守府では絶対に不可能な高度な実験。それを外部との接続は無しに、完全に島だけで成り立たせているようである。

 秘密を外に漏らさないようにするには、これが一番手っ取り早いだろう。ならば、この島には、ハッキングも出来ないような完全独立型の機材が山ほど隠されており、それさえ破壊してしまえば、阿手の研究をも破壊出来るだろうと考える。

 

「見たかい、ちょくちょく建っている家、何処もかしこもアナログだったよ。電子錠なんて何処にもない。南京錠まで使われてる始末だ」

「見ました見ました」

「この島は、外観だけで言えば、文明が一昔前で止まっているド田舎だ。でも、内側は私達では及びもつかない程の高度な技術が目白押しなんだろうね」

 

 白雪に続き、響も苦笑した。別に電子錠を使わない家屋なんて、何処にでもいくらでもある。しかし、南京錠まで使ったロックは、これはまたアナログかつ厳重だなと。

 

「でも、それくらいなら響ちゃんが()()()()()()()()?」

 

 簡単に言ってのける白雪。対する響も、勿論だと首を縦に振った。

 事情をあまり知らない調査隊ではない者達は、これについて深く聞いていいものか躊躇う。そもそも白雪が軽々とハッキングなどをしていることも触れづらいところなのだが。

 地下施設襲撃の時にも、艦娘とは別モノの力を遺憾無く発揮していたが、調査隊は明らかに普通とは違う能力──ここ最近の戦場で見受けられる特殊能力ではなく、技術者的な特異性──を見せていた。白雪のハッキングはその最たるモノ。一歩間違えば普通に犯罪なことを、許可をとってホワイトな状況下で使い続けているほど。

 

「開けてもいいけど、必要のないところはやめておこう。内部に繋がる何処かに入れそうな入り口ならいくらでも開くさ」

「そうですね。今のところは……それらしいところは見当たらないですが。神通さん、何かありそうですか」

「今のところは何も。ただ、隠しもしない殺気をピリピリと感じますね。私達の行動は常に監視されているようです。周囲への警戒は怠らずに行きましょう」

 

 調査隊がズンズン進んでいくのを追うカタチになっているのが、大本営の陸軍組2人と、軍港鎮守府の3人。

 こういった調査という話になると、調査隊に全てを任せて自分達は護衛という立ち位置になってくるため、戦闘が始まるまでは何もすることはない。

 

 しかし、陸軍である2人には、こういうところで見えてくるモノがある。

 

「ちょっと待て、歩みを止めろ」

 

 熊野丸が指示をすると、先頭を行く調査隊が移動を止める。

 

「普段聞かない音が聞こえた。何者かが近付いてきている音だ」

 

 今一行が歩いているのは、街の外れという様相の場所。深雪達が入ったところとは真逆であり、どちらかといえば木々の方が多いような、より田舎と思えるような雰囲気。

 調査隊は街のど真ん中を怪しみつつも、念のためこういった明らかに何かを隠せそうな場所から確認している。そこまでわかりやすくはないと思いつつも、正面突破の部隊と奇襲として回り込んで街中に入り込んでいる2つの部隊とは別のルートを探るには、これくらいわかりやすいところを狙ってみるのも必要だと思っていたからだ。

 

 そして、敵はそちらからの侵入に対してもちゃんと対策をしていたようである。何処から来ても抑え込めるように、各種防衛隊を配備しているようだ。

 

「足が遅いか。向こうの森の中からこちらに向かってきている。武器は……持っていたら撃ってきてもおかしくはないが、してこないということは、そのまま襲い掛かろうとしているのかもしれないな」

 

 冷静に分析している熊野丸だが、声に少々昂揚が含まれているのを誰もが聞き逃さない。戦闘が始まりそうだからなのか、それとも展開が変わったからなのか。

 

「出来損ないじゃないかしらね。脚が崩れたような」

 

 そんな熊野丸に、暁はさらに冷静に状況から考えたことを伝えた。普段聞かない音となれば、歩き方自体が普通とは違うのではと予想したため、出来損ないへと変化した際に身体が崩れ、それが足に来ているからそうなっているのではと考えている。

 本当にそうならば、まともに運用も出来ないため、僻地に配備されているのもわかる。つまり、こちらには何も無い。

 

 だが、ミスリードの可能性もあるため、入念に調べておきたいところではある。むしろ、こういう類でも配備されているということは、何かしらの守っておきたいモノがこちらにもあるということになるのではないかと。

 

「前の軍港の時もいたな。今回は車両が無いのが惜しいところだ。全員轢き潰してやったところだが」

「熊野丸殿は相変わらず物騒でありますな。艦載機からも見えていないので、森の中からこちらに向かっているようであります」

 

 熊野丸にツッコミを入れながら、山汐丸も艦載機による監視を怠ってはいない。その上で見えないということは、上から見えないような場所、つまり森の中にいるということに他ならない。

 

「出来損ないなら撃って構わないですよねぇ」

「ダメよ。様子見は必要だもの」

 

 熊野丸より物騒な言い方の綾波。流石にそれは暁がステイさせる。出来損ないだからといっても即断して撃つのは危険。何せ、これまでの出来損ないには自爆するタイプもいたのだから。撃った時点でとんでもない爆発をされたら堪ったモノではない。

 

「ですが、撃つ準備は必要でしょう。調査隊としては、少しは調べられるとありがたいですが」

 

 神通も攻撃する方針で構える。森に向けて撃つのは、そのまま火事を引き起こしかねないのだが、そこはその時に考えて。

 

「鬼が出るか蛇が出るか……何が来てもいいようにしておかない……と……」

 

 ガサガサと木々が音を立てた後、そこから出てきたのは出来損ない──ではなく、見た目中高生と言える少女。

 艦娘でもなければ、深海棲艦でもない、ただの人間。服は木々に引っかかったのか所々が破れており、肌にも擦り傷が出来ていた。

 

「や、やっと()()()()()()に会えた……!」

 

 疲れ果て、でも艦娘を見たことでパァッと表情が明るくなるその少女。しかし──

 

「動くな」

 

 熊野丸は向かってこようとする少女を強い語気で制止させる。睨みつけ、敵だと認識しているような雰囲気で。

 

「え、えっ」

「この島で、しかも森の中で、まともな人間の女がいる? 信じられるわけないだろうが。俺ならば間違いなく敵の策略だと思うがな」

 

 熊野丸は現在兵装は持っていない。だが、素手だけで家くらいなら破壊出来るだけの膂力を持ち合わせているため、いざとなったら()()()ぶん殴るつもりで拳を握る。

 

「ちょ、ちょっと待って! 私は──」

「前の戦いでは、姿を変えることが出来る力を持ってるのがいたのよね。今はフレッチャーが同じこと出来るんだっけ」

「はぁい。本来の姿に見せかけて近付いて、後ろから『量産』をするっていう、ゲスの極みみたいな敵でしたねぇ」

 

 暁と綾波も、冷静に考えてその少女を信じるわけがなかった。これまでの経験上、その少女が本当に人間だったとしても、既に『量産』を受けており、姿形をそれらしく見せているだけの敵である可能性は非常に高い。

 

「正々堂々戦えんのか貴様らは。不意打ちしか狙えない連中ばかりのようだが、自ら高次の存在と名乗るならば、もう少し頭を使え。我々が信用すると思っているのならば、余程の愚か者だぞ」

「だから、話を──」

「聞く耳持たん。暁、奴の彩とやら、イリスに聞くことは出来るか」

「やってるわ」

 

 暁は通信設備も持っているため、その彩を見るために既にうみどりに連絡を取り、彩を確認してもらっていた。

 本当に人間ならばカテゴリーG。何かされているならば彩は違う。とはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「出たわ。彩は……あら、カテゴリーG、人間みたい」

「ふむ、そうか。では、改造を受けていないだけで洗脳を施されている可能性が高いな。やはり近付くな。俺が言うまでその森から出てくるな。我々に危険を及ぼすな。いいな」

 

 人間であることはわかったが、当然信用しない。洗脳されているか否かなんて見てわかるものではないのだから、本人がどう言おうと近付かせない。

 

「え、えぇー……」

「こちらも緊急事態なのでな。貴様も信用を勝ち取りたいなら、こちらの言う通りにしろ。それで我々は何人も被害を受けているんだ。恨むなら、ここを陣取るクソ共を恨め。我々を、特異点を恨むのは筋違いだ」

 

 こう話している間も、ニコニコしながら少女に主砲を向け続ける綾波。不穏な動きをしたら撃つぞと、言わずとも伝えることが出来ていた。

 

「手を上げてこちらに来い」

「は、はぃぃ……」

 

 渋々と言った感じで森から出てくる少女。しかし、ここまでしないと最悪な不意打ちを受けかねないのが今の敵。慎重に事を進めていくのは当然。

 

「本当ならこの場で全て脱げと言うところだが、今回は勘弁してやろう」

「うえっ!?」

「当然だ。武器を隠し持たれていては困る。今は本当に小型な兵器も運用されているんだ。ここから逃げて来たならば、それくらいわかるだろう。やはり我々を騙そうとしているのか」

 

 そんなことはないと首を強く横に振る少女。これが本心からのモノなのかはまだ読めない。

 

 

 

 

 調査部隊の前に現れた謎の少女。人間ではあるようだが、その正体は如何に。

 

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