後始末屋の特異点   作:緋寺

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少女の身体

 調査部隊の前に突如現れた、カテゴリーG──人間の少女。言動だけを見れば、洗脳されているようなことはなく、何かされる前に命からがら逃げ出してきたという風体だが、これまでのことを考えると、そういう人間であっても何一つとして信用出来ることはなかった。

 洗脳されていないように見せかけて、実は取り返しのつかないくらいに頭の中を弄られているなんてことは考えられる。見えないだけで暗器を隠し持っていることもあり得るのだから、まずは確認が必要である。

 

「調査隊である私達が、君をいろいろと調べさせてもらうよ。何をするにしても君のためだから、文句は言わないように。それくらい、こちらは見ず知らずの相手には不安要素しか無いんだ。わかってもらえるかな」

 

 そう話すのは響。森の中から出てきた少女に伝えると、熊野丸とは違い、優しさを全面に出した接し方なおかげで、少しは安心したように前に出た。

 

 しかし、その調査方法を知ると、途端に顔が引き攣った。

 

「身体を調べるにはもってこいのモノなんだ。私達は近付かなくてもそれがわかる。君は私達の信用を勝ち取れる。君に何も無いというのなら、Win-Winじゃないかい?」

 

 響が見せたのは、自ら寄生させた特機の力『増産』によって増やされた特機である。初めて見る者には、ただ触手を蠢かせるバケモノにしか見えないため、少女は後退りをした。

 

「えっと、それを、私に?」

「勿論。大丈夫、危害は加えないよ。そうだね、ドクターフィッシュに似たモノだと思ってくれればいい」

「そうは全然見えないけど!?」

「似たモノというだけさ。君の中に何かあるなら、その毒素をしっかり抜いてくれるからね。さぁ、信用を得るためと思って、受け入れてもらえるかな」

 

 逆に言えば、それを受け入れられないならばどうあっても信用されず、最悪無実を訴えても突き付けられている主砲のトリガーが引かれることになる。

 自分は何もないのだと訴え続けても、実際にこういうカタチで見せてもらわないとわからないと言い続けているのだ。

 

 極端な話、ドン引きするような手段であっても、疚しいところがないならば受け入れるしかない。

 痛みもないし、それをされたからと言っておかしなことが起きるわけでもない。カテゴリーGに寄生させたら悪いことが起きることも事前に理解しているため、本当に身体をチェックするだけ。ただただ這い回られるため、くすぐったかったりする程度。

 

「……わかった、わかりました。身の潔白を証明するためにも、その……ウジュウジュしてるヤツ、使ってください」

 

 観念したようで、それを使ったら信じてもらえるならばと、一歩引いていた分を前に進んだ。どうぞと身を任せるように無防備に。

 

「了解した。それじゃあ、何かあったら困るから、私達は少し引いたところから見せてもらうよ」

 

 言いながら、特機を3体少女に差し向ける。一世一代の大仕事、『増産』によって生まれた特機達は、命を賭して少女の潔白を証明しに向かった。

 

 身体に纏わりつく感覚にヒッと息を呑む少女。だが、これを我慢しなくては、自分が何もないということを証明出来ない。そのため、目を瞑ってその感触に耐えていた。

 特機達もなるべく嫌な思いをさせないように身体中を這い回り、何か仕込まれていないかを丹念に調査する。イリスの目ではカテゴリーGとなったものの、それでも何らかのカタチで欺くことが出来ているかもしれない。

 あらゆる不安を取り除くために、見られるところは全て見る。寄生はせずとも、触手を体内にまで伸ばして、()()()()()が無いかを隈なく探す。

 

「暁達は、こうしてる間に森の方から何か来ないかを警戒しておきましょ。川内さんはもう森に入ってるわよね」

「はぁい。とはいえ、見晴らしが悪いことを考えると、木の上を渡っていくのも怖いところですけどねぇ」

「川内さんも電磁波照さしょう……コホン、電磁波、照射、装置を持っていってるとはいえ、ね」

 

 軍港都市組は、少女の調査の間に乱入者が現れないように、森の中を警戒。暁が電と同じく『迷彩』持ちを確認出来る装備を持っているため、それを使いながら、少女がここまで辿ってきた道を確認する。それこそ、少女の後ろについている可能性だってあるのだから。

 森に入った川内に至っては、常に電磁波を照射しながら移動しているほど。森の中で忌雷に襲われたら堪ったものではなく、地上だけでなく木の上などからも襲撃してくるかもしれないのだから、この辺りは徹底的に見ている。

 

「き、気持ち悪い……」

「我慢してくれ。それが君のためさ」

「そう、言われても……うひっ!?」

 

 歯を食いしばって這い回る感触を我慢している少女だが、特機が頭部付近、髪の中を見始めた時には、おかしな声を出してしまっていた。そんなところを触られると思っていなかったようで、涙目でそこまでするのかと訴えてくる。

 だが、響は冷静な表情で頷くのみ。身体の何処に仕込まれていてもおかしくないのだから、隅々まで丁寧に調べ上げるぞと、特機に全て任せている。特機だって、この少女のためだと漏れなく探しているほどだ。

 

「そ、そんなところに何かあるなんて思えないんだけどなぁ!?」

「前に忌雷が髪の中に隠れていた前例がある。君も同じかもしれない」

「そんなぁ……でも、何もないはず。重さとかそういうの感じなかったし」

「パチンコ玉くらいの大きさのモノだったらしいけどね。ちなみに、私達の仲間はそれの犠牲になった」

 

 今は治療済みだけど、と追加で話すが、少女は実際にあったことだと聞かされてゾッとしている。

 

 しばらく探し続けて、特機が髪の隙間から顔を出し、触手を蠢かせて何も無かったことを示した。

 また、一部の特機は外観から見えない部分まで調査をし始める。人間の身体には、小型のモノならば隠せる部分が多く、武器でなくても忌雷ならばいくらでも何処にでも置ける。

 それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだってあり得るのだ。これまでの忌雷は寄生した時点で変化させていたが、人間のままで維持しているという器用なことをしている可能性があるため、しっかり体内も確認する。

 

「あ、あのー……このバケモノさぁ」

「我慢してほしいね。あとそれは特機という名前があるから、バケモノと呼ぶのはやめてあげてほしい」

「そ、そう。じゃあ特機だけど、痛くないとはいえ、身体の内側をいろいろされるのは……」

「敵の兵器は内側からいろいろするモノなんだ。私はその様子を実際に見せられているし、それで仲間を失いかけてる。何度も言うように、身の潔白を証明したいなら我慢してほしい。申し訳ないとも思うけれど、君が万が一()()()()()()()()()()()()()、それだけで私達は全滅するんだ。わかってもらえるかな」

 

 響は実際に海賊船でのそれを見ているため、変化する人間も知っている。そこからの大惨事も一部始終、又聞きではなく自分の目で見ているから、真に迫る言葉で語ることが出来る。

 少女は響が冗談で言っているとは到底思えなかった。心を鬼にしてでも、徹底的に調べ上げているのは、同じことが起きないようにするため。そして、敵がそういうことをしてくる連中であることを嫌でも理解させられる。

 そもそもここに来るまでに、まともな人間を見ることが出来なかった。それこそバケモノと化した人間ばかりを見た。ここに来て初めてまともな人間を見ることが出来た。自分がこうなら、ここにいる者達も同じ思いをしているかもしれない。少女はそう考えることが出来た。

 

「……わ、わかった。ちなみにだけど、もし私の中に何かあった場合……私ってどうなるの……?」

「端的に言えば、2択だね。死ぬか、洗脳されて敵の一味になるか」

 

 引き攣っていた表情が、余計に引き攣る。今自分は崖っぷちに立たされているかもしれないと思うと、気が気で無くなる。途端に涙目になり、助けて助けてと呟く程に。そうするのがこちらの仕事だと響は遠目ではあるが慰めるように話した。

 

 そうこうしているうちに、特機が調査を終える。体内にも何も無かったことを確認して、3体は少女の身体から離れていき、響の手に戻っていった。

 

「おめでとう、本当に何もされていなかったようだ。()()()()()()、君は信用が出来る()()()()()()ということになりそうだね」

 

 体内に何も無かったことは安心出来た。しかし、まだ完全に信用出来るとは限らない。何処までも警戒が必要なのが今の敵のやり方である。

 

「な、中に何もなかったのはよかったけど……まだ信用されないの……?」

「当然さ。何せ、ここを陣取っている敵は人心掌握が得意な敵だからね。君が演技していないと証明出来ない。とはいえ、ここにいたモノをまともではないと認識出来ているから、演技にしては真に迫っているとは思うけれど」

 

 少女はそれでも信用してもらえないことを悲しむが、響は仕方ないことなんだとしっかり説明して理解してもらう。

 

「それと、君の素性をある程度教えてくれるかな。この島の住人なのかい? それとも外から連れてこられたのかい? 年齢は? 何故逃げ出せた? ここまでどうやって逃げてきた? 聞かなくちゃいけないことは沢山ありすぎるくらいさ」

「あ、そ、そう、だよね……そっちからしても私は素性もわからないただの人間だし……」

「物分かりが良くて助かるよ。私達は疑うのが仕事だ。調査隊だからね」

 

 少女も響の真剣さを認め、自分の扱いが不遇というわけではないと納得する。いきなり目の前に現れた人間なんて、誰が信じることが出来るかと言われれば、出来るわけがないのだ。

 少女は真っ先に見つけたまともな艦娘達がいたから全面的に信じたが、普通に考えれば、ここにいる時点で本当に信じられるかわからない。切羽詰まっていたからこそ即座に全面的に信用したが。

 

「君は重要参考人だ。いつ突然変わり果てるかもわからない。身体に仕込みが無くとも、何が起きるかわからないんだ。だから、こんな言い方はしたくないが、君は逃がさない。一緒に来てもらうよ」

「えっ」

「本当はうみどりかおおわしで保護するのがいいんだろうけど、私はそれがあちらの狙いなのではとも考えているからね。こんなところでまともな人間がいるとは到底思えないからさ」

「……だ、だよね、うん。でも、1人にされるよりはマシ、かな。じゃあ、ここまでのコト、話すんで……」

「よろしく頼むよ。全てを信じるわけじゃないけど」

「えぇー……」

 

 

 

 

 調査の結果、今はまず話を聞くことは出来るとわかった。ここからは少女に対しての事情聴取である。

 

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