後始末屋の特異点   作:緋寺

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合流に向けて

 敵の施設から逃げてきた謎の少女、杏。特機の調査によって何も仕込まれていることもなく、イリスの目でカテゴリーGであることも見えており、話を聞く限りでは難病を抱える母を実験台にされたということで辻褄も合っている。そのため、保護というカタチで現在は同行させている状態となった。

 だが、これだけ信用出来る要素があったとしても、一同は杏のことをまだ信じ切ってはいない。敵は()()阿手であり、例え人間であっても精神操作などを施している可能性が否めないからである。突然豹変するかもしれないという危険も視野に入れつつ、今は護衛という体裁で周りを取り囲んでの行動となる。

 

「一般人は守らねばなるまい。貴様に戦闘能力はないのだからな」

「あ、は、はい、助かります……」

「だが、背中から襲ってくれるなよ。艤装があるとはいえ、視界に入らなくなったら何かしでかすなんてことがあられても困るからな」

「そ、そんなことしない、しないですよ。少なくとも、私にそんなつもりはないから」

「そのままであってほしいがな」

 

 熊野丸は疑いの気持ちを隠そうともしない。そのため、杏は少しだけ苦手意識を持っていた。

 良くも悪くも軍人気質な熊野丸は、一般人とは相性が少々悪いか。物言いがキツくなってしまうのも、それは軍務に忠実であるからであり、全員の安全を考えての行動。勿論、その中には杏も含まれている。

 

「さっきも話したけれど、私達は一般人にも襲われたことがあるんだ。そのせいで、君のような被害者にも疑いだけは持っておかなくちゃいけない。そこは理解してほしいね」

「それは、その、うん、大丈夫。そんなことがあったなら、疑われても仕方ないと思うし……」

「まぁ襲われた時に彼女は現場にはいなかったが」

 

 響は先程尋問をしたということもあり、杏とは距離が若干近め。落ち着かせるため、なるべく優しく声をかけていた。

 何処かでボロを出すかもしれないと、注意深く観察をしながらだが。信用しているようで、やはり何かされているのではと疑っているところはある。

 

「暁、川内さんは大丈夫なのかい?」

「ええ、その人の足取りを辿ってくれてるわ。危険は承知だけど、対策もちゃんとしてる。それに、山汐丸さんも艦載機で多少は行方を追ってくれてるわよね」

「気付いておりましたか。はい、僭越ながら、自分の艦載機を使って追わせていただいているのであります」

 

 現在、川内だけは別行動を取っている。杏がここまで逃げてくることが出来たことから、森の中に敵施設の出入り口が備え付けられているのではないかと、足取りを辿りながら森を探索中。

 夜戦忍者は昼でも忍者じみた機敏な動きで木を飛び移り、電磁波照射装置も駆使して、身を守りながらの調査を続けているとのこと。

 その川内をさらに追っているのが、山汐丸がコントロールする艦載機。森の上からなので、その行動を確認するのは難しくもあるが、今は的確にその位置を把握するに至っている。ついでに森の中の敵が見つかれば万々歳。

 

 こういう時は、調査隊より余程調査隊をしているなと、響は苦笑した。それならそれで問題ないと。

 

「あ、向こうの部隊と連絡がついたわ。たった今、戦闘が1つ終わったって。あっちに学校があるらしくて、そこで今は待機してるみたいよ」

「それなら、川内さんが戻ってきたらそちらと合流しようか」

「それがいいわね。あちらでも何人か保護したらしいわよ」

 

 この時、ちょうど学校のグラウンドでの戦いが終わったようで、消耗した電の休憩中に連絡を取り、暁が合流する方向で話をつけていた。あちらにも保護した者がいるため、出来ることならうみどりかおおわしに連れて行きたいと。

 杏のことを考えると、ここで共に戦場から離脱する方がいい。常に危険な島内にいるよりは安全だ。匿うことが出来る場所があれば、その方が安全かもしれないが、いつ何処で何が起きるかなんてわかるわけがないのだから。

 

 

 

 

 その後、しばらくして川内が帰還。念のためイリスと特機のチェックを受けてもらい、何事も無いことを確認してから情報展開。

 

「その子の足跡っていうか、頑張ってここまで来た跡を追ってみたよ。結構踏み荒らしたみたいだから、割とわかりやすかった」

「ど、どうも……」

「で、私が見る感じだけど、確かに施設への入り口みたいなところはあったかな。あれ、中からならすぐに出られるけど、外から入るにはいろいろ必要なタイプだ。後から白雪にちょちょいのちょいしてもらった方がいいね」

 

 森の中を突っ切った先、ぱっと見ではそこにあるようには思えないような場所。少し奥まったところに小さな洞窟のように地面が削られており、そこに重厚な扉があったのだという。

 遠目に見たら森の木々がそれを隠しているが、近くで見たら一目瞭然。少し奥まっている辺り、艦載機で見られても意識しなければわからないような造りだった様子。山汐丸も艦載機を出していたが、川内に言われるまではわからなかった。

 

 これにより、杏の証言の信憑性がまた一つ増えることとなった。ならば、次に気になるのは、杏を()()()()()()()になる。

 内部の情報を外に漏らされたくないのならば、正気な人間なんて絶対に逃がさないだろう。意地でも始末するか捕らえて排除する。これまでのあちらのやり方からしてみれば、それをせずに放置すること自体がおかしな話。

 

「あそこから攻め入ることも視野に入れるとして、今はどうすんの?」

「奇襲部隊が今休憩中みたいだから、暁達も合流する方向で考えてるわ。あっちにも保護したヒトがいるみたいで」

「オッケー、ならまた私が先に行こうか。道々に障害があっても困るでしょ。というか、その学校の場所を確認してくるよ」

「艦載機を使えばすぐであります……が……」

 

 言うが早いか、川内はまともに休むこともせずにまた移動を開始した。山汐丸が手を伸ばす間も無く、すぐさま木に登って次に行きそうな場所を確認するために。

 

「……あの人、いつもああなの?」

 

 杏が呟くと、暁は小さく頷いた。

 

 さて、こうなると気になってくるのはやはり杏のことである。これまではまだ落ち着いていられたが、何かしらの()()()()があるのではと響は考えていた。

 相手は艦娘であっても洗脳してしまう類の、精神操作に秀でたモノ。深海棲艦すらコントロールするのならば、人間なんて最も簡単に弄ることが出来るのではなかろうか。

 この杏が今でこそまともであり、バケモノだらけの島でどうにか逃げようと必死だったとしても、何かの弾みで豹変する可能性は大いにある話。

 

「杏、ここで特異点という言葉は聞いたかい?」

 

 何気なく話しかける響。この戦場でしか聞かないような言葉を投げかけることで、スイッチとなる言葉があるかどうかを探り始めていた。

 

「特異点って、さっき少し話してくれたことだよね。さっき聞いたのが初めてだけど」

「そうかい。少しだけ詳しく話しておくよ。その特異点というのは、私達の仲間の艦娘、深雪というんだけれど」

 

 深雪という名前を聞いても、杏は反応無し。名前はトリガーではないことがわかって少しだけ安心。

 

「彼女はこの選局を変えられるだけの大きな力を持っている。本人はそれで世界を牛耳ろうとかそんなことは考えていないけどね。仲間を守るために使って、本人はこの世界で楽しく生きたいと望んでいる」

「……そうなんだ。でもそれで力を持ってるなんて、なんだか可哀想」

「可哀想、か。確かにそうかもしれないね。ただ生きているだけで罪なんて謂れのない暴言を吐かれ続けているんだから」

「うわぁ……ここの人達ってそんななの? 引くわぁ……」

 

 こういうところはまともな感性を持っているようなので、そこも安心。演技には見えない表情であることも評価出来る。

 だからこそ、何かがトリガーになって豹変する可能性を捨て置くことが出来ない。ここまでして信用を勝ち取った後に、突然何かをしでかす、なんてことは普通にあり得る。身体に何もされていないただの人間が、艦娘相手に何が出来るかと言われたら、正直何も出来ないのだが。

 

「その特異点の深雪ちゃんっていうのは、そんなこと言われて嫌な気持ちになったりしてないのかな」

「してるよ。ずっとずっと、今でもさ。でも、だからといって挫けない。何をされても前向きなんだ。私達は所属が違うから詳しくは知らないところも多いけれど、少し一緒に戦っただけでも、彼女の強さはわかっているつもりさ」

 

 そんな話をしても、そうなんだと興味や関心はあるが裏に何かを持っているようには感じない。深層心理に深雪に対しての敵意を埋め込まれているかと思っていたが、そうでもなさそうである。

 言葉だけでは何も変わらないというのならば、あとは視覚、深雪をその目で見た時にどういう反応をするか。聞くより見た方が強い刺激になるのではと響は怪しんでいる。

 

 そういう意味では、杏を深雪に合流させることはいいことなのかわからない。いざ目にした時に、突如豹変する可能性もあるのだから。

 

 

 

 

「よっと。ちょっと見てきたよ。学校までの道、迂回することになるけど安全な道見つけたから、案内するよ」

 

 少しして、川内二度目の帰投。学校までの道を確認し、杏を護送しやすく、敵の襲撃も受けにくい道を見つけて、そちらから向かおうということになる。

 

「敵がいるところもあったけど、片付けられるのは片付けておいたからさ、安心して進めるよ」

「敵って、出来損ない?」

「そうそう。ああなっちゃったら救えないし、ひとまず見えないように退かしておいたから」

 

 これも一応は川内の慈悲。もしその出来損ないの中に、杏の母親がいたらと考えて、始末しても念のため道の隅に退かしておいたのだという。

 

「そうだ、杏。辛いことを思い出させるようだけど、やはり聞いておかないとダメだった。さっきは躊躇ったけど、今後のために知らなくちゃいけない」

「え、っと、何か」

「君のお母さん、バケモノにされたと言っていたけど、()()()()()()()()()()()()()()

 

 それ次第では話が大きく変わる。出来損ないなら始末一択になってしまうが、カテゴリーYなら救える可能性があるのだ。

 杏はやはり顔を顰める。難病の母が変わり果てたことを知ってここまで逃げてきたのだから、思い出すことだって嫌なはずだ。それでも今後の戦いのためには必要な情報だということで、響も申し訳ないと何度も謝りつつも聞いてきた。

 

「……ドロドロのバケモノではなかった。多分、アレが深海棲艦ってヤツだと思う。私も詳しくは知らないけど」

「そうか、わかった。なら救えるかもしれない。洗脳はされているとは思うけれど、それをどうにか出来る仲間も一応はいるんだ」

 

 救えると聞いた途端、杏は目の色を変えて響に駆け寄った。

 

「お願い! お母さんを救って!」

「勿論だ。そのために、私達はここに来ている。任せてほしい」

 

 ここまでするのならば、敵の精神操作を受けていないのでは。そう思うには充分だった。

 しかし、疑うことは絶対にやめない。土壇場で変わり果てられても困る。

 

 

 

 

 まずは奇襲部隊との合流。話はそれからである。

 

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