後始末屋の特異点   作:緋寺

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一般人

 敵施設から逃げ出してきた一般人、杏を保護した調査隊は、ちょうど戦闘が終わった奇襲部隊との合流を選択する。あちらにも保護した者がおり、撤収するにしても、その場で匿うにしても、共に動いた方が勝手がいいと判断したからである。

 しかし、杏に何かしらの精神操作を仕掛けられていたら、合流そのものが何か悪影響に繋がる可能性がある。とはいえ、早めにそのトリガーを知っておかないと、起きてほしくないタイミングで起きてしまうことも考えられる。

 

「後に起きるより、先に起きた方が安心できるからね」

 

 良くないことは早めに。響はその方針で事を進めることにした。万が一のことが起きたとしても、人数がいれば対処もしやすい。特に奇襲部隊は調査隊よりもそれが格段に得意だ。

 忌雷が寄生しているわけではない。『量産』を施されているわけでもない。ただ何か仕掛けられているかもしれない、純然たる一般人。それをどうにかするためには、手段が複数必要。

 

「何も起きないに越したことはないけれどね。私はそれを祈っているよ」

 

 そうであれと願いながら、響は杏を護衛するようにその道を進んだ。川内が言う通り、障害は既に排除されており、すんなりと学校まで辿り着くことが出来そうだった。

 

 

 

 

 一方学校、流石にグラウンドのど真ん中で休憩するわけにもいかないため、奇襲部隊は校舎にかなり近付いたところで休憩をしている。

 暁と連絡を取ったことで近況が伝わり、合流の方針にもなったため、都合がいいと次の段取りを考えつつ、『羅針盤』を施した護衛棲姫が目覚めるのを待っていた。

 

「電、身体は休まったか?」

「なのです。喉も潤ったので、まだまだ行けるようになったのです」

 

 マルチツールの中に入れていた水分を口に含み、叫び続けたことで少し痛んだ喉は大分休まっている。酷使した頭も、何もしないことで少しは休まった。

 ここからまだまだ戦いは続くので、こんなところで止まっているわけには行かないのだが、今後のためには小さな休憩をこまめに取ることも必要になるだろう。

 

「ここまで来れば、動かせるくらいにもなったよ。これで移動も出来るだろうねぇ」

 

 黒井母の巨大タコ艤装も、コントロールして動かせるくらいには解凍が完了した。進むにも退くにも、動かないでは何も出来ない。

 幸いにも艤装そのものが遠隔操作可能であるため、動かせるようになってくれればスムーズにそこから退去が出来るだろう。合流してすぐに進むとなっても問題ない。

 

「君には帰ってもらうけどね」

「何を言ってんだい。アタシだってこの恨みを晴らしたいさね。人様の身体を勝手にこんなにしておいて、タダで済むと思ってもらっちゃ困る。さっきも言ったが、クズどもをぶん殴るためにも、アタシゃ行くよ!」

「それこそ何を言ってるんだい。君はただ力を持たされただけの一般人、戦い方もまともに知らない素人だろうに。大きな艤装があって、それが強い力を持ってるにしても、君自身がそれだとただの足手纏いなんだ。来てもらったら僕達の仕事が増える。だから、今すぐ僕達の艦に撤退してもらうか、何処かで自分の身を守りながら隠れてもらう。何度も言うけど、君は足手纏いなんだよおばさん」

 

 黒井母は血の気が多くやる気満々だったが、時雨の言う通り、大きな力を得ただけの一般人だ。その力が厄介なだけで、実戦経験はついさっきだけであり、それも結局力任せのゴリ押し。戦略も何もあったものではないため、ついてきてもらっても逆に困るというもの。

 それを正面から隠すことなく伝えることが出来るのは時雨だけ。黒井母と妙に相性がいいこともあり、本来なら口に出さないようなこともズケズケ言い放って、その気を無くさせる。

 

「でもねぇ」

「でももヘチマも無いんだよ。こっちの仕事を増やすなと言ってるんだ。君のせいで戦えなくなったら、どう責任を取ってくれるんだい。僕達はちゃんと訓練をして、お互いのことを知ってるから連携も出来るけど、君は所詮今出たばかりなんだ。戦える力があると仮定しても、気持ちばかり先走る新兵だろうに。新人は先輩の言うことを聞いておくんだね」

 

 見えない空母、護衛棲姫との戦いでは役に立ってくれたが、それはまともに艦載機が使えるこの開けた場所だからというだけだ。ここから先は未知の空間。施設内に入ってしまえば、まずこの大きな艤装が邪魔になるし、移動に制限がかけられる。そして通路には多種多様な罠が仕掛けられていてもおかしくない。自分の身もまともに守れるかわからない者を連れていくのは、ただでさえ難しい攻略戦の難易度を爆上がりさせるに等しい。

 

「時雨の言うことは珍しく一理あるっぽい。だから、夕立からもお願いしたいかな。夕立達のためにも大人しくしてほしいっぽい」

 

 そんな時雨に助け舟を出したのは夕立である。『ダメコン』を使って無理矢理突っ込むような戦術を使うにしても、後ろを気にしながらやるのと、気にせずにガンガン進むのでは、話が大きく変わる。故に、時雨に加勢して黒井母には共に行くことを控えてもらう方針。

 

「そんなにアタシが邪魔だってのかい」

「さっき初めて会ったヒトと連携出来るほど、夕立は賢くないっぽい。視界の隅にチラつかれるだけでも、やれることがやれなくなるっぽい。だから、あの子供達を守るために残ってもらった方がいいっぽい」

 

 子供達──フレッチャーが手懐けることで事なきを得た、心を一部壊された北方姉妹。今でこそ元気ではあるが、当然2人ともコレからの戦いに連れて行くわけにはいかない。

 その護衛が必要なのだから、黒井母にはそちらを担ってもらいたいと夕立は語る。自分達のやれないことを押し付けているというのもある。

 

「ああ、あの子達かい……確かにあの子達は放ってはおけないねぇ」

 

 その子供達は、今は休憩中ということで、校舎付近でフレッチャーの膝枕でお昼寝中。調査隊と合流することも決まったため、少しだけある時間をそうやって消費していた。

 暢気なモノだと苦笑するものの、そのように心が壊れているので仕方ないこととも言える。そんな子供達を見ていたら、確かに自分が守ってやらなければと母性本能が擽られるというもの。

 

「わかったよ。アタシが面倒を見といてあげるさね。でも、何処でそれをやりゃあいいんだい」

「それを今から決めるのさ。合流したら、もしかしたら何人かは今すぐ艦に向かってもらうかもしれない。もしくは、この学校の何処かの一室に立て篭もるなんてこともあり得るかもしれないね」

 

 未だ内部を探索出来ていない学校。予想では阿手の研究施設として中身がある程度改造されている可能性も視野に入れている。

 とはいえ、全部が全部そうなっているわけでも無さそうであり、普通に学校の教室になっている場所もあるだろう。そういう場所ならば、島攻略の拠点として活用出来るかもしれない。

 

 そうするにも、まずは合流が先決。あちらにも保護した人間がいるのだから、それも守らなければならない。

 そしてその後に学校の中を探索することになり、安全を確保出来たなら初めてそこで留まれる。そもそもが敵陣の建物というだけで危険極まりないのだが。

 

 

 

 

「お、目ェ覚めたかよ」

 

 ここでついに護衛棲姫が目を覚ました。子日に屋上から蹴り落とされ、地面に激突しても気絶で済んでいるのだが、その間に『舵』の撤去と『羅針盤』が施されているため、もしかしたら正気を取り戻しているかもという状態。

 とはいえ、本心から阿手に従っている可能性もあるため、しっかり後手に拘束をして暴れ出さないようにしている。いざという時は白雲が凍らせる。

 

「……え」

 

 初めて出た言葉は、この素っ頓狂なモノ。校舎にもたれかけさせられ、特異点を筆頭に艦娘達に取り囲まれている状況。しかも数人はいつでも危害を加えるぞと言わんばかりに殺気も見せているほど。

 正気に戻っていても戻っていなくても、これには驚きの声が出てしまってもおかしくはない。

 

「いろいろやってやったけど、なんか言うことはあるか?」

 

 そんな深雪に、護衛棲姫は急に涙目になった。

 

「ご、ごごご、ごめんなさぁい!」

 

 そして、コレである。この反応を見るに、『羅針盤』がしっかりと効いて、正気を取り戻したと考えてもよさそうである。

 

「あの時は私も正気で無かったというか何であんなこと考えてたのかわからなかったけどとにかく特異点? は私達の敵だしその周りの艦娘も全員敵だからどんなことをしてでも始末しなくちゃって思ってた次第でして今の私は全然そんなことは思っていません本当です信じてください誠心誠意服従するので命だけは」

「止めろ止めろ! あたし達はそんなこと望んじゃいねぇよ。命だって助けてるだろうが。そうじゃなかったらさっさと殺してるっつーの」

 

 これはまたこれまでと違ったタイプである。洗脳と『舵』で敵対していただけであり、本来は非常に小心者で自分に自信が持てないような者。

 だが、逆に言えば、阿手の洗脳によってそんな性格が正反対になってしまうというのが恐ろしい。今の護衛棲姫は、自分のやっていることを棚に上げて、やられたら卑怯者と罵るような性格には全く見えない。全てが自分の非であると土下座をしかねない程。

 

「あたし達は救える奴はみんな救うつもりでやってる。アンタもその内の1人だ。つっても、やったのはあたしじゃあないんだけど」

「ひっ、と、特異点……!」

「あ、それはわかるんだな。そういう教育を受けたからか、それともさっきまでの記憶が残ってるからか」

「どっちもです殺さないでください」

「殺さねぇっつってんだろ!」

 

 小心者というよりは、恐怖心で頭がおかしくなっているのではというのが深雪の見解である。

 

「いろいろ聞きたいことがあるんだ。この島のこと、アンタ詳しいか」

「話せることは全部話させていただきますのでどうか殺さないで」

「しつけぇ! いいか、さっきも言った通り、あたし達はアンタみたいなのを救いに来たんだ。殺す気は無ぇ。ぶちのめすのはここにいる阿手とかいうクソだけで充分だからな」

 

 阿手の名前が出たことで、護衛棲姫の表情はまた変わる。

 

「……あの人をどうにかするんですか?」

「おう。いい加減にしてもらわねぇと、世界がおかしくなる」

「……私からもお願いです。アレを、どうにかしてください。私の、私の妹は、アレに命を奪われ……ううっ」

 

 情緒不安定が過ぎると思いつつも、ここにいるというのはそういうことなんだろうと何となく察する。

 この護衛棲姫も、家族が阿手に奪われているタイプのようである。それなのに、洗脳によってそれを肯定し、ただ特異点を始末するための道具にされていた。

 

「わかった。アンタの妹の仇も、あたし達が取ってくる。だから落ち着いて話をしよう。な?」

「うっ、は、はぃ……はぃ……」

 

 まだ落ち着けているとは思えないが、ひとまず話は出来るかという段階にはなった。

 

 

 

 

 詳しくは調査隊と合流してからになるだろう。話を纏めてから先へと進む。

 

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