後始末屋の特異点   作:緋寺

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簡易拠点

 正気を取り戻した護衛棲姫をなんとか宥めている内に、先行してきた川内が学校に到着。グラウンドが全く整地されておらず、生物が這いずり回ったような跡があることに驚きつつ、校舎近くで部隊が休憩しているのを見て、安心したように胸を撫で下ろしながらも、手を振って後から来る調査隊に合図を送った。

 ここでついに合流。上陸からの別行動は、一旦ここで終了となる。互いに保護しなくてはならない被害者を連れているので、その処遇から考えなければならないところ。

 

「こっちは4人だ。一応全員無傷だぜ。()()()()()()ってのが正しいが」

「見事に全員深海棲艦……いや、カテゴリーYだな。洗脳も解いているか」

「勿論。『羅針盤』も仕込んであるから、今のところは正気だ。子供達は最初からそうされてないけど、なんか心が壊されてるらしい。あたしにはちょっとわからないから、その辺りは電とかに聞いてくれ」

 

 熊野丸が保護されたカテゴリーY達の方を見る。子供達はまだお昼寝中。黒井母はタコを連れて挨拶をしてきており、護衛棲姫は隅でビクビクしている。

 また特徴的な連中だと苦笑しつつも、謎があるわけでもなくまだ信用が出来そうというだけで少しは安心出来た。洗脳されている状態から戦闘して救ったというのは、突然人間として現れたことよりも信用度が高い。

 

「こちらは見てもらった方が早い。まさかこんなところでカテゴリーGが出てくるだなんて思っていなかったからな」

「G……って、普通の人間か!? マジか、まだいたのかよ」

「話は本人に聞くのが早いだろうな」

 

 多くの艦娘と、匿われているカテゴリーYの姿を見たことで、少々及び腰な杏が、響に背中を押されて前に出てきた。ここにいる人間は杏ただ一人。あまりの()()()()に、萎縮してしまっている。

 だが、保護されるという立場であることには変わりない。見た目は深海棲艦でも、中身は人間である者がいるのだから、それは同じモノである。

 

「よ、よろしく……」

「どういう経緯があるかはおいおい聞くとして、助かってよかったな! ここならまだ安全な方だし、あたし達が守ってやれる。気ぃ張っちまうのは仕方ねぇけど、今は休んでくれよ。服とかボロボロだし、必死に逃げてきたんだろ」

 

 早速懸念していた深雪との対面。何か施されているのなら、このタイミングではないかとは常々考えていること。

 そんなこととは露とも知らず、深雪は杏に笑顔を振りまいた。どんなことがあったにしても、救われたことには違いない。死んでしまうより、生きている方がいいに決まっている。それをまずは喜んだ。

 

「今はまだ落ち着けるようなところはないけど、どうするか決めようってところなんだ。だから、もうちょっと待っててくれよな。落ち着かねぇか?」

 

 問われた杏は、そんなことはないと手をブンブンと振って答える。心無しか、顔が少し赤い。

 

「ん? なんか熱っぽいか? ここまで逃げてきたんだから、疲れて当然だよな。体調悪いなら早く言えよ。つっても何が出来るわけじゃあないけどさ」

「は、はぃ」

 

 いつもは鈍感気味な深雪も、杏の体調が悪いかもしれないと思うと、少しだけ心配するような反応を見せる。それでまた杏は顔を赤らめた。

 

「ミユキ、とりあえず『羅針盤』やっとかない? 人間であれどうであれ、何かあったら困るし」

「だな。もしかしたら、こうやって普通に見えてるだけで、実際は……なんてこともあるもんな」

 

 グレカーレからの打診で、杏にも『羅針盤』を施す方向に。響達も、合流の狙いはそこにあった。調査隊には出来ない多種多様な対策が、ここからは可能になるからだ。

 グレカーレの『羅針盤』は最たるモノ。思考に関わるところに影響を及ばせるため、洗脳対策としては最大級の効果を齎す。洗脳を受けないようにするのと同時に、深い洗脳を受けているならそれを表に出すことだって出来るだろう。

 

「ちょっと我慢してくれ。アンタの安全の保障だ」

「えっ、な、何を」

「煙いと思うけど我慢してねー」

 

 杏が反応する暇も与えず、深雪とグレカーレの連携プレイによって煙幕を発射。杏の顔に吹き掛けられるように当たり、ボワッと顔を包み込むように拡がった。

 どうやっても吸い込むことになるのだが、不思議と咽せるようなこともなく、単に煙を吸うだけになる。吸ったからといって、体調がどうにかなるわけでもない。ただの人間にもしっかり影響のある煙。

 

「うっ……な、何これ」

「いろいろある煙だ。もしアンタがあたし達の足を掬おうとしていたとしても、それが表に出てくる。本心から歩くべき道に戻す効果があるんだよ」

「よ、よくわかんないけど、これをしたら信用してもらえる……ってこと?」

「そういうことだな。つーか、ここに来るまでに疑われ続けてきたのか」

 

 杏は首を縦に振る。だが、深雪的にもそれは仕方ないかと苦笑した。

 

「話聞いてるかは知らねぇけど、あたし達はここの敵に散々な目に遭わされててさ。ぶっちゃけ、すぐに他人が信じられないんだ」

「うん……少しは聞いてる」

「でも、今の煙を受けてもあたしに嫌な気持ちが無いなら、アンタは信じられるよ。本当に上手いこと逃げることが出来たんだな」

 

 ニカッと笑う深雪に、杏は少しだけ笑みを取り戻した。顔が赤いのはそのままで。

 

「おーっと? もしやこの反応はぁ?」

 

 コソッとグレカーレが深雪から離れ、電と白雲に合流。杏の様子を見て、これはもしやと相談に入る。

 

「あの子、()()()()()()()()()?」

 

 そんなグレカーレの言葉に、電と白雲も小さく頷いた。

 

「一目惚れ……というモノでしょうか……。切羽詰まった今の状況で、優しくされたから……」

「お姉様は勇敢で凛々しい存在。同性でも惹かれてしまうモノでございましょう」

「吊り橋効果ってヤツかな。なんか調査隊の方だと疑われっぱなしだったみたいだし。気が抜けたところにアレだからねぇ」

 

 ここまで信用を得ることが出来ずに熊野丸や綾波から圧をかけられ続けており、唯一話が出来た響と優しく語りはするものの、何処かでボロを出さないかと探っているような状態。ずっと張り詰めてはいた。

 そこで深雪が疑いもせずに近付いてきて、しかも信用出来るように処置まで施してくれた。圧からの解放もあるため、深雪に対して好意的な感情を持ってもおかしくはないだろう。

 それこそグレカーレが言う通り、一目惚れをしてしまったかのように。それが出来るなら後ろから刺してくるようなことはしなそうではある。

 

「あたし達のライバルになっちゃう?」

「そ、そそ、そんなことは」

「彼女は今助けたばかりの保護対象。惚れる惚れないはさておき、我々の障害にはなりませぬ」

 

 などと下世話な話をしているところで、突然杏が力が抜けたようにへたり込む。よく見れば脚が震え、力が入らないようにも見える。

 

「おっと、大丈夫か? ここまで逃げっぱなしで疲れてんだな。もう大丈夫だ、ここでどうにか休めるようにしてやるからさ」

「あ、ありがとう……」

「アンタは被害者だからか。ちゃんと生かして保護するから安心してくれ。つっても、ここで立てないってなっちゃ困るな。一回運ばせてもらうぞ。グレカーレ、手伝ってくれーい」

「あいよー」

 

 深雪に呼ばれたので、グレカーレは艤装の巨腕を使って杏を優しく抱き抱えた。人一人くらいなら軽々持ち上げ、安全であろう場所に運ぶ。

 

 その間も、杏の視線はどちらかといえば深雪に向いていた。

 

 

 

 

「ちょっと探りを入れてきたよ。子日と一緒にね」

「休めそうなところ、あったよー。中にも多分入れるね」

 

 そうこうしている内に、川内と子日が校内の一部を調査してきていた。その情報をくれたのは、怯え続けている護衛棲姫。

 少し広めで、かつ中にいれば多少の安全性が確保出来る空間として、最初は体育館を提案したものの、それは流石に目立ちすぎるということで、近くから入れそうな教室を教えてもらっていた。

 そこは匿うくらいなら可能そうであり、校舎を少々破壊してもいいのならば、より強固な部屋にすることも可能。

 

 ここにいる艦娘含めた全員が入ろうだなんて思っていない。保護要員である5人がここにいられればいいため、だだっ広い場所でなくても何とかなる。

 

「昇降口に罠があるかなと思ったけど、意外とそういうことはしてないみたいでね。教室もただの教室。ちゃんと授業をしてたのかな」

「戦場にする気満々でモノは大概撤去されてたけどね」

 

 まるで廃校になったかのような雰囲気の教室だったらしいが、よく見たら黒板には授業の跡がうっすらと残っていたようで、つい最近までは使われていたと感じ取れた。

 だが、そこに書かれていた文字は、まともに授業をしていたとはどうしても思えないような内容だった。それこそ、()()()()()内容も書かれていたくらいである。

 

「私達が見たのはまだかなり少ない範囲だからね。他のところは学校としても成立してないかもしれない」

「教室が見えたからそこだけ確認したって感じだねぇ。入り口から真っ直ぐそこに向かったってだけだもんねぇ」

「そうそう。でも、そこまでの安全は確実だから、怖いかもしれないけど中に入ろうか」

 

 ここからは拠点作りになる。昇降口からまともに入るのも少々怖いため、先にそちらから入った川内と子日が、教室の位置だけ教えたら、外に見える窓を開放してそこから入るように促す。

 若干校舎裏にはなるが、教室から直接外に出られるようにされていたおかげで、中にも入りやすい。そういうところに罠が仕掛けられていそうだったが、勿論それも確認済み。そこまで手が回せていないのか、中に入ることは容易だった。

 

「おばさん、君のタコの出番だよ。この部屋を包み込むようにしておけば、強度も稼げるだろうからね」

「そりゃあいいね。アタシのタコちゃんが、みんなを守ってやるさね」

 

 ここで黒井母が再度艤装に『拡張』を施す。グラウンドで使っていた程のことはせず、教室を包み込めるようにタコ脚を細く長く伸ばすことで、一定の強度を確保しつつ、外部から攻撃を受けても簡単には壊れないように壁とした。

 もう一つの力である『弾性』のおかげで、この教室は屈指の防御力を誇る拠点へと生まれ変わった。その見た目はさておき。

 

「なるほどねぇ、確かにアタシはアンタ達と一緒に行くよりは、こっちで子供達を守ってる方が良さそうだ」

「だろう? それにほら、一番危ないであろう子供達も、このタコ脚で遊び始めたのだから、突然教室の外に遊びに出ようともしない。物珍しいモノを見せられて、それに興味津々って感じさ」

 

 教室に入ることになり、タコ脚が展開するや否や、北方姉妹はそれに登ろうとして遊び始めている。万が一落ちても、下にもタコ脚を配置することでトランポリンのように弾んで怪我もない。

 それでも危なそうなら、黒井母がちゃんと見ていればいい話。それに、ここにはまだ護衛棲姫や杏などにも残ってもらう。

 

「ちょいと暑苦しいかもしれないが、安全だけは保証しようか。やろうと思えばまだ脚は伸ばせるから、どうにか守り切ってやるさね」

 

 これにより、保護した者を匿うため、かつ準備を整えて改めて出発するための簡易拠点が完成した。校舎の中というところはどうしても危険が伴うが、それでも無いよりはマシである。

 

 

 

 

 ここから改めて、島攻略のための進軍を再開する。まずは情報を纏めて、やれそうなことから。幸いここには、この島のことを多少は知る者もいる。

 

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