後始末屋の特異点   作:緋寺

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見え始めた思惑

 黒井母によって教室の1つをタコ脚で囲ってもらうことで簡易拠点を作り上げた一行。現在は人数がかなり増えてきてしまっているため、教室内に優先的に入るのは、保護された者達。教室の管理をする黒井母に、タコ脚をもう遊び道具にしてしまっている北方姉妹。まだ怯え気味の護衛棲姫に、ただ一人の人間である杏。

 艦娘は20人強いるため、流石にそこから全員が教室内に入るのは難しい。艤装が無ければ何とかなったかもしれないが。

 

「ここからは校舎の中を隅々まで調べて行きたいところだね。この大人数で団体行動は無理っぽいし、また手分けをした方がいいと思うけど」

 

 と提案したのは響。この学校は廃校かと思えるような雰囲気はあるものの、全てを隠し切ることは出来ていないだろうと踏んでいた。隈なく探せば何かが見つかりそうだし、そもそも敵の懐に入るための道もあるのではと考えている。

 もし何も見つからなかったら、川内が発見した、森の奥にある扉に向かうことになるだろう。杏がそこから来たであろうことは保証済み。デジタルな扉なら、白雪がおそらく開放出来る。

 

「それこそ罠とか無いか?」

 

 深雪が素直な疑問を返す。破壊せず残しているという時点で、罠が仕掛けられていてもおかしくはない。まだここを使うつもりだから、破壊することが出来なかったという線もあるが、敵の性格上、使えるモノは全て使ってこちらを陥れてくると思える。顔も知らないのに嫌な信用はあるのが阿手。

 例えば扉を開けたらその場で爆発するとか、忌雷まみれになっていて入ろうとしたら一斉に寄生を狙ってくるとか、今回のこの教室こそ安全ではあったが、他には何かを仕掛けていないかと不安にはなる。

 

「勿論慎重に行くさ。ここで留まっていても事は進まない。何かしら行動をしないとね」

「まぁな。やめろとは言えねぇ」

 

 とはいえ、それをやらないとなると、ここから動けなくなるというのも事実。攻略のためには、少しは危険に足を踏み入れなければならない。

 

 事前にやれることはいくらでもある。その内の一つが──

 

「貴女、空母よね。少し艦載機飛ばしてもらいたいんだけれど」

 

 神風が声をかけた護衛棲姫。今は教室の隅で座っており、タコ脚にベッタリとくっつくことで妙な落ち着きを見せていた。曰く、端っこが好きだという。

 そんな護衛棲姫、神風に話しかけられたことでビクッと震え、おそるおそる顔を上げる。神風は優しく寄り添うように話しかけているのだが、状況が状況だけに、少し震えることで反応する。

 

「え、えと……艦載機……ですか」

「ええ、さっき飛ばしていた、見えない艦載機。それ、私達に見えないってことは、敵にも見えないわよね」

「お、おそらく……私にも、姿を消していたヒトの場所はわかりませんでしたし……同じことかと……」

「そうよね。だから、貴女の艦載機で周辺警戒してほしいの。ここに来る敵とかいたら困るもの」

 

 調査隊と合流した今、艦載機は山汐丸も使える。だが、素人とはいえ、()()()()()()()というのは非常に大きな利点であり、それによって周囲を確認出来るのは、敵に気付かれずに上空からの調査が出来るということに他ならない。

 現在は常に高高度からの監視を受けているような状態。こちらが探りを入れていることも全て筒抜けであり、派手な行動は憚られる。山汐丸の艦載機も、事を大きくしたら撃墜される可能性もある。

 それを考えると、監視の目から最初から逃れることが出来ている見えない艦載機は、今の状況を少しでも良くするにはうってつけと言えよう。

 

「出来ないなら出来ないでいいんだけれど」

「や、やります……それくらいやらないと……罰を受けそうなので……」

「少なくとも私達は貴女に罰なんて与えないわよ。協力してくれるなら嬉しいってだけ」

 

 どうしても後ろ向きに物事を考えてしまうようだが、少しは前を向いて協力をしてくれることとなる。

 

 護衛棲姫の艦載機は少々変わっており、腕を伸ばすとそこに鷹のように止まったカタチで出現する。

 いくら素人でも、艦載機の発艦の仕方くらいはちゃんとしているため、そこから腕を軽く振るうだけで、その艦載機は飛び立つように教室から出て行った。その出て行く瞬間、スーッと姿が消えるのも確認。透明な艦載機に変化して、器用に校内から外へと向かっていった。

 

「かっこいい!」

「もっかいやってやって!」

 

 その姿を見た北方姉妹は、護衛棲姫の鷹匠スタイルな発艦をいたく気に入ったようで、また見せてほしいとせがみ始めた。あわあわと慌てふためく護衛棲姫だが、1機だけだと警戒も薄いから、もう何機か出してほしいとお願いすると、オドオドしながらも続けて何機か発艦。その度に、北方姉妹はキャーキャーと盛り上がった。

 子供達の興味を惹いたことで、隅っこにいられなくなった護衛棲姫だったが、元々話を聞く予定でもあったため、これは都合がいいと改めて向かい合う。北方姉妹からも聞けそうなことがあるなら聞いておきたいところ。

 

「いろいろと聞きたいことはあるんだけど、まず1つ。最初からここ出身の子はどれくらいいるのかしら」

 

 神風の質問に、手を挙げるのは北方姉妹と護衛棲姫。黒井母は生まれはこの島であっても進学を機に一度島を出ており、息子の病気を治すために久しぶりにここに来ている。杏も母のためにという理由で、黒井母とほぼ同じ。

 

「じゃあ、ある程度は詳しいのね。というか、最初からここで育ってるのに、貴女よく今みたいになれたわね。根っこから洗脳されていてもおかしくないと思ったんだけれど」

「わ、私は……陰キャの引きこもりなので……この島が何処かおかしいって、わかってたんです……友達もいないし……多分浮いてたし……」

「逆に、そのおかげで正気でいられたのね。ちなみに、貴女いくつ?」

「えっ、その……13……です」

「あら若い」

 

 学校の授業も何処かおかしい。島という閉鎖空間だから逃げられず、明らかに雰囲気が違う。ここしか知らずとも、変だと思ったら、彼女は外の世界が怖くなってしまった。

 その結果が、本人も言う通りの引きこもり。学校に通うことも怖くなり、度々仮病で休むことを繰り返していたという。それを許すような教育体制だったのかと少し意外そうな顔をする一同だったが、ついさっきまでの護衛棲姫のことを考えてみれば、別にしっかり学ばせる必要なんてなかったのかもしれない。

 

 どうせ島から逃げられない。洗脳教育を回避し続けていたとしても、最終的には実験台にされる。適応したなら改めて洗脳してしまえばいい。長期間の洗脳が難しくても、簡易的な洗脳はお手軽に出来てしまうようだった。

 何せ、阿手は第一世代の艦娘を洗脳教育によって従順な駒に変貌させるような者。艦娘でそれなら、人間なんてもっと簡単なのだろう。

 

「貴女がその姿にされたのは?」

「つい最近……です。特異点が島を襲ってくるから、みんなで迎え討たなくちゃいけないって……引きこもっていても無理矢理外に連れ出されて……気を失わされて……それで気付いたらコレで……」

 

 島内ではかなり強引な手段で戦闘員を集めたようである。大半は洗脳が行き届いていたので自らその道を選んでいるが、本当に極僅かにこの護衛棲姫のように気付いている者もいた。

 身体を変えられたら大概豹変するように調子に乗り始めるが、護衛棲姫は違った。洗脳教育を度々回避していたことで、正気は持ち続けていた。だが、それも新たに作られた『舵』によって話が変わる。

 

「私は拒否しようとしました……でも、首に何か刺されて……そしたら、何だかすごく気持ちよくなって……何でも出来るって思えるくらいになって……引きこもってた自分がバカみたいだって思うようになって……その結果がこの有様です……恥ずかしい……」

 

 話しているうちに俯いていく護衛棲姫。話しづらそうだったので、そこから黒井母も少し話に加わる。

 

「首に刺されるってのはアタシも同じさね。勝手にこんな姿に変えられて、文句でも言ってやろうって思った矢先にコレさ。そっからはアンタ達もわかるだろう?」

「奴の忠実な下僕になる、ということね」

「思い出すだけで腹立たしいけどね。でも、アレが首にある間は、嫌でもそう思っちまうのさ。その道が一番正しいって、心の底から思っちまう」

 

 本来の道を捻じ曲げる。向かうべき道を教えて洗脳を解くのがグレカーレの『羅針盤』なら、向かうべき方向とは違う道に強引に向かわせるのが『舵』。都合のいいように他者を動かすことが出来るアイテム。

 それが艤装のようなモノだったから梅が『解体』することが出来たが、そうで無かったら今でも洗脳されたままだったかもしれない。そもそも『舵』が必要無いくらいに洗脳が行き渡っていたら、おそらく『舵』すらいらない。

 

「私は……この学校で特異点を迎え討てと命令されていました……子供達の()()がうまく行けばこちらの勝ちだからと教えられて……それをうまく行かせるために攻撃を……」

「アタシも似たようなもんだね。学校で迎え討てだ。つっても、そこの子達のことは全然聞いてなかった。外のモンと中のモンの違いかねぇ」

「わかりません……でも、私はタコのヒトのことは聞いていました……もしタコのヒトが特異点を始末出来なかったら、諸共殺していいって……」

「最初から皆殺しにしないのは褒めてやるべきかい?」

「……どうなんでしょう……特異点を始末したいなら、タコのヒト諸共を最初からやるべきだと思いますが……」

 

 自分以外の命を何とも思っていない阿手にしては、何とも悠長な考え方である。まるで()()()()をしているような。

 

「時間稼ぎ……なのです?」

 

 それに電が気付いた。なるべく長く時間を使って特異点とその仲間を島の中に押し留めて、その間に自分は何かをしようとしているのではないか、と。

 

「時間を稼ぐ理由は何になるんだろうな」

「……電なら……時間を稼ぐだけ稼いだ後に、島から逃げるかも……ですけど」

 

 あくまでも逃げの一手。この島すら捨てて、徹底的に生き延びようとする、意地汚いやり方。ここまで築いてきたモノですら、自分の命と天秤にかければ安いモノということか。

 だが、それだけではただの追いかけっこである。島ではないところに向かえば、特異点はまたそれを追いかけて……を繰り返す。戦いがただ長引くだけで、状況は何も変わらない。

 

 だとしたら──

 

 

 

 

()()()()()、かしらね」

 

 神風の言葉に、全員が戦慄した。

 




黒井母「ちなみにアタシゃ今年で40歳だよ。高校生の子供がいるからね」
神風(歳下……)
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