後始末屋の特異点   作:緋寺

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地道な調査から

 護衛棲姫も思った阿手のやり方の謎。本当に特異点を始末したいなら、黒井母が『拡張』したタコ脚で足止めをしている間に、学校を全て爆撃で潰してしまえば良かったのではと思える戦術。時間稼ぎをしているようにしか思えないところで、神風が一つの可能性に辿り着いた。

 

()()()()()、かしらね」

 

 全員が戦慄した。時間を稼ぐだけ稼いで、やることが島そのものの破壊。そこまでやるかと思いながらも、奴ならやりかねないという謎の信用もあった。

 仲間を仲間と思っておらず、当たり前のように使い捨てる所業。

 

「勿論、それが絶対とは言わないわ。他の理由があるかもしれない。でも、その可能性は見ておいた方がいいわよ」

「だな……でも、今いきなり爆破されたら逃げようが無ぇぞ」

 

 そんな深雪の言葉に、またもや空気が凍りつく。今は島の中央程にいると言っても過言ではない。海まではかなり遠く、逃げるにしてもまず間に合わない状況である。

 そして、校内に入ったことは、高高度から監視されている今、まずあちらには筒抜け。やれるなら今やるだろう。

 しかし、こんな話をしていても爆破されない。ということは、島全体の爆破は机上の空論、もしくは現在も準備中であり、それを完了させるために時間を稼いでいる可能性。

 

 実際に見ていないのだから、それが真実かはわからない。故に、調査は必要にもなる。

 

「そういう今でも、校舎の中は調査した方がいいね。それこそ、ここにも爆弾が仕掛けられている可能性がある」

「確かにね。それに、自爆する出来損ないが押し寄せてくる可能性だってあり得るわよ」

「あの軍港と施設で見た連中だね。あの時の離島棲姫みたいな爆破役も何処かに潜んでいるかもしれない。なるべく早く、隈なく見た方が良さそうだ」

 

 響は調査隊という立場からも、再度校内の探索を提案。島全体を爆発させるにしても、今すぐやってこないということは、何かしら理由があるということに繋がるため、その時間を使って敵の真意が残されているかどうかを調査する。

 廃校のようにガランとした校舎ではあるが、痕跡が全く残っていないというわけでは無さそうというのが調査隊の見解。第一、黒板に薄らと洗脳教育の跡が残っていたくらいなのだから、似たようなモノがそこかしこにあると考えられる。

 

「また少し手分けをしよう。調査隊には暁がいるから連絡が取れる。そちらも同じようにしてくれると助かるが」

「電と子日が通信機を持ってるから、そこで分担した方がいいだろうな」

「最低1人はこの拠点に残るべきだとも思う。保護した者達をすぐに動かせるようにしたいし、何より今は、見えない艦載機で周辺警戒をしてくれているだろう。その様子も教えてもらいたいからね」

「それなら電ちゃんは休憩がてらここに残った方がいいんじゃない? さっきすごく頑張ってたし」

「大分休めてはいるのですけど、そうさせてもらえるなら、お言葉に甘えたいと思うのです」

 

 と、次々と決まっていく。ここからはまた部隊を分けるが、対処がしやすいようにといろいろと考えて。

 突如現れた脅威に対しても対処出来るように配分を考え、3つの部隊にした。調査2隊と、防衛班である。

 

 

 

 

 第一の調査隊は、これまでの調査隊とほぼ同じ。熊野丸と山汐丸が拠点防衛に移ったので、おおわしの3人と軍港鎮守府の3人の通常艦隊による編成。こちらは調査の()()が重要。罠の回避も、暁の持つ観察力を加味することで打破可能と判断。

 第二の調査隊は、いわゆる時雨班なのだが、人員の入れ替えが入り、時雨、夕立、子日はそのままに、グレカーレ、白雲、磯風の3人が加入。万が一出来損ないが現れた時に、即『凍結』の流れが出来るからである。こちらはどちらかといえば勘のいいグレカーレがメイン。

 

 残りの者は基本は拠点で保護した者達を守りつつ、周辺──それこそ近くの教室など──を慎重に見て回ることに従事する。

 身を守ることも出来ない者達の安全を確保するためにも、近場の状況を確認することは大事である。

 

「学校といえば、やはり怪しいところは職員室になるだろうね。あとは校長室かな」

 

 第一調査隊は響が先導するカタチで調査を開始する。部隊としての旗艦は神通なのだが、どちらかと言わなくても武闘派。頭を使うのは響の方が向いているため、こういう時は素直に従い、むしろ響が安全に事を起こすことが出来るようにサポートに徹する。今ここはいつ敵が現れてもおかしくない危険な場所。武闘派は武闘派らしく、その攻撃を仲間に及ぼさないように立ち回る。

 それは軍港鎮守府の艦娘達も同じであり、暁はその観察力などで調査を手伝うが、綾波と川内は周辺警戒を欠かさない。特に綾波は暁を守るために常に神経を張り巡らしている。

 

「職員室を職員室として使っていたかはわかりませんけど、場所としては使いやすいでしょうね。広さもそうですし、物を置いておくには都合がいいでしょうし」

 

 白雪はタブレットを弄りながら話す。もし本当に島を爆破するとして、その爆破を阿手本人が実行するとしたならば、無線でそれをするだろう。ならば、そこに対してハッキングは可能なはずだと、今この場でも常に何かしらアクセス出来ないかと試みているところである。

 現在は通信設備の破壊まではしているものの、それ以外はスタンドアローン、アナログでの運用であることがわかっているところである。この学校もそうだが、他の施設もこの島の中だけで独自に活動が出来るようにされているのだから、白雪には少々厳しい相手──かと思いきや、実はそうでもなかった。

 

「そこに電子機器があったら、いつものように頼むよ」

「はい、お勤めを果たさせてもらいますね」

 

 その機械に直にアクセスしてしまえばいい。無線で接続出来ずとも、有線で直挿ししてしまえばこちらのモノ。つまり、それを見つけてしまえばいい。

 

 とはいえ、そんな重要なモノがこんな学校にあるとは到底思えない。あるとしても、学校を維持するためくらいのモノしかないだろう。

 それでもそこを押さえれば何かしら変えることは出来る。それ以上に重要なモノが見つかる可能性もある。

 

「職員室、見つけてきたよ」

 

 俊敏さから、先んじて向かう場所を探している川内が、早速職員室を見つけてきた。校舎1階、簡易拠点の教室とは完全に逆の方にあり、棟も違う。それこそ、島の中で言えばより奥まったところにあると思えるような場所。

 廊下には何か仕掛けられているようなことはなかったようで、部屋の前まではスムーズに行けたが、その扉に手を掛けるのは些か抵抗があったため、部隊の者全員で向かう選択をしている。

 川内もどちらかといえば武闘派。夜の街を守る警邏としての役割を持っているが、軍港都市に罠が仕掛けられているようなことは無いので、そこまでいろいろ考えることもない。なので、頭を使う仕事は調査隊に任せる。

 

「そこそこ奥にあるようだね。敵の地下施設に繋がっているんじゃないかと睨んではいるんだけれど」

「職員室か校長室なら、何処ぞの鎮守府のように地下通路があるかもしれませんね。隈なく探しましょう」

「まずは安全に入ることが出来るかになるけどね」

 

 話しているうちに職員室前に到着。見た目だけなら異様な雰囲気みたいなモノは無いのだが、引き戸というのはそれだけでも少々警戒するというもの。鍵すら掛けていないとなると、()()()()()()のではないかと錯覚してしまうほど。

 

「鬼が出るか蛇が出るか……と言いたいところだけれど、ここは私達の安全を優先しよう。暁、この中どう思うかな」

 

 集中して言葉も出さない暁に問う響。すると、

 

「中には誰もいない。物音が聞こえないから、機械的なモノも動いてない。だから、戸を開けたらドカンということも無いと思う。ただ、忌雷とかその辺りは気にした方が良さそう。それに、しっかり防音とかされてたら、暁でも聴き取れないことはあるから」

 

 地下施設攻略の際にも見せた、過敏な聴覚。集中に集中を重ねた際の、暁の驚異的な五感は、調査隊以上の精度を見せる。

 故に響は暁を頼った。調査隊のプライドとかは最初から持ち得ていない。使えるモノは全て使う。誰もが安全に進めるように。

 

「忌雷もジッとしているなら音は立てないか」

「ええ、特機だってそうでしょ。暁に聞こえないくらいの鼓動はしてるかもだけど」

「だね。触手をのたうたせているなら話は変わるだろうけど」

 

 引き戸を開いた瞬間に襲われる可能性を考え、扉の前に立つのは神通。武闘派はこういう時に力を発揮する。

 

「では、開けます。少し離れていてください」

 

 何も無ければそれでよし。何かあったら全力で破壊する。神通はそう思いながら引き戸を思い切り開けた。扉を破壊する程の力で。

 

 職員室の中からは──何も出てこなかった。

 

「もぬけの殻のようですが、無音で天井に張り付いていることも考えられます」

「ならまず中に入らずに中を見てみようか」

 

 いきなり部屋に入るのは危険だと戸から部屋の中を見る。

 そこは見た目だけは普通の部屋。窓は雨戸が閉められており、かなり暗い部屋になってしまっているため、暁が探照灯で中を照らしたが、特殊なモノがあるというわけでもなく、部屋がそこにあるというだけ。

 しかし、普通ならありそうな机などは全て撤去されており、伽藍堂と言える広い部屋になっていた。名称は職員室でも、ぱっと見で何に使われている部屋かはわからないほど。

 

「埃の落ち方的に、ここは人の出入りはあるみたいだけれど、殆ど使われていないようだね。それで何が学校だという話だけれど」

 

 埃の中に足跡が無い。それに気付いた響は、この部屋はしばらく使われていないと判断する。何者かが出入りするにしても、入られていないというのならば、何処かに繋がる地下通路があったりすることもないだろう。

 また、忌雷が仕掛けられているにしても、仕掛けるために何かしらの跡が付くはず。それすらもないなら、この部屋は本当に何も無いと思えた。

 

「地道ではあるけど、確実な手段で調べていこう。こうなっているかもしれないけれど、一応中には入っておくよ。戸は閉まらないようにしておいてくれるかな」

「私がここで控えましょう。どうぞ中へ」

 

 もしかしたら戸が罠になっているかもしれないと、開けっぱなしの状態で部屋の中へ。使われていなくても、むしろ使われていないからこそ、過去にあったことが痕跡として残っている可能性も考えて。

 

「無いなら無いでいいんだ。もしかしたらあちらは、何も無い部屋に警戒している私達を嘲笑っているかもしれないけれど、調査隊というのはこういうものさ。やっていることに意味のないことはない。何も無いことを見つけることに意味がある」

 

 上から下までしっかり観察し、隠し扉などがないことを確認していく。最近使われていない出入り口などもあるかもしれないのだから。

 

 

 

 

 地道な活動だって、最後は実を結ぶ。今は何も無くても、そのうち敵の喉元に刃を押し当てることになるだろう。

 

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