響達が職員室を調査している一方、第二調査隊として行動している時雨班は、第一調査隊とは全く違う方向へと足を進めていた。
「あちらのやり方からして、ここから敵の本拠地に向かえる地下通路があるんじゃないかい?」
時雨はどうしてこんなことをしているのかを疑問に思いつつ、こうしてみようと案を出したグレカーレに問う。
それもそのはず、第一調査隊と違って、第二調査隊は今、校舎の3階にまで足を踏み入れていた。地下通路なんてあるわけがない。ましてや、敵陣に繋がるような通路があることも無い。
なので、調査をしているのは敵の施設に行くためのモノではない。それは第一調査隊が見つけ出してくれるだろうから、そちらに任せてこちらは別のモノを調査し始めている。
「アイツらが何考えてるのか知るために、ちょっと高いところ行きたいんだよね。ほら、自分で陰キャって言ってた護衛棲姫がさ、屋上に来てたわけじゃん」
「そうだけど、君もそこを直に見たいってことかい?」
「それ
すぐに逃げられるようなところにそういった施設を置くのが定石だとは思うが、あえて高いところにそういう施設を造っているのでは、なんてことをグレカーレは思っていた。
艦娘故に、学校というモノの造りを知っているというわけではない。むしろ、学校に入るのなんて初めてのことである。故に、職員室だの校長室だのを考えることなく先入観無しで調査を進めることが出来る。響もそれを狙って時雨班を第二調査隊として動いてもらっている。
そういうこともあるからか、学校というモノを一応知っている子日と磯風は口を出さないようにしていた。純粋種の行動がこういう時にいい方向に繋がるかもしれないと、余計なことは言わない方向。
「学校ってのは、何処もかしこも同じ造りしてんの?」
「どうだろうねぇ。子日が通ってた学校は、3階に図書室とかあったかなぁ」
「私のところも、図書室は1階では無かったな。理科室は1階だったぞ」
「子日のところは理科室2階だった!」
カテゴリーCにしかわからない情報ではあるが、全てが全て同じ造りではないということはわかる。そういったところは地域差とかもあるのかとグレカーレは考えた。
この島の学校がどういう方向性かはわからない。だが、どの階にもそれなりに広い部屋は用意されているし、何なら教室自体を繋ぎ合わせて大きな部屋にしてしまっている可能性だってあった。
そしてそれは、思ったよりも早く見つかる。
「音楽室、だね」
そう書かれた部屋に到着する一行。ここの学校の音楽室がどうなっているかは知らないが、少なくともそこそこ大きめな部屋であることは予想出来る。
「グレ様、少し離れてください。磯風様と冷やせるように前に出ます」
「あ、そうだね。扉を開けて忌雷ビッシリとかだったら嫌だもんね」
白雲が鎖を握り、磯風が風を起こせるようにその隣に立つ。
「では、参ります」
音楽室の扉を強く開けた瞬間、磯風が手を振り翳して部屋の中に『空冷』の風を送り込もうとした。
が、待ち構えていた罠はここにはなく、ただ扉が開いただけ。忌雷が押し寄せてくるなんてことも今回は無かった。
しかし、音楽室という名前の部屋だったことをもう一度見直すくらいに、その中はまるで違う光景だった。
「……まぁこれは片付けられないよね、うん」
呆れたように溜息を吐くグレカーレ。他の者もうわーという顔を見せる。
そこには、明らかに音楽室には似つかわしくない
「ここが研究施設の一部だったのかな。学校にそういうのは置かないでしょ普通」
「いや、もしかしたら、ここの生徒達にも研究させるためにここでやらせていたりしたんじゃないかい?」
「だったらもっといいところあるんじゃないかなぁ」
どうであれ、学校でも研究の一部を行なっていたことはわかる。子供のうちから、この島ではこういうことをしているということを思い込ませ、それが当然であると洗脳し、自らの手駒として教育する。その結果は、おそらく阿手の手駒である研究員の増加に繋がるのではないか。
そうなると、この島はどれくらい前から占拠されていたのか。黒井母はこの島出身ではあるが、久しぶりにここにやってきてこの状況を知ったようなものなので、早いと黒井兄妹が生まれた頃辺りかと予想はされる。
その時にいた住人はどのように洗脳したのか。人心掌握術がどのようなモノかを知らないため、阿手がどうやってここまでの規模の組織に仕立て上げたのかはわからない。しかし、その頃から深海棲艦などで研究をしていたのだろうから、不思議な力か何かを見せつけた挙句、それこそ新興宗教のように蔓延していったか。
「とりあえず、この学校でもこういうことやってた証拠は見えたね。音楽とは名ばかりの実験室に改造してましたってことで」
「ああ、嫌なモノが見えたよ」
「あたしもだよ。あの海賊船の中で見た景色に似てんだから」
海賊船での最後の戦い、船内にあった培養施設。そこに雰囲気が少し似ているため、グレカーレは明確に嫌な顔をした。あそこで起きたことは、グレカーレにとっては本当に嫌な思い出。一瞬だけでもあちら側に傾倒したのだから、反吐が出るほど気分が悪い。それを思い出させるこの光景は、全て破壊したくなるくらいには気に入らなかった。
だが、あえて何かをすることはしない。物的証拠としてこれはこのまま残している。
しかし、少々怖いところはある。この培養管、
「中には何も入ってないよね。でも、動いてるってことは……」
「何処かから排出されている可能性があるってことだね。そういう罠を仕掛けてくるのは予想出来てたけど、さ!」
それにいち早く気付いたのは時雨だった。『タービン』の曲解を使い、自らの速度を上昇させ、瞬時に
そこにはやはり、この培養管から排出された忌雷が蠢いていた。
「むしろ、ここまで調査されるかもと思って、しっかり罠を張っていたのかもしれないね。扉を開けたところで何も無いから、気を抜いた瞬間に寄生狙い、みたいなさ」
「かもねぇ。と言っても、ちょっと見込みが甘すぎだよねぇ。もう忌雷自体が時代遅れだってのに、まだ縋ってる感じ?」
嘲笑するグレカーレだが、態度とは裏腹に、忌雷をこういうカタチで仕掛けてくること自体が何かに繋がるのではないかと考える。頭を回して、そうする理由があるのではと。
何も無いにしても、考えない理由にはならない。考えさせることが策であっても。
「なんかありそうだから壊していいっぽい?」
言う前に動いていた夕立が、音楽室の扉を蹴り壊していた。閉じ込められる恐れをひとまず排除し、調査をまともに出来るようにはした。
学校の破壊も何か文句を言ってきそうだが、それはどう考えてもお前にだけは言われたくないでいいので無視をする。扉くらい気にもならない。
「ここ探しても何にもない気がする。さっきの忌雷も1体しかいないなら、ここから撤去出来なかった
「つまり、ここはこれだけで何もないと」
「想像だけどね。こういうモノがあるってだけ」
そういうところも雑に見えてきた。そこからも、最終的には証拠隠滅のために全て破壊するつもりでいるように思える。
「うーん……なーんか納得行かないところ多いなぁ。あたし達全員中にいるんだから、あたしならさっさと学校爆破するんだけどなぁ」
やはりそういうところが引っかかる。島ごと爆破するにしても、学校のみを爆破するにしても、何をやるにも時間がかかっているとしか思えない。
そこから考えられることは1つある。
「もしかしてさぁ、アデとかいうの、
これが一番である。島を爆破するなら、阿手はもうこの島にいないというのが確実。そうでなければ、自分も巻き込まれるに決まっている。だが、何か理由があって、まだこの島にいる。故に爆破が出来ない。
そうなると、護衛棲姫によって黒井母や子供達ごと空爆でふっ飛ばさなかった理由には繋がらないが、これも一つ仮定が出来ることがあった。
「空爆させなかったのは、グラウンドから振動が地下に伝わらないようにするため……なーんてマヌケな理由はどうかな」
「それは……流石に安直すぎないかい」
「でも、全部ふっ飛ばすってなったら、結構な爆撃になるよね。それこそ絨毯爆撃。海の上なら気にならないけど、ここって陸だよ? あたし達の領分の外だから、影響全然わかんないし」
地面に振動が行く程度で起爆するような爆弾を用意しているとは思えないが、阿手達がまだ地下にいるのならば、それもまた何かの理由になる気がしないでもなかった。
理由があって脱出出来ない時に、上からも爆撃で振動し続けるとなると、自分本位の阿手ならば、今はやめておけと言うのではないかと思えてしまう。
「ともかく、あたしはまだここにいる説を推すね。理由はさておき、自分が痛い目見ないようにするために、攻撃を抑え目にさせてるって」
「……そんな奴に振り回されているなんて、気分が良くないね」
「ホントだよまったく」
ここからは音楽室の調査を進めたが、やはりこれと言って目立つモノは無し。部屋の中が充分目立っていたのだから、それだけでいい。
そして一行は屋上へ。護衛棲姫が登っており、子日も校舎の外からここまで来ているが、ここも別に目立つようなモノはなかった。
「ここから港とかは見えないねぇ。戦いの音は聞こえてくるけど」
高いところに造られているというわけでもないからか、屋上からの景色は島の外まで見えると言うわけでもなかった。ならば、ここから何かが出来るということもない。
だが、1つだけ気になるモノはあった。
「学校ってさ、こうやって屋上にスピーカーあるモノなの?」
外に向けられて付けられたスピーカー。チャイムなどを外に聞こえるようにするために備え付けられているところは多くあるが、グレカーレにはそれがどうも怪しく思えた。
「……あ、これスピーカーじゃない」
近くで見た時にそれがわかる。スピーカーに見せかけているだけで、それはその用途を持っていない。
「電波を送信するタイプの機械じゃないかな」
「電波を? 何故こんなところに?」
首を傾げる一同。そして、答えに辿り着く。
「あー……ここから有害な電波垂れ流して、島中の人間を洗脳してたとかなんじゃない?」
どういう原理かはわからないが、催眠電波のようなモノをここから拡散して、島内の全住人に対して洗脳を行なっていた。なんてことが考えられた。
外にいる時しか効かないとかならば、
「探せば探すほど、ヤバいモノが出てくるねぇ。うん、反吐が出るね」
誰もが同意した。