後始末屋の特異点   作:緋寺

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海の中とて

 この島を調査しているのは、上陸している者だけではない。うみどりに集結した後、出撃したことすらも悟られないようにひっそりと島へと進む者達がいる。

 

 それが、第四の部隊、潜水艦隊。

 

 旗艦はうみどりから伊203。随伴艦に伊26とスキャンプとうみどり精鋭の潜水艦娘が並ぶ中、どうにも場違いなように見えつつも、調査隊おおわしの小さな精鋭、丁型海防艦の3人も潜水艇で出撃している。

 潜水艇の操縦技術は、特異点Wでの海底調査で証明されており、こと調査に関して言えば、子供であったとしても伊203より信用出来ると言っても過言ではない。

 とはいえ、戦闘力は皆無。海上にいるのならば対潜攻撃のプロとして、潜水艦という潜水艦に対して無双出来るのだが、今はその利点を全て投げ捨てた密室での乗務。回避特化の動きを見せるだろうが、取り囲まれたら非常に危険。

 

「おいテメェら、本当に大丈夫なんだろうな」

 

 後ろから付いてくる潜水艇の方に顔を向けながら、邪魔そうな表情で海防艦達を睨みつける。

 

『だいじょーぶでっすぅ』

『危ないと思ったらすぐに逃げるからさ』

『それまでは、お仕事をさせてください』

 

 三者三様の反応だが、共通するのは3人が前向きであること。調査隊としての誇りを胸に、子供ながらも役に立てるようにと慎重かつ冷静に業務に忠実に進んでいた。

 スキャンプは舌打ちをするものの、帰れと言ったところで帰るわけもないため、本人達の大丈夫という言葉を信じるしかない。

 

 実際、調査隊ではそういう教育──危険があればすぐに逃げること──を徹底している。命あっての物種。命を賭してまで手に入れる情報などなく、生きて帰ることが勝利であると常々言い聞かせていた。それが昼目提督からの教え。命令などでなく、洗脳などで無く、単に指針として刻ませていること。

 

「本当に大丈夫かぁ? あたいの見てるところで死なれても寝覚めが悪いからな」

「大丈夫。信じておけばいいよ」

 

 伊203が内心子供達を心配しているスキャンプに安心させるように言葉を紡ぐ。その心を読むかのように、若干笑みを浮かべて。

 

「あの子達は、自分の身くらい自分で守れる。それに、私達が探りきれないところを、あの子達は探ってくれる。その方が早い」

 

 根拠のない言葉ではあるが、伊203が言うと説得力がある。これまでの言動、特にスキャンプは軍港都市での一件で短い間ではあったが伊203と共に行動もしていた。そういうところからも信用度は高く感じていた。

 

「私達はまず、海中から中に入れる場所を探す。手早く行く」

「お、おい! いい加減待つってことしやがれ!」

「それは遅い」

 

 伊203が先行し、一気に加速した。スキャンプも負けじと急加速をし、伊203に追いつこうとする。

 

 すると、今この場には伊26と丁型海防艦しかいなくなることになる。ここだけ見ると、チームワークのカケラもない。

 

「あ、あはは……それじゃあ、ニムがみんなを守るように動くね」

『よろしくお願いしまっすー』

 

 むしろこうなることは最初から予測出来ることだったので、こちらは出来る限り迅速に伊203に追いつくことを選択する。

 限界を超えた者は、こういうところで凄まじいが面倒臭いモノだった。それに慣れている伊26は、それもまた楽しめるようになっているようである。

 

 

 

 

 先行する伊203とスキャンプは、あっという間に島の近海に到着。海の中は流石に高高度からの監視は届かない。それに加えて伊203のスピードもある。敵を寄越したとしても、それに追いつくことが出来るかもわからないくらいに速い。

 結果、それだけの動きを繰り出すことで間接的に翻弄し、ただただ有利に事を運んでいた。敵には海中から近付いていることを悟られず、迎撃に出られるようなこともない。

 

「おいフーミィ! 速ぇよ! ニム達完全に置いてきちまってるだろうが!」

 

 それに追いつくことが出来ているのがスキャンプ。さんざん振り回されたため、負けず嫌いな性格もあり、どうにかその高速移動にもついていけている。かなり手一杯なところはあるのだが。

 

「私達だけで一通り見て回る。子供達の安全の確保を優先して、調査がやりやすく出来るように」

「周り見えてんのか?」

「任せて。速さには自信がある」

「んなモン普段から見てりゃわかるっつーの!」

 

 スキャンプが苦言を呈するのがわかるくらいに、伊203はかなりの速さで潜航しており、周囲を注意深く見ているようには見えなかった。

 それはスキャンプが追いつくことに精一杯で、伊203しか見えていなかったというのもあるのだが、それでも目まぐるしく変わる風景をキチンと認識しながら泳いでいるとはどうしても思えない。

 

「それに、()()()()()()

「ああん?」

「海中からの侵入口。あと、敵の脱出口」

 

 そんなモノ何処にあったんだと言いたいところだったが、スキャンプにはそれを確認する余裕はどこにも無かった。未だにビュンビュン駆け抜けている伊203は、気を抜いていてもスキャンプくらい速いまである。少しでも目を逸らすと追いつけなそうであるため、そっちの方が必死。

 

「今正面突破組が戦ってる港とは逆側。島の横っ腹に、壁面に偽装してるゲートがあった。構造的に、潜水艇が入れるようにされてる」

「……マジか。あたいにゃ見えなかったぞ」

「今は念のため他の道がないか探してるところ。こういうところなら、2つや3つ入り口を作っておくと思うから」

 

 出入り口が1つだけだと、いざ脱出したいという時に待ち構えられるし、これまで隠れてここにやってきていた裏切り者の提督達もその行動がバレやすくなるだろう。そういうこともあって、出入り口は複数用意されていてもおかしくはない。無いなら無いに越したことはないが。

 速さがあれば、念のための調査も可能になる。1つを調査するために使う時間で2つ調査出来れば、早く次の行動に移ることが出来る。海中から施設への侵入も、手早く行える。

 それが上陸している部隊のサポートになるのならば、尚のこと良い。速くて仲間のためになる。伊203には、これほど素晴らしい策はない。

 

「スキャ子も目を凝らしてよく見て」

「だったらもう少しスピード落としやがれ」

「? 遅かったら意味ない」

「テメェ……」

 

 このベースで話をしていたら、身体より先にメンタルがやられると、スキャンプは諦めることにした。マイペースにも程がある。よくこのやり方に伊26はついていけるなと。

 

「……まぁ、敵も出てくる頃合いだとは思ってた」

「ああ?」

「あっちが潜水艦を警戒していないわけがない。特に私は、少し()()にやらかしてるから」

 

 これだけ島の周りを泳ぎ回る2人の艦娘を、敵が放っておくわけがない。それに伊203は、海賊船の戦いで原元元帥の首を捥ぎ取るというとんでもない力業も見せている。他の敵が知らずとも、あの阿手がその辺りを知らないわけがない。

 故に、伊203は完全に目をつけられている。特異点の仲間には非常に強力──いや、()()な潜水艦が存在していると。

 

「敵、何処だ」

「アレ。出入り口から出てきたわけじゃない。私達を警戒して、島の周りを泳いでる。ここでかち合ったみたい」

 

 伊203対策がされているであろう敵潜水艦は2体。明らかな姫。しかし、その姿を見てスキャンプは顔を顰めた。

 

「……まぁ、そういうこともあるな。テメェらも身内がああされてるのを見てるんだろ」

「私の身内は今のところいない。でも、海の上では日常茶飯事」

「いざ自分の身にかかると、クソ気に入らねぇな」

 

 伊203とスキャンプの前に立ちはだかるは、潜水艦の姫。伊203にはその姿が何処となく見覚えがある。その理由は非常に単純、()()()()()()()

 

 スキャンプの魂を使ったカテゴリーY、潜水鮫水鬼と、その姉妹艦であるワフーの魂を使ったカテゴリーY、潜水鰆水鬼。

 

「姉妹がああなってるってのも気に入らねぇが、()()()()()が使われてんのがもっと気に入らねぇ」

「気持ちはわかるけど冷静に。興奮してたら遅くなる」

「わかってる。こんなことで熱くなってたら、先が続かねぇよ」

 

 冷ややかな目で姫達を睨みつけるスキャンプ。伊203は睨むでもなく、いつもの表情で見据える。

 

「来たぜ、特異点のお仲間だ」

「ここでぶっ潰してやらないとね」

「おう。平和を乱すクソ共は、ここで沈めておかねぇとなぁ」

 

 ニヤニヤするでもなく、慢心するでも無く、凶悪な艦娘であると認識しているからこそ敵も真剣。言葉こそ喧嘩腰ではあるが、いきなり突っ込んでくるようなこともしてこない。

 

「テメェら……こんなことが平和だとマジで信じてんのか」

 

 スキャンプが苛立ちを抑えながら言葉をぶつける。対する潜水鮫水鬼は、自分と同じ魂を持つ艦娘を見て、鼻で笑う。

 

「そんなこともわからないから、特異点とつるんでるんだろうな。同じ魂を持ってるクセに」

「はっ、何言ってやがる。あたいは同じ魂とかじゃあねぇ。純粋種だから、テメェの元になったオリジナルだよ」

「オリジナル……なるほどな、性格の悪そうな顔してるぜ」

 

 煽りも入れてくるあたり、スキャンプは自分の魂が使われていると実感した。他人の目から見たら自分はこういう感じに見えるのかと妙に冷静になれる。

 

「時間はかけたくない。さっさと斃す」

「へぇ、そんなこと言えちゃうんだぁ。凶悪な潜水艦って聞いてたけど、そんな風には見えないね」

 

 潜水鰆水鬼も同じように鼻で笑う。見た目だけでなめてかかるようなことはしていないが、噂ほどのものかと疑問には思っているようである。

 

「なめてかかってきてくれりゃあ楽だけどな」

「それは無い。私が変に有名になってる。ごめんね」

「構わねぇよ。どんな野郎でも、前に来たならぶちのめすだけだ」

「うん、それでいい」

 

 敵を前に、拳を突き合わせて共闘を誓う。伊203はとんでもないが、スキャンプもそれに追いつけている。ならば、共に戦うことくらい可能である。

 落ち着くのに必死なのはここまで。戦闘となれば話が変わる。無論、伊203はそちらの面もとんでもないが、スキャンプだってこれまで鍛えてきているのだ。

 

 

 

 

「じゃあ、行く」

「おう、ぶっ潰す!」

 

 潜水艦同士の戦いが始まる。海上とは違う、縦横無尽の戦いが。

 

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