海中から島へと侵入出来る場所を探る第四の部隊、潜水艦隊。持ち前のスピードを活かして先行していた伊203と、それに追いつくことが出来るようになったスキャンプの前に、敵潜水艦も現れた。
潜水鮫水鬼と潜水鰆水鬼。共にスキャンプの近親者──鮫水鬼に至っては
伊203が敵の中でも少々有名になってしまっているため、それを止めるための対策が積まれているのは容易に想像出来る。
前回の対策は、潜水伊号水姫の『装甲』の曲解により身を守りながら身体を腐食させる出来損ないの体液をばら撒くという、雑ではあるが非常に効果的な手段だった。
とにかく
「じゃあ、行く」
「おう、ぶっ潰す!」
先に動き出すのは、伊203とスキャンプ。まずは敵がどのような力を持っているかを知るため、手札を切らせるためにまずは先制攻撃。
接近が危険であることはわかっているため、突撃をしながらもまずは魚雷を発射。これに対してどういう行動を取るかで判断する。
「はっ、噂の割には、普通じゃねーか」
「対策されてるって思って控えめにしてるんだね。だから、こんなに弱腰」
「なら、こっちもそれ相応に対処させてもらうぜ」
潜水艦同士の戦いでは、魚雷など基本は当たらないと思った方がいい。放つところが丸見えというのもあるが、砲撃よりも少し遅いため、見てからでも避けられるというのが現状。伊203ほどのスピードを手に入れていなくても、潜水艦同士ならそれくらいは余裕で出来てしまう。
そんなことは百も承知であっても雷撃を優先した2人に、普通なら警戒心を持つだろうし、力を手に入れたことに慢心していたら気分よく力を誇示するように使ってくるだろう。伊203はそれを確かめるためにこの選択をしている。
潜水鮫水鬼と潜水鰆水鬼は、何かするでもなく魚雷は普通に回避。潜水鮫水鬼は鼻で笑い、潜水鰆水鬼も小さく口角を上げていた。そんな狙いには乗らないぞと言わんばかりに。
しかし、だからと言ってあちらから撃ってくることもなく、お得意の接近戦を見せてみろという雰囲気が見え見え。それを打ち崩すことが出来るという自信も見えている。
「誘われてんぞ」
「わかってる。でも、私の対策をしてる」
「だろうな。なんか思いつくか?」
「いくつかは」
自分自身がやられたくないこと、回避が難しいと思えることをざっくりと挙げていく。
まずは潜水伊号水姫にもやられた腐食弾頭だ。少しでも触れたら最後、そこから手脚が破壊されていき、航行も不能になってそのままやられる。近付いた状態でそれをされたらひとたまりもない。一度やられているということもあり、伊203の中では、それが一番の脅威である。
同様に、どれだけ身体を鍛えても、どうしても苦しいのは毒の類。ピンと来るのは、神威の『排煙』。今でこそ癒しのために使われているモノだが、ひっくり返る前は、少し身体に入り込むだけで大きなダメージが入るモノだった。いわば、内側から壊す腐食体液みたいなモノ。これもまた脅威。
その次に厳しいのが、単純に
総じて、触れることすら出来ないがあってもらっては困ること。そうなると途端に戦いが難しくなる。
「……あのクソ共をどうすればぶちのめせるかは、一度力を見てみないとわからねぇ。なら、どうにかして引き出してやるしかねぇよな。あたいが先に行ってやる」
「気をつけて」
「わぁーってる!」
ここでスキャンプが伊203の前に出る。敵の力を知るための先行。触れられたらどうなるかを知るためではないが、どのような行動を起こすかを見なくてはならない。
当たり前だが、スキャンプは命を賭してまでここでの戦いを勝利しようなんて考えてはいない。ダメだと思ったら撤退も考えている。どうせ逃げ帰ったらギャーギャーと煩く喚き散らされることがわかっているのが腹立たしいが、それでも死なないということが大きい。
うみどりと関係を持ったばかりのスキャンプならば、そんなことは考えずに猛進していただろう。敵の力を見るとかも、仲間の声を聞くとかもなく、ただ気に入らない者に拳を振り上げるだけの
「あたいの魂を使ってやがんだ。よっぽど強くないと承知しねぇぞ」
「オリジナルだから自分の方が強いと思ってんのか? 特異点とつるんでるような奴が、あたいに勝てると思ってんのかぁ!?」
「……やっべ、嫌でも冷静になれるな」
反面教師としか思えない鮫水鬼の言動に、先程までの苛立ちか嘘のように逆に心が冷えていくスキャンプ。人間と関係を持っているような艦娘に苛立ちしかなかったあの時と、特異点と関係を持った自分達に苛立ちを持っている鮫水鬼が重なったのだ。
潜水艦で荒れていた時の自分はこうだったのかと思えてしまい、反省するわけではないが、かつての自分がとても
「今のテメェ、なんつーか、すげぇダセぇわ。見てて面白くねぇよ」
「あぁ? 喧嘩売ってんのかテメェ!」
「先に売ったのはテメェだろ。本当に、アデの部下ってのは頭が悪い奴らばっかなんだな。改めてよくわかった。Thanks」
馬鹿にするように礼を言うスキャンプに、潜水鮫水鬼は額に血管を浮かび上がらせた。苛立ちを助長することで、冷静さを失わせる非常に簡単な策。
たったこれだけで楽に戦えるようになってくれれば御の字だが、そんなことはないことは百も承知。興奮していたとしても、それを凌駕するほどに凄まじい力を持っている可能性もあるのだ。それこそ、触れられたらアウトなレベルの。
「テメェ、なめてんのか!」
「おう、なめてんだよ。あたいの魂に値しない、レベルの低い奴だってことがよくわかったぜ。だからまずは──」
突撃しながらも、右腰に備え付けられた魚雷保管庫から1本抜き出し、逆手に握る。まるで短刀のような握り方で、それそのものを武器として扱うように。
本来ならば左手で持つ艤装に装填してから放つのだが、潜水艦同士の戦いではそんなことは言っていられない。近接攻撃をするには、右に魚雷、左に艤装と構えての突撃が最も戦いやすい。
「その実力、見せてみやがれ!」
そこからさらにスピードを上げ、一気に距離を詰める。だが、正面から向かいつつも少し角度を変え、少し上からの一撃を決めるために。
「っらぁ!」
「させねぇ!」
左手の艤装をぶち当てるように振るう。だが、潜水鮫水鬼もそれに負けず劣らず、装備していた艤装を手に持ち、その一撃を軽々と受けた。
海中であっても、その衝突音が響き渡る程に激しいぶつかり合い。そして、鍔迫り合いになっていくが、互いに片手同士の競りであるため、空いているもう片方の手での攻撃に転じる。
スキャンプは握り締めた魚雷を、潜水鮫水鬼は素手──ではなく、生体艤装のようなモノを腕に巻きつかせて、拳を振るった。
「ちっ……!」
「はっ、そんなモンかよ!」
膂力は深海棲艦であるからか潜水鮫水鬼の方が上。魚雷を振るったスキャンプの腕が若干押し負ける。だが、その瞬間に脚を出し、潜水鮫水鬼の脇腹を抉るように蹴り飛ばす。
「かっ……!?」
「何がそんなモンだって!?」
それはしっかりとダメージになっている。威力も申し分ない。だが、触れるという行為が本当に良かったかどうかは何とも言えなかった。
潜水鮫水鬼の着込んでいる水着は、脇腹の部分の布地が薄い。つまり、今スキャンプの艤装が素肌に触れたことになる。
「はっ、でもテメェ、
やはり、素肌に触れることが条件。深海棲艦ならではの頑強な身体だからこそ、攻撃を受けながら触れるという反撃が可能になる。海中にいることに徹しているからこそ砲撃も喰らわず、雷撃だけ注意すればその力を発揮出来る。
伊203は必ず触れてくる。それを考慮した力。それは──
「っ……そういうことかよ。テメェの力……厄介だな!」
スキャンプの脚部艤装の一部が
おそらくこれは、艤装だけではない。触れた時点で、あらゆるモノを腐食させる力。出来損ないの腐食性の体液とは違う、自分にすら影響しない、一方的な劣化をお見舞いする力。
「はっ、わかったか。この力がありゃあ、凶悪っつー潜水艦もぶちのめせる! あたいの『劣化』の力でなぁ!」
潜水鮫水鬼の持つ力は『劣化』の曲解。梅が持つ『解体』ほど即効性は無いかもしれないが、有機物にも無機物にも効き、衰えさせるという一点に特化したその力は、素肌に触れた時点でその部分をそれに対応した劣化方法で消耗させる。
艤装なら酸化し錆びていき、身体なら細胞が劣化して壊死していくことになるだろう。接近して絞め落とすことをする伊203には、ある意味天敵中の天敵と言える。そうされる前に絶命させることが可能かどうかもわからない。
「多少錆びたところで、あたいはまだ動けるが……ちぃと警戒しなくちゃいけねぇな。腹が立つが、テメェのその力は厄介だ。それが見えただけでも、今はヨシとするか」
「負け惜しみかぁ?」
「テメェにゃそう聞こえるんだろうな。頭が悪いから全部自分の都合のいい風に聞こえるんだ。そういう時に頭が足りねぇのはいいことだな。常にpositiveでいられる。羨ましいぜ」
スキャンプはこの一回の応戦で、潜水鮫水鬼との戦い方に対して思考を巡らせる。今持っている全てで、この『劣化』を乗り越えられるかどうか。そして、伊203でも突破出来るかどうか。
この力を伊203が攻撃する前に知ることが出来たのは大きい。いつも通りの攻撃を仕掛けていたら、間違いなく伊203はやられていた。劣化は流石にまずい。
「……使うか、コイツを」
チラリと魚雷保管庫の中に目をやる。そこには、『増産』ではない特機の姿があった。