後始末屋の特異点   作:緋寺

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水流

 鮫と鰆、2人の潜水艦の姫との戦闘中。今のままではどうにも出来そうに無いと判断したスキャンプは、預けられていた特機を自らに寄生、カテゴリーWとしての変化を遂げる。

 

「はっ、力を手に入れただぁ? 何をどうやったかは知らねぇが、あたいの『劣化』は何もかもを劣化させる力だ。武器であろうが生身であろうが関係無ぇ。また触れちまえばこっちのモンだ!」

 

 スキャンプがどうなっても、自分の力は通る。過信しているわけではないが、やらねば勝ちにはならない。

 立場が逆になったことに気付いているかはわからないが、潜水鮫水鬼はスキャンプに突撃を開始する。まずはその力を見なくては、勝てるモノも勝てない。よって、まずは使わせる。

 

「触れられれば、な。だったら、もう触らせねぇ!」

 

 向かってくる潜水鮫水鬼に向けてスキャンプが手を突き出す。その瞬間、そこから強力な水流が発生。潜水鮫水鬼の進行を妨げるどころか、水流に巻き込んでそのまま押し返す。

 

「なっ」

「海ン中でしか使えねぇ力みたいだがよぉ、あたいは海ン中でしか戦わねぇ。だから、これさえあれば充分だ。テメェには、もう好き勝手させねぇぞ」

 

 押し返した潜水鮫水鬼を見た後、今度は自分から近付く番だと、スキャンプは手を自らの後ろに構え、同じように水流を発生させる。すると、これまで以上のスピードで突撃することが出来るようになった。

 一気に眼前まで突撃したら、潜水鮫水鬼も堪らず触れるために手を突き出す。しかし、その手は空を切るだけ。スキャンプは構えた手を下に向けたことで、進行方向が直角に曲がった。瞬間的に急浮上したのだ。

 

「おらっ、触らずに吹っ飛ばしてやるよ!」

 

 そして至近距離でさらに手を突き出す。すると、強力な水流が潜水鮫水鬼の頭に直撃し、無理矢理押し付けられるような感覚と共に、避けることが出来ず急潜航させられる。

 

「ぎっ……!」

 

 その水流の威力は、見えていないモノとは思えないくらいに重く、気を抜いていたら首の骨が折れていた程。上から来るとわかっていたからこそ、歯を食いしばり耐えることが出来たが、そうでなければこの一撃で致命的なダメージを受けていた可能性があった。

 触れたくても、スキャンプに手を突き出されると、それより先に進めない。膨大な水流に抗って進むのは非常に困難であり、()()()()()()()()をひたすらに打ち込んでくる。

 海中でしか使えない代わりに、海中ならば応用性が非常に高い力。

 

 スキャンプの優しい願いに呼応して生まれた力は、潜水艦ならではの力、『スクリュー』の曲解。その作用、水流を起こすという一点に絞った力により、任意の場所に強力な水流を起こすことが出来る力となった。

 自らを強くする事も出来れば、仲間を守ることも出来る。そして、触れられることもない。今最も必要な力と言えるだろう。

 

「フーミィ!」

 

 潜水鮫水鬼を水流で押し返し、スキャンプは伊203の元へと猛スピードで移動。移動と押し返しを同時に実行することは出来ないようだが、それでも水流のコントロールさえわかってしまえば、かなり器用に立ち回れることがわかる。

 

「テメェが何かやってるみてぇだな。おらぁ!」

 

 伊203に投錨を仕掛けている潜水鰆水鬼に対して、水流をぶち当てる。手を翳した先に水流が現れるため、来るとわかっていれば見えていなくても避けられるような攻撃。それはまさに今、潜水鰆水鬼が仕掛けている『投錨』と同じことである。

 

「何なのそれっ」

 

 真正面から水流をぶつけられ、潜水鰆水鬼も体勢が崩れた。その瞬間、伊203に対する拘束が緩む。

 

 潜水鰆水鬼の『投錨』は、指定した相手に対してその進退を抑制する力である。その指定というのが、指を差すという行為。お前を止めると宣言しなければ、その動きを止めることが出来ない。

 一度錨を下ろすことに成功すれば、しばらくは動きを止めることは出来るが、そこから常に指を差し続けていない限り、その拘束は緩んでいく。とはいえ、一度錨を下ろしてしまえば、指が差されていなくても、ある程度の時間はその動きを止めることは可能。

 簡単な条件であるが故に、解除もそこまで難しくはない。そこまで強力かつ凶悪な拘束力は、錨にはないのである。

 

「助かった。ありがと」

「アイツは何なんだ」

「指差した相手の動きが止められる。私を止めて、その間にもう一人に私をやらせる算段だったと思う」

「動けねぇテメェに触ってぶっ殺すってことかよ。はっ、つまんねぇことしやがる」

 

 とはいえ、伊203の錨が完全に取り払われたわけではない。動くことは可能になったが、かなり身体が重いようで、迎撃は出来るが敵を追うことは難しいようである。

 

「ンだぁアイツは。突然ワケわかんねぇ力使い出したぞ」

「そういうこともあるよ。特異点の仲間なんだから」

 

 水流に押し流されたことで、鮫と鰆が合流。1対1を2つ作っていた状態が解除され、2対2の様相へと戻った。

 あちらも本来ならばこの戦い方の方が有利であるはずなのだが、スキャンプのことを伊203とは違う雑魚となめてかかったことで、この状況に追い込まれている。

 

「2人とも動き止めてくれや。そしたら、あたいが劣化させてくる」

「だね。最初の予定通り、2人で動こうか。あのわかんないヤツのせいで、ちょっとグダッちゃったね」

 

 自分達からその道を選んでおきながら、いざ調子が狂わされたら敵のせいだと勝手なことを言う感じが、如何にも阿手の配下というイメージが強い。

 そんな言葉が聞こえてきても、スキャンプと伊203は反応すら無かった。この物言いはいつものこと。自分に都合のいい解釈をして、自分達が正義であり、特異点に与する者は悪であると決めつける。いちいち言い返していたら、時間がどれだけあっても足りない。速さ至上主義である伊203は特に、意味の無い問答は不要と、さっさと攻撃態勢に入る。

 

「それじゃあ、やるよ。()()()!」

 

 先制するのは潜水鰆水鬼。両方の手で指を差すことで、2人までなら『投錨』出来る。片方はスキャンプへ、片方は伊203へ。スキャンプはすぐさまそれを回避するが、まだ身体が重い伊203はそれを避けることも難しい。持ち前のスピードを殺されたことで、多少苛立ちがあるようだが、それは表には出さない。しかし、スキャンプにはそれが雰囲気として掴めた。うみどり所属となって、それなりに長く共に戦ってきたこともあるため、表情は無くても中身はわかる。

 

「フーミィ!」

「また身体が重くなった。でも、()()()()()()()

 

 艦を留めることに特化した力は、本当に身体が重くなったわけではなく、概念的に進めなくなるというだけの代物。錨を下ろしていても攻撃は出来るし、身体は動く。ただ、その場に縫い付けられているだけ。

 

「テメェ!」

「こっちのセリフだクソ潜水艦がぁ!」

 

 すぐさまスキャンプが潜水鰆水鬼に水流をぶち込もうと手を伸ばすが、先んじて動いた潜水鮫水鬼が魚雷を放っていた。水流の正面に魚雷を置き、その動きを止められたところにさらに魚雷を放ったことで、魚雷同士が接触、そして爆発する。

 水流はあれど、それは目眩しにはちょうどよかった。スキャンプの視界から、潜水鮫水鬼も潜水鰆水鬼も見えなくなってしまう。

 

「動きは止めてる。今!」

「おうよ! 凶悪なんて言われてんだ、あたいが、さっさとぶち殺してやる!」

 

 スキャンプを一瞬でも足止め出来ればそれでいいと、当初の目的通り、潜水鮫水鬼が伊203へと向かう。動くことが出来ないのならば、一方的に殺すことが出来ると、潜水鰆水鬼が指差す方へ、魚雷を放ちながらの突撃。いくら迎撃が可能であっても、それ以上の雷撃を重ねれば、どうにも出来なくなるだろうという算段。

 

「させねぇよバカが!」

 

 だが、当然それを黙って見過ごすスキャンプではない。両手を後ろに向けて水流を出し、超加速を実現させながら伊203の隣へと潜航。その魚雷群に向けてさらに水流を放ち、真っ直ぐ進まなくなったところで誘爆を促す。

 回避不可能過密度の雷撃は、少しの水流ですぐにブレて、隣の魚雷とぶつかり合ってそのまま爆発。目論見通りに全てが破壊される。

 

 だが、それ自体が潜水鮫水鬼の狙いだったとしたら。これもまた、大きな目眩しとなり、その姿が完全に見えなくなってしまうのだから。

 

「フーミィ、身体はまだ重いかよ」

「見えなくなったから少し軽くなった。錨が外れてる」

 

 指を差す潜水鰆水鬼の姿が伊203から見えなくなったことで、『指を差されている』という判定から逃れることが出来たらしい。

 しかし、それも考慮されているからか、その判定が無くなったとしてもすぐには回復しない。フーミィのスピードは今、完全に殺されている。

 その隙があれば、あちらには充分なのだろう。触れてしまえばそれでいいのだから。

 

「少しだけ下がれ」

「ん」

 

 スキャンプの言葉に素直に従った伊203。錨が下ろされていても、僅かにならば動くことが出来た。

 瞬間、魚雷同士の爆発の中央から、潜水鮫水鬼が突撃を仕掛けてきていた。やはり魚雷の誘爆も加味した攻撃を考えていた。

 伊203の何処でもいいので触れたい。艤装でも、生身でも。顔面に拳が叩き込めれば尚いい。ただその一点のために、自分が傷付くことも厭わなかった。自己修復でそれも治るのだから、多少の無茶は最初から承知の上。この程度なら痛くも痒くも無い。

 

「どうせそう来ると思ってたぜこの野郎が!」

 

 スキャンプの水流が、伊203を掠めるように放たれる。これまでとは違い、両手で放つことでより強力な水流とし、突撃を阻む壁とする。

 

「こんな水流ごときにっ、負けるわけ無ぇだろうが!」

「別に負けなくていいぜ。でも、フーミィには近付くんじゃねぇ。その汚ねぇ手で触れるな」

 

 水流には負けていない。だが、押し流されたことによって、その手は伊203に触れることはなかった。直進は出来たが、()()()()()

 

「ちっ、テメェ……!」

「なんだぁ? 自分の思い通りにならなくて癇癪起こすガキかぁ? わかってんだろ、ここは戦場だ、殺し合いの場だぞ。それもわからずにここにいるのか。テメェが死ぬなんて思いもしねぇから。あぁ、ど素人がよぉ!」

 

 さらに水流を押し込むことによって、その場に浮いておくことも出来なくし、伊203から遠ざけた。

 

 

 

 

「……どちらも脅威じゃないか。なら、どちらも止めないといけないね」

 

 潜水鰆水鬼は、伊203だけでなく、スキャンプも脅威として認識する。だが、それは間違いなく、()()

 

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