後始末屋の特異点   作:緋寺

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これが戦場

 スキャンプが特機を寄生させたことにより得た力、『スクリュー』の曲解により形勢逆転。潜水鮫水鬼による『劣化』は水流を叩きつけて近付けさせないことで、潜水鰆水鬼の『投錨』は加速で回避しながら差す指を曲げることで、その力を十全に発揮させることなく攻めることが出来るようになる。

 伊203は一度『投錨』を受けてしまったため、今はまともに動くことが出来ない。そのため、スキャンプが守りながらの戦いにはなっているのだが、その力は絶大であり、伊203は少し安心して身を任せることが出来た。

 

「スキャ子」

「忙しいなぁおい!」

 

 伊203は未だ動けない状況。魚雷の誘爆で潜水鰆水鬼の視界から外れたのだが、その後すぐに移動して改めて指を差し直している。伊203はロックされたまま。

 今のままでは、そのうち伊203が『劣化』の餌食になってしまうだろう。それはよろしくない。

 

「実験したいこと、ある」

「こんな切羽詰まった状況でか!?」

「ん、アレの力が把握出来ると思う。()()()()()()()()()()()を知りたい」

 

 今の伊203は『投錨』されたことにより移動することが出来ないのはわかっているが、それが自らの意思で動けないモノなのか、誰かが干渉しても動けないモノなのか。それを知っておきたいと伊203はスキャンプに伝える。

 確かに、スキャンプが押したり引いたりすれば動けるというのなら、戦い方の幅がさらに拡がることにはなるだろう。2人で揃って動いていると、纏めて『投錨』の餌食になりかねないが。

 

「まぁいい、わかった。だがその前に!」

 

 少し離れようとしている潜水鰆水鬼に、突撃してくる潜水鮫水鬼。正反対の戦術ではあるが、連携かと言われれば連携とギリギリ言えるくらいには息が合っている。それを片方どうにかしたところで、もう片方がその隙をついてくるだろう。

 鰆に集中すれば触れられて『劣化』、鮫に集中すれば遠くから『投錨』。それを両方スキャンプが処理しなければならない。

 

 一番厄介なのは、触れられた時点で死に近付く『劣化』だ。故に優先順位は潜水鮫水鬼の方に傾く。だがそのままでは、伊203は縛られたままになるし、そのうちスキャンプも『投錨』に捕まる。そうなったら最後、潜水鮫水鬼の突撃を避けられなくなり、戦いが一気に厳しくなるだろう。

 

 そのため、スキャンプは優先順位が高い潜水鮫水鬼の方へと水流を放つ。突撃を牽制し、近付かせないようにすれば、伊203が求める実験も少しは可能になるだろう。

 

「邪魔くせぇなぁテメェ!」

「こっちのセリフだクソが!」

 

 互いに罵り合いながらも、分はスキャンプにあった。近付かなければその力を発揮出来ない潜水鮫水鬼が、それを全く出来ない状態にされているのだから、有利なのはスキャンプと言えよう。

 だが、そうなるとスキャンプの視線は潜水鰆水鬼から離れていく。そうなれば、伊203のみでなくスキャンプも『投錨』されてしまうだろう。

 

「スキャ子の邪魔しないで」

 

 それを止めようとするのは伊203。視界さえ封じればその力が激減することはわかっているため、魚雷を数発放つことで自ら誘爆を促し、簡易的に視界を遮った。

 

「なら、アンタを先に殺す。相方にアレを任せているんだ。いくら凶悪なアンタでも、動けないならアタシだって始末出来るからね」

 

 すぐさま爆発から避けて伊203を視界に入れ、指を差し続けたまま、今度は鰆側から魚雷を放つ。動きを止めた状態なら、的に向かって撃つようなモノ。当てられないわけがないのだ。

 

 それが伊203でなければ、だが。

 

「動かなくても反撃する的に、素人が当てられると思っているの?」

 

 伊203は確かに今動けない。だが、何度も言うようにそれは進めず退けないだけである。向きを変えることも出来るため、敵の魚雷は自分の魚雷でいくらでも相殺出来る。

 

 こんな迎撃を伊203は当たり前のようにやっているが、実際にコレは神業レベルだったりする。砲撃に砲撃を当てるよりは簡単かもしれないが、それでも魚雷同士をぶつけ合わせ、それを何連続でもやり続けられるのは、並の集中力では難しい話。

 その上で、相殺の爆発の後の敵の動きまで読んで、最も速い対処法を、最も速く実践する。

 

「スキャ子、もう行ける?」

「ああ、かなり強引に行くぞ!」

「構わない。ここから動かして」

 

 潜水鮫水鬼をある程度押し除けたスキャンプが、改めて伊203の側へと近寄る。今なら潜水鰆水鬼の視界からも外れてており、ほんの少しの間なら実験が可能となる。

 

「背中から押す。いいな」

「大丈夫。やって」

「Okay. せーのっ!」

 

 スキャンプが伊203の背──正確には艤装の基部──に自分の背を押し当てると、自身の前に全力で水流を発生させる。

 その勢いは相当のモノで、伊203ですらその衝撃を受けてうっと声を漏らしたほど。

 

 だが、そうした甲斐がある成果が見えることになる。

 

「自分じゃ動けないけど、外からの干渉なら動けるみたい」

 

 伊203の位置が、明らかに動いたのだ。スキャンプには重いと感じることなく。

 

 潜水鰆水鬼の『投錨』は、その場所に縫い付ける効果がある。錨が下ろされたのだから、そこから動くなという強い力を生じさせるだけの力。

 だが、いくら錨を下ろしていたところで、()()()()()()()()、艦は嫌でも動いてしまう。そこまで忠実に再現しているわけではないが、それだけスキャンプの勢いが凄まじかったということ。

 

 これには潜水鰆水鬼も驚きを隠せなかった。

 

「うそ、動けなくなるはずじゃ……」

 

 あくまでも『投錨』の曲解は、()()()()()()()()()()()()()力だった。錨というモノはそういうモノであり、留めるという一点に曲解したとしても、外部からの干渉には弱かった。

 それだけでは無い、おそらく普通ならば移動はさせられなかっただろう。錨が下りているのだから、その場から動くことは出来ない。だが、スキャンプの力が明確に『投錨』の制限を超えたのだ。強い力が加われば、錨が下りていても艦は動く。それを、スキャンプが実証したのだ。

 

 潜水鰆水鬼が弱いわけでは無い。拘束力は非常に高い。ただ、スキャンプがそれを上回ったに過ぎない。

 

「それなら……スキャ子、私を思い切り押して」

「あぁ? いいのかよ」

「水流に乗ればいいだけ。あっちとは違う」

 

 まだ動きはぎこちないが、視界から外れたことで、徐々に戻ってきている。ならば、()()()()()

 

「いいぜ、後から文句言うなよ」

「大丈夫。それに、()()()()()()

 

 潜水鰆水鬼はまた伊203の動きを止めようと指を差そうとしていた。だが、それだけではもう、伊203は止められない。

 錨のせいで最初の動き出しはどうしても遅くなるが、それをカバーさえしてやれば、伊203はトップスピードを維持出来る。勢いで錨を振り切って、

 

「邪魔。まだ見ちゃダメ」

 

 潜水鰆水鬼の行動を見越して、伊203は魚雷を乱射し誘爆。上下左右と撃ち続け、しっかり視界を塞いでいく。

 一度タネが割れてしまえば、その回避方法はいくらでも思いつくモノ。目眩しなんて魚雷の誘爆を何度もするだけで簡単に出来てしまうモノである。

 

「くっ……やっぱりアイツが……っ」

 

 ここで潜水鰆水鬼は、伊203ではなくスキャンプに集中攻撃することを考える。スキャンプがあの力を持ち始めてから調子が狂った。これは間違いない。

 どちらも要警戒であり、伊203の方がまずいと思っていたが、本当に警戒しなくてはならないのはスキャンプ。

 

 そしてやはり、それは遅い。潜水鰆水鬼の素人なところが思い切り出ていた。判断が遅く、突発的な状況の変化に追いついていけない。

 

「行くぞフーミィ!」

「いいよ、いつでも」

 

 そうこうしている間に、伊203とスキャンプの準備が完了する。スキャンプが伸ばした手に、少し動けるようになった伊203が足を添えて膝を曲げた。まるで、スキャンプの手で蹴伸びをするかのように。

 

「タイミング合わせろよ。せーのっ」

「行く」

 

 潜水鮫水鬼を水流で牽制しながら、もう片方の手から伊203を押し出すように水流を発生させた。それをモロに踏みつけることになる伊203。

 一歩間違えれば、伊203の脚は水流に揉まれてグシャグシャになりかねない。だが、そこは自ら人間を超えてしまった伊203、器用さが並ではなく、少し見ただけでそのタイミングを完全に把握して、水流に乗って超加速を決めた。

 

「っっ!?」

 

 迷いが生じた時点で勝ち目はない。スキャンプに少しだけ目が行った時には、伊203は海中とは思えないスピードで潜水鰆水鬼に迫撃。『投錨』のための指、いや、その指を携える手首を握っていた。

 

「そろそろいい加減にして」

 

 そして、全力でその手首を握り締めた。瞬間、ゴキリと鈍い音がした。

 

「っぐあっ!?」

「コレだけじゃ終わらない。その指が、手が悪い。どうせ治るからいいでしょ」

 

 折れた手首をさらに握り締めていく。激痛を止めるために、もう片方の手で突き放そうとするが、伊203がその程度で止まるわけがない。一度掴まれた時点で終わりであることは、これまでの情報からでもわかっていること。これが悪足掻きであることも。

 

「はな、せ……っ」

「痛い目を見ない戦いなんてないよ。私達も覚悟の上で戦ってる。でも──」

 

 そして、握り潰す手はさらに力を込められ、

 

「私達は、貴女達だけを痛くすることに、躊躇は無いの」

 

 その手首を、完全に潰して分断した。指を差していた手はそこから海底に落ちていく。

 

「っがぁああっ!?」

 

 悲鳴を上げる潜水鰆水鬼だが、伊203はそれを冷ややかな目で見つめるのみ。

 ある意味拘束は失われたが、これで片手は無くなった。『投錨』のために差す指は、もう片方の手だけ。

 

「次はそっちの手。勿論、こうされることも覚悟の上だよね。だって、私がこういうことするって知っててここに来たんでしょ。ならいいでしょ。()()()()()()()()ここにいるんでしょ。一方的に勝てると思ってる方がおかしい。私達が一方的なのは仕方ないから」

 

 すぐさまもう片方の手を取ろうとしたが、潜水鰆水鬼はそうされないように手を遠退かせる。同時に間合いを取るために伊203を蹴り飛ばして無理矢理離れた。

 失った手の痛みで涙目になっているが、まだ戦意を失ってはいない。もう片方の手があるのだから、まだ負けていないと、歯を食いしばって伊203を睨みつけた。

 

 

 

 

「……そう。ならいい。ここは戦場、わかっているよね」

 

 伊203の目は、既に蔑みが混じっていた。

 

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