伊26と丁型海防艦も発見した『舵』。こちらは島付近の海底で群生している海藻に不法投棄された中にあり、まるで海中を調査する者に対する罠のように置かれていた。
伊26はそれを特機を使って拾い、第四号海防艦が詳細を調べるまでもなく潜水艇のアームで握り潰している。本来ならば持ち帰って入念に調べたいところだろうが、それそのものが危険であるならば、調べることで被害が出かねない。
「まだまだありそうだから、なるべく全部壊しておきたいけど、無闇矢鱈に近付く方が危ないよね。壊すのは任せていいかな」
『まっかせてほしいでっすー』
『見つけたらすぐに壊すよ。電磁波の反応はまだまだあるから』
ここからは伊26だと危険であると、丁型海防艦の潜水艇の方が前に出る。電磁波を感知出来る上、何かあったら困る艦娘本人は潜水艇の中。伊26と比べれば、安全の度合いが全く違う。
しかも調査隊でこういった作業の慣れも段違いというおまけ付き。海底に、海藻になるべく触れないようにと伊26に任せていた部分も、『舵』が見つかったらからにはそうは言っていられない。
また、ここからは特機がより活躍する。伊26の手から少し離れ、群生する海藻の中へと入っていくと、傷付けずに掻き分けていき、不審なモノを全て外に出していくのだ。
伊26が護身のために持っている特機は1体だが、その1体が物凄い勢いで仕事をしている。不法投棄されているゴミも海藻群の中から外に出しながら、危険である『舵』を見つけては、丁型海防艦の駆る潜水艇に向けて受け取りやすいように加減して放り投げた。
『すごいでっす! よーつ達よりも早く見つけてるかも!』
『こっちは電磁波見ながら探してるんだけどなぁ』
『私達も、負けていられませんね』
この特機の活動が、丁型海防艦のやる気に火をつけていた。自分達も頑張ろうと、焦るわけでなくあくまでも慎重に、しかし精度の高い素早い動きで、ゴミの中から危険物を見つけ出して、確実に破壊していく。
「あはは、これはニムの出番は無いかな」
『触るだけでも危険なモノかもですから、生身のニムさんは少し離れていた方がいいかと思います』
「だね。こっちでもやれることをやっておくね。周辺警戒とか」
こうして罠を張っているということは、その罠に引っかかったかどうかを見ている者がいるかもしれない。それを探すために、伊26は周囲を見回した。
怖いのは海中で『迷彩』で来られた場合だ。ステルスで来られた時も悲しかったが、
「海藻が群生してるってことは、大概のモノは隠せるってことだよね……それにこんなにゴミが捨てられてるなら、深海棲艦が生まれちゃってもおかしくないし……うわ、やっぱり」
警戒を始めてすぐ、島付近に溜まった穢れによって深海棲艦が生まれていることを確認してしまった。
ここで伊26は一つ気付く。むしろこのゴミは、深海棲艦を生み出すために投棄されているのではないかと。
「そっか、材料取り放題だ、これ」
実験材料に深海棲艦を使うならば、これほど都合のいい状態はない。穢れの無限生成がこの場所で成立しまっているが故に、いくらでも素材が集まると言えよう。
それに、運が良ければこの場にカテゴリーMが生まれる可能性がある。もしかしたら、白雲はこれによって生まれたなんてことすら考えられる。
「酷いね……後始末屋に片付けも依頼されてないから、ここの穢れが異常なことになってる……」
ひとまず発生した深海棲艦はその時点で撃滅。海上に向かおうとしているそれを、伊26はすぐさま雷撃で始末した。今浮上されたら、正面突破組と鉢合わせになって、余計な戦闘をすることになってしまう。それを事前に防ぐことが出来るのなら、やらない理由がない。
海上に向かう深海棲艦は、潜水艦でなければ無防備そのものだ。なので、可哀想だと思いながらも、そこは心を鬼にしてしっかり処理をした。浮上せずに調査隊に気付かれても困る。
「……この戦いが終わったら、ちゃんとお掃除しなくちゃね」
伊26は少しだけ気持ちを落としながら、また生まれないかと周囲を警戒しながら、仲間の作業が安全に終わるように願った。
伊26の深海棲艦撃破数が少しずつ増えていく中、丁型海防艦の作業は続く。見つけた『舵』はそろそろ2桁になろうとしており、今は何もしてこないようなバッジみたいなモノであっても、確実な破壊をしていく。
その中で、一部の『舵』が壊れる前に僅かに変形しようとしたのを目敏く見つけた。グッと押す瞬間に爪が現れた。骨に食い込むような針は見えずとも、変形するという事実がよろしくない。
『痛そうな爪が出てたんでっす』
それを見つけたのは、第四号海防艦。3人の中では一番上のお姉さんなだけあり、第二十二号海防艦と第三十号海防艦が見つけられなかった細かいところにしっかりと気付くことが出来た。
『爪……ってことは、このバッジ、肉に直接食い込んでくるってこと!?』
想像しただけで痛そうだと第二十二号海防艦は見えずとも顔を顰める。見た目通り子供の感性を持っていることもあり、単純に痛いことは嫌だとちゃんと思っている。いくら艦娘であり、命を賭けた戦場にいるのだとしても、痛いことは嫌だという感性だけは絶対に失わない。
その辺りも昼目提督の教育の賜物である。自分の命が一番大切なモノであり、本当に危ないと思ったら全ての任務を放り投げてでも逃げればいいと思っている。命あっての物種。それはどんな状況でも変わらない真実。
『ニムさんにそんな思いをさせられませんね』
『うん、だから、全部壊しちゃいまっしょー。電磁波はも少しあるからー』
『オッケー。どんどん探してどんどん壊しちゃえ!』
そこからさらに作業を進め、見つけられる『舵』は軒並み破壊。他にもあるかもしれないが、今のところは電磁波の反応が失われたため、一回安心した。
だが、ここでの調査はそれだけでは終わらせてもらえない。潜水艇に備え付けられたセンサーに僅かに反応があったことで、またもや第四号海防艦が反応する。
『なんか来てまっす!』
言うが早いか、第四号海防艦はその反応が真っ直ぐ伊26に向かっていることがわかったため、潜水艇を手早く動かしてその動きを妨害する。
第四号海防艦の潜水艇は、他の者のモノもそうだが特別仕様である。その時に見つけられている機能は全て搭載されており、電磁波感知と照射は勿論、『迷彩』を感知するシステムも搭載済み。
子供が使うモノなのだからと、昼目提督が過保護すぎるくらいに最新鋭のマシンに仕立て上げている。故に、性能だけで言うならば、誰よりも高く、何よりも強い。
しかも、潜水艇そのもので攻撃も可能になっており、本来海防艦では出来ない雷撃なども可能。外部装置を操縦するという点からあらゆる制約を回避出来るため、危険ではあるがやれることは全てやれる。
「よつちゃん!?」
『透明の敵が向かってきてるんでっす!』
何もないところに魚雷を放った。それは流石に当たるようなことはなかったが、そちらの方に何かがいるというのは間違いなかった。
『こっちでも見っけた! 数はひとーつ!』
『ニムさんを守ります!』
第二十二号海防艦と第三十号海防艦の方でも感知したことで、調査を一旦止め、手早く潜水艇を動かして伊26を囲うように移動。正面からは接触出来ないようなフォーメーションを組む。伊26を中心に据えた輪形陣と言えるだろう。
しかし、海上ならばそれでいいかもしれないが、今は海中、上と下があるので、完全な守りにはならない。それは誰もがわかっていることである。
敵が見えているのは丁型海防艦のみ。最も危険な伊26に何も見えていないというところが厄介なところ。
『よーつ達で、ニムのあねごを守るよーっ!』
『りょーかい! 360度全部見回せーっ!』
『何処からも、近付けさせません!』
3人には見えている透明な敵。それは間違いなく潜水艦であり、やってくるとしても確実に魚雷。そうでなければ、敵に直接触れることを目的としているだろう。
ここで伊26は考える。やってくるのならば、敵は何を狙ってくるか。自分に対して何をしようとしてくるか。
そこでピンと来るのが、さっきまで破壊し尽くしていた『舵』だ。小さなバッジみたいなそれを、伊26は直接触れることはしていないが、もし触れていたらどうなっていたか。
「……そっか、さっきの『舵』、触ってたら本当にダメだったんだ。この透明な敵、ニムに直接『舵』をくっつけようとしてる!」
そして気付く。『舵』を取り付けられたら確実にまずいことになる。その形状からして、洗脳に繋がるのではないかと。
周辺警戒しながらも、先程第四号海防艦が言っていた、痛そうな爪が出たというのも聞き逃していない。張り付けられたら食い込んで離れないようにして、そのまま相手を籠絡する。そうとしか考えられない。
「素肌も多いから、ニムはくっつけ放題なんだ。狙われて当然だね。じゃあ狙うなら……こっち!」
敵がどんな存在かは今は考えない。とにかく自分の身を守ることを優先する。結果、周囲は潜水艇で守ってもらっているが、より肌を露出している部分が多い下が危険であると、真下に向けて魚雷を放った。
『正解でっすぅ! 敵が下に向かったぁ!』
見えている海防艦達には、今の伊26の行動が大正解であることがすぐにわかる。見えない敵の反応は、潜水艇を回避して伊26の足下に行こうとしていた。だが、この雷撃によってそれも防がれる。
透明な敵はその雷撃を避け、一旦離れた様子。しかし、まだ攻撃の機会を窺っている。
「でも、これ結構まずいよね……ニムには見えてないよ。今のは運が良かったけど」
『伝えながらだと遅いかな』
「うん、多分。それに、敵は1人とは限らないよ。1人だけならまだ何とかなるかもだけど、2人3人って来られたら……」
道をある程度固定出来るのは1人までだ。複数人になった途端、一気に難しくなる。
「……よし、それなら、ニムもこれを使うしかないね」
そして思い至る。伊26にも預けられている、『増産』ではない特機。緊急事態の際に使う、特異点の力。
今はまさに緊急事態だ。自分が足を引っ張ってしまっていることもあり、使わない理由はなかった。
「みんな、ちょっと耳塞いでてね。多分ニム、いろいろ我慢出来ないから」
言いながらも、魚雷保管庫に忍ばせた特機に出てきてもらい、向かい合う。
「お願いね。この場を、みんなで潜り抜けられるように」
特機も任せろと言わんばかりに頷いた。触手を蠢かせ、意を決する。
「それじゃあ、ニムも行くよ……!」
その特機を、力強く胸に押しつけた。