後始末屋の特異点   作:緋寺

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ポテンシャル

 海中を調査中に『舵』を発見した伊26と丁型海防艦達。それが()()()()()であることにすぐに気付くことが出来たため、見つけたモノを片っ端から破壊していた。

 生身である伊26は出る幕がないと周辺警戒をしつつ、不法投棄されたゴミから溢れていた穢れによって生まれた深海棲艦を始末していると、そこに案の定『迷彩』持ちの敵が接近してくる。

 

 初撃は追い払うことが出来ているが、それだけではジリ貧。丁型海防艦が操る潜水艇だけでは、敵からの攻撃を耐え切ることは難しい。

 そう考えた伊26は、預けられた特機に手を伸ばす。『増産』ではない特機を自らに寄生させることで、ここをどうにか切り抜ける決断をした。

 

「それじゃあ、ニムも行くよ……!」

 

 この場をみんなで潜り抜けられるように。そう優しい願いを特機に込めて、胸に押し当てる。特機もその願いを叶えるために、なるべく伊26に強い影響を与えないように体内へと潜り込んだ。

 

「っあ……っ」

 

 伊26は寄生される感覚は知らないが、『量産』を受けた経験があるため、正直それと同じではないかと予想はしていた。それもあって、特機を使うことに対して、少々抵抗はあった。だが、今これを使わなければ、おそらく切り抜けられない。故に、相応の覚悟を持って、それを使う。特機もその思いに応えるように、優しく、そして手早く力を与えていった。

 

「はぁっ、っあっ、これ、でも『量産』よりは……大丈夫っ」

 

 胸を押さえながら、その感覚を受け入れる。身体を縮こませ、なるべく大きく反応しないように耐えた。

 耳を塞いでおいてくれと丁型海防艦達にはお願いしているが、過剰な反応はあまり喜ばしくはない。

 

「っふぅっ、ふぅっ、んんぅううっ!?」

 

 そして、一際大きな反応をしたことにより、伊26は自らのカテゴリーをCから Wへと変えることに成功する。

 変化と同時に見た目まで変えることが出来る特機だが、伊26がそこまで望んでいないため、基本的には変化無し。競泳タイプのスクール水着にパーカーを着込む、潜水艦娘の中では少々特殊なスタイルは据え置きである。スキャンプの変化のように艤装が染まるということもない。

 

 だが、大きく変化した部分が1つだけあった。それが、瞳の色。そこに力が全て集約しているかのように、青白く染まっていた。

 

「っはぁっ、ふぅ……みんなこんなのやってたんだ……」

 

 少々上気した表情ではあるが、ひとまず息を整える。変化を終えたことで身体の昂揚は落ち着いてくるが、まだ少しだけ慣れていない様子。

 

『ニムのあねごっ、もういいです?』

「ああ、ごめんごめん、もう大丈夫。ありがとね」

 

 耳を塞いでいてくれた丁型海防艦の3人にもういいよと伝えると、もう一度だけ深呼吸。戦闘中であっても落ち着くことは大事。特に新たな力を得た直後なのだから、余計に落ち着かねばならない。

 

「ふぅぅ……特機がくれた力は……うんうん、そういうことだね」

 

 伊26が願ったのは、今のこのピンチを乗り越えることができる力。最もよろしくないのが、敵が視えないこと。それをどうにかするために得られた力が、()()()()()()()

 今の伊26には、あらゆる機材ですら感知出来ない『迷彩』持ちの姿が完全に視えていた。唯一しっかり視えていたイリスとほぼ同様。イリスは彩で確認していたが、伊26はそちらが視えない代わりに、何処でどのような行動をしようとしているかまでハッキリと確認が出来るようになっている。

 

 得られた力は、『ソナー』の曲解。イリスの目が届かない海中で、探知特定する一点に特化した力。相手がどうであろうと、その全てが今の伊26には視える。

 これは『迷彩』持ちも例外ではなく、それ以上のモノも視えるようになっているのだが、それはまた別の話。

 

「ニムも敵が視えるようになったから、安心して!」

『りょーかいでっす!』

『指示とかいらないってことだよね!』

 

 丁型海防艦の潜水艇と対等どころか若干上を行く性能となった伊26が、今度は潜水艇を守るために動き始める。

 

 潜水艦同士の戦いは、基本的には不毛。魚雷は互いに当たらないモノと思った方がいい。故に、本当に戦うのならば近接戦闘にならざるを得ない。しかし、今回の敵は近付く、むしろ触れられることが良くないことに繋がる。

 それに、伊26は伊203やスキャンプのように戦闘が得意というわけではない。基本がサポーター気質であり、殴り合いは無理に近い。雷撃が通用するなら潜水艦娘としての戦いは可能だが、今回は例外中の例外。視えるようにはなったが、やらねばならないことが不得手なことであることは変えられていない。

 

「ニムだけならダメだったと思うけど、今はみんながいるからね。透明な敵の動きを止めるよ!」

 

 伊26の瞳がギラリと光る。『ソナー』であることもあり、目の前だけでなく、自身を中心に周囲の反応を全て特定するための音波を放ち始めた。アクティブソナーの力を発揮したことで、視えない敵であっても完全に場所を把握出来る。

 本来ならばソナーにも反応が出ないのが『迷彩』の曲解の真骨頂である。だが、伊26の『ソナー』は機材などを使っているわけでもない、個人の力によるモノ。特定条件下以外では絶対に視認出来なくなる力を、その特定条件を後出しで手に入れた。

 

「やっぱり2人いるよ!」

『こ、こっちではまだ2人目は反応ないです!』

『すごいでっすぅニムのあねごぉ!』

 

 潜水艇の探知機の範囲を上回る索敵範囲で、やはり2人目がいたことを確認。電磁波や妖精さんの力による索敵ではどうしても1テンポ遅くなることがあるが、伊26の『ソナー』による索敵は、その遅れが完全に無視されるため、反応が非常に早い。

 

「狙いはやっぱりニムだよね。生身なのニムだけだし。じゃあ、()()()()()()()()()()!」

 

 敵の接近を妨害するために魚雷を放つが、それだけでどうにかなるわけでもない。先にも書いた通り、潜水艦同士の戦いでは魚雷は放たれてからでも避けられるくらいに意味がない。

 故に、ここからは伊26が実力により敵の全ての行動を避け続ける。自らそう宣言もした。

 

「敵は多分、潜水新棲姫……桜ちゃんと同じ見た目だね。小さい……子供なのかな。こういうことするならすばしっこい方がいいだろうし、小柄な見た目の子が選ばれたのかな。見た目で子供って決めつけるのは早いけど」

 

 向かってくる透明な敵を完全に視ながら、分析を続ける。そうしながらも、自分も避けるための道を考える。

 

 伊203と共に行動しているおかげで、伊26の思考速度は嫌でも上がっている。潜水艦隊では軍師としても活動出来るくらいに。

 伊203がその指示に従うくらいには頭が回る。それでも今は先行しているわけだが、伊26が伊203を止めなかったということは、()()()()()()()()()とその段階からわかっていたからである。

 そんな伊26が、ある意味自分のためだけに頭を回し始めたのだから、自己防衛はこれまでとは比べ物にならない程に精度が高くなる。

 

「よし、みんな、ゆっくりでいいから動きを妨害して! ニムも動き回るから、無理しない程度で!」

『りょーかい!』

『動き回ります!』

 

 潜水艇の3人にバラバラに動くように指示しつつ、伊26も動き始める。視えないはずなのに、明らかにその場所を把握しながら、引きつけつつも絶対に触れられないように動く。

 敵からしたら、ついさっきとはまるで違う動きをし始めたと驚く。勘で魚雷を放つのとはまるで違う、明確に視認した状態から、あえて紙一重で避けている。

 

「2人がかりじゃないと捕まらないよ」

 

 回避した直後に、聞こえるように呟いた伊26。今は正面に1人しかいないが、2人目がいることは既にわかっている。言いながらも伊26は急速潜航し、海底の海藻群生地へ。

 そこは既に調査済みで、危険物も全て取っ払った後。『舵』は当然のこと、不法投棄されたゴミも見えるところに移動させられているため、海藻に足をつけたところで何も被害はない。

 

「うん、それが賢明だと思う。1人でやってて捕まえられないからって、インチキを疑われたら嫌だからね。ちゃんと2人がかりでやってね。そっちも全力を出して」

 

 少しだけ挑発するような言葉で、視えない敵2人を煽った。どうせやれることは伊26を追いかけ回すことだけ。潜水艇の3人に『舵』を取り付けることが出来ないのだから、伊26しか狙うことは出来ない。

 そのターゲットが、海藻群生地の中から手招きするように身構えている。罠を仕掛けていたそこの罠を全て外され、むしろそこを自らの戦場に選ぶほど。これはある意味意趣返しだ。

 

「いろいろ仕掛けておいてね」

 

 小声で『増産』の特機に指示を出す伊26。未だ海藻群生地の中を調査し続けていたが、その声を聞いたことで何をすべきかを察したように動き出す。

 

「さ、おいで!」

 

 2人の視えない敵が揃って向かってきたのを確認して、伊26がそこから足を離して逃げに転じる。

 2人いればこれまでとは違う戦術も取れるだろう。それをまさに実践してきており、挟み撃ちを企て、離れつつも伊26を揃って狙うように泳いできていた。ただし、ただ2人でどうにか出来るようなモノでもないことを嫌でも思い知らせる。

 

「一応ニムはフーミィちゃんと一緒に戦ってるからね。()()()()()()()()()だったら、全部反応出来るよ」

 

 2人で連携して捕えようとしても、伊26は全てヒラリヒラリと避けていく。しかも、毎回紙一重で。

 伊203のスピードに完全に慣れているからこそ、スピード自体は普通である視えない敵の動きは、伊26にとっては軽々避けられるくらいのモノであった。知らず知らずのうちに鍛えられ続けていた、伊26のポテンシャル。それが今、この戦場で大きく開花した。

 

 視えていればこちらのモノ。故に、特機もこのカタチで願いを叶えたのだ。伊26が敵を惹きつけることで、丁型海防艦達は安全になり、伊26自身もその実力で突破出来る。

 この場をみんなで潜り抜ける。それは今、実現されている。

 

「……全部視えるし、全部聞こえてる。すごいね、深雪ちゃんの力。ありがとね」

 

 深雪に感謝をしながら、伊26は目の前の敵を捌き切るために動き続ける。

 

 

 

 

 脅威はまだ去っていない。だが、終わるのもすぐそこだと言えよう。

 

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