最後まで姿を見せなかった『迷彩』持ちの潜水新棲姫との追いかけっこは、伊26が海藻群生地に仕掛けた罠によって動きを止め、その隙に『舵』を全て奪い取ることで一旦の終了となった。
潜水新棲姫は見た目通りの子供。ここで持たされたモノが危険物であることがわかると、すぐにそれを手放すし、二度と手に入れようと思わない。その上で伊26がまだ遊んでくれるとわかると、大喜びで懐いた。
しかし、戦いはそれだけでは終わってくれない。
『ニムのあねご! 爆雷が飛んできたでっす!』
第四号海防艦が叫んだことで、この戦場に爆雷がばら撒かれたことを知る。自分達が狙われることはあるかもとは考えていたが、子供達も纏めて葬り去ろうとしてくるのは少し範疇外だった。そこまでするのかと、伊26は内心敵に対して明確な怒りを持つ。
海面に目を向けると、言われた通りに爆雷が落とされていることがわかった。しかし、海上艦がそこにいるようにも見えない。
そこから考えられるのが、
「まずは回避するよ! 君達も危ないから、姿を見せてくれるかな」
2人の潜水新棲姫に優しく伝えると、何があるのかわかっていないようだが、ひとまず伊26の言うことを聞いたようで、その場に姿を現した。
見た目は何も変わらない潜水新棲姫。何処か改造されているわけではなく、最近までうみどりで保護していた桜とほぼ同じ見た目。それが2人。
「それじゃあ、ニムと手を繋ごっか。ちょっと急ぐから、痛かったら言ってね」
手を差し出すと、2人ともがしっかり伊26と手を繋いだ。これなら大丈夫だと、伊26は急加速を開始する。
丁型海防艦の3人も、潜水艇で海中にいる以上、爆雷を喰らったら潜水艦以上に致命的なダメージになる。海中に投げ出されたら死が確定。そうでなくても、浮上出来なくなったら終わりに近い。本来の活動域ではないのだから、誰よりも危険である。
だが、それを理解しているからこそ、操縦技術は並では無かった。逃げの一択となった途端、調査中には見せなかった機敏さを見せ、爆雷の着弾点から急加速で退避する。
すると、ついさっきまでいた場所に爆雷が落ちてきて、そのまま爆発。そこにいたら致命的であったことが嫌でもわかる。
『ニムさん! こっちは逃げられるから、その子達お願い!』
「うん、大丈夫。こっちも逃げることは出来るからね。でも、元から絶たないと厳しいかも」
『わ、私達に撃破までは厳しい、ですね』
潜水艇にも攻撃用の装備はある。だが、今は姿が見えない敵相手には、それは宝の持ち腐れ。使うことはおそらく無い。今は逃げ回るしか無いだろう。
「まずは逃げながら、持ち主が何処にいるかは調べた方がいいよ。海の上にいてくれるならまだマシだけど、最悪は……」
『
声を荒げる第二十二号海防艦に、伊26はそれも普通にあり得ると話す。
「君達は何か知らないかな。君達にここで遊んでもいいよって言ってくれた大人とか」
伊26に問われて、うーんと首を傾げる2人の子供。だが、思い当たるところはいくらでもあるようで、そのうちの誰のことを話せばいいのか迷っているような雰囲気であった。
なら、と伊26はここまで連れてきてくれたのは誰かと聞き方を変える。すると、思い当たるところがあったようで、爆雷から逃げながら話してくれる。
「くろいおねーさんだった」
「つののはえたおねーさんだった」
深海棲艦の姫は大体白か黒の二択であり、ツノが生えた者も大半。この証言があったところで、該当する姿はいくらでもある。だが伊26は苛立ちなどを見せることもなく、話したくれた2人の子供に、よく話してくれたと褒めながら感謝する。
話してくれるということは、それだけ心を開いているということ。最初から敵対しているから追い回していたというわけではなく、敵対という意味もわかっておらず遊んでもらえるから追い回していたというだけであることがわかる。
「海防艦のみんな、大体誰だかわかるかな」
これまでに現れた深海棲艦の中で、こんな攻撃が出来そうな敵を考えていくと、ピンと来る敵が思い付く。それを言い当てたのは、第三十号海防艦。
『環礁空母泊地棲姫かも、です!』
「あー、うん、いたねそういう姫。それもフーミィちゃん対策なのかな」
環礁空母泊地棲姫は、名前の通り空母の深海棲艦。と言いたいところだが、他の空母系の姫とは大きく違うところがある。それが、名前の通り環礁を陣取る泊地であること。艦種としては陸上施設型にもならず、空母と銘打っている割にはやってくることは航空巡洋艦に近いのだが、その居場所が
そして、もう一つの特徴が、深海棲艦でもかなりレアな、回転翼機をメイン武装として使ってくるということ。空母なのに制空権争いに参加せず、対潜を基本としている。潜水艦には近付きにくく、それなのに徹底して潜水艦を潰そうとする。なお、海上艦相手では当たり前のように中口径主砲を放ってくる。
今ここに現れているのは、敵にとっては非常に厄介な伊203をどうにかするためのモノ達ばかりである。鮫と鰆に関しては伊26は知る由もないのだが、伊203が対策されていることは嫌でもわかること。
環礁空母泊地棲姫もその一環であり、攻められにくく圧倒出来るという点では使われない理由が無い程である。
「とにかく今は回避一択! 絶対に当たらないようにね!」
子供達の安全を確保することも難しいのだが、それでも必死に逃げ回らざるを得ない。足を止めると、そこに爆雷が雨のように降りかかってくる。
先回りのように進む方向にも爆雷が落とされるようになってきたら、本格的に危険になる。今でこそ避けられるが、密度が少しずつ上がってきているようにすら感じる。
「子供もいるのに、こんなことするなんて……っ」
伊26の憤りはむしろ敵の思うツボでもある。後始末屋の優しさに付け込んだ作戦なのだから。
守るべき非力な者がそこにいる前提で、逃げにくくしながら狙いを定めることで、確実に命を奪おうという魂胆である。
後始末屋ならば、そこに子供がいるなら見捨てない。子供の命を優先するために、動きが鈍くなる。そう考えた卑劣な策。
子供は死んでも構わないと思っているからそんな戦い方が出来る。他人の命なんて全く興味が無いと言わんばかりの効率的であり
「全力で索敵はする!」
ここで『ソナー』を全開にして、探せるところは全て探す伊26。しかし、この力の欠点はあくまでもソナーであること。海上にいられたら範囲に入らないということになる。
それでも喫水線より下に来ている部分は確認出来るはず。海中しか見えなくても、一部海中に入っているなら場所がわかる。
「……見えない……ってことは、すごく遠いか陸にいるか、だよね」
それでも、感知することが出来なかった。ということは、相当遠いところにいるか、ソナーでは見えない地上にいるかになる。
近場に環礁があるかと言われれば、それは見当たらない。近海の地図はおおわしが手に入れており、そういった障害物がないことは事前に把握している。
『ちょっと浮上しまっす!』
第四号海防艦が大胆な行動に出た。どうせ敵に場所がバレているのだから、海中ではなく海上で索敵をすると急浮上し出したのだ。
海上に敵がいないことも確認済み。真上に浮上するのは危険であるため、蛇行しながらも海上に頭を出すことには成功した。
「よつちゃん、いつもあんなに行動派……?」
『はい、すごく動き回ってくれます。私達のリーダーです』
『頼りになるよ、ホントに』
第三十号海防艦も第二十二号海防艦も、その行動には圧倒的な信頼を持っている。そのため、不安も心配も何もないようである。
潜水艇が海上にまで来たことで、一気に視界が開ける。海のど真ん中というわけではなく、水平線の向こう側に島が見えるような場所。
今ここを攻撃してきているのならば、ここからでもその姿が認識出来てもおかしくない。
『いたーっ!』
そして、響き渡る発見の報告。通信がビリビリと響き渡り、伊26はビクッと震えるほど。手を繋いでいる子供達も、その声量に驚いているくらいである。
『黒い深海棲艦! ツノもありまっす! かんしょーはくちっ、でっすぅ!』
第四号海防艦が発見した深海棲艦は、予想されたモノである。環礁ではなく普通に陸地を陣取っており、潜水艦から攻撃を受けることのない場所から、潜水艦を徹底的に狙うような攻撃を仕掛けてきている。
浮上してきた潜水艇の姿を目にしたようで、攻撃がそちらにもされるようになるが、第四号海防艦は機敏に反応して、その攻撃を回避。もう一度海中へと潜航する。
『陸にいるから、ちょっと攻撃出来ないでっす』
『うへぇ、逃げ回ることしか出来ないかな』
潜水艇でも陸を攻撃することは出来ない。浮上したところで狙い撃たれたら厄介だし、海中の方が回避しやすいまである。
だがそれだとジリ貧だ。回転翼機に追いかけ回されて、徐々に密度が増えてくる爆雷に最終的には押し潰されかねない。
「ううん、こういう時こそ、頼るべき人達がいるよ」
だがここで伊26が提案。
「正面突破の部隊の人達に増援に来てもらおう。海上から攻めた方が、多分勝ち目があるから」
地上とも通信が出来るのだから、ここで増援を呼ぶことも不可能ではない。通信傍受や、以前の混乱もあり得るが、やらないよりはやった方がいい方向に持っていける。
「それに、そろそろ来ると思う」
『来る、ですか?』
「うん。速さ至上主義の、ニム達の心強い仲間がね」
敵の爆雷の音が聞こえた。伊26達が危ない。そう思いながら、伊203はスキャンプのことを完全に考えずに、出来る限りのスピードを出して合流を目指す。
「テメッ、マジでっ」
「スキャ子なら追いつける。今はニム達が危ないから、急ぐよ」
「わぁってらい! つっても、こっちは2人持ってんだよ!」
「どうにかして」
「してるっつーの!」