伊26達に対して対潜攻撃を仕掛けてきたのは、島を陣取る環礁空母泊地棲姫であることが判明。急浮上してその姿を確認した第四号海防艦は、すぐさま急速潜航することで再び海中へ。回転翼機による攻撃は、海上よりは海中の方が避けやすい。
ここから出来ることは基本的には逃げだ。陸にいられたら、手の出しようがない。
いくら伊203と共に活動し、そのスピードに慣れている伊26であっても、潜水艦という艦種を超えることは出来ない。海中が主戦場であり、上陸しての戦いなんて考えたこともない。
潜水艇を操る丁型海防艦達は、さらに戦場が限られている。ただでさえ護身程度の武装しか装備していない潜水艇では何も出来ず、敵が陸の上というのなら尚更だ。
「回避し続けられる!?」
伊26の言葉に、丁型海防艦達は三者三様だが任せてくれと頼もしい返事で答えた。こと生存することに関しては、昼目提督から徹底的に叩き込まれている。こういった調査をするのだから、必ず生き延びることが最も重要な任務である。
絶え間ない回転翼機からの爆雷投下だが、それを器用に避け続ける。伊26も、潜水新棲姫2人と手を繋ぎながら、誰にもダメージが入らないように動き回っていた。
「大丈夫だからね。ニムが必ず、2人を安全なところに連れていくからね」
不安にさせないように優しく語りかけながら、伊26は増援を待つ。こんなに余裕が無い回避一辺倒の戦いでも、子供のためには笑顔を絶やさず、常に気を配って動き続けていた。
子供達もそんな伊26のことを信じ、自分達の危険を把握しているかどうかはわからずとも、その行動を邪魔するようなことはしない。伊26が動きやすくなるように、変に力を入れるようなこともなく、手を引かれたら素直についていくことを繰り返す。
「あんまり長くは保たないかもだけど……うん、援軍は来てくれるよ」
確信を持っている伊26。故に、一切諦めない。一方的にやられていたとしても、負けを悟るようなことはしない。何故なら、この状況を引っくり返す仲間がいるのだから。
正面突破部隊にも至急増援を頼んである。それに、何も言わずとも合流を目指している潜水艦の仲間もいる。自分達だけでは無理でも、仲間がいれば乗り越えられる。
「ほら、ね」
そして、その願いは通じた。
「見つけた。スキャ子、
「どうにかってテメェ」
「私はすぐにあっちを始末する」
スキャンプの返答を聞くことなく、伊203は伊26達を攻撃する環礁空母泊地棲姫に向かい始めた。
元凶は陸にいる姫。回転翼機を発艦させ、仲間を追い詰めている黒い女。伊203にはそれが許せなかった。
「あたいはコイツらを黙らせながらついていく!」
「それでいい。爆雷は気をつけて」
「わかってらぁ!」
スキャンプも伊203と共に環礁空母泊地棲姫へと向かうが、
結局、スキャンプが手放すことなく、常に黙らせながら身近に置いておくというのが一番手っ取り早かった。鮫が目を覚ましたらすぐさま絞め上げて気絶させる。鰆が意思を取り戻して『投錨』するのならその前にまた指を捥ぐ。今のスキャンプは輪をかけて容赦がない。
何故なら、すぐそこで危機が迫っている丁型海防艦達がいるのだ。その命に手をかけようとしたならば、後悔するまでボコボコにするだろう。これで本人は海防艦が苦手と言っているのだから、周りは生温かい目で眺めるというモノ。
「陸……私達……いや、
伊203は環礁空母泊地棲姫の思惑をすぐに見抜いていた。あちらから見たら自分は意地でも潰しておかねばならない難敵。鮫と鰆からして、触れたらダメ、動かさずにヤると、わかりやすく対策を積んできていたが、環礁空母泊地棲姫はよりあからさま。潜水艦という潜水艦を徹底的に対策しているとしか思えない。
その上で、アレだけ目立つように陸にいるのだから、それ相応の能力も持っていると考えていいだろう。それを知るためにはまず近付かねばならないが。
「スキャ子、私は上陸するつもりで行く」
「あいよ」
やはりやらねばならないのは上陸。環礁空母泊地棲姫が鎮座するその場所に揚がってしまいさえすれば、対潜など考えずに直接対決に持ち込める。
勿論、あちらも近接戦闘が得手という可能性だって捨てきれない。それでも、一方的に爆雷を放られ続けるよりはマシ。
だが、ここで不可解なことが起き始める。
「……待って」
伊203がそれに気付いたのは、すぐのことだった。いくら泳いでも陸に辿り着けないのだ。そこに敵がいると視認出来ているにもかかわらず、自分が前進出来ているかがわからない。
最大戦速で真っ直ぐ航行している。それは間違いない。距離感を掴むために一度浮上し、敵の姿を再認識してから進もうとしても、その距離がまるで縮まろうとしない。
「どうした」
「近付けない。多分、アレの能力」
伊203の力を以てしても、何故か近付くことが出来ない。距離が欺瞞されているような、そんな感覚。
それには嫌でも覚えがある。そして、その力を持つ者を知っている。
「……『ジャミング』だ」
「Jammingだぁ? あのミョーコーが持ってる力かよ」
「そう。距離感だけ狂わされてる」
うみどりでは妙高が持つ『ジャミング』の曲解。軍港都市での戦いではそれに苦戦させられ、攻略方法をどうにか見つけた結果、距離も何もない白雲の凍結によって勝利を収めることに成功した。
環礁空母泊地棲姫は、妙高と同様の『ジャミング』の曲解を手に入れていると考えられた。敵意を持って近付こうとすると、距離欺瞞が発動し、近付くことが出来ない。真っ直ぐ進んでいるつもりにさせられ、その実、陸に向かっていることすら止められてしまっている。
他の者から見たら、
その名の通り、環礁の内側を陣取っているかのように、見えない壁を作り出す。それが環礁空母泊地棲姫の『ジャミング』である。
「テメェ対策だな、完全に」
「近付けさせないために、徹底的すぎる。それもそうだけど」
つくづく逃げ腰だと伊203は呆れたように溜息を吐いた。伊203が目下の脅威であることはわかるが、ここまでやってくるというのもなかなか恐ろしい。
「多分、砲撃なら届く」
「そういうところがテメェ対策ってわけだ。潜水艦に砲撃は無ぇ」
「ん、だからそれでいいと思い込んでる。私達には海上の仲間だっている」
とはいえ、自分の手では何も出来ないというのは、思った以上にストレスになるようで、伊203の表情は次第にわかりやすく苛立ちが見えてきていた。
そんな伊203を見て、スキャンプはお気の毒様と苦笑するしか出来なかった。
「やれることはいろいろやってみる。どうにか近付けないか確認してみるよ」
「おう。でも、あのクソ野郎はそんな暇すらくれねぇみたいだぜ」
ここで環礁空母泊地棲姫は伊203とスキャンプの存在を認識したのだろう。回転翼機が群れをなして飛んできた。伊26の方にも相当数向かっているのに、まだそこまで出せるのかと逆に感心。
考える暇すら与えず、近付けないという焦りを覚えさせながらも、確実に伊203を始末してやるという気概が強く見せられる。
「……外から勢いをつけても近付けないかな」
「壁にぶち当たるわけじゃあ無ぇと思うが、何とも言えねぇな。魚雷だけは撃ってみっか」
言うが早いか、伊203は陸に向けて魚雷を放っていた。すると、自分達がこれ以上進めないというラインから普通に前に進んでいく。しかし、結局は陸を陣取っているため、魚雷は環礁空母泊地棲姫には届かない。それどころか、回転翼機の爆雷で、陸に届く前に破壊されている。
対潜攻撃も密度が非常に高い。海中から見れば、それこそ絨毯爆撃に見えるほど。ここにいる者が熟練者だから避けられるものの、それでも非常に厳しい。海底まで行って余裕を持つことでどうにか避けられるという程度に。
「……面倒臭い相手」
「本当にな」
珍しく伊203が心底嫌そうな表情をしたため、スキャンプは少しだけ面白くなっていた。
それと同時に、環礁空母泊地棲姫に対しての苛立ちがより強いものになった。潜水艦に対しての徹底的な対策は、自分に対しても影響を及ぼす。そのせいでやりたいことが全く出来ないというのは気に入らない。
海上艦に頼らねばならない状況が嫌というわけではない。戦場は適材適所だ。こういうこともあるだろう。だが、それ以前に潜水艦を目の敵にされ過ぎていることが気分が悪かった。
「出来ればあたいの手でぶん殴りてぇよ。どうにか手段を見つけっぞ」
「勿論。対策してきたんだから、それを無理にでも突破してやりたい」
「だな」
伊203とスキャンプは、どうにか出来ないかと考え始める。
その前に更なる仲間が到着してくれるのだが。
「環礁空母泊地棲姫……確かに厄介な相手だ」
正面突破部隊から数人がこちらの対策に向かってきていた。敵の能力はまだ見えていないが、堂々とそこにいるのだから厄介な力を持っているのは予想が出来る。故に、その対策を練るためのメンバーを取り揃えている。
「正面からはウォースパイトとヴァリアントに任せよう。こちらは我々が行くのが適任だ」
「はい! 戦艦清霜、相手が陸にいても問題無し!」
長門と清霜が筆頭。戦艦と擬似戦艦による連携は、大型の深海棲艦の突破も難しくない。また、清霜は大発動艇を改造した戦装大発を使用していることもあり、踏破するという点では長門を上回っているまである。
そして、これは本当に偶然。
「敵の攻撃は私が食い止めます。勿論、過信はしていませんが」
軍師妙高。この3人で環礁空母泊地棲姫の撃破に乗り出した。
ジャミング同士のぶつかり合い。それは不毛な戦いとなるか、それとも策によって覆されるか。