後始末屋の特異点   作:緋寺

799 / 1161
同じ力なれど

 陸を陣取り、伊203を筆頭とした潜水艦対策として回転翼機による対潜掃討を繰り返す環礁空母泊地棲姫。それを始末しようと動き出した伊203だが、よりによって敵の持つ力が距離欺瞞を強制する『ジャミング』の曲解であることが判明したことで、接近することもままならなくなっていた。

 潜水艦だけではどうにもならない。そんな状況下で、要請した海上の援軍が到着。火力が必要であるために長門と清霜、そして軍師妙高がこの戦場へと推参した。

 

「環礁空母泊地棲姫……本来ならば環礁にいるはずですが、陸にいますね。その上であの場所から動かない、()()()()()()()ということでしょう。ならば持っている力は自身の安全を守るような力ですね」

 

 即座に今見えている現状から敵の力を分析。また、聞けそうな情報があれば、これまでこの現場にいた潜水艦隊に聞いておく。

 伊26達は、爆雷を避けることに専念しているため、敵の力を予想することは出来ない。敵影を見たのは第四号海防艦のみ。だがそれも少しの時間だけであり、すぐさま再度急速潜航をしているため、その力をモロに喰らったとは感じないようだった。

 

 そうなると今一番そのことについて気付いていそうなのは、やはり伊203。事実、敵の力が妙高と同じ『ジャミング』であることに気付いているのは、今は伊203と、共に行動しているスキャンプのみ。

 しかしそちらとは話が出来ない。先行する割には通信機を持っていないというのが伊203であるため、運良く一度浮上してもらわなければ話は出来ないだろう。

 

「動かずとも自身を守れる……いくつか該当するモノは思い付きますね。そもそも潜水艦相手ならそこにいるだけで攻撃は来ないですが、フーミィさんを視野に入れたら話が大きく変わります。なら、敵を揚陸させないようにする力……近付かせない力……みたいなことでしょうか」

 

 妙高の分析は続くが、どうしても考えているだけではそれが正解であるとは断言出来ない。

 そのため、実証のためにその身を張るのが長門と清霜である。妙高に情報を渡すために、何かしら見てもらえそうな攻撃を繰り出すしかない。

 

「まずは我々で狙ってみようか」

「はい! 一斉射は流石にやりすぎだから、普通の砲撃!」

 

 戦艦の砲撃ならば近付くことなく敵を攻撃は可能。近付けないかどうかの判断はしやすく、射程も長いため攻撃が通るかどうかの確認も出来る。

 相手はおそらく人間。だが、やっていることがやっていることであるため、この砲撃が直撃し、その一撃で葬り去ることになったとしても、長門も清霜も後悔などしない。こちらの命も脅かされているのだ。そうしなければ、こちらが殺される。

 

「狙いを定めてっ、撃つよ!」

 

 清霜の先制攻撃。環礁空母泊地棲姫にしっかり狙いを定めて、頭を撃ち抜くつもりで砲撃を放つ。

 戦装大発による砲撃は、駆逐艦である清霜でも戦艦と同様の火力と射程を持っているため、水平線ギリギリにある的に対してもしっかり当てることが出来る。その上で、清霜は研究に次ぐ研究で戦艦の主砲のことは戦艦より知っているレベルだ。誤差修正なども完璧。その目で見て距離を完全に把握し、そして命中するように放った。

 

 しかし、()()()()()()()()()()()

 

「あ、あれ!?」

「手前で落ちたな。方向は間違っていなかった。ならば、私も撃とうか!」

 

 続いて長門も同様に放つ。勿論しっかり狙いを定めて、環礁空母泊地棲姫を真正面から見据えて。

 しかし、こちらの砲撃も手前で落ちる。向きはあっていたはずだが、とにかく届いていない。

 

 この2人の砲撃を見たことで、妙高は敵の能力を割り出した。何故なら、()()()()()()()()()()

 

「あの敵の持つ力は『ジャミング』ですね。ただし、私とは少し違うかもしれませんが」

 

 そう言いながら、妙高は陸にいる環礁空母泊地棲姫に対して魚雷を放った。本来ならば全く意味のない行動。陸にいるならば魚雷のことなんて考える必要がないのだから。

 しかし、環礁空母泊地棲姫はその魚雷を回転翼機の爆雷で破壊している。これは伊203の魚雷に対しても行なった自衛行動。砲撃は届かないが、魚雷は届く。陸にいたとしても、それを恐れているように見えた。

 

「なるほど、意思を持たずに真っ直ぐ向かうモノに対してはジャミングが効かないということですか。私のそれと違って、敵意を逸らすのではなく、単純に距離感だけを狂わせていると。ジャミング1つとっても、出来ることはそれだけ変わりますか。どちらが強いとは言い切れませんが」

 

 お返しか、環礁空母泊地棲姫からも砲撃が飛んでくるが、そちらに関しては妙高の『ジャミング』によって、あらぬ方向へと飛んでいった。これに関しては、あちらも疑問に思っているところだろうが、そう思ったところで簡単に打開出来るような状態ではない。

 

 妙高の分析は続く。

 

「魚雷は距離など関係なしに突き進むだけなので、一応の対処をしているのでしょう。砲撃は着弾点を考えているから、その距離感が狂わされるので届かない。なら、我々の進行はどうなるかといえば……?」

 

 自らの『ジャミング』を盾に、妙高が環礁空母泊地棲姫に対して近付こうと試みる。最初は順調に進めたが、一定の場所に差し掛かった途端、自分では進んでいる感覚なのに、一向に距離が縮まらなくなったと感じ取る。周りの風景が、陸までの距離が変わらない。進んでいるのに進んでいない。

 周りから見たら滑稽な姿に見えるかもしれないが、この戦場であっても地道に敵の分析を怠らない。『ジャミング』によって安全性がある程度保証されていることから、ゆっくりとは言わずとも考える時間が与えられているのも妙高に合っている。

 

 考えられるという点は、妙高にとっては好都合だった。忌むべき力であっても、それが仲間のために使えるのならば、喜んで利用する。

 

「やはり距離欺瞞に特化した力ですね。当てられないは同じですが、近付けないというのは厄介です。念のため破壊しているようですが、唯一効きそうな魚雷も陸にいることで無効化しています。出来ることなら艦載機による爆撃がしたいところですが……無いモノねだりですね」

 

 艦載機すら距離欺瞞をされた場合、空中で制止させられるなんてこともあり得るのだが、それをここで確かめるのは無理。

 

「何か効果的なモノがあるはずだ。我々がそれを導き出す。出来るのは、力業だけだがな」

「清霜もやりまーす! とりあえず撃って撃って撃ちまくる!」

「弾切れは考えるんだぞ」

「もっちろん!」

 

 この2人でやれることは、まずは一斉射である。当たらないのはわかっていても、まずは撃ってみて変化を見る。妙高がそれを止めないということは、それによって見えるモノが何かあるかもしれないと考えている。

 

 少しでも近付きながら撃っていくが、やはり一定の距離まで近付くと身体が途端に前に進まなくなる。その状態から撃っても、おおよそ半分くらいまでしか届かない。

 環礁空母泊地棲姫も、妙高の持つ『ジャミング』に対して何かを考えているようで、海中に対して回転翼機を嗾け続けで始末を念頭に置きつつも、海上の相手に対してどう戦っていくかを画策しているような顔。

 

「……珍しい。敵にしては慢心が少ない。自分の力を過信せずに、考えることをしている。なるほど、余程フーミィさんが恐ろしいと見えますね。恐怖心は、時に人を冷静にさせるモノですから」

 

 環礁空母泊地棲姫の特性と、現在の行動から、敵の思惑──むしろ思考を読み取ろうとする妙高。棋士としての性質から、先の先まで読もうとする。

 

 環礁空母泊地棲姫はあくまでも伊203対策のためにここにいる。それはもう一目瞭然である。

 近付けないというのがわかったことで、接近を禁じる。潜水艦ですら近付けないのならば、視界の範囲ということでも無いだろう。そこは妙高とは違うところ。

 視界の中に入っていない、結果的に攻撃となる行為、敵味方の区別をしない攻撃などには無力である妙高の『ジャミング』と違い、環礁空母泊地棲姫の『ジャミング』は、関係なしに自分に向かってくる全ての距離感覚が欺瞞される。

 近付けるのは、攻撃の意思がない、直線的なモノ。それが魚雷ということになる。撃つものの意思が反映される砲撃と違い、方向だけを定めるからだろう。

 

「……敵増援はいませんか」

「今のところは大丈夫だ。奴だけが自陣で潜水艦を追い回しているだけだな。安全圏からひたすら攻撃をする……気に入らない限りだ」

「策としては全く悪いことではありませんがね。褒められはしませんが、安全に戦うという点に関しては、あのやり方はどちらかといえばハナマルです」

 

 感情論を抜きにすれば、環礁空母泊地棲姫の戦い方は間違いとは言えない。むしろ大正解だろう。自分が非力なら尚更であり、力を持っていたとしても慎重と言える。妙高だって、それで一方的に敵を殲滅してもいいなら、選択肢として入れている。

 だが、人間は感情を持つ生き物だ。そのやり方に対して、良い悪いと同時に、気に入る気に入らないが出てくる。長門の言う通り、あのやり方は気に入らない。

 

「増援がいないなら、まだ勝機はあります。困ったことに、私の力は相手が1人だと無類の強さを持ちますので」

「確かにな。負けはしないのだから、考える時間はある程度用意されているということか」

「そういうことです。そして、それが()()()()()()()()()()()()

 

 この若干不毛な戦いの中、妙高には一筋の光が見えたと言う。だが、それは若干諸刃の剣でもあるらしい。

 

「白雲さんがいれば楽だったんでしょうけどね」

「……妙高、意外と根に持っていたりするか?」

「そんなことはありません。あの時のあの凍える寒さは二度と味わいたくありませんけど」

 

 ほんの少し自虐的な話をしつつも、妙高が見つけた敵の『ジャミング』の綻びを伝えた。

 

「向かうことは出来ませんが、()()()()()()()()()()()()()

「運ぶ、か?」

「はい。狙いを定めたら届かないモノでも、こういうことは出来るということです」

 

 そういうと、妙高は自分の髪の毛を一本抜く。長門は何をしたいのかわからなかったが、それを吹いて飛ばし、それが自分達よりも簡単に前に進んだのを見て、妙高の考えていることが少し理解出来た。

 

「風で運べば前に進める、ということか」

「今回はそういう感じにしましたが、概ねそういうことです。魚雷が向かえるんですから、これも出来るでしょう」

「運ぶ、か。何を、どうやってになるな」

「策があります。危険ですがね」

 

 

 

 

 ここから妙高の策が発揮される。その決め手となるのが、長門と清霜だ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。