ほんの少しの手掛かりから、環礁空母泊地棲姫の力が『ジャミング』であることに勘付いた妙高は、自分の力との差にも気付き、その突破方法を考え始める。
敵は1体。その状態ならば、妙高自身の『ジャミング』により、攻撃は一切当たらない。しかし、敵も妙高の力に勘付いている可能性が高く、妙高と同じように探りを入れてきていた。
ほぼ同じ力を持つということもあり、自らの弱点を把握しているのならば、妙高の弱点もいずれ気付いてしまうだろう。よって、残された時間はあまり無い。
「運ぶ策の前に、一度試しておきたいことはあります。そちらでやれればその方が楽なので」
既にいくつかの策を思いついている妙高は、自分の『ジャミング』の安全圏内で最も簡単に出来ることから、攻略の一歩を踏み出した。
「何をすればいい。妙高の指示に合わせる」
「出来ることはやるよ! 戦艦は仲間のために動くって、武蔵さん言ってたもん!」
長門と清霜もやる気満々だ。自分達だけでは間違いなく突破出来ない敵を相手にしているのだから、それをどうにか出来る可能性を持つ者がいるのならば、全面的に信頼する。
故に、的確に指示をされれば迅速に準備も整う。熟練者というのもあり、妙高のやりたいことはすぐに出来た。
「清霜、この方向で大丈夫だな?」
「うん、照準よーし! 長門さん、お願いします!」
「了解だ。てぇーっ!」
一度試しておきたかったというのは、清霜が照準を合わせ、長門が
「うーん……やっぱり届いてない」
「清霜の照準は間違ってなかったろう。ならば、私が目を瞑っていても、清霜が狙ったと判定されたのだろうな」
しかし、長門が放った砲撃はやはり届かず。清霜が照準を定めたという時点で『ジャミング』が発揮しており、最初から届かない場所を狙っていたことになっていたようである。
ならば、当初の予定で行くしかないと妙高はすぐに切り替えた。元々そちらでやるつもりだったのだから、先程の手段が通ればラッキーくらいに考えていた。おかげで精神的にも痛くはない。
「かなり強引な手段で行きます。清霜さん、私と長門さんを大発に乗せてもらえますか」
「3人なら乗れるかな……?」
「私の艤装が邪魔になりかねないが……」
戦装大発は駆逐艦である清霜が少々無理矢理戦艦主砲を放つために作られた特注兵器である。大発動艇に戦艦の主砲を搭載し、清霜に接続出来るように調整しているわけだが、その設備によって乗れる場所の半分は埋まってしまっている。
とはいえ、それなりの積載量があるのが大発動艇。その状態でも艤装装備の艦娘が追加で2人乗ることくらいは可能。密着しないと乗れないというわけではないようである。長門が2人いたら厳しかっただろうが。
「少し待ってください。準備します」
乗り込む直前に、妙高は少しだけ戦装大発に触れる。揺すったり叩いたり、徐に海面を足で捌いたりと、何かを確認している仕草。
「大丈夫ですね。では長門さん、清霜さん、
「……ええっ!?」
妙高の思惑は非常に簡単なことである。一斉射の反動を使って、ひたすら後ろに進む。ただそれだけ。
戦艦主砲の反動は生半可ではなく、戦艦娘は艤装に姿勢制御の仕組みが基本として備え付けられているほど。それが無ければ、鍛え続けている長門であっても、砲撃を放った瞬間に後ろに弾き飛ばされてしまうくらいの衝撃がある。
清霜の操る戦装大発にも同じシステムが搭載されている。艦娘より姿勢は安定しているが普通の取り扱いではない分、反動は凄まじいモノになっており、それが無ければ清霜は大発動艇から弾き飛ばされてしまう可能性すらあった。
それをカットして、ひたすら反動を受け続けながら進もうと言うのだから、清霜もおかしな声を上げてしまうというものである。
事前に確認したのは、艦娘が乗っていても、それなりに簡単な反動で動くかどうかである。揺すって、ちゃんと揺れるのならば、反動での移動は可能。
「清霜の身体は私が支える。代わりに、砲撃を真横でやることになるから、耳が危ないかもしれない」
「そ、そこは大丈夫。一斉射を隣で出来るくらいには耳も慣れてますんで!」
「キツイと思ったらすぐに言うんだぞ。かなり不恰好なことになるが……妙高の策だ。悪いことにはならん」
清霜は戦装大発に搭載された主砲の後ろへ。本来ならばそこに自らの身体を支える手すりがあるのだが、今回はあえてそれを掴むことなく、自分の耳を押さえることに専念する。
その後ろに長門が構える。清霜の身体を支えながら、自分は姿勢制御で大発動艇から振り落とされないように。
そしてさらに妙高が後ろにつくのだが、向いている方向はあくまでも環礁空母泊地棲姫の方。視界に入れておかなければ、あちらの砲撃が当たってしまう。『ジャミング』を利用して敵陣に真正面から突っ込める状態を作り上げていた。
長門の言う通り、これは少々不恰好と言っても仕方ない。妙高以外は敵に背を向け、しかも長門は清霜を支えるために後ろから艤装の基部を抱き締めているようなカタチ。そして清霜は耳を塞いで口を開いているという、少々間抜けなことになっていた。
「では、お願いします」
「了解だ。一斉射だっ、てぇーっ!」
「てぇーっ!」
長門と清霜による一斉射開始。照準は環礁空母泊地棲姫とは真逆。しかも撃つのは真正面ではなく少し下向きであったりする。
「うぇえっ!?」
戦装大発の反動制御をカットしているせいで、砲撃一発目から大発動艇が大きく揺れた。だが、声は上げるものの清霜は砲撃を止めることはない。長門との一斉射なのだから、息を合わせて放ち続ける。
敵が全くいない方への砲撃なんて、これまでやったことがあっただろうか。しかも、反動目当ての砲撃なんて初めてである。長門もこれには本当に大丈夫だろうかという疑問が微かにだが芽生える。
だが、その疑問はすぐに杞憂に終わる。
「進んで、いるな……!」
長門は一斉射を放ちながらもそれに気付くことが出来た。ついさっきこれ以上進めないと思っていた場所から、砲撃の反動によって進み始めていたのだ。
いや、反動だけではない。少し下向きに放っていることで、海には大きな波が起きていた。着弾点を中心に大きく水柱が立ち、それが巻き起こす波は、反動制御をカットしていることもあり、戦装大発を移動させるための力添えにしっかり貢献していた。
向かおうという意思はない。ただただ勢いだけで後ろに進んでいるだけ。本来の意思は環礁空母泊地棲姫とは逆を向いているため、距離欺瞞の認識から外れてくれているのである。
「大丈夫です。そのまま、そのままでお願いします」
環礁空母泊地棲姫が見えているのは妙高のみ。むしろ長門と清霜は環礁空母泊地棲姫の方を見てはいけないまである。
狙いを外さず、常に一定に、同じ方向に砲撃を放ち続けることで、反動航行は安定し始めた。本来の航行速度とは比べ物にならないほどに遅いだろう。だが、前進しているということが大切。砲撃を放っている2人にとっては後ろを向きながらの前進なのだが。
「やはり狙ってきますか。ですが、そのための私です」
少しずつ近付いてくる戦装大発を止めるため、環礁空母泊地棲姫は砲撃を放ってくる。回転翼機による爆雷投射も、潜水艦よりも目の前の敵にやらねばならないと嫌でも思わせる。
しかし、この戦装大発には、鉄壁とも呼べる最大の防衛システム、妙高の『ジャミング』が搭載されているのだ。狙いを定めた時点でおしまい。距離など関係なく、当てようと考えた時点で当たらない。砲撃はあらぬ方向に飛んでいき、爆雷もそもそも当たらないような場所に落ちていく。
「我々には距離感がわからん! 妙高、止める時は止めろと言ってくれ!」
「了解です。でも、今は止める必要はありません。無駄弾かもしれませんが、もっともっとでよろしくお願いします」
「任せろ! まさか戦艦が大発のエンジンになるとは思っていなかったがな!」
敵を殲滅させるための技である一斉射が、文字通り前進のための使われ方をしている。複雑ではあるが、こんなカタチで役に立てるとは思っていなかった長門は笑みを浮かべた。
「長門さん、砲撃のタイミング、もっと合わせてもいいかもです!」
「ああ、私が合わせる。清霜は自由に撃て!」
「りょーかいっ! 戦艦清霜、どんどん撃つよっ!」
最初は一斉射ということでバラついていた砲撃音。それが徐々に合っていき、2人の砲撃は完全に同時になっていた。すると、目の前に立つ水柱も次第に大きなモノになっていき、そして発生する波も相応のモノになる。
波が大きくなれば、戦装大発の進行もその分速くなる。ジリジリと近付くだけではない。もう環礁空母泊地棲姫に対してしっかりと向かっているカタチとなっていた。
「ここからが正念場です。おそらく、そろそろ気付かれます」
「何をだ!?」
「
妙高がそう言ったのも束の間、環礁空母泊地棲姫の砲撃が明らかに戦装大発の進行を防ぐような場所に放たれるようになる。
妙高の『ジャミング』の弱点、それは妙高が認識している対象を狙った攻撃
波を起こして進んでいる相手に、逆の波を起こしてその場に押し留めようとすることも不可能ではない。
そして、もう一つ。
「水柱だけは、立ててもらいたくないんですよ!」
妙高が環礁空母泊地棲姫の砲撃を止めたい理由。それは、妙高の視界が塞がれること。
敵からの攻撃が視認出来ているからこそ、『ジャミング』が通用する。その敵の姿が見えなくなった場合、『ジャミング』が出来なくなる可能性は高くなる。
故に、視界を封じないように妙高も砲撃によって牽制。環礁空母泊地棲姫に対しての砲撃は届かずとも、眼前に発生する水柱はすぐさま弾き飛ばすことは出来た。
おかげで、常に環礁空母泊地棲姫を視認し続けることが出来ている。自分の身と、仲間の身は、ここからでも守り続けられる。
「気付きましたね。私が貴女の弱点に気付いたように、貴女も私の弱点を。ですが、戦いはここからですよ」
戦装大発はジリジリと陸に近付く。近付いてさえしまえば、勝機はある。
ついに800話まで来てしまいました。だというのに主人公不在の話です。終わりはまだ見えぬ。
まだ続きますので、今後ともよろしくお願いします。
私信ですが、艦これ2025春イベ、無事終了しました。ALL甲、全艦取得済み。まだまだ行けます。